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第8話 遅すぎた犠牲 ー デコレーション ー
しおりを挟む科学技術の粋を集めたその設備は、扉一つとっても複雑なシステムに守られていた。決して外部に漏れてはならない機密は、世界規模の混乱を巻き起こしかねないのだから。
「ようやく…ようやく1人、なのか……」
「主任……」
肩を落とす初老の科学者に、若い科学者はかけるべき言葉が思いつかない。
「時間がないというのに! くそっ、上がもっと早く事の重大さを理解してくれていればっ!!」
嘆いても仕方がないのは理解している。しかし嘆かずにはいられない。地球の滅亡という大事が迫る中にあってその対策は遅れに遅れ、満足な回避方法や他惑星への退避計画すら確立されていないのだから。
「……主任、このDNA強化人間の成功第一号を、最初の一歩と考えましょう。我らの役目は着実に為せているんですから」
「わかっている。わかっているとも。所詮、出来る事など限られているのだからな……」
人間に後天的なDNA強化を施し、現状では移住の厳しい星の環境にも対応可能な技術の確立。
東京ドーム10個分ほどの敷地に立てられたこの研究施設は、ただその一つの研究のためだけに作られた。しかし作られたのはほんの2年前のことで、当時、彼らの主張に耳を貸すものが現われなかった中、突如としてスポンサーがついたのだ。
「……ともかく成功は成功だ。スポンサーに報告をせねばな」
「でもいまでも信じられませんよ。あんな年端もいかない小娘が、我らに出資してくれたなどと」
「大堂時のお嬢さんは見かけによらず聡明だという事だろう。この成功をもって、さらに出資額を増やしてくれたならば、あるいは間に合うやもしれんしな……」
しかしそれは叶わない願望だ。2年前ですら、すでに手遅れのレベルだったのだから。
「移住についての話は、既に進んでいるという。おそらくは、無能な政治家や傲慢な金持ちばかりが選定され、他は見殺しになる選民プランだろうがな……」
そう遠くないうちに、これまでほとんど取り上げられなかった数々の宇宙での事件事故の真相が、人々の間にも広まりはじめるだろう。
それまでに何かしらの名目でお偉いさん達が地球を脱する。二度と帰らない旅に出るのだ。滅ぼされる地球を見捨て、自分達だけが生き延びるために。
「くそっ!! 俺たちの…この研究がもっと、あと1年早くはじまっていたならッ!!」
「……我らはやれるだけのことをやろう。なんなら大堂時のお嬢さんになんとか出来ないものか、相談を持ちかけてみるのもありかもしれん」
「そうは言っても金持ちでしょう。あちら側の人間である大堂時家に、広く人々を救う意志があるとは思えませんけどね」
人類の未来は暗い。
沈み込む科学者達は、せっかくの成功を祝うこともなかった。
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