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妖精たちのティーパーティー☕️Tea party of Fairies

第15話 初めてのお客様

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 レストランを開業して最初に訪れたお客様は、花の妖精たちだった。

 正確には私から声をかけて来てもらった『招待客』なのだが、彼女たちは森中の花々を知り尽くし、あちこち飛び回っている。
 彼女たちは、妖精の中でも、抜群に顔が広い。花の妖精たちからこのレストランの評判が広まってくれれば、御の字である。

 ちなみにレストランの場所は、アデルの家の庭先だ。

「こんにちは、いらっしゃいませ」

『レティ、こんにちはー』
『招待してくれてありがとー』
『今日は女子会ー楽しみー』

「皆様、記念すべき最初のお客様になっていただき、ありがとうございます。さ、良かったらお好きな席に座って下さい」

 お客様は五人、それぞれ異なる花の妖精。
 ピンク、緑色、オレンジ色、黄色、薄紫色の花のドレスと帽子、ショートブーツを各々身につけ、透明な薄いはねは淡い光を放っている。

 彼女達は、思い思いに席についた。
 席の高さは、ドラコに手伝ってもらって、妖精仕様に合わせてある。
 各々の席には、取り皿とフォーク、ナプキンをセット済。


 そしてテーブルの中央には、簡単に摘めるものをたくさん並べてある。

 スコーンと数種類のジャム。
 ジャムは、オレンジや桃、クランベリーなどのフルーツに、香りがあまり強くない花の蜜を加えて煮詰めて作った。多めに作ったので、これから朝食の白パンと合わせても楽しめる。
 スコーンの方は、バターが手に入らないのでコクや香りが少し物足りない。だが、今回はフルーツがゴロゴロ入っているジャムがメインなので、充分だ。


 それから、バナナを練り込んだパンケーキ。
 フォークの背でしっかり滑らかになるように潰したバナナと、薄力粉、卵で作った、もちもち食感のパンケーキだ。バナナの優しい甘みと香りがしっかり生きている。
 切り分けなくてもいいように一口サイズに焼き、ミントの葉と、サトウカエデから採取したメープルシロップを添えておいた。


 そして、カリカリに揚げた、たまごドーナツ。
 卵と薄力粉、ベーキングパウダー、そしてこちらも砂糖の代わりに優しい甘さの花の蜜。
 油を中温に熱して、狐色になるまで揚げた、素朴でシンプルなドーナツだ。


 最後に、フルーツ飴。
 砂糖代わりの花の蜜を加熱し、ぐつぐつと煮立ったら、串に刺したイチゴやブドウ、パイナップルを花蜜液にくぐらせ、満遍なく蜜を纏わせたら冷やし固める。
 彩りも美しく、つやつやキラキラして女子会にぴったりの一品だ。
 ジャムに使ったフルーツとは異なるものを用意しておいた。


 本当はクッキーとかマカロンとかギモーヴとか、もっとお洒落で簡単に摘めるものも作ってみたかったが、出来なかった。
 お菓子作りはレシピの分量を守ることが大切なのだが、肝心のレシピ本がこの家にはない。今回は作り慣れたものを中心に用意したから一応何とかなったが、そもそも、バターや生クリームなど、材料だって足りていない。

 さらに、今回はスコーンも含めて全てフライパンで調理したが、本格的にお菓子を作るならオーブンなどの設備も欲しいところだ。
 とはいえここは森の中、贅沢は言えない。そもそもコンロもなくて、部屋の暖炉で調理しているぐらいなのだから。


 ちなみに、今回使った卵は、以前分けてもらったエピの卵だ。
 倉庫を見に行ったら、エピはけっこう頻繁に卵をくれるようで、前回もらった分も含めて三個もストックがあった。
 卵は小型犬並みの大きさで、硬い殻を割るのも、使い切るのも大変だった。

 今回残った分で野菜たっぷりのトルティージャ*を作ってアデルたちに出し、それでも余った分は、いつものようにパスタに練り込んで取ってある。
 味は鶏卵よりも少しさっぱりしていたが、薄いというほどではなく、鶏卵と同様の使い方が出来そうだ。


『すごいーレティが全部用意したのー?』
『可愛いーキラキラの果物ー』
『果肉ごろごろのジャムー美味しそー』

「ふふ、ありがとうございます。今日はティーパーティーを楽しんでいって下さいね。今、温かいお茶をご用意します」

 見た感じ妖精たちの評価も高そうで、私はホッとした。
 一言断って家の中に入り、二階の暖炉で温めていたケトルを持って、庭に戻る。


 まずは用意しておいたティーポットとティーカップに熱いお湯を注ぎ、温める。
 ポットのお湯を一度捨て、茶葉を入れたら、熱々のお湯を注ぐ。
 沸騰してすぐの熱いお湯を使い、出来るだけポットの温度を下げないことがコツだ。

 お湯を入れたら蓋をして蒸らし、少し待ったらポットの中をスプーンでかき混ぜる。
 あとは茶こしに当てながら、温めておいたティーカップに、均一になるよう回しいでいくだけだ。
 ミルクはないので、花の蜜とスライスしたレモンを添えて、それぞれの席にサーブする。

「熱いので気を付けてくださいね」

 この茶葉も、手作りの紅茶葉だ。
 恵みの森で取れた茶葉を日陰で乾かし、手揉み発酵させたものを、弱火で炒って乾燥させて作った品である。
 元々の茶葉の質が良いのだろう、甘みのあるフルーティーな味わいで、満足のいく仕上がりになった。

 妖精たちは、ふうふう息を吹きかけて紅茶を冷ましたり、香りを確かめたり、蜜を入れてスプーンでかき混ぜたり、各々好きなように紅茶を楽しんでいる。

『美味しいー』
『レティ、おかわりー』
『紅茶にジャム入れてみようかなー』

『お菓子も美味しいー』
『パンケーキもちもちー、バナナの味ー』
『わたしはドーナツ好きー、かりふわー』

 紅茶もお菓子も好評のようで、一安心だ。
 私は、おかわり用の紅茶を用意したり、足りない物がないか気を配る。

『こないだねー森の北の方でねー』
『えーそうなのー』
『きゃはは、それはすごいねー』

 妖精たちの話にも、花が咲きはじめたようだ。
 美味しいものを摘みながら、きゃいきゃいと楽しそうに女子会をする妖精たち。

 そこには笑顔と笑い声が溢れていて、遠くで眺めている私も幸せな気持ちになれる。
 お客様の喜ぶ顔やリラックスした表情が間近で見れるのも、レストランの醍醐味だ。

「ただいま、レティ。盛況みたいだな」

 そうこうしているうちに、森に出かけていたアデルが帰ってきたのだった。



 *注釈)
トルティージャ……スペイン風オムレツ。両面焼きの丸く分厚いオムレツで、複数人で切り分けて食べることが多い。
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