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雷雨のランチタイム⚡️Lunch time in thunderstorm

第24話 天気の双精霊

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「ただいま」

「おかえりなさいですー」

 ライが美味しそうにランチを食べているのを、にこにこしながら眺めていると、庭先からアデルとドラコの声が聞こえてくる。
 どうやら、アデルがドワーフの坑道から帰ってきたようだ。

「おかえりなさーい」

 私も窓から顔を出して、アデルに声をかける。

「ああ、ただいま」

 アデルはこちらを見上げると、紅い瞳を優しく細めて、柔らかい笑顔で応えてくれた。

「アデルお兄ちゃん、どこかに出かけてたの?」

 窓から離れてテーブルまで戻ってきた私に、ライが尋ねる。ランチセットもほとんど食べ終わったようだ。
 私は、お口の周りに付いているトマトソースをナプキンで拭いてあげながら、質問に答える。
 
「うん、ドワーフさんたちのところに行ってたのよ」

「ドワーフさん、僕も知ってる! 僕のおうちのそばでも、見かけるよ。月に何回か、人間さんの街でお店屋さんひらいてるんだ」

「ドワーフさんが、人間の街でお店を?」

「うん! 人間さんが暮らすのに必要なものを売ってるんだって」

「まあ、素敵ね! ドワーフさんの道具が街で買えたら、便利でしょうね」

 ライの話が本当なら、精霊と妖精と人間が共存する街、ということになる。
 そうだとしたら、なんて素敵な街なんだろう。私の生まれ育った、魔法や精霊を嫌う街とは、大違いだ。

 ちょうどライくんがランチセットを平らげたタイミングで、部屋の扉がノックされた。
 部屋に入ってきたのは、アデルだ。

「おかえりなさい」

「おかえり、アデルお兄ちゃん」

「ただいま。ライは食事中だったか」

「いま、ごちそうさましたところ。レティお姉ちゃん、とっても美味しかったよ! ありがとう!」

「どういたしまして」

 ライはにこにこ笑顔でお礼を言った。
 こういう風に喜んでくれると、作ったかいがある。

「それなら、少し確認したいことがあるんだが、良いか?」

「僕に? うん、いいよお」

 アデルはライの前でしゃがみ、目線を合わせると、言葉を選びながら話しはじめた。

「ライの家は、聖王国の北端にある『聖夜の街ノエルタウン』の近くで間違いないか?」

「せいおうこく? のえるたうん?」

「人間がつけた地名では、ピンとこないか……。雷の精霊と氷の精霊が住んでいる地で、針葉樹の森と雪山が連なる地域だ。人間の街にはレンガ造りで傾斜が強い屋根の建物が並び、ひときわ大きな木が聖樹として祀られ、それが街のシンボルになっていると聞いた」

「あっ、それそれ! それ、僕の家のすぐそばにある街だよ」

「やはりそうか。……実はいま、その『聖夜の街ノエルタウン』の周辺地域が困ったことになっているらしくてな」

「……困ったこと?」

 ライの顔が、少し曇る。
 それと同時に、彼の周りに漂っていた白い雲が、ちょっとずつ灰色味を帯び始めた。

「猛吹雪に閉ざされてしまって、他の地域から孤立してしまったようなんだ。季節外れの大雪で、物資の備えもほとんどないだろう」

「吹雪……」

 ライの表情が一気に暗くなると同時に、雲が、みるみるうちに黒くなっていく。
 ぽつ、ぽつ、と室内に雨が降り始めた。

「ねえ、アデル」

 私は、非難するようにアデルを見る。
 せっかくライの気持ちが落ち着いたところなのに。

「ああ、わかっている。……すまない、ライ。聞きたくないのなら、やめるが」

「……ううん、聞く」

「吹雪に閉ざされたのは、昨日のことだ。金物かなものを街に売りに行ったドワーフが、街が吹雪に閉ざされる瞬間を見たそうだぞ。――ここからは俺の想像なのだが、もしかしたら、その吹雪にライの双子の姉が関わっているのではないかと思ってな」

「……うん。僕とフウは、天気の精霊なんだ。僕には雷と雨、フウには風と雪を制御する役目があるの。でも、僕たちはまだ半人前で……」

 雷雨と風雪を司る、精霊の子供。
 まだ若い精霊だからこそ、感情に天候が引っ張られてしまうのだろう。

 現に、この部屋の中には、今も、もくもくした雲が増えていっている。
 ライの感情につられて降り始めた雨は、部屋の中をしっとりと濡らしていく。

「ライ……フウもきっと、後悔しているのではないか? 思わず猛吹雪を引き起こすほどに」

 アデルは、自分が濡れるのも構わず、ライの目を真っ直ぐ覗き込んでいる。

「いちど家に帰って、話をしてみたらどうだ? 本当は、仲直りしたいんだろう?」

「僕……、フウと仲直りしたい」

 ライの出した答えに、アデルは優しく頷く。

「炎の結界にかからなかったところを見ると、ライは、空からこの森に降り立ったのだろう? 吹雪の中は飛べそうか?」

「うん、それは大丈夫。慣れてるから。でも……」

 ライはうつむいて、もじもじし始めた。その瞳は、涙で潤んで揺れている。
 
「……僕、やっぱりフウと会うの、不安だなあ……。ねえ、アデルお兄ちゃん、レティお姉ちゃん。僕と一緒にフウに会ってよ」

「……それは……、すまない。できないんだ。俺は、この地を離れられない」

「そんなあ……!」

 アデルが申し訳なさそうに断ると、ライの瞳に涙がどんどん溜まっていく。

「ひっく、僕、やっぱり、ひとりじゃ無理だよう。ふえ、ふええええ」

 ライはとうとう、声をあげて泣き出してしまった。
 部屋の中に、打ち付けるような雨が降り始め、私もアデルも、何もかも容赦なく濡らし始める。

 見かねた私は、ダメもとでアデルに尋ねた。

「ねえ、アデル。私、ライくんについて行っちゃダメかな?」

「レティ、それは――」

「危ないのはわかってるわ。でも、ライくんはこんなに不安がってる。放っておけないよ」

「だが……」

「なら、ドラコがついて行くですー!」

「「ドラコ?」」

 私とアデルは声を合わせ、同時に部屋の入り口を振り返る。
 そこにはいつの間にか、レストランの営業を終えたドラコが、仁王立ちしていたのだった。
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