婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留

文字の大きさ
5 / 11

第五話 王子は光を取り戻す



 スティーブがクロエの身体のことを知ったのは、翌日のことだった。
 普段は顔も合わせない国王に、珍しく朝食の席へと呼ばれ、そこで知らされたのである。

「スティーブ。昨日、クロエ嬢が倒れたと聞いたが」
「ええ。卒業パーティーの途中で倒れたと聞きました。貧血だったそうです」
「貧血? 誰がそのようなことを言ったのだ。それに、他人事のように言うが、お前はクロエ嬢が倒れるところを、間近で見ていたのだろう?」
「え……? 間近で……私が……? うっ」

 昨日のことを思い出そうとして、スティーブの頭にまた鈍い痛みが走った。

 血の気を失った顔。
 力なくくずおれる細い身体。
 白い頬に残る、一筋の涙――。

 暗く澱んでいたスティーブの目に、再び青い光が戻ってくる。

「クロエ……、確かに彼女は、私の目の前で……。医務室に運ばれて、その後は」

 彼女が貧血で倒れたのだと伝えてきたのは、誰だったか。
 不思議なことに、スティーブはクロエが貧血だと聞いた覚えはあるのに、誰がそう言ったのか全く覚えていなかった。

「よく聞きなさい。詳しいことは言えないが、クロエ嬢の余命はあと一年だそうだ」
「……は……? 今、何と……?」

 スティーブの頭は、真っ白になった。
 確かに顔色は悪かったし、以前よりも痩せてしまったように思ったが……余命一年?
 スティーブは趣味の悪い冗談だと思ったが、間違っても国王が冗談など言うはずがない。

「このままお前が何もしなければ、彼女は一年で死ぬ、と言ったのだ」
「……そんな……!」

 衝撃を受けているスティーブに、畳み掛けるように国王は話を続ける。

「それから、彼女が生きている限り、余はお前とクロエ嬢との婚約を解消する気はない。お前たちがいくら望もうともな」
「私がクロエとの婚約解消を望むなど……」
「……望んでいたのだろう?」

 スティーブの脳裏に、昨日のパーティーで言おうとしていた口上がよみがえってくる。

 ――どうか悪夢であってほしい。
 そう思うが、全て現実だったようだ。

 スティーブは、自分がクロエに行った仕打ちを次々と思い出す。重い石が、心にどんどん積み上がってゆく。

「私は……なんということを……」
「……ようやく思い出したか」
「父上。クロエは……重い病気なのですか? 治る見込みはあるのですか?」
「――余は、何も言わぬ。それが余の答えだ」

 国王は、詳しいことを何一つ教えてくれなかった。
 試すような視線が、スティーブを強く射貫いている。

「スティーブ。自らがどうするべきか、今一度よく考えろ。――禁書庫の鍵を、しばらくお前に預けておく」

 国王はそう告げると席を立ち、スティーブの前にゴトリと重たい鍵を置いて去った。
 禁書庫の件も気にはなるが、スティーブは、先に公爵邸へ見舞いに行くことに決めた。

感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね

さこの
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。 私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。 全17話です。 執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ​ ̇ ) ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+* 2021/10/04

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。