お嬢は悪役令嬢へ

楸咲

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1章 お嬢生誕

15.騎士団と戯れ

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 周りには沢山の騎士。取り囲まれた。
 何故こうなったのだろうか。

 それは少し遡り、お父様がイグナートと話し合いがあると言い執務室を追い出され、許可を貰ったので直ぐにでもレナード達と戯れに行こうと厩舎に向かう途中での事、沢山の声が聞こえてきてそちらを見ると、模擬戦のような事をやっている最中だった。
 一対複数の模擬戦で、その周りで応援をする他の騎士達。
 鎧を着込み、剣は刃が潰してあるものであろうが、鎧でない所に当たったら絶対に痛いであろうソレを構えているのが見えた。

「おー、ベレン隊長だ。流石っすね、大勢相手なんですね」
「相手は新人たちか」

 同じく足を止めた二人は直ぐに居る人物の名を口にした。黒いゴツめの鎧の人がベレン隊長と言うらしい。
 円型の闘技場のような場所で、こちらは二階席のような所なのだが手すりのようなもので良く見えない。見えるように少し背伸びしていると、身体がふわりと浮く。

「失礼しますね。見ていきますか? リオネスフィアル様」
「いいの?」
「夕刻まで結構時間ありますし、この時間はレナード達は飯の時間なので。ですよね? ダルグリム隊長」
「そうだな。」

 持ち上げたのはオーランドだった。
 割とひょろそうな見た目なのだがしっかりと抱き上げられた。左腕に向かい合うよう座らされ、見やすいようオーランドが態勢を変えてくれると、下の様子がよく見渡せるようになった。
 見ていっていいと言われ、女なのだから見るなと言われると思っていたのだが覆され、落ちないようなるべく動かないようにバランスを取った。
 二人が頭の上で話をしていると、一つの鎧がこちらを見上げていたような気がしたが、直ぐに走り出し新兵達を蹴散らしていった。それはそれは一瞬の出来事。
 隙のない動き、取り囲まれても一太刀も浴びていなかった。

 直ぐに二戦目が始まって、新兵達はあっという間に倒れて動かなくなっていた。

「うわぁ、いつ見ても手加減ないっすねベレン隊長。」
「あいつは脳筋だからな。」

 目の前の倒れ伏した新兵達を見て、何かを思い出すかのようにオーランドが言うと、呟くようにダルグリムが言った。その瞬間


「ダルグリム!! キール!!」


 大きな声が下から聞こえ、そちらを見るとヘルムを外した人物がこちらを見て二人の名を呼んだ。

「面倒だ、模擬戦は終わった。行こう」
「え、ベレン隊長置いていくんですか?」
「行かなかったぐらいで奴は何も言わん。放っておけ。行くぞ」

 そう言い二人がそそくさと外に出たのだが、既に回り込まれていた模様。


「何故逃げる。そしてその子供はあの人の子か?」

 仁王立ちしているのは、先程の鎧の人。
 こちらへと近づき歩くと鎧が音を立てる。
 驚いた、遠かったから良くわからなかったけれど女の人だったのか。
 オーランドは笑顔を浮かべているが物凄く引き攣っていて、抱えている腕が軽く震えているのが振動として伝わってくる。そんなに怖いのだろうか。
 腕を軽く撫でると、腕の力が少し抜け震えが少し治まった。
 ダルグリムはその眉間に皺を寄せ、少し前に出た。

「だったら何だ。俺達は今忙しい」
「何故私に紹介してくれない」
「お前が触ったら脳筋が伝染る」
「私は病か何か。リード様の御息女なのだろう、ならば挨拶をさせてくれたっていいだろう」

 肩につくかつかないほどの少し癖っ毛の髪は、綺麗な深緑色。猫の様な目は淡い緑色。あの重そうな鎧でどう追いついたと言うより、先回りが出来たのかは分からないが、動く度に鎧が擦れて音を立てている。結構な重さがあるはずだ。
 言い合いをしているダルグリム越しに少し覗くと、ばっちり目が合った。
 そして細められた目、微笑んだ姿があまりにも綺麗で目を奪われた。何も含まない、純粋な笑み。

「お初にお目にかかります、お嬢様。ベレン・クジェトと申します。以後、お見知りおきを…」

 他の騎士と変わらず、優雅に跪くと手を差し出されその手を取ると軽く口付けをされた。

 凄く綺麗な人。
 耳が特徴ある、長い耳。
 ああ、エルフ族の人か。納得だ。

「はわ…り、リオネスフィアル・ティ・ドュライアです。クジェト、さま…よろしくおねがい、します」

 あまりにも自然な動作に、言葉が上手く出て来なかった。

「ふふ、リオネスフィアル様。ベレンで良いですよ、ベレンとお呼び下さい」
「ベレン…?」
「はい。ありがとう御座います。」

「そこまでで良いか。俺達は急いでーー」

 ゆっくりと立ち上がり、視線が同じくらいになると微笑み持ったままの手をぎゅっと握られた。
 家名の方で呼ぶと、更に少し手の力が強まり表情も少し強張った。名前でと言われ呼ぶと、それはまた花が咲くような笑みを浮かべた。
 そしてそれを遮るよう、手を放させるように間に入って来た大きな背中だがそれもまた何かに遮られたようで、黙ったままのダルグリムは額に手を当て唸った。
 見れば、何だなんだと色んなところからぞろぞろと隊員達が集まってきていた。

「お前ら持ち場はどうした!」
「あと少しで昼休憩ですし、今ここに居るのは暇な連中だけですよ。それより、そちらの子は…」
「ベレン隊長、そちらの子は本当に?」
「ああ、本当だ。あの方の御息女だ。それでは、リオネスフィアル様。名残惜しいのですが、私はこれにて戻ります。」

 私は見世物か何かだろうか。
 終始不機嫌そうなダルグリムと嬉しそうなベレン、そしてとても居心地の悪そうなオーランド。ベレンはもう一度跪くと戻っていってしまった。
 そろそろ下ろしてくれてもいいのだけれど、きっと私が居るから居心地が悪いのだろうし。
 動こうと、オーランドの服を軽く引くとこちらへと顔が向く。

「キールさま、おろしてください。ひとりであるきます」
「はっ、そうでした長々とスミマセン! それと俺の事はオーランドと呼び捨てでお願いします。ただの一騎士ですので」
「わかりました。オーランドありがとうございます」

 下ろしてほしいと頼むと、思い出したように慌てて地面へと下ろされた。腕の中での揺れに慣れていたため、地面に足をつけても少しふわふわとした感覚が残っていて軽く足に力を入れる。
 オーランドを見ると少し赤くて、耳のあたりまでほんのりと赤い。

「オーランド、かぜひいてる…?」
「へ? あ、い、いえ!! こ、これは何でもないので大丈夫です!」

 おろしてくれた上に膝をつき、同じ目線で話をしてくれるオーランドの額に軽く触れると慌てて後ろへと離れていった。
 そんなに触られるのが嫌だっただろうか。

「なら、ごめんなさい。さわってしまって」
「そんなこと無いです! 少し驚いただけですので! お嬢様が気にする事じゃないですよ!」

 しょんぼりと手を放し、手を後ろへと隠す。
 
「そりゃそうだな。オーランドお前耳と尻尾出てるぞ、早くしまえ」
「ハッ!? うわ、お見苦しいところをお見せしました……」

 目線を上げるとオーランドの頭の上、髪と同じ色の二等辺三角形の耳。その後ろにはチラリとしか見えなかったが、ふわふわとした巻き尾が見えた。慌てて耳を押さえ、軽く身震いするとそれらはあっという間に消えてしまった。
 それはもう、見たまま柴犬の様なそれらでとても触りたかった、惜しい。

 獣人種ーー、とは言ってもこれは大まかに括った種でしかなく、これもまた多岐にわたって細分化されている。それを更に大まかに分けて、牙族がぞく爪族そうぞくにわけられる。簡単に言えば牙族は肉食、爪族は草食。勝手に人が呼んでいるだけで、本人達にそんな種族分けは無い。部族事に違えば違う。しかし今では、辺境の地ぐらいにしかまともに部族で生活している者は居ないと聞く。
 人と関わる事の多くなった彼らは、この国では耳と尾を出したままなのは恥とした。
 全く誰だそんな事始めに言い出したやつは、お陰で私の癒やしが無いじゃないか。
 
 オーランドに声をかけたのは誰かと、横を見上げるとこれまた知らない人。

「これは失礼。俺は、ドール・アストラスです。リオネスフィアル様。心配せずとも、此処の奴らは皆ドュライア家へ忠誠を誓うモノしかおりません。」
「何故お前まで出て来た、ドール」
「なんでって、そりゃー…ねえ? ベレンがいてダルグリムが居たらそりゃ気になるだろ。お前ら仲悪いし。それにリード様が居て、今日は小さな女の子を連れてたなんて聞いたら御息女であるリオネスフィアル様しかいないだろう。ひと目でも会えたらとは思ったが、こんな近くで会えるとは」

 人当たりの良さそうな笑みを浮かべた、優男の様な人。女好きそうな少しタレ目で、いい香りがする。けれど、その笑みは底が見えない、焦げ茶色の髪と目の人。ドール・アストラスと言うらしい。
 跪き目線を合わせると、ベレンがしたように手の甲へと口づけを一つ、その態勢のまま目線を上げ微笑んできた。
 そしてまたそれも、ダルグリムの手によってさっさと放させられた。真面目そうなダルグリムと軽薄そうなドールは、やはり馬が合わないようで、ダルグリムがガミガミと文句を言っている。終わりそうにない。
 レナードをもふもふする時間が減ってしまう。
 当初の目的を思い出し、他の隊員達と話をしていたオーランドへと近づき、服の裾を軽く引いた。

「リオネスフィアル様?」
「レナードのところ、いきたいです」
「ダルグリム隊長そろそろ行きましょう!」

 まだ言い合いをしているダルグリムにオーランドが呼びかけると、今度はこちらにダルグリムがやって来て、失礼しますと一言、その腕に抱えられると隊員達の輪から抜け出せた。
 皆背が高くて首が疲れた。子供からすると大人はあんなに大きいのかと軽く首を擦る。



***



 あっという間に、朝来た場所へと戻ってきた。
 三人でぞろぞろとやってくると、レナードたちも気付いたのかこちらへと寄ってきた。普段世話をしているダルグリムに寄ってきたのだろう。
 ダルグリムが手を伸ばすと、その手に擦り寄るレナード達。
 そして、私が分かるとひと鳴きしてその羽毛ですりすりとしてきた。背中側からも嘴で撫でられる。

「落ち着けお前ら、雑にするな」

 その制しなど何のその、代わる代わるもふもふとしてきて一羽を撫でると反対から後ろからやって来て収集がつかなくなる。

「凄いっすね、本当にレナードたちがあんなに懐いてる…俺初めて見たとき、勝手に近づいた新兵が蹴っ飛ばされてるの見ましたよ」
「レナードは警戒心が強い。初対面で触るなんて以ての外、勝手に近づけばあの足に蹴飛ばされて終わりだ。」
「それなのにあそこまで初対面で懐かれてるって、本当に凄いですね。でも、リオネスフィアル様に撫でられるのは確かに落ち着きますけどね」
「……撫でられて尻尾振るくらいだもんな」
「なっ!? そこまではしてませんよ!」


 柵越しにレナード達と戯れるリオネスフィアルを見て、後ろで話す二人の声は本人へは届かない。

 
 
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