2 / 5
2話
しおりを挟むそれからも、シルヴァナとレイバードの夜は変わらなかった。どんなにシルヴァナが願っても、レイバードはまだ早いと、断るばかりで。シルヴァナの不安は増すばかり。
結局、何の進展も無いまま数ヵ月が経ち、シルヴァナは十五を迎えた。国の者が揃って彼女を祝い、レイバードも彼女に首飾りの贈り物をした。しかし、シルヴァナは心の底から笑えなかった。今宵、レイバードが触れてくれなければ、一生抱いてくれることはない。シルヴァナはそんな気がしていた。
お祝いという名の長い行事を終え、シルヴァナはその日の夜も寝室でレイバードと二人きりだった。
「……その首飾り、似合っている」
レイバードは、シルヴァナの首元に光る藍色の宝石が嵌められた首飾りに指先で触れる。刹那、シルヴァナの肌にも彼の指先が当たってしまい、シルヴァナの薄紅色の愛らしい唇から甘い吐息がこぼれた。そんな彼女に気付いてか、気付いていないのか、レイバードは彼女の身体をそっと抱き寄せた。
「私の可愛いシルヴァナ。今日はお前を抱き締めて寝るとしよう」
「っ、陛下」
シルヴァナの言葉を遮るように、レイバードは彼女を抱いたまま横になる。顔を上げれば、レイバードは彼女の黄金の柔らかな髪を梳かすように撫でてくれて。触れてくれてはいるものの、それ以上のことをしてくれる気配は見られなかった。
「へい、か」
「どうした」
レイバードの翡翠色の瞳が、優しく彼女を見つめる。
(……優しい陛下。愛する、陛下。わたくしは貴方に触れて欲しいのです)
「陛下。お慕いしております」
締め付けられるような胸の痛みに耐えながら、シルヴァナは想いを口にする。願いが込められたその言葉にレイバードは口元に柔らかな笑みを浮かべると、シルヴァナの額に優しく口づけをした。
「シルヴァナ。私もだ。お前を愛している」
「な、ならば!」
どうして抱いてくださらないのですか、という言葉が続かない。声が出ない。代わりにシルヴァナの藍色の瞳から大粒の涙がはらはらと零れ落ちた。
「……シルヴァナ。何故泣くのだ」
「わ、わたくしは」
子供としてではなく、一人の女性として見て頂きたいのです。愛する陛下に触れていただきたいのです。言葉だけではなく、身体でも愛を伝えて頂きたいのです──口にしたい言葉が一気に脳内に絡みつき、結局何も言えなくなってしまう。シルヴァナは小さな背中を震わせながら、鼻を啜り、むせび泣いた。レイバードはシルヴァナを見つめたまま唇を結び、彼女の背中を優しく擦る。
「可愛いシルヴァナ。私はお前の泣く顔は見たくない。泣かないでおくれ」
レイバードの温もりが、じんわりと服越しに伝わる。温かくて、優しすぎる、温もりが。
(陛下は優しい。でも、わたくしがして欲しいことは、望んでいることは叶えてくれない。私は、私は──)
「……心も、身体も、愛してほしいのです」
シルヴァナは消え入りそうな声で呟き、顔を上げる。目の前には、彼女をじっと見つめる愛しいレイバードの姿があって。その表情は驚いているようにも見受けられた。
「……陛下」
シルヴァナは唾をゴクリと呑み込み、彼の頬を小さな両手で包み込んだ。
「……愛しています。陛下」
シルヴァナは覚悟を決めた。
抱いてくださらないのならば、自分から襲うまで、と。
「シルヴァ、ナ」
レイバードの薄い唇が、シルヴァナの柔らかな唇によって塞がれる。柔らかく湿った感触が唇に触れた瞬間、シルヴァナの心の奥がじんわりと温かくなって。触れるだけで終わるはずだった口づけが長く続いてしまう。
「ん……っ……へい、か」
「シ……ルヴァナ……」
じっと重ね合わせているだけだった唇が次第に動き始める。レイバードの少しだけかさついた唇に、しっとりとしたシルヴァナの唇が押し付けられて。擦り付けあうような口づけから、食むような口づけへ。シルヴァナは夢中で愛する人の唇に吸い付いた。
「んっ、ふ……っ、へい、か……」
「……っ、ん……」
自分からしているにも関わらず、シルヴァナはこんなにも長い口づけをするのは生まれて初めてだった。おかげで自分が先に息が乱れてしまって、心臓もドクドクと鼓動を打っている。
「っ、は……」
必死に続けた口づけも終わりを告げ、唇がゆっくりと離れていく。はぁはぁ、と必死に呼吸をするシルヴァナに対して、レイバードは無表情で彼女を見据えていた。真っ直ぐに自分を見つめるその瞳が怒っているようにも見えてしまって、シルヴァナの中に小さな焦りが生まれる。
(……勝手にこんなことをしてしまったから、怒っているのかも。でも今更、後戻りはできないわ)
シルヴァナは決死の覚悟を決め、レイバードのシャツに手を伸ばした。しかし、気付かないうちに手が震えてしまい、ボタンをうまく脱がすことが出来ない。なのに、レイバードは何も言わず、抵抗もしないで彼女を見ているだけで。何だかシルヴァナは泣きたい気持ちになってしまった。
(どうしよう。自分からこんなこと、しておいて)
段々と視界が歪み始め、更に服を脱がすことが困難になる。何とか二つ目のボタンを外し、三つ目のボタンに手を伸ばしたその時、微動だにしていなかったレイバードの手がシルヴァナの細い手首を掴んだ。
「もうやめろ。シルヴァナ」
2
あなたにおすすめの小説
田舎の幼馴染に囲い込まれた
兎角
恋愛
25.10/21 殴り書きの続き更新
都会に飛び出した田舎娘が渋々帰郷した田舎のムチムチ幼馴染に囲い込まれてズブズブになる予定 ※殴り書きなので改行などない状態です…そのうち直します。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
萎んだ花が開くとき
陽花紫
恋愛
かつては美しく、男たちの愛から逃げていたクレアはいつしか四十を過ぎていた。華々しい社交界を退き、下町に身を寄せていたところある青年と再会を果たす。
それはかつて泣いていた、小さな少年ライアンであった。ライアンはクレアに向けて「結婚してください」と伝える。しかしクレアは、その愛に向き合えずにいた。自らの身はもう、枯れてしまっているのだと。
本編は小説家になろうにも掲載中です。
辺境伯と幼妻の秘め事
睡眠不足
恋愛
父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。
途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。
*元の話を読まなくても全く問題ありません。
*15歳で成人となる世界です。
*異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。
*なかなか本番にいきません
ちょいぽちゃ令嬢は溺愛王子から逃げたい
なかな悠桃
恋愛
ふくよかな体型を気にするイルナは王子から与えられるスイーツに頭を悩ませていた。彼に黙ってダイエットを開始しようとするも・・・。
※誤字脱字等ご了承ください
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる