【R18】あなたの心を蝕ませて

みちょこ

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2話※

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 二人きりになれる場所。そう言われて思い浮かぶのは一つしかない。桜はすぐにヴィクトールの腕を引き、自分の部屋へと案内した。

「ヴィクトール、こっち!」

 部屋の中央に急いで敷いた布団を両手で叩き、入口に立ちっぱなしだったヴィクトールを誘う。ヴィクトールは落ち着かない様子で周囲を見渡していた。それもそのはず、アルテリアに住んでいた頃の王妃の部屋と比べたら、寝台だってないし、床は大理石ではなく畳だし、部屋だってそこまで広くはない。それでも桜にとってこの部屋は憩いの場なのだ。
 そんな安らぎの場に誰よりも大切なヴィクトールが来てくれたのなら、嬉しさがより込み上げる。

「ふふっ、えへへ」

 自分のすぐ目の前で胡座をかいたヴィクトールにぎゅっと抱きつく。彼が自分の世界にいるのだと、今になって桜の中で実感が湧いてきた。嬉しくて、幸せで、堪らない。

「なんだ。こうしているのがいいのか」

「うん」

「だったらこうした方がいいだろう」

 ヴィクトールの逞しい腕に抱えられたまま敷布団に横になり、抱き合ったまま眠るような形となる。胸元に顔を擦り寄せて空気を吸い込めば、懐かしく愛おしい匂いが身体中に広がったような気がした。

「……こうしていると、旅の頃を思い出すな」

「え?」

「地面に敷物を置いて寝ただろう。あれと似ている」

 そう言われてみれば、旅の頃は天幕で雑魚寝に近い状態で睡眠をとっていたような。あれよりは遥かに寝心地が良いと思うのだけれど。

「お布団、嫌?」

「そんなことはない。新鮮に感じる。それにサクラもいるから心地がいい」

 ヴィクトールは銀に眩く睫毛を伏せ、桜の頭頂部に顔を埋める。ひょっとさりげなく顔を上げると、すぐに甘い口づけが降りそそいだ。桜は瞳を細めてそれを受け入れ、ヴィクトールの背中に腕を這わす。

「んっ、ヴィクトール、そう言えば、話って……?」

「ああ。そうだったな」

 やわやわと触れていた唇がゆっくりと離れる。

 ヴィクトールは部屋の隅に投げ置いていた外衣に手を伸ばすと、内側の衣嚢いのうをもぞもぞと探り始めた。ぱちぱちっと桜が瞬きを繰り返す中、取り出されたのは分厚い手紙の束。野花が飾られた可愛らしい便箋や、無地のもの、国章の封蝋が施された手紙まで。とてもすぐには読みきれない量だ。

「国に戻ってきた侍女長のオレリア、サクラ専属の侍女だったリリー、第一騎士団を代表してリブレードからと、穢れから救ってくれた礼にと国境の町から、そして王都の教会からと、あとは隣国の」

「ま、待って、待って」 

「すべてお前への感謝を綴ったものだ。本当はそれぞれ贈り物をしたかったようだが、生憎送る手段がなくてな」

 両手いっぱいに手紙を落とされ、桜は慌てふためく。
 どれから読めばいいか、分からなくなるほどに多すぎる。嬉しさと困惑が入り乱れて桜が手紙に視線を泳がせる中、ヴィクトールはそのうちの一つを取り上げた。

「もちろん、セドリックからも来ている。私が読み上げよう」

「うん。お願い」

 うつ伏せで布団に寝転がっていた桜は、同じ態勢をとっていたヴィクトールに肩を寄せる。黄金の刺繍のような飾りが施された一際目立つ封が切られ、数枚に及ぶ便箋が取り出された。そこに綴られた桜の世界では親しみのない文字が、溶け込むように脳内に流れ、ヴィクトールが紡ぐ言葉と重なり合う。


「親愛なるサクラへ。そちらの世界ではいかがお過ごしだろうか──


 まず、私は貴女に謝らなければならない。勝手にこの世界に呼び出しておきながらアルテリアを救えだなんて無理な要求を押しつけてしまったこと。本当に申し訳なかった。どうか許してほしい。

 しかし、貴女はアルテリアを救ってくれた。私達が生きる世界を二度までも救ってくれた。何度礼を口にしても足りないほどだ。心から感謝をしている。本当にありがとう。
 ヴィクトール前国王陛下より話は聞いたかもしれないが、是非ともサクラへ礼をしたいと各地から城の宝物庫に収まりきらないほどの贈り物が送られてきた。本当は彼を君の世界に送るときにどうにか一緒に送り込めないかと試行錯誤してみたが、不可能だったよ。後から使いの者と一緒に送り出すことも試してはみたが、魔力とともに出入口ゲートから弾き出されてしまった。どうやら異世界を往き来できるのは君とヴィクトール前国王陛下だけらしい。この裏付けを立証できれば、君の世界と此方の世界を再び繋げられるとは思うのだけど、中々に難しいね。

 おそらくこの手紙を読んでいるということは、ヴィクトール前国王陛下が無事に君の世界へ行けた、ということだと思う。彼は君を探すために必死だったんだよ。ヴィクトール前国王陛下は再び王位に戻ったあと、僕の父が残していった穴だらけの公務を死に物狂いで片付け、その後はひたすら君を見つけるための方法を探していた。サクラの居場所をどうにか知れないかと、私に頭を下げてまで聞いてきた。まぁ、結果、わずかに残されていた君の魔力の気配から君の居場所を突き止めることができたよ。私のお陰でね。
 そして、一度は禁忌魔法で封じてしまったゲートを再び解除魔法で解いて、ヴィクトール前国王陛下を君の世界に送り出すことができたんだ。
 再び王位から退いた彼が君の世界に行く直前、僕は尋ねた。「もし、向こうの世界に行けたとしても、サクラに確実に会える保証はありません。それに此方の世界には二度と戻れないかもしれないですよ。貴方はそれでもいいんですか?」って。そうしたら彼はなんて答えたと思う?
 一切迷うことなく「私にサクラと生きる道以外はない」って答えたんだよ。僕の実の父と言い、彼と言い、兄弟揃って、本当に国王には向いていないね。この年にして国を平和に治めている私が如何に優秀か、君なら分かってくれるね? まぁ、僕の父ウィレムには民の苦労を知るために、生涯を尽くして鉱山働きを。ヴィクトール前国王陛下にはすべてを犠牲にしてでもサクラを幸せにしてもらいたい。もし彼が君を裏切ったり傷つけるようなことをしたら、私に言ってくれ。すぐにでも抹殺しに行く。

 それと、ヴィクトール前国王陛下。今度は絶対にサクラを悲しませたり苦しめたりすることがないように。これは君宛の言伝だ。君がそっちの世界でも暮らしやすいように小細工をしてあげたんだから、私に対する感謝も忘れないようにね。


 サクラ。最後に君に一つだけ、手紙とは別に贈り物をしておいた。あとで君の愛する夫から受け取ってくれ。


 追伸 世界に平和をもたらした敬うべき聖女の象徴として、国内各地と隣国エルオーガに千体ほどのサクラの銅像を建てておいた。いつか君にも見にきてほしい。素晴らしい出来映えだ。


 ──現国王 セドリック・アルテリアより」

 ヴィクトールが最後の言葉を読み終えたのと同時に、桜の肩が小さく震え出した。鼻を啜るような音も漏れていき、桜は顔を隠すようにしてヴィクトールに抱きつく。

「どうした。サクラ」

「みんな、に迷惑掛けたと、思われていなくて、良かったって」

「……サクラ」

「……ヴィクトールは、アルテリアには、もう、戻れないの? ほ、本当はここへ来たこと、後悔して」

 顔をヴィクトールの胸元に擦り寄せたまま、サクラはか細い声で尋ねる。涙を声に滲ませた問い掛けに、ヴィクトールは静かに首を横に振った。

「私が自ら望んで来たんだ。後悔しているだなんて微塵も思っていない。サクラ、二度とそんなふうに言うな」

「……う、ん」

「サクラ。おいで」

 艶やかな声でいざなわれ、桜の顔が自然と上がる。吸い込まれてしまいそうなエメラルドの瞳。気づけば桜からヴィクトールに口づけており、ヴィクトールもまたゆっくりと睫毛を伏せた。

 最初は触れ合わせるだけだった口づけは次第に深くなっていき、鼻の奥から漏れるよがり声と息が乱れていく。わずかに開いたヴィクトールの唇が桜の唇を覆い、ざらざらとした肉厚な舌が歯の隙間を抉じ開けるようにして侵入した。

「ふっ、そういえ、ばっ、おくりものっ、て」

「ああ。それ、は、んんっ、今はまだ、ん……っ」

 二人は奥深くまで舌を絡めようと、互いの後頭部を両腕で引き寄せ合いながら会話を交わす。声を発する度に繋がった口内で熱い吐息が充満し、桜の下腹部が甘く痺れた。

「ヴィク、んっ、でんきっ、けし、て……」

「でん、き?」

「そこっ、ふぁっ、ひもっ、ひいて」

「ん……?」

 ヴィクトールは桜と深い口づけを交わしたまま、甘い行為に溺れる彼女の身体を抱えて立ち上がる。桜の言われた通りにパチンッと紐を引き、部屋の灯りが消えたところで二人は再び布団に崩れ落ちた。

「ふっ、あっ、あぁっ」

 わずかな時間すら惜しむように二人は四肢を絡め、服の上から互いの身体をまさぐる。口づけも荒々しさが感じられるほど深さを増していき、敷物が淫らに縒れていった。

「はぁ、んうっ、ヴィクトール」

 ヴィクトールはまっさらなシーツでよがる桜と指を交互に絡め、もう片方の手で桜の薄手のセーターを捲って。桜は為されるがまま一枚ずつ服を脱がされていき、薄桃色の愛らしい下着が姿を現す。それまでは流れるように行為を進めていたヴィクトールだったが、途端に顔をひそめた。

「……っ?」

 脱がせ方が分からないのか、肩紐を左右にずらしたり、金具をつついたり、掌を背中に往き来させたりしている。終いには、紐を無理やり引っ張り始めた。

「ヴィク! 引っ張らないで! 伸びちゃう!」

「なんだ、これはどうやって脱がすんだ。意味が分からん」

 先程の甘美な雰囲気からは一変、ヴィクトールは険しい面持ちのまま、まじまじと桜の下着を見据える。その様子をどこかおかしく感じながらも、桜は必死に笑いを堪えてヴィクトールの手を自らの背中へ誘導した。

「背中に銀色のホックがあるから、そこを外して……」

「ここか」

 ヴィクトールの指によってするりと下着が落ちていく。露になった形の良い二つの膨らみを桜は両手で覆い、頬を淡いピンク色に染め上げた。

「なぜ隠す、サクラ」

「だって……」

 今までにも幾度となくヴィクトールに肌を見せてきたが、それに慣れることなんて一度足りともなかった。彼に身体を見られれば、いつだって胸は高鳴るし、頭頂部から足の指先まで火照ったような感覚に見舞われる。
 今日に至っては、愛し合うこと自体が久しぶり。まるで初めてヴィクトールに抱かれるような恥じらいが身体を蝕んでいく。

「恥ずかしがる必要はない。お前の身体はこの世で一番美しい」

 雄々しさを感じさせる長く骨張った指が、桜のきめ細やかな肌をなぞる。腕から肩、鎖骨を伝い、白い双丘を包んだ桜の手へと落ち──そのまま優しい力で両手を剥がされ、上体が惜しみなく晒された。

「ヴィクトールも脱いで……」

 熱を纏った桜の吐息が、ヴィクトールの唇に吹きかかる。
 情欲を奥に秘めた瞳に捉えられ、首に腕を回されて。自らのシャツを取りはらったヴィクトールが桜に再び口づけようとしたそのとき──


 風が滑り込むようにして、襖が勢いよく開いた。



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