【R18】あなたの心を蝕ませて

みちょこ

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4話※

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 祖父は中々に意固地だった。

 最初こそ文化の違いに苦しむことはあったものの、時が経つにつれて旅館の皆とは良い関係を築き始めていたヴィクトールだったが、祖父だけは頑なに彼を認めようとはしなかった。あの見た目のせいもあり『色男の若旦那がいる』と若い女性客から持てはやされていることも気に食わない原因の一つだったのかもしれない。
 桜との関係を認めてもらおうと奮励するヴィクトールに対し、祖父はたった一人の孫である桜を譲る気はないと言わんばかりと態度を貫いていた。
 もしかしたら、祖父にだけはセドリックの小細工とやらが効いていなかったのだろうか。

 結局、二人の関係に進展が見られないまま更に時は過ぎ──再び桜が咲き誇る季節が巡ってきた。

 ヴィクトールと再会したあの日から、もう一年。桜もとうとう大学を卒業する身となっていた。



「ヴィクトール! 見て!」

 大学の卒業式を終え、懇親会から帰ってきた桜は、ヴィクトールの前でひらりとドレスの裾を摘まみ嬉しそうに微笑む。懇親会に行く前もこの特注の淡い桜色のドレス姿を見せていたはずなのだが、わずかばかりお酒が回っていた桜は、すっかりそのことが頭から抜けていた。

 ヴィクトールはそんな彼女を適当にあしらうようなことはせず、同じように「誰よりも綺麗だ」と告げる。偽りのないまっすぐな言葉に、桜もまた屈託のない笑みを浮かべた。

「ヴィクトールは、今日は作務衣じゃなくてスーツなんだね? 私の卒業式だったから?」

「あぁ……まぁ、それもあるが」

 ヴィクトールはどこか落ち着かない様子で視線を後方へと向ける。何度か咳払いし、視線を泳がすその姿。なにかを気にするような素振りに、桜は小さく首を傾げた。

「どうしたの、ヴィクトール……あっ」

 手をそっと引かれ、お祝いムードを迎えている旅館の正門から中庭方面へと連れて行かれる。どこに向かうのだろうと思ったのも束の間、燈籠に照らされる夜桜の側でヴィクトールは足を止めた。

「サクラ。渡したいものがある」

 ヴィクトールはその場に跪き、桜の白皙の手を取る。そのままもう片方の手をスーツの裏側へと滑らせ、とあるものを取り出した。

「──え。それ、は……」

 月が照らす夜に一際輝く桜色の小さな宝石。鏤められたその光に、桜の黒水晶の瞳がきらきらと照らされる。
 ヴィクトールは緊張した面持ちのまま桜の手を掴み直すと、彼女の薬指に桜の宝石が嵌められた指輪を近づけた。

「……アルテリアとエルオーガと。皆がサクラに感謝の意を込めて用意したものだ。受け取ってほしい」

「みんな、が」

 もしかして、一年前にセドリックが用意しておいた贈り物とは、これのことだったのだろうか。異世界で生きる彼等は、実際に桜を見たことがないはずなのに。本物と同じように──否、本物以上に美しい色を放っている。

 きれい、と呟いたのと同時にはらはらと桜の瞳から透明な雫がこぼれ落ちた。

「……サクラ」

 桜の身体が羽根のようにふわりと浮かび、気づけばヴィクトールの両腕に抱かれている状態に。長い睫毛を濡らす露が唇で掬われ、桜はまた一粒の涙を流した。

「……この一年間、この日が来ることをずっと待ち侘びていた。サクラ、私ともう一度夫婦になってくれ」

「ヴィク、トール」

「今日、お前の祖父にも話をしてきた。今度はサクラの世界で、一緒に人生を歩んでいきたいと」

 瞼に柔らかな感触が触れる。
 次は鼻先に、今度は頬に、そして最後は唇に。甘い口づけが一つ一つ落ちていき、桜はその感触に身を震わせながら、口元を綻ばした。

「……これからはずっと一緒?」

「ああ」

「もう二度と離れ離れにならない?」

「もちろんだ」

 ヴィクトールの言葉が、誰よりも愛する人の声が、心に染み入って涙腺が熱くなる。

「……嬉しい。嬉しい、ヴィクトール」

「サクラ」

「もう離さないで……ずっと、一緒に……」

 桜の願いにも似た言葉は、春の夜空へと消えていく。
 ひらひらと儚く花びらが舞い落ちる桜の下で、桜はヴィクトールの腕に抱かれたまま涙を流し続けた。

 悲しみの涙ではなく、これから訪れるであろう幸せを噛み締める涙を──







❀ ❀ ❀ ❀  ❀  ❀  ❀ ❀ ❀❀❀❀








 灯り一つない暗闇に包まれた静寂な部屋。二つの影が白い膨らみの中でゆらゆらと動き、息が乱れていく音と、艶やかしい声だけが響き渡っていた。

「あぁ……ヴィクトール……」

 ヴィクトールの引き締まった体躯に覆われた桜は、何度も甘い声を上げる。久し振りに重なった熱が全身を迸り、桜の瞳から悦びの涙が伝い落ちた。

 ゆさゆさと優しく腰を揺するヴィクトールは、そんな彼女を愛おしむように見つめて。もう絶対に離さないと、誓いを立てるように──営みに溺れる桜の身体をきつく抱き締めた。

「サクラ……サク、ラ、ずっと触れたかった……この一年間、どんどん美しくなっていくお前に触れたくて堪らなかった……」

「あっ、あぁっ」

 蕩けきった蜜壺の最奥に熱が突き立てられ、桜の身体が大きく痙攣する。お腹の奥まで快楽が侵食し、目の前の愛しい夫の首に縋りつくことしかできず。桜は必死にヴィクトールの名を呼んだ。

「ヴィクトール……あぁ、すき、す……き……」

「サクラ」

「私にだけ、ずっとこうして。他の人にしないで……あっ」

 ふと声に出してしまった言葉が、数年前の苦しかった記憶を想起させる。

 周囲から責めるような物言いをされてもヴィクトールは『サクラ以外に妻は娶らない』と意思を曲げようとしなかった。しかし、サクラは王である彼が責められる姿を見たくなくて。王妃である自分が我が儘を口にしてはいけないという思いが心に蓋をしてしまって。
 その場凌ぎの苦しみから逃れたせいで、長年に渡って苦しむことになってしまった。

 もう、その気持ちを誤魔化したりしてはいけない。王妃の座も、聖女としての名誉も、財産も、ヴィクトールを前にしてはすべて霞んでしまう。

 桜が本当にほしいのは、ヴィクトールの心と身体だけだ。


「ヴィクトール、愛している、の。誰よりも……
! 他のひと、にはっ、触れないで、見ない、で。わたし、いが、いのひと……っあ!」


 ──突然、ヴィクトールの動きが激しさを増した。
 独占欲を滲ませた桜の言葉に煽られたのか、ヴィクトールは狂ったように桜の名を呼びながら、腰を限界まで打ちつける。膨張した肉楔が媚肉を擦り上げては、子宮口をぐちゅんと押し潰して。
 互いの身体に欲情した故に飛び散った愛液とぬめり汁が、まっさらなシーツをびっしょりと汚していった。

「あぁ、ヴィク、はげし……っ」

「サクラっ、あぁ、私が愛しているのはお前だけだ。出会ったときからずっと、ずっとこの気持ちに偽りはない……!」

「はっ、あっ、あぁっ」

 敏感になった腟が情欲を剥き出しにした雄に擦られ、桜は喜悦に満ちた声で叫ぶ。ぐちゅぐちゅと混ざり合った性液に浸された桜のナカは、どこを刺激されても淫らに感じてしまう。

 快楽で頭がおかしくなってしまいそうなのに、身体はどこまでもヴィクトールを求める。頭の隅に残された理性でさえ、いつまでもこうしていたいと猥らに願っていた。

「サクラ……愛している、お前だけを、おまえだ、けを……!」

「あ、わた、わたしも……愛して……あぁっ!」

 ぐっと恥骨を押し当てられ、雄から溢れた白濁が蠢動しゅんどうを繰り返す膣壁の奥へと吐き出される。途端に目の前が真っ白になり、急な浮遊感に見舞われた桜は、ぼやけていくヴィクトールを求めて両腕を伸ばそうとした。

「サクラ……」

 しなやかな身体を大きく仰け反らせる桜を、ヴィクトールは包み込むようにして抱き締める。自分は桜の側にいるということを。身体で伝えるように。

「……愛している、サクラ。ずっと一緒だ」

「ヴィクトール……」

 絶頂を迎えた二人は、残された力にすがるようにして身体を絡め合う。
 二人で分かち合えた熱に桜がほろりと涙を流したそのとき、ヴィクトールの左手の薬指に煌めきが見えた。

 ──自分が嵌めている指輪と同じ光が。

「ヴィクトール……あとは市役所に行って、婚姻届出したら……この世界でも、本当に夫婦だね」

「……シヤクショ? サクラの祖父に話したら、もうそれで終わりではないのか?」

 眉間を寄せるヴィクトールに、桜はふふっ、と声に出して笑う。

「……違うよ。本当にお祖父ちゃんにもお話ししたの?」

「ああ。サクラを連れてもう一度出直してこいと言われた」

「ダメじゃない、それ」

 桜は呆れたように、そして本気で考え込むヴィクトールを愛おしむように笑う。そのまま汗の滲んだヴィクトールの背中に両腕を回し、そっと睫毛を伏せた。

「……明日、一緒に行こうね。二人でなら、大丈夫」

「ああ、そうだな。サクラと一緒になるためなら、地の果てでも、魔境でも、シヤクショでもどこにでも行く」

「ふふ……そうだね」

 まだ少しだけ冬の名残りがとどまった肌寒い空間に、甘く幸せな時間だけが過ぎていく。ヴィクトールさえいれば、もう他にはなにもいらない。これ以上の幸せは求めない。


 愛しい人の腕に抱かれながら、桜は心の底からそう思った。


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