15 / 22
第3章 予期せぬ色事
15話※
しおりを挟む「んっ、な、なにこの匂い……っ」
脳天まで突き抜けそうな甘い香りに、リディアは思わず鼻を摘まむ。お世辞にも広いとは言えない収納庫に閉じ籠もっているせいもあるのか、吐き気を催すほどの匂いだ。
「おい! なにをこぼしたんだ!? あっま……」
「ごめんなさい! 今すぐに片付けます!」
リディアは急いで足元に散らばった魔法瓶の欠片を集めようと手元を泳がせたが、ピリッと皮膚が裂けるような感覚に遅れて鋭い痛みに襲われた。
ぬるりとした感触が指先から溢れ出ていくのが分かる。どうやら硝子で出血をしてしまったらしい。
「ちょこまか動くな! 怪我するぞ……ってもうしてるじゃないか!」
アーノルドは慌ててリディアの手首を掴み、血の溢れ出る人差し指を咥内に加える。突然のアーノルドの行動に呆然としたのも束の間、付着した液体ごと血を優しく吸われ、リディアの口から妙に艶かしい声が漏れた。
どうしてだろうか。
緊急を要する事態であるはずなのに、身体の芯がぞくぞくと震え上がっている。
全身を火照らせるような熱に見舞われ、鼓動が異様に速まり、リディアは熱の孕んだ目でアーノルドを見つめた。
「……くそ、妙に気持ち悪い感覚だ。とりあえず硝子が刺さってるかもしれないから、早くここから出よ、う」
アーノルドは声を上擦らせながらも立ち上がり、扉を押そうとした──
が、開かない。
どんなにアーノルドが取手を動かしても、全力で体当たりをしても微動だにしない。収納庫に飛び込んだときに変な閉じ方をしてしまったのだろうか。
「……くっ、そ! こんなときになぜ開かない!? はっ、なんだ、からだ、が……」
それほど動いていないはずのアーノルドが、なぜか息を切らしている。
アーノルドはどうにか扉を開こうと尽力していたものの、次第に動きがじわりじわりと鈍っていき、終いにはその場に崩れ落ちてしまった。肩を上下に大きく揺らしながら息を吐くアーノルドに、リディアは思いがけず手を伸ばす。
「さ、わ、るな……っ」
ぱちんっ、とあまりにも弱々しい力で手を跳ね除けられる。
リディアは息を切らしながら、もう一度手を伸ばした。
今度は拒まれない。
拒む余裕がないのかもしれない。
熱を帯びたアーノルドの頬を両手で包み込むと、親指の付け根に彼の脂汗が伝った。
苦しいのだろうか。
リディアも彼と同じく苦しい。ハリーが寄越した魔法瓶の中身は一体なんだったのか。そんなことがどうでもよく思えるくらいに、理性が放散された熱に溶かされていく。
「リ、ディ、ア……」
どうすればよいのか、混乱している間にも底知れぬ劣情に蝕まれていく。リディアが睫毛を震わせてぐったりとアーノルドに寄りかかると、歯軋りのような音が頭上から降りそそいだ。
「……もうい、っかい、開けるから、待って、ろ」
アーノルドはリディアの頭を滑り落ちないように支えながら、片足で扉を蹴り上げる。しかしいくら蹴破ろうと試みても、鉄製の頑丈な扉は簡単には壊れない。
やがて、鉄板を何度も打ち付けてきた鈍い音は鳴り止み、アーノルドとリディアの淡い吐息だけが残った。
「ア……ノル、ド、さま……」
荒い呼吸を繰り返しながら、リディアはアーノルドの肩に片頬を預ける。潤んだ瞳を持ち上げると、苦痛に耐えるように唇を噛み締めるアーノルドとまた目が合った。
目を逸らすことができない。
熱が籠った瞳に吸い込まれてしまう。
絡まり合った視線の糸を辿るようにリディアは顔を近づけて、吐息の漏れる唇をかすかに開いて、そのまま。
***
「あっ……ふっ、んあっ」
淫らな息遣いに混じえてこぼれる粘っこい水音。綺麗に重ねられた唾液塗れの唇の隙間から覗かせた赤い舌が、くちゅりぬちゅりと互いの咥内を行き来していた。
リディアはアーノルドの首にしがみつき、ひたすら肉厚な舌の動きに応える。
どれだけ時が経ったのかは分からない。
気づいたら本能の赴くがままに深い口づけを交わしていて、リディアは下腹部から齎される甘い痺れに惚けていた。
「あっ、んんっ」
最初は遠慮がちだった口づけも、今は余裕のなさを見せるように激しさを深めていく。舌と舌を交互に絡め、唾液を沁み込ませるように表面を厭らしく舐め合う。
こんな濃厚な口づけを交わすのはリディアにとっては初めてだが、アーノルド自身がどうかは分からない。脳の髄まで蕩けてしまうようなキスを、他の女性ともしたことがあるのだろうか。
「ひぁっ」
アーノルドの手が性急に滑り落ち、じんわりと濡れていたリディアの秘部に触れる。そのまま服越しにずるっと指先で溝を擦られ、リディアは思わず膝を閉じてしまった。
「ど、どこを触って」
「触らな、いと、はっ、辛いままだろ、う。これ以上のことはしな、い。下を見るな」
唾液の糸を繋いだまま低く囁かれ、また深く口づけられる。
ぐちゅぐちゅに濡れた蜜口に指を押し当てられたかと思えば、ぷっくりと膨れた花芽を擦られて。直に触れられていないせいなのか、妙に焦れったいような快感に襲われる。
──いや、それよりも。それよりも、だ。
明らかにアーノルドの手は慣れている、ように思えなくもない。
妙な苛立ちと焦りに駆られたリディアは、勢いのままアーノルドと自らの下体衣を寛げた。
「おっ、おい……っ、なにをして」
うすぼんやりとした暗さではっきりとは見えないが、リディアの掌に芯が硬くなった熱がある。閨教育で学んだ知識を脳裏に浮かべながら、迸りでぬるぬるとした剛直を上下に扱くと、あっという間に熱い粘液が噴き出した。あの魔法瓶の液体のせいかは分からないが、どうやらアーノルド自身も限界間際だったらしい。
今更になって羞恥が込み上げたのか、触れ合わせた頬から伝わる温度が一気に上昇する。
「やめ、てく……れ」
掠れた声で紡がれたアーノルドの懇願。リディアは頬を真っ赤に紅潮させながらまた唇を塞ぎ、口内を貪る。
竿を支えていたリディアの手は離れ、代わりに愛液が溢れた秘裂が充てがわれた。花弁で挟み込むようにして亀頭に押し当て、ずるっと滑らせて。何度も擦り合わせていくうちに、リディアは快感の波に攫われそうになってしまう。
「あっ、あぁっ、アーノルドさ、ま」
「んぐっ、リディ、ア……っ」
アーノルドの息も酷く上がり、遂にはリディアの身体が押し倒された。
顔の横に手をつかれ、獰猛にも見える切れ長の瞳でリディアは見下ろされる。ドクドクと心臓が鳴り響く中なにか意を決したような表情でアーノルドが口を開こうとしたそのとき──
暗い二人だけの密室空間に眩い光が射し込んだ。
11
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる