85 / 152
第七章
鬼との交渉1
しおりを挟む月読は鬼平に会うため南の邸宅を訪れた。ところがたくさんの鬼たちがいる大広間へ通される。長老会へ名を連ねる古老たちもそろっていた。正面には当主である千隼が座し、感情を一切ふくまない冷たい目がこちらを見ている。
「さて……お主はこれだけの者を納得させるためになにを提示する? 」
抑揚のない鬼平の声がした。大広間はしずかだが鬼たちの視線があつまり殺伐とした空気が漂う、月読は肉食獣の群れに囲まれた生贄のようだ。
月読の要求は以下のとおり。九郎をいままでどおりの生活へ戻すこと、命の安全は保障され、隔離や監禁はしない。
鬼たちが騒めきだした。九郎がマガツヒに成ってないのは周知だが、いつ成ってもおかしくはない。脅威を野放しにするのかと口々に怒声がとぶ。討伐の総本山である集落でマガツヒが闊歩するなどあってはならない、しかもそれを【月読】が擁護しているのだ。
月読は九郎が他のマガツヒとは違うことを強調し、御山にある奈落の存在を打ちあけた。御山に奈落があるという事実は【月読】と関係者の一部を除き大多数の者は知らない極秘事項、鬼たちの騒然たる声はおさまらない。
【御山】が崩壊するかもしれない秘密、然しこれははじまりに過ぎない。ここにいる者たちを皮切りに集落全体が奈落の存在を知ることになるだろう。恐れた人々は集落から逃げだし、誰も居なくなるかもしれない内容を承知の上であかした。
鬼たちの不安と憤懣の矛先がむく、抑えきれない怒気やとまどいが口撃となって罵りを受けた。なかには隼英の死を挙げ、月読を血も涙もない男だとなじる言葉まであった。
月読は背筋を正したまま、それらをぜんぶ受け止める。
正面へ座っていた千隼が立ちあがった。
目の前まできて屈み月読の頬を平手で打った。けっこうな威力で殴られ頬は赤くなり痺れた。
「黙りなさい」
メガネ奥で切れ上がる目がこちらを見てから鬼達を一瞥する。大広間はシンと静まりかえり、般若のごとき千隼に誰ひとりとして反発する者はいない。
「つづきを聴きましょう」
腰をおろした千隼はひとこと発した。
月読は秘匿されてきた御山の奈落について話す。大昔より代々結界を張ってきた【御山の奈落】と【他所の奈落】のちがい、九郎へ憑くオオマガツヒの欠片は御山の奈落から来たものでこれまで討伐してきたマガツヒとは少々異なる。そして御山の人間に憑くという起こりえない事例ができてしまった。後世のためにも研究と解明が必要だと訴える。
九郎をどうするつもりなのかと千隼が尋ねた。
「私が引き受けます。憑いたものに関しては龗へ相談するつもりです。白である私が常に見張ることで、御山の皆も安心するでしょう」
九郎が暴走すれば始末は月読がつける。御山の奈落においても【月読】が大きな役割を担い、解明をおこなうには最適だと伝えた。
「憂惧をすべて拭い去ることはできぬ。【月読】にまかせたとて、お主の身に何かあったらどうする? 」
静聴していた鬼平が口をひらいた。
不安の種はまだ拭えない、鬼平は九郎が月読へ手をかける可能性を憂慮する。月読の白が不在のマガツヒ討伐は【鬼】が果たしてきた理由もある。
「理解しています。私に何かあれば他の【月読】が封じると言っても納得いかないでしょうし……」
月読は両手を左腹部へあてる。寸秒おいて目も眩むような光が指の隙間からこぼれた。月読が両手を掲げて開くと手のひらに輝きを放つ白い角があった。
「それは!? 」
鬼平の目が驚愕にひらかれ輝く角を見つめた。
「鬼の秘術を使い、神宝と化した隼英の角です」
月読の願いのためになにかを捧げなくてはならないのなら答えは決まっていた。ひとりの男のため手放すと決めた大切なもの、誰にも言わず知られることすら怖かった存在。
今尚、断てぬ想いは魂を引き裂かれる感覚となって月読の懐から取りだされた。
「鬼の神宝としてあなた方に返します。この角を使えば【鬼】はより力を得ることになるでしょう」
隼英の命を燃やした神宝を使えば、鬼は九郎がマガツヒと化しても問題ないほどの力をもつ。御山の力関係にも変化が出るかもしれない。
光り輝く角をまえに誰もが沈黙した。
無意識にひとすじの涙が月読の頬をつたう。
止まった時を動かすように千隼が歩みでて膝をつく、月読の手ごと隼英の角を包みこんだ。
「とても大切な物なのですね。そうか……父がまだ貴方のなかに……」
角は受け取れないと返された。困惑する月読へ千隼はずっと持っていた疑問が解決したと話す。
「貴方にとっての【鬼】は磐井隼英……でも負けませんよ、鬼の本分は奪い取ること、父への気持ちを貴方から奪ってこれが必要なくなった時に受け取ります」
薄茶色の瞳に強い光りをたたえた青年は笑みを浮かべる。
大広間の者たちは2人の動向を摯実に見守っていた。
1
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】エデンの住処
社菘
BL
親の再婚で義兄弟になった弟と、ある日二人で過ちを犯した。
それ以来逃げるように実家を出た椿由利は実家や弟との接触を避けて8年が経ち、モデルとして自立した道を進んでいた。
ある雑誌の専属モデルに抜擢された由利は今をときめく若手の売れっ子カメラマン・YURIと出会い、最悪な過去が蘇る。
『彼』と出会ったことで由利の楽園は脅かされ、地獄へと変わると思ったのだが……。
「兄さん、僕のオメガになって」
由利とYURI、義兄と義弟。
重すぎる義弟の愛に振り回される由利の運命の行く末は――
執着系義弟α×不憫系義兄α
義弟の愛は、楽園にも似た俺の住処になるのだろうか?
◎表紙は装丁cafe様より︎︎𓂃⟡.·
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる