いやらし天狗

風見鶏ーKazamidoriー

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いやらし天狗

現地につきました

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 浮田うきたから送られてきたチャラ画像を見終わって、スマートフォンをカバンに収めて椅子の背へもたれる。電車はトンネルをえて、窓にひらけた平野が映った。

「やっぱ旅は最高だよなぁー」

 家族や友人と行く旅行もにぎやかでいいけれど、自由に過ごせる1人旅も開放感があっていい。バイト代は出るし、おまけに興味のある事柄も調べられ一石二鳥いっせきにちょうだ。



 大きな駅で乗り換えた海斗は、人けのない車内で硬くなった体を伸ばす。小さな駅に停まりながら進むローカル線の景色を楽しんでいると目的地についた。無人のホームを歩いて、シャッターの閉まった窓口を後目しりめにカードをかざして改札を抜ける。

ペットボトルを口にふくみ、ひと息つくとホームの外は長閑のどかな風景が広がっていた。道端の花がつぼみを膨らませて先をうなだれる。

 山登り用の大きなリュックを背負せおい、ポケットから取り出したスマートフォンを操作して地図を確認しながら歩く。思ったよりも距離があって、宿へ着く頃には夕方になった。

ログハウスの前に『天のイヌ』と看板がかかげられていた。マスコット犬だろうかユーリ&五郎とチョークで書かれてる。看板の絵と同じ顔の犬がさくの向こうからワフッとひと声挨拶して、隣接した建物へ入っていった。



 民宿と言うには小綺麗こぎれいな宿で受付を済ませれば、気の良さそうな宿の主人が声をかけてくる。30代半ばくらいの山川やまかわと名乗る男はあご先の不精髭ぶしょうひげに日焼け肌、見るからに山男の風貌ふうぼうだ。

海斗が駅から歩いてきた事を知って山川は驚いた。

「予定より遅くなってしまってすみません」
「いえいえ、こっちは大丈夫ですよ。遠い所からよく歩いて来ましたね、電話下さったら車で迎えに行きましたのに」
「あはは普段から鍛えてますから、いい風景でしたよ」
「へえぇ~健脚けんきゃくですね。大原おおはらさんは、ここへは観光で? 」

 メガネをかけた宿の主人が海斗を見つめる。
ダボッとしたパーカーを着ていて分からないけれど、小さい頃から陸上競技などのスポーツをしてきた海斗の身体はちょっと自信があるほど鍛えられている。

ニコニコと笑った山川は観光パンフレットを出した。少々さびれた観光地だが古いお堂がいくつも建っていて歴史のある場所だ。海斗が地図を見ながらいろいろ聞いていると、山川が感心したようにうなずく。

「若いのによく知ってますね。このあたりの山に興味がおありですか? 」
「ええ、大学で民俗学を専攻してまして」

 観光がてら遺跡などの調査をしに訪れたことを話す。このあたりの山には歴史のある寺と、それにまつわる天狗てんぐの伝承が残されている。
そこの地域にしかない独特の民話や言い伝え、迷信も多いけれど裏に史実が隠されていることもある。海斗はひそかな期待を胸にしてワクワクしていた。



「アンタさん、天狗てんぐ様に興味があるのかね? 」

 受付を済ませて部屋へ向かおうとしたら、入り口のベンチに座っていた小さいお爺さんが話しかけてきた。少し話していると、気を良くしたお爺さんはとっておきの話を聞かせてくれる。

天狗の伝え話で、一風いっぷう変わった天狗の話だった。むかし人さらいが蔓延はびこの地に現れて、悪い天狗達を改心させた天狗達の首領。言い伝えでは黒漆くろうるしの面にりっぱな鼻がついているそうだ。

「へええ~、そのお堂跡は鼻高山はなたかやまのどのあたりに? 」

「なんせワシが山へ登ったのは何十年もむかしの話、詳しくはおぼえてないのぉ。マエ様という地元でも恐れられている天狗様だで、もしもお堂を見つけても近づかないのが一番じゃよ」

 海斗が興味深そうにうなずいていたら、お爺さんは真剣な顔で忠告した。



 心地いい朝がやってくる。

海斗の住んでいる人の多い地域と違い、森の音が聞こえてくるような静かなところだった。古い民宿を改築して作られたログハウスの雰囲気があたたかい。

「おはようございます。大原さん、よく眠れましたか? 」

「はい、それはもうグッスリ! あと大原じゃなくて海斗でいいっすよ」
「ははは、じゃあ海斗くんと呼ばせてもらおうかな。僕のことも穂波ほなみで」
「了解です、穂波さん! 」

 あたたかい雰囲気は宿の主人もいっしょで、昨日の夜には打ち解けていた。
ダイニングのテーブルにみずみずしい有機野菜のサラダやフレッシュな果物のジュース、とれたての卵で作った卵焼きがならぶ。

数日滞在する予定の宿は食事が美味しいと評判、期待どおりで海斗は満足する。


 宿の主人は体格も良く日に焼けた山男だが、小ぎれいでメガネをかけた風貌はどこか垢抜あかぬけている。きちんとしたシャツを袖捲そでまくりしてキッチンに立つ姿は、おしゃれなカフェの店長みたいだ。

彼――山川やまかわ穂波ほなみはロッククライミングが趣味で、訪れるうちに移り住んだのだという。夏場のシーズン中は、登山やクライミング目当てに町から旅行客が訪れる。

「なにより空気と水が美味しい。都会と比べたら多少不便ですけど……まあ不便なのも醍醐味だいごみですよ。海斗くんもスポーツ得意そうなので興味あればぜひ」

 笑顔で話していて、ここが好きなのだと伝わってくる。いまは春先でシーズンには早いけれど、宣伝がてらクライミング講習のチラシを渡された。山川は町の施設でも講習をしているらしい。



 美味しい朝食を食べ終える頃、キッチンにいた山川は透明なフードパックにおにぎりやおかずを詰めてテーブルへ持ってきた。

「このへんはコンビニまで距離があるし、サービスだからよかったら持って行って」

「マジですか、もちろん頂きます! ありがとうございます」

 訪れる場所は山なので店などいっさい無い。海斗もちょうど昼食をどうしようか考えて、相談しようと思っていたところだった。細やかな山川の心遣こころづかいに感謝する。

無人の最寄り駅から歩いて3時間はかかる山間部の村は、移動手段がなかったら不便な場所だ。車がなければ買い物するために1日数本のコミュニティバスを待つか、数時間かけて徒歩で移動するしかない。

駅の近くにレンタルサイクルがあったことを教えてもらい、失念していた海斗が唸っていたら山川は微笑んだ。

「大丈夫だよ、町まで行く用事があったら僕に声かけてね」
「穂波さん……」

 山川のやさしさに惚れそうになる。1日1回は町へ買い出しに行くので、用事がある時はついでに乗せて行って貰えることになった。
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