63 / 186
第六章 波乱の幕開け
偉人の顔に落書きはしません
しおりを挟む
いくら待てども数学の先生が来ない。慌てて教科係が職員室へ確認に行くと、どうやら先生は急用で出かけたらしく自習用のプリントが用意されていたようだ。
苦手な数学のプリントが机の上を支配し、私は頭を悩ませる。
その時ツンツンと後ろからペンで背中をつつかれた。
「一緒にせぇへん? 桜こういう系、ダメやろ?」
振り返ると後ろの席には、「どうや?」と慈悲深い笑みを浮かべた天使様が座っていらっしゃった。
ありがたい天使様の申し出だが、むやみに最初から人を頼るのはよくない。
泣く泣くその申し出を断り、分からない所を教えて欲しいと言って私はまたプリントに向かい合った。
最初の方の計算問題は、この前課題を見てもらった時に、美香にコツを習って以外とサクサク解けた。
しかし、問題はつらつらと長文で書かれた厄介な応用問題だ。
一度全文読んでみるが、全く頭に入ってこない。
これは本当に日本語なのか?
もう一度読んでみるが……これは本当に現代の言葉なのか?
聞き慣れない言葉が多すぎて、もはや思考回路はショート寸前。
気が付くと、無駄に句読点の丸を全部黒く塗りつぶし、円のような文字の四角の部分にまで同じ様に手をつけており、問題文が非常に読みにくくなっていた。
その時、後ろから「クッ、ククク」と必死に笑いを噛み殺すような声が聞こえてきた。
声の主の方へ振り返ったら、「あかん、お前……それあかんわ……ッ」と腹を抱えて天使様が必死に笑いを堪えていらっしゃった。
「桜、お前ほんと変わってへんなぁ……ククッ」
恥ずかしくなってその部分を隠すも、ばれてしまっている以上無意味だった。
よく小学生が教科書の偉人に落書きしたりするが、私はそんな事は決してしない。
ただ、どうしても問題が分からない時、ついつい手が無意識のうちに穴と言う穴を片っ端から塗りつぶしてしまう癖があった。
そして気が付くと出来上がっている怪文書。
その癖は昔から変わらず、よくカナちゃんにそれを見られては爆笑されていた。
笑いすぎて生理的に出てきた涙を拭いながらカナちゃんは声をかけてくる。
「桜、そこ分からへんのやろ? 俺が教えたるわ」
「……うん、ありがとう」
私がいそいそと彼の机にプリントを置いたら、「……ププ、あかん。問題読めへん……ッ」とカナちゃんは私のプリントを見てまた笑いだした。
怪文書を普通の問題文に戻すべく、私は急いで消ゴムで綺麗に消した。
微妙に跡が残っている気もするが、そこは気にしてはいけない。
その後、やっと笑いの収まったカナちゃんに無事問題を教えてもらう事が出来た。
「ここはまず最初に、問題を絵に描いてみるんや……」
カナちゃんの言う通り問題文が示す複数の点をグラフに描いて、それを直線で結んだ。
そこに指定された円をフリーハンドで頑張って綺麗に描いて求める面積がどの部分かはっきりさせた。
「それでまず円の面積を求めてやな……次に余分なこことそこの部分の面積を求める」
私の描いた絵をシャーペンで指しながら、彼は丁寧に教えてくれた。
それに忠実に従い、一つずつ必用な部分の面積を公式を駆使して求める。
「後は円からさっき求めた面積引いたら、答えの完成やで」
計算式を書いて、間違わないように気を付けて引き算をすると、見事に問題が解けた。
答えの記入欄へ自信たっぷりに導きだした数字をでかでかと書く。
「カナちゃん、出来たよ!」
難解な問題が解けた私は、嬉しくて顔をパッと机から上げてカナちゃんに報告した。
「よしよし頑張ったな、正解やで」
すると、ニッコリと柔らかな笑みを浮かべたカナちゃんは、偉い偉いと私の頭を撫でてくれた。
昔からよくこうやって分からない問題教えてもらってたんだよな。
褒められて、おだてられて、気を良くした私は嫌いな勉強も楽しくできた。
勉強への苦手意識を和らげてくれたカナちゃんが転校した後、私の成績は悲惨なものだった。
「どないしたん? ひとり百面相して」
「いや改めて思ったけど、カナちゃん勉強教えるの上手いよね」
「そりゃーな。気を抜けば赤点もらって怒られてるどっかの誰かさん見てたら、可哀そうになってな」
「同情でかい!」
「おばさんの雷、落ちたらかなりひどいやん? 声響いてきてテレビもよう聞こえんくなるし、楽しみにしとったアニメのクライマックスが台無しになって俺も悲しなってな」
「ほんとすいませんでした」
「泣くしかないやろって感動シーンで、逆にめちゃめちゃ笑かしてもろうたわ。次の日、クラスの連中が感動したねーって話とる時、俺一人だけ笑いこらえんの大変やったんやで?」
「重ね重ね、ほんとすみませんでした」
「まぁ、録画しとったし。後でちゃんと見直して普通の感動も味わえたから、それはそれでええんやけど」
「なんか謝って損した!」
「いや、損って事はあらへんやろ」
「他の人が味わえなかったおいしい思いして、逆に得したんだよカナちゃんは」
「せやったんか! あん時は怒られてくれてありがとう?」
「どういたしまして?」
喋りながら笑い出したカナちゃんにつられ、思わず私も笑ってしまった。笑いが伝染して堪えられなくなって、腹筋が崩壊しそうになった。
「不思議やな。またこうして、馬鹿できる日が来るとは思わんかったわ」
「そうだね。なんかすごく懐かしい」
少しだけ感慨にふけった後、「ほな、次の問題いこか」というカナちゃんに、「お願いします。先生」と私は頭を下げた。
その後も分からない問題を教えてもらい、なんとか五限目の授業が終了するまでにプリントを終えることが出来た。
苦手な数学のプリントが机の上を支配し、私は頭を悩ませる。
その時ツンツンと後ろからペンで背中をつつかれた。
「一緒にせぇへん? 桜こういう系、ダメやろ?」
振り返ると後ろの席には、「どうや?」と慈悲深い笑みを浮かべた天使様が座っていらっしゃった。
ありがたい天使様の申し出だが、むやみに最初から人を頼るのはよくない。
泣く泣くその申し出を断り、分からない所を教えて欲しいと言って私はまたプリントに向かい合った。
最初の方の計算問題は、この前課題を見てもらった時に、美香にコツを習って以外とサクサク解けた。
しかし、問題はつらつらと長文で書かれた厄介な応用問題だ。
一度全文読んでみるが、全く頭に入ってこない。
これは本当に日本語なのか?
もう一度読んでみるが……これは本当に現代の言葉なのか?
聞き慣れない言葉が多すぎて、もはや思考回路はショート寸前。
気が付くと、無駄に句読点の丸を全部黒く塗りつぶし、円のような文字の四角の部分にまで同じ様に手をつけており、問題文が非常に読みにくくなっていた。
その時、後ろから「クッ、ククク」と必死に笑いを噛み殺すような声が聞こえてきた。
声の主の方へ振り返ったら、「あかん、お前……それあかんわ……ッ」と腹を抱えて天使様が必死に笑いを堪えていらっしゃった。
「桜、お前ほんと変わってへんなぁ……ククッ」
恥ずかしくなってその部分を隠すも、ばれてしまっている以上無意味だった。
よく小学生が教科書の偉人に落書きしたりするが、私はそんな事は決してしない。
ただ、どうしても問題が分からない時、ついつい手が無意識のうちに穴と言う穴を片っ端から塗りつぶしてしまう癖があった。
そして気が付くと出来上がっている怪文書。
その癖は昔から変わらず、よくカナちゃんにそれを見られては爆笑されていた。
笑いすぎて生理的に出てきた涙を拭いながらカナちゃんは声をかけてくる。
「桜、そこ分からへんのやろ? 俺が教えたるわ」
「……うん、ありがとう」
私がいそいそと彼の机にプリントを置いたら、「……ププ、あかん。問題読めへん……ッ」とカナちゃんは私のプリントを見てまた笑いだした。
怪文書を普通の問題文に戻すべく、私は急いで消ゴムで綺麗に消した。
微妙に跡が残っている気もするが、そこは気にしてはいけない。
その後、やっと笑いの収まったカナちゃんに無事問題を教えてもらう事が出来た。
「ここはまず最初に、問題を絵に描いてみるんや……」
カナちゃんの言う通り問題文が示す複数の点をグラフに描いて、それを直線で結んだ。
そこに指定された円をフリーハンドで頑張って綺麗に描いて求める面積がどの部分かはっきりさせた。
「それでまず円の面積を求めてやな……次に余分なこことそこの部分の面積を求める」
私の描いた絵をシャーペンで指しながら、彼は丁寧に教えてくれた。
それに忠実に従い、一つずつ必用な部分の面積を公式を駆使して求める。
「後は円からさっき求めた面積引いたら、答えの完成やで」
計算式を書いて、間違わないように気を付けて引き算をすると、見事に問題が解けた。
答えの記入欄へ自信たっぷりに導きだした数字をでかでかと書く。
「カナちゃん、出来たよ!」
難解な問題が解けた私は、嬉しくて顔をパッと机から上げてカナちゃんに報告した。
「よしよし頑張ったな、正解やで」
すると、ニッコリと柔らかな笑みを浮かべたカナちゃんは、偉い偉いと私の頭を撫でてくれた。
昔からよくこうやって分からない問題教えてもらってたんだよな。
褒められて、おだてられて、気を良くした私は嫌いな勉強も楽しくできた。
勉強への苦手意識を和らげてくれたカナちゃんが転校した後、私の成績は悲惨なものだった。
「どないしたん? ひとり百面相して」
「いや改めて思ったけど、カナちゃん勉強教えるの上手いよね」
「そりゃーな。気を抜けば赤点もらって怒られてるどっかの誰かさん見てたら、可哀そうになってな」
「同情でかい!」
「おばさんの雷、落ちたらかなりひどいやん? 声響いてきてテレビもよう聞こえんくなるし、楽しみにしとったアニメのクライマックスが台無しになって俺も悲しなってな」
「ほんとすいませんでした」
「泣くしかないやろって感動シーンで、逆にめちゃめちゃ笑かしてもろうたわ。次の日、クラスの連中が感動したねーって話とる時、俺一人だけ笑いこらえんの大変やったんやで?」
「重ね重ね、ほんとすみませんでした」
「まぁ、録画しとったし。後でちゃんと見直して普通の感動も味わえたから、それはそれでええんやけど」
「なんか謝って損した!」
「いや、損って事はあらへんやろ」
「他の人が味わえなかったおいしい思いして、逆に得したんだよカナちゃんは」
「せやったんか! あん時は怒られてくれてありがとう?」
「どういたしまして?」
喋りながら笑い出したカナちゃんにつられ、思わず私も笑ってしまった。笑いが伝染して堪えられなくなって、腹筋が崩壊しそうになった。
「不思議やな。またこうして、馬鹿できる日が来るとは思わんかったわ」
「そうだね。なんかすごく懐かしい」
少しだけ感慨にふけった後、「ほな、次の問題いこか」というカナちゃんに、「お願いします。先生」と私は頭を下げた。
その後も分からない問題を教えてもらい、なんとか五限目の授業が終了するまでにプリントを終えることが出来た。
0
あなたにおすすめの小説
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる