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第八章 暗黒王子と学園生活
逆白雪姫大作戦
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放課後、私は美香を家に呼んでコハクの事を相談した。
コハクが人間と妖怪のハーフだという事を知っているのは、橘先生と美香しかいない。
シロのことを学園内でフォローしてもらうためにも、話しておいた方がいいと判断したからだ。
「絶対一悶着あるとは思ってたけど、結城君が自分から身を引こうとしたとはかなり意外ね。まぁ、桜と西園寺君見てるとそれも仕方ないのかしら。でも、はっきり断っても諦めない西園寺君も、相当貴女の事が好きなのね……昔の手紙、まだそこに入ってるの?」
そう言って、机の上に飾られた大きなテディベアに美香が視線を向けた。
「うん、結局告白された後も見てないから」
「読んでみる気はないの?」
「それこそ今更だよ、カナちゃんとは幼馴染みのままいたいから。昔の思い出に変な意識持つと、なんか変に恥ずかしくなって調子狂うし」
姉にカナちゃんの昔話をされた時の事を思い出して、私は苦笑いした。
あの時の反応のせいで、コハクにも変な誤解を与えてしまったわけだし。
「桜の気持ちは分かったわ。まずは、結城君を目覚めさせるのが最優先事項ね。でもそれだけだと、また同じ事を繰り返しかねないから……西園寺君に結城君の事を認めさせると共に、貴女の気持ちもしっかり見せつけて、二人の間に入り込む余地などない事を認めさせる必要があると思う」
「そうだね……でも、どうしたらいいのか……」
美香の言うように出来れば、コハクを不安にさせずに済むだろうけど、具体策が全然思い付かずに私は頭を悩ませていた。
すると、私の項垂れた肩に手を置いて美香がにっこり笑う。
「私にいい考えがあるわ! その名も、逆白雪姫大作戦!」
「逆白雪姫大作戦?」
「そう、白雪姫は王子のキスで目覚めるでしょう?」
「確か、喉につかえていた林檎がそれでとれたんだよね」
「そう。その逆バージョンで、姫のキスで王子の眠りを覚ますのよ。来月、とても相応しい最高の舞台があるじゃない!」
「最高の舞台?」
「文化祭のプリンセスコンテストよ! 優勝すれば好きな人にキス出来る権利が手に入る。想いを伝えるのにこれ以上相応しい機会はないわ。西園寺君にも結城君のために頑張る貴女の姿を見せつけられるし、まさしく一石二鳥よ」
私が、プリンセスコンテストで優勝……?!
「む、無理だよ私が優勝なんて!」
「結城君もプリンスコンテスト出るんでしょう? 二人で聖学の王子と姫になるのよ! そうすれば、もう誰も貴女たちの仲を邪魔しようなんて思わないはずだわ」
私が慌てて否定しても、美香の耳には届いていないようで、非現実的な夢をキラキラした目で語っている。
「女子力ゼロの私にプリンセスコンテストなんて……まだ格闘技戦で優勝してこいって言われた方が望みあるかも……」
あまりにも非現実的すぎて、思わず乾いた笑いがもれた。
「桜、貴女は磨けば光るダイヤの原石。私が完璧に磨いてあげるから、もっと自分に自信を持って! 本当は、この腕の傷を綺麗にしたいってずっと思ってたの」
美香はそっと私の手を取ると、悲しそうな顔で腕の内側の傷跡が残る部分を優しく撫でた。
「私のせいで桜には高校生活の半分を辛い思いで過ごさせてしまった。だからせめてこれからは、誰にも邪魔されないくらい皆に認められる存在になって、幸せな学園生活を送って欲しいの。そのために私が出来る事は、何でもサポートする。だから……コンテスト、一緒に頑張ってみない?」
美香がそこまで思ってくれていた事が、素直にとても嬉しかった。
それと同時に、不可能を可能に変えれそうなくらい、私の背中を強く押してくれた。
「美香……ありがとう、私頑張ってみるよ。貴女がサポートしてくれるなら、やれそうな気がしてきた」
「そうと決まれば色々準備があるから、私今日はもう帰るわ。明日から覚悟しててね!」
もしコハクが目覚めた時、何も変わっていなければ……それこそまた彼を不安にさせてしまうだろう。
少しでも不安要素を取り除いて、彼に相応しい自分になりたいと強く思い、こうして私は、プリンセスコンテストへ出場する事を決意した。
***
その日の夜、時刻は夜の十一時。
この時間を、私はコハクヘ想いを伝える時間に決めた。一日の終わりに、今日の出来事を報告したかったからだ。
早速今日一日の出来事を報告して、プリンセスコンテストに向けて頑張る事をコハクに話しかけるようにして強く念じた。すると──
「ほう、プリンセスコンテストか。それは楽しみだな」
背後から突然聞こえてきた声に驚き、身体がビクッと大きく震える。
毎度の事だが、急に部屋に現れるのは止めて欲しい。心臓に悪すぎるから。
振り向くとシロは、妖怪バージョンの和服姿で私のベットに肩肘を立てて寝ていた。
少しはだけたシロの胸元が視界に入り、昼間の出来事を思い出して無性に恥ずかしくなった私は慌てて視線を逸らして訴えた。
「シロ、部屋に来る時は先に携帯で連絡して。びっくりするから」
「それは無理だ。使い方、知らん」
「え?」
「別に妖界では、そんなものなくとも不自由しない。用がある時はこうやって直接訪ねればよいだけだ」
「ええええ! コハクは結構マメに連絡くれたよ? ちゃんと使えてたよ?」
「あいつはこっちの生活に慣れているから当然であろう。俺は人間界で表に出る事はほとんどなかったから、こっちの世界のそういう電子機器の扱いは苦手なんだよ」
ああ、だからいつも突然部屋に現れるのか。
彼の今までの行動が、妙に納得させられた瞬間だった。
「だったら教えてあげるよ」
それから私はスマホの使い方をシロに伝授した。
何でもスマートにこなせそうなイケメンが、たどたどしくスマホを人差し指で操作している姿がやけに可愛らしく見えた。
ラインで文字が打てるまで成長したシロは、「今からいく」と短い文章を送信した後、とても嬉しそうに笑って尻尾をパタパタと振っている。
視界にチラチラ入る、その触り心地のよさそうな尻尾が私の理性を揺さぶる。
だめだ、絶対に触ったらだめだ、後でどんな報復が来るか考えてみろと必死に耐えるも
「桜、ほら見てみろ! スタンプがおせたぞ!」
と、よほど嬉しいのかパタパタと左右に揺れ続ける尻尾に私の理性が負けた。
──モフッ
ああ、なんてモフモフして気持ちいんだろうか。
極上の触り心地を楽しんでいたら
「や、……やめろっ、そこは駄目だ……ッ」
白い頬を赤く染めて瞳を潤ませたシロが、切な気に声をしぼり出した。
恥辱に耐えるその表情がものすごく妖艶すぎて、何だかいけない顔を見てしまった気分になる。
あ、やっぱり尻尾は弱点なんだと理解した瞬間、視界が反転してベットのスプリング音が聞こえた。
「言い訳があるなら先に聞いてやろう」
私の上で、シロは恐ろしいほど整った笑みを浮かべていて、サラッと流れ落ちてきた彼の長い絹糸のような銀髪が、私の頬を掠めた。
両手をそれぞれ彼の手で押さえられ、絶対絶命のピンチに陥った。
「ご、後生ですから……つい出来心で……理性に負けました」
「ほう、理性に負けたと言えば何してもいいわけだな?」
「え、いや……ほんと、ごめんなさい」
「謝ったら何でも許してもらえると思ったら、大間違いだからな」
「そ、そんな尻尾を振って誘惑する方が悪いんだよ!」
「逆ギレか? 良い根性してんじゃねぇか」
「その耳……触っていい?」
「この期に及んでまだそんな事言うのか?」
「……分かった、一回だけならどこ触っても許すからそれで勘弁して」
「フン、まぁいい。それで許してやろう」
そう言うと、シロはそのまま私に顔を寄せてきて唇に触れるだけの軽いキスをした。
予想外の行動に私がポカンとしていたら、「物足りなさそうな顔して、欲求不満か?」と目をスッと細めたシロが不敵に笑う。
その言葉に私の顔はカァッと赤くなるのを感じた。
今まで彼には、散々激しいキスをされてきて、まさかそんな軽いもので済むとは思わなかっただけだ。
シロはさっさと私の上から退くと「で、画像はどうやって送るんだ?」とスマホを片手に聞いてくる。
(意外と勉強熱心なんだ……)
知的欲求を満たす間のシロは比較的安全だという事が、この時分かった。
その日、シロはスマホの使い方をほぼ覚えて満足そうに眠りにつく。
ベットの片隅で可愛い寝息を立てて眠る小さな白狐を眺めながら、シロの新たな一面を知れた事が嬉しくて仕方なかった。
コハクが人間と妖怪のハーフだという事を知っているのは、橘先生と美香しかいない。
シロのことを学園内でフォローしてもらうためにも、話しておいた方がいいと判断したからだ。
「絶対一悶着あるとは思ってたけど、結城君が自分から身を引こうとしたとはかなり意外ね。まぁ、桜と西園寺君見てるとそれも仕方ないのかしら。でも、はっきり断っても諦めない西園寺君も、相当貴女の事が好きなのね……昔の手紙、まだそこに入ってるの?」
そう言って、机の上に飾られた大きなテディベアに美香が視線を向けた。
「うん、結局告白された後も見てないから」
「読んでみる気はないの?」
「それこそ今更だよ、カナちゃんとは幼馴染みのままいたいから。昔の思い出に変な意識持つと、なんか変に恥ずかしくなって調子狂うし」
姉にカナちゃんの昔話をされた時の事を思い出して、私は苦笑いした。
あの時の反応のせいで、コハクにも変な誤解を与えてしまったわけだし。
「桜の気持ちは分かったわ。まずは、結城君を目覚めさせるのが最優先事項ね。でもそれだけだと、また同じ事を繰り返しかねないから……西園寺君に結城君の事を認めさせると共に、貴女の気持ちもしっかり見せつけて、二人の間に入り込む余地などない事を認めさせる必要があると思う」
「そうだね……でも、どうしたらいいのか……」
美香の言うように出来れば、コハクを不安にさせずに済むだろうけど、具体策が全然思い付かずに私は頭を悩ませていた。
すると、私の項垂れた肩に手を置いて美香がにっこり笑う。
「私にいい考えがあるわ! その名も、逆白雪姫大作戦!」
「逆白雪姫大作戦?」
「そう、白雪姫は王子のキスで目覚めるでしょう?」
「確か、喉につかえていた林檎がそれでとれたんだよね」
「そう。その逆バージョンで、姫のキスで王子の眠りを覚ますのよ。来月、とても相応しい最高の舞台があるじゃない!」
「最高の舞台?」
「文化祭のプリンセスコンテストよ! 優勝すれば好きな人にキス出来る権利が手に入る。想いを伝えるのにこれ以上相応しい機会はないわ。西園寺君にも結城君のために頑張る貴女の姿を見せつけられるし、まさしく一石二鳥よ」
私が、プリンセスコンテストで優勝……?!
「む、無理だよ私が優勝なんて!」
「結城君もプリンスコンテスト出るんでしょう? 二人で聖学の王子と姫になるのよ! そうすれば、もう誰も貴女たちの仲を邪魔しようなんて思わないはずだわ」
私が慌てて否定しても、美香の耳には届いていないようで、非現実的な夢をキラキラした目で語っている。
「女子力ゼロの私にプリンセスコンテストなんて……まだ格闘技戦で優勝してこいって言われた方が望みあるかも……」
あまりにも非現実的すぎて、思わず乾いた笑いがもれた。
「桜、貴女は磨けば光るダイヤの原石。私が完璧に磨いてあげるから、もっと自分に自信を持って! 本当は、この腕の傷を綺麗にしたいってずっと思ってたの」
美香はそっと私の手を取ると、悲しそうな顔で腕の内側の傷跡が残る部分を優しく撫でた。
「私のせいで桜には高校生活の半分を辛い思いで過ごさせてしまった。だからせめてこれからは、誰にも邪魔されないくらい皆に認められる存在になって、幸せな学園生活を送って欲しいの。そのために私が出来る事は、何でもサポートする。だから……コンテスト、一緒に頑張ってみない?」
美香がそこまで思ってくれていた事が、素直にとても嬉しかった。
それと同時に、不可能を可能に変えれそうなくらい、私の背中を強く押してくれた。
「美香……ありがとう、私頑張ってみるよ。貴女がサポートしてくれるなら、やれそうな気がしてきた」
「そうと決まれば色々準備があるから、私今日はもう帰るわ。明日から覚悟しててね!」
もしコハクが目覚めた時、何も変わっていなければ……それこそまた彼を不安にさせてしまうだろう。
少しでも不安要素を取り除いて、彼に相応しい自分になりたいと強く思い、こうして私は、プリンセスコンテストへ出場する事を決意した。
***
その日の夜、時刻は夜の十一時。
この時間を、私はコハクヘ想いを伝える時間に決めた。一日の終わりに、今日の出来事を報告したかったからだ。
早速今日一日の出来事を報告して、プリンセスコンテストに向けて頑張る事をコハクに話しかけるようにして強く念じた。すると──
「ほう、プリンセスコンテストか。それは楽しみだな」
背後から突然聞こえてきた声に驚き、身体がビクッと大きく震える。
毎度の事だが、急に部屋に現れるのは止めて欲しい。心臓に悪すぎるから。
振り向くとシロは、妖怪バージョンの和服姿で私のベットに肩肘を立てて寝ていた。
少しはだけたシロの胸元が視界に入り、昼間の出来事を思い出して無性に恥ずかしくなった私は慌てて視線を逸らして訴えた。
「シロ、部屋に来る時は先に携帯で連絡して。びっくりするから」
「それは無理だ。使い方、知らん」
「え?」
「別に妖界では、そんなものなくとも不自由しない。用がある時はこうやって直接訪ねればよいだけだ」
「ええええ! コハクは結構マメに連絡くれたよ? ちゃんと使えてたよ?」
「あいつはこっちの生活に慣れているから当然であろう。俺は人間界で表に出る事はほとんどなかったから、こっちの世界のそういう電子機器の扱いは苦手なんだよ」
ああ、だからいつも突然部屋に現れるのか。
彼の今までの行動が、妙に納得させられた瞬間だった。
「だったら教えてあげるよ」
それから私はスマホの使い方をシロに伝授した。
何でもスマートにこなせそうなイケメンが、たどたどしくスマホを人差し指で操作している姿がやけに可愛らしく見えた。
ラインで文字が打てるまで成長したシロは、「今からいく」と短い文章を送信した後、とても嬉しそうに笑って尻尾をパタパタと振っている。
視界にチラチラ入る、その触り心地のよさそうな尻尾が私の理性を揺さぶる。
だめだ、絶対に触ったらだめだ、後でどんな報復が来るか考えてみろと必死に耐えるも
「桜、ほら見てみろ! スタンプがおせたぞ!」
と、よほど嬉しいのかパタパタと左右に揺れ続ける尻尾に私の理性が負けた。
──モフッ
ああ、なんてモフモフして気持ちいんだろうか。
極上の触り心地を楽しんでいたら
「や、……やめろっ、そこは駄目だ……ッ」
白い頬を赤く染めて瞳を潤ませたシロが、切な気に声をしぼり出した。
恥辱に耐えるその表情がものすごく妖艶すぎて、何だかいけない顔を見てしまった気分になる。
あ、やっぱり尻尾は弱点なんだと理解した瞬間、視界が反転してベットのスプリング音が聞こえた。
「言い訳があるなら先に聞いてやろう」
私の上で、シロは恐ろしいほど整った笑みを浮かべていて、サラッと流れ落ちてきた彼の長い絹糸のような銀髪が、私の頬を掠めた。
両手をそれぞれ彼の手で押さえられ、絶対絶命のピンチに陥った。
「ご、後生ですから……つい出来心で……理性に負けました」
「ほう、理性に負けたと言えば何してもいいわけだな?」
「え、いや……ほんと、ごめんなさい」
「謝ったら何でも許してもらえると思ったら、大間違いだからな」
「そ、そんな尻尾を振って誘惑する方が悪いんだよ!」
「逆ギレか? 良い根性してんじゃねぇか」
「その耳……触っていい?」
「この期に及んでまだそんな事言うのか?」
「……分かった、一回だけならどこ触っても許すからそれで勘弁して」
「フン、まぁいい。それで許してやろう」
そう言うと、シロはそのまま私に顔を寄せてきて唇に触れるだけの軽いキスをした。
予想外の行動に私がポカンとしていたら、「物足りなさそうな顔して、欲求不満か?」と目をスッと細めたシロが不敵に笑う。
その言葉に私の顔はカァッと赤くなるのを感じた。
今まで彼には、散々激しいキスをされてきて、まさかそんな軽いもので済むとは思わなかっただけだ。
シロはさっさと私の上から退くと「で、画像はどうやって送るんだ?」とスマホを片手に聞いてくる。
(意外と勉強熱心なんだ……)
知的欲求を満たす間のシロは比較的安全だという事が、この時分かった。
その日、シロはスマホの使い方をほぼ覚えて満足そうに眠りにつく。
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