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第十章 悲しき邂逅
不吉なる数字の呪い
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「止めろ、クレハ!」
シロは慌ててベッドから降りてクレハを止めようとするが、彼が放った黒い炎に身体の動きを封じられその場に倒れこんでしまった。
「桜、お前は俺の後ろに!」
カナちゃんは私を隠すように前に立つと、ポケットからお札を取りだしドーム状の防護壁みたいものを作り出す。
「施したる術式よ、今目覚めよ」
クレハがそう呟いた瞬間、私の左手の甲から禍々しい黒いオーラがあふれだし、一気に口から体内に侵入してきた。
「なっ、すでに仕込まれとったんか……ッ! 桜!」
全身に稲妻が走るような激痛が駆け巡り、倒れそうになった所をカナちゃんに支えられる。
「っ……ありがとう」
痛みは一瞬で消えたものの、手の甲にうっすらと『ⅩⅢ』という赤い英数字が浮かび上がっていた。
エントランスで感じた違和感はこのせいだったのか。
思わずクレハに視線を向けると、彼は元の姿に戻っており、着物の袖で口元を隠してクスクスと笑っている。
「騙されて馬鹿正直に近付いてくるからだよ。結界なんて、あるわけないじゃない。今日から十三日間、君には災いが訪れる。数字が小さくなる度にその危険度は増すから、せいぜい怯えながら生活するといいよ」
「あの時か、すまん桜……俺が付いていながら」
「ううん、カナちゃんのせいじゃないよ」
警戒せず不用意に近付いた自分の落ち度だ。
クレハは、私がシロにとって邪魔な存在だと認識しているのは間違いない。
でもこんな回りくどい事しなくても、ここに来る道中でも彼は簡単に私を排除出来たはず。
『妖界では見知らぬ他人を助けたりはしない』とシロは言っていた。
エントランスでのクレハの行動に嫌みは籠っていたが、倒れそうな私を咄嗟に手を伸ばして助けてくれたのも事実だ。
多分あそこで正しい妖怪の行動は、たとえ気付いたとしても何もしないが正しいだろう。
コハクのソウルメイトという認識が無意識に働いて助けてくれたのだとしたら、少なくとも彼がコハクやシロを大事に思っているということに繋がる。
シロと話している時のクレハの表情や雰囲気が和らいでいた所から見ても、大切に思っているのは間違いないと思う。
私を排除したいけど、一思いにそうすることが出来ず呪いに止めたのは、他に何か目的があるのではないだろうか?
真意を読み取れないか、じっとクレハを観察すると──
「へぇ~驚かないんだね。普通、恐怖に戦き泣きわめく場面じゃない?」
彼は感心したのか、面白そうにこちらを眺めている。
「クレハ! どうしてそんな事を……お前はそんな奴じゃない。悪い冗談は止めてくれ」
黒い炎の呪縛を解こうと必死に抵抗しながら、シロはクレハに訴えかけた。その横顔は見ていられないほど悲しみに満ちている。きっとシロにとっても、クレハは大事な存在なのだろう。
「シロ……君は相変わらず、負け犬体質が染み付き過ぎてほんと残念な思考だね。未だに僕は君にとって、頼れるお兄ちゃんにでも見えるのかな? こんなにありありと咎を犯した証があるっていうのに」
「それは、何か理由があるんだろ?」
「ほんと馬鹿だね。僕はもう昔の僕じゃないんだよ。血にまみれたこの手で人間の一人や二人、殺めることぐらい朝飯前さ。いつまでも寝言いってるとその子……本当に死んじゃうよ?」
ベッドの上で横たわるシロを見下ろして、クレハは口角を上げて不敵に笑う。
そんな姿を見てシロは悔しそうに唇を噛み締めた後、低い声で呟いた。
「……本気、なんだな」
黒い炎の呪縛を自力で解いて立ち上がり、真剣な面持ちでクレハに鋭い視線を向けた。
「いい顔、出来るようになったじゃん。シロ、暇潰しにゲームをしようよ。降りかかる災いから、呪いが切れるまでお姫様を守り抜けたら君の勝ち。シンプルで分かりやすいでしょ?」
「暇潰し、だと? お前の暇潰しのために、桜を利用しようってのか?」
「ゲームは真剣じゃないと楽しくない。ソウルメイトの命がかかれば本気にならざるを得ないでしょ? それに、火事場の馬鹿力でも出してもらわないと、君と僕の実力差は埋まらないだろうし。まぁ、それでも全然敵わないだろうけど」
「そんな事のために……ッ! クレハ、俺はお前を許さない」
クレハの歪なオーラとシロの凍てつくような絶対零度のオーラが部屋に充満し、その場の温度が一気に下がるのを感じた。
雪山に防寒装備もせず立ち入ってしまったような寒さに、身体がガクガクと震える。
「いいね、その剥き出しの殺意。弱すぎて全然ゾクゾクしないけど、人間にはキツいみたいだよ」
ハッとしたようにこちらを見たシロがオーラを弱めると、部屋の温度が元に戻った。
「そんなことで、ちゃんと守り抜けるかな? 人間って思ってるよりもずっと脆いんだよ。それじゃ、桜ちゃん。せいぜい短い余生を楽しんで」
可笑しそうにクスクスと笑いながら、クレハは黒い闇の中へと消えていった。
シロは慌ててベッドから降りてクレハを止めようとするが、彼が放った黒い炎に身体の動きを封じられその場に倒れこんでしまった。
「桜、お前は俺の後ろに!」
カナちゃんは私を隠すように前に立つと、ポケットからお札を取りだしドーム状の防護壁みたいものを作り出す。
「施したる術式よ、今目覚めよ」
クレハがそう呟いた瞬間、私の左手の甲から禍々しい黒いオーラがあふれだし、一気に口から体内に侵入してきた。
「なっ、すでに仕込まれとったんか……ッ! 桜!」
全身に稲妻が走るような激痛が駆け巡り、倒れそうになった所をカナちゃんに支えられる。
「っ……ありがとう」
痛みは一瞬で消えたものの、手の甲にうっすらと『ⅩⅢ』という赤い英数字が浮かび上がっていた。
エントランスで感じた違和感はこのせいだったのか。
思わずクレハに視線を向けると、彼は元の姿に戻っており、着物の袖で口元を隠してクスクスと笑っている。
「騙されて馬鹿正直に近付いてくるからだよ。結界なんて、あるわけないじゃない。今日から十三日間、君には災いが訪れる。数字が小さくなる度にその危険度は増すから、せいぜい怯えながら生活するといいよ」
「あの時か、すまん桜……俺が付いていながら」
「ううん、カナちゃんのせいじゃないよ」
警戒せず不用意に近付いた自分の落ち度だ。
クレハは、私がシロにとって邪魔な存在だと認識しているのは間違いない。
でもこんな回りくどい事しなくても、ここに来る道中でも彼は簡単に私を排除出来たはず。
『妖界では見知らぬ他人を助けたりはしない』とシロは言っていた。
エントランスでのクレハの行動に嫌みは籠っていたが、倒れそうな私を咄嗟に手を伸ばして助けてくれたのも事実だ。
多分あそこで正しい妖怪の行動は、たとえ気付いたとしても何もしないが正しいだろう。
コハクのソウルメイトという認識が無意識に働いて助けてくれたのだとしたら、少なくとも彼がコハクやシロを大事に思っているということに繋がる。
シロと話している時のクレハの表情や雰囲気が和らいでいた所から見ても、大切に思っているのは間違いないと思う。
私を排除したいけど、一思いにそうすることが出来ず呪いに止めたのは、他に何か目的があるのではないだろうか?
真意を読み取れないか、じっとクレハを観察すると──
「へぇ~驚かないんだね。普通、恐怖に戦き泣きわめく場面じゃない?」
彼は感心したのか、面白そうにこちらを眺めている。
「クレハ! どうしてそんな事を……お前はそんな奴じゃない。悪い冗談は止めてくれ」
黒い炎の呪縛を解こうと必死に抵抗しながら、シロはクレハに訴えかけた。その横顔は見ていられないほど悲しみに満ちている。きっとシロにとっても、クレハは大事な存在なのだろう。
「シロ……君は相変わらず、負け犬体質が染み付き過ぎてほんと残念な思考だね。未だに僕は君にとって、頼れるお兄ちゃんにでも見えるのかな? こんなにありありと咎を犯した証があるっていうのに」
「それは、何か理由があるんだろ?」
「ほんと馬鹿だね。僕はもう昔の僕じゃないんだよ。血にまみれたこの手で人間の一人や二人、殺めることぐらい朝飯前さ。いつまでも寝言いってるとその子……本当に死んじゃうよ?」
ベッドの上で横たわるシロを見下ろして、クレハは口角を上げて不敵に笑う。
そんな姿を見てシロは悔しそうに唇を噛み締めた後、低い声で呟いた。
「……本気、なんだな」
黒い炎の呪縛を自力で解いて立ち上がり、真剣な面持ちでクレハに鋭い視線を向けた。
「いい顔、出来るようになったじゃん。シロ、暇潰しにゲームをしようよ。降りかかる災いから、呪いが切れるまでお姫様を守り抜けたら君の勝ち。シンプルで分かりやすいでしょ?」
「暇潰し、だと? お前の暇潰しのために、桜を利用しようってのか?」
「ゲームは真剣じゃないと楽しくない。ソウルメイトの命がかかれば本気にならざるを得ないでしょ? それに、火事場の馬鹿力でも出してもらわないと、君と僕の実力差は埋まらないだろうし。まぁ、それでも全然敵わないだろうけど」
「そんな事のために……ッ! クレハ、俺はお前を許さない」
クレハの歪なオーラとシロの凍てつくような絶対零度のオーラが部屋に充満し、その場の温度が一気に下がるのを感じた。
雪山に防寒装備もせず立ち入ってしまったような寒さに、身体がガクガクと震える。
「いいね、その剥き出しの殺意。弱すぎて全然ゾクゾクしないけど、人間にはキツいみたいだよ」
ハッとしたようにこちらを見たシロがオーラを弱めると、部屋の温度が元に戻った。
「そんなことで、ちゃんと守り抜けるかな? 人間って思ってるよりもずっと脆いんだよ。それじゃ、桜ちゃん。せいぜい短い余生を楽しんで」
可笑しそうにクスクスと笑いながら、クレハは黒い闇の中へと消えていった。
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