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第十章 悲しき邂逅
深まる絆
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「不格好な部分あるけどこれあげた時、コハク物凄く喜んでくれたんだ」
大きな身体を震わせて、コハクがきつく抱き締めてくれた事を思い出す。
ストラップ一つであんなに喜んでくれるなら、いくらでも作ってあげたいって気持ちになる。
「ケースに入れて飾っとるぐらいやし、相当嬉しかったんやろな。なんか想像出来るわ。この写真は入院してた時の?」
「うん。私の記憶思い出すのに役立つかもって、病室で撮った写真」
「記憶ないのにめっちゃええ笑顔やん。コハッ君、今ごろ夢ん中で何してんのやろな。桜の一大事やいうのに、呑気に寝てる場合とちゃうでほんま」
寂しそうに笑った後、カナちゃんはそっと写真立てを元の位置に戻した。
「ごめんね。私のせいでまた変なことに巻き込んじゃって。何とかするからカナちゃんはこれ以上……」
迷惑をかけるわけには、危険に曝すわけにはいかない。その一心で言葉を紡ごうとすると、カナちゃんに遮られた。
「そんな寂しい事、言わせんで。こんな時くらい、傍でお前を守れる口実、残しといてや」
「でも今回は、シロが暴走した時以上に危険が……」
クレハはシロとは違う。
彼が私に抱いているのは間違いなくマイナスの感情で敵意や嫌悪だ。
本気で彼が攻撃を仕掛けてきたら、それこそ命の保証がないくらい危険な相手。出来ることなら、大事な幼馴染みをそんな危険に巻き込みたくない。
「それこそほんま今更やで。トラブルメーカーの幼馴染みの面倒くらい、慣れとるから心配せんでええよ」
頭にポンポンと温かい重みを感じ見上げると、カナちゃんがニカッと無邪気な笑顔を見せてくれた。
無意識に強く握っていた拳の力が抜ける。昔から何度、この笑顔に安心させられただろう。カナちゃんの笑顔を見ると、私も自然と笑顔になれる。
「カナちゃん。ありがとう」
「やっと笑うてくれたな。笑う門には福来たるって言うし、災いなんてその笑顔で吹き飛ばしてやりや」
「そうだね! でもトラブルメーカーって酷くない?」
聞き捨てならない単語の真意を探る。
「覚えてへん? 昔からお前、どっからか色んなもん拾ってきよったやんか」
「そ、そうだっけ?」
「迷子になった犬とか、巣から落ちた雛まではまだええとしても、頭に小猿乗っけてきた時はほんまびっくりしたで」
確かに昔、そんな事もあった。
空手の稽古の帰り、闇に紛れて空から降ってきた一匹の小さな猿。私の頭から離れようとせず、そのまま連れて帰ったんだっけ。
「あの時は、飼い主さん見つかるまで中々大変だったよね」
「そうそう、やけに知能高い猿で俺には懐かへんし目の敵にされとったわ」
あの子、何故かカナちゃんの事を警戒していたのか、威嚇して全く触らせようとしなかったんだよな。
カナちゃんは意地でも懐かせようと、あの手この手を使って仲良くなろうと試みたけどダメで、結局飼い主さんが見つかってお別れの方がはやく来た。
「別れ際、カナちゃん大号泣だったよね」
「せやな、それはもうあの時の感動いうたら、並のもんとちゃうで! 生意気な奴やったけど、最後の最後に抱っこせがんでくるとか反則やろ。めっちゃ可愛くてしゃーなかったわ」
カナちゃんはそう言って懐かしそうに目を細めている。
「懐かしいね、あの子元気にしてるかな」
「あいつの事や、きっとまた脱走でも繰り返しとんちゃうか? 中々狡猾やったし、あれはわざと飼い主さん困らせて愛情確かめとんのやで」
「それ、どういう意味?」
「アイツ逃げ出した時期、ちょうどあのおばさんの娘さんの子供が生まれた時期やったろ? 今まで自分に向けられとった愛情がその子供に奪われて、心配させるためにわざと脱走したんやて思うで」
愛情を確かめるために、わざと脱走して心配させる……愛情の裏返し。
「ねぇ、カナちゃん。クレハがシロに酷いことしてるのって、何か理由があって愛情の裏返しって事ないかな?」
どうしても、クレハが再会した時に見せたシロに対する態度が引っ掛かる。
シロが「クレハなのか?」と尋ねた時、彼は安心したように表情を緩め、悲しそうな面持ちで笑っていたが、その眼差しは優しさに満ちていた。
「急に何言うてんねん。相手は妖怪で犯罪者なんやで。あの歪なオーラに人を馬鹿にしたような態度。息吸うように自然に俺達を騙して、あれをどう捉えたらそうなんねや。もし仮に、百歩譲ってそうやったとしても、どちらにせよお前巻き込んだ時点でアイツは完全に敵や。それだけは変えようのない事実やで」
「でも……」
あれが演技だとは、とても思えない。
クレハはかなり食えない感じのタイプだ。騙すための演技も厭わないだろう。現に私は騙された。
しかし演技するとしたら、久しぶりに再会した相手に不信感を抱かせないよう普通なら、会えて嬉しいと喜ぶ演技をした方が自然だと思う。
「西園寺、お前と珍しく意見が合ったな」
その時、部屋に戻ってきたシロが開口一番カナちゃんの意見に同意した。どうやら、話が聞こえていたらしい。
「桜、余計な事は考えるな。アイツはもう敵なんだ。いくら昔は兄のようだったとは言え、お前を危険な目に遭わせた時点で俺はアイツを許さない」
シロの瞳には激しい怒りが籠っているのが見てとれる。
「シロ……」
本当にそれでいいのだろうか?
不安を抱え見つめ返すと、シロは優しく表情を緩めて口を開いた。
「案ずるな。お前に仇をなす者から、俺は全力でお前を守る。たとえ刺し違えてでも俺はクレハを倒して、お前にかけられた呪いを解いてやるよ」
その言葉が私の琴線に触れ、懐かしい記憶を呼び覚ます。
コハクに学園で初めて会った日、保健室で聞いた言葉。
『君に仇をなす者から、僕は全力で君を守るよ』
その言葉通り、コハクは私を学園内のあらゆる悪意から守ってくれた。
まさか同じ台詞をシロから言ってもらえるとは……性格は違うけど、やはりコハクとシロの本質は同じなんだ。
でもその代償にコハクは大怪我をして、私の記憶を失った。
刺し違えてでもなんて……もうあの時みたいに危険をおかしてほしくない、おかさせてはいけない。
私はあの時とは違う。
生きる希望を、前に立ち向かう勇気を、かけがえのない愛情を与えてもらった。だからこそ、今度は私も貴方達を守りたいんだよ。
「ありがとう、シロ。すごく嬉しいよ。でも、刺し違えてでもなんて言わないで。極力気を付けるようにするから。無茶しないから。だから……もうあの時みたいに、私のせいでコハクにもシロにも傷付いて欲しくない。今度は私も貴方達を守りたいよ」
「桜の言う通りやで。一人で無茶しようとすなや。困っとる時、助け合うのが友達や。それに、文化祭終わったら皆でたこ焼きパーティする言うたやろ? 欠席は許さへんで」
「桜、西園寺……ほんと生ぬるいなお前らは。だが、その温かさが妙に心地よい。人間というのは本当に、奥が深いな」
驚いた様に私達を見た後、シロは目を少し細めて嬉しそうに笑った。
「シロ、お前変わったな。そんな風に笑っとる姿初めて見たわ」
「そうか」
以前のシロならここで怒り出す所だろうが、カナちゃんの驚いた顔を見て、逆にクククと喉の奥で笑っている。
呪いをかけられた事はマイナスだけど、シロとカナちゃんの絆が強まった事には感謝しよう。
大きな身体を震わせて、コハクがきつく抱き締めてくれた事を思い出す。
ストラップ一つであんなに喜んでくれるなら、いくらでも作ってあげたいって気持ちになる。
「ケースに入れて飾っとるぐらいやし、相当嬉しかったんやろな。なんか想像出来るわ。この写真は入院してた時の?」
「うん。私の記憶思い出すのに役立つかもって、病室で撮った写真」
「記憶ないのにめっちゃええ笑顔やん。コハッ君、今ごろ夢ん中で何してんのやろな。桜の一大事やいうのに、呑気に寝てる場合とちゃうでほんま」
寂しそうに笑った後、カナちゃんはそっと写真立てを元の位置に戻した。
「ごめんね。私のせいでまた変なことに巻き込んじゃって。何とかするからカナちゃんはこれ以上……」
迷惑をかけるわけには、危険に曝すわけにはいかない。その一心で言葉を紡ごうとすると、カナちゃんに遮られた。
「そんな寂しい事、言わせんで。こんな時くらい、傍でお前を守れる口実、残しといてや」
「でも今回は、シロが暴走した時以上に危険が……」
クレハはシロとは違う。
彼が私に抱いているのは間違いなくマイナスの感情で敵意や嫌悪だ。
本気で彼が攻撃を仕掛けてきたら、それこそ命の保証がないくらい危険な相手。出来ることなら、大事な幼馴染みをそんな危険に巻き込みたくない。
「それこそほんま今更やで。トラブルメーカーの幼馴染みの面倒くらい、慣れとるから心配せんでええよ」
頭にポンポンと温かい重みを感じ見上げると、カナちゃんがニカッと無邪気な笑顔を見せてくれた。
無意識に強く握っていた拳の力が抜ける。昔から何度、この笑顔に安心させられただろう。カナちゃんの笑顔を見ると、私も自然と笑顔になれる。
「カナちゃん。ありがとう」
「やっと笑うてくれたな。笑う門には福来たるって言うし、災いなんてその笑顔で吹き飛ばしてやりや」
「そうだね! でもトラブルメーカーって酷くない?」
聞き捨てならない単語の真意を探る。
「覚えてへん? 昔からお前、どっからか色んなもん拾ってきよったやんか」
「そ、そうだっけ?」
「迷子になった犬とか、巣から落ちた雛まではまだええとしても、頭に小猿乗っけてきた時はほんまびっくりしたで」
確かに昔、そんな事もあった。
空手の稽古の帰り、闇に紛れて空から降ってきた一匹の小さな猿。私の頭から離れようとせず、そのまま連れて帰ったんだっけ。
「あの時は、飼い主さん見つかるまで中々大変だったよね」
「そうそう、やけに知能高い猿で俺には懐かへんし目の敵にされとったわ」
あの子、何故かカナちゃんの事を警戒していたのか、威嚇して全く触らせようとしなかったんだよな。
カナちゃんは意地でも懐かせようと、あの手この手を使って仲良くなろうと試みたけどダメで、結局飼い主さんが見つかってお別れの方がはやく来た。
「別れ際、カナちゃん大号泣だったよね」
「せやな、それはもうあの時の感動いうたら、並のもんとちゃうで! 生意気な奴やったけど、最後の最後に抱っこせがんでくるとか反則やろ。めっちゃ可愛くてしゃーなかったわ」
カナちゃんはそう言って懐かしそうに目を細めている。
「懐かしいね、あの子元気にしてるかな」
「あいつの事や、きっとまた脱走でも繰り返しとんちゃうか? 中々狡猾やったし、あれはわざと飼い主さん困らせて愛情確かめとんのやで」
「それ、どういう意味?」
「アイツ逃げ出した時期、ちょうどあのおばさんの娘さんの子供が生まれた時期やったろ? 今まで自分に向けられとった愛情がその子供に奪われて、心配させるためにわざと脱走したんやて思うで」
愛情を確かめるために、わざと脱走して心配させる……愛情の裏返し。
「ねぇ、カナちゃん。クレハがシロに酷いことしてるのって、何か理由があって愛情の裏返しって事ないかな?」
どうしても、クレハが再会した時に見せたシロに対する態度が引っ掛かる。
シロが「クレハなのか?」と尋ねた時、彼は安心したように表情を緩め、悲しそうな面持ちで笑っていたが、その眼差しは優しさに満ちていた。
「急に何言うてんねん。相手は妖怪で犯罪者なんやで。あの歪なオーラに人を馬鹿にしたような態度。息吸うように自然に俺達を騙して、あれをどう捉えたらそうなんねや。もし仮に、百歩譲ってそうやったとしても、どちらにせよお前巻き込んだ時点でアイツは完全に敵や。それだけは変えようのない事実やで」
「でも……」
あれが演技だとは、とても思えない。
クレハはかなり食えない感じのタイプだ。騙すための演技も厭わないだろう。現に私は騙された。
しかし演技するとしたら、久しぶりに再会した相手に不信感を抱かせないよう普通なら、会えて嬉しいと喜ぶ演技をした方が自然だと思う。
「西園寺、お前と珍しく意見が合ったな」
その時、部屋に戻ってきたシロが開口一番カナちゃんの意見に同意した。どうやら、話が聞こえていたらしい。
「桜、余計な事は考えるな。アイツはもう敵なんだ。いくら昔は兄のようだったとは言え、お前を危険な目に遭わせた時点で俺はアイツを許さない」
シロの瞳には激しい怒りが籠っているのが見てとれる。
「シロ……」
本当にそれでいいのだろうか?
不安を抱え見つめ返すと、シロは優しく表情を緩めて口を開いた。
「案ずるな。お前に仇をなす者から、俺は全力でお前を守る。たとえ刺し違えてでも俺はクレハを倒して、お前にかけられた呪いを解いてやるよ」
その言葉が私の琴線に触れ、懐かしい記憶を呼び覚ます。
コハクに学園で初めて会った日、保健室で聞いた言葉。
『君に仇をなす者から、僕は全力で君を守るよ』
その言葉通り、コハクは私を学園内のあらゆる悪意から守ってくれた。
まさか同じ台詞をシロから言ってもらえるとは……性格は違うけど、やはりコハクとシロの本質は同じなんだ。
でもその代償にコハクは大怪我をして、私の記憶を失った。
刺し違えてでもなんて……もうあの時みたいに危険をおかしてほしくない、おかさせてはいけない。
私はあの時とは違う。
生きる希望を、前に立ち向かう勇気を、かけがえのない愛情を与えてもらった。だからこそ、今度は私も貴方達を守りたいんだよ。
「ありがとう、シロ。すごく嬉しいよ。でも、刺し違えてでもなんて言わないで。極力気を付けるようにするから。無茶しないから。だから……もうあの時みたいに、私のせいでコハクにもシロにも傷付いて欲しくない。今度は私も貴方達を守りたいよ」
「桜の言う通りやで。一人で無茶しようとすなや。困っとる時、助け合うのが友達や。それに、文化祭終わったら皆でたこ焼きパーティする言うたやろ? 欠席は許さへんで」
「桜、西園寺……ほんと生ぬるいなお前らは。だが、その温かさが妙に心地よい。人間というのは本当に、奥が深いな」
驚いた様に私達を見た後、シロは目を少し細めて嬉しそうに笑った。
「シロ、お前変わったな。そんな風に笑っとる姿初めて見たわ」
「そうか」
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