獣耳男子と恋人契約

花宵

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第十一章 与えられる試練

偽物はどっち?!

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 呪いをかけられて三日目の昼休み。
 まさかクレハが、こんなに堂々と仕掛けてくるなんて思いもしなかった。

「桜、本物は俺だからな!」
「惑わされるな、俺が本物だ!」

 目の前に、何故かシロが二人。
 変化のコントロールが出来るようになったシロは、今朝からコハクに化けて登校していた。

 普通に授業を受け過ごしていたのだけど……話の発端は、昼休みにシロが職員室まで呼び出しを受けた所まで遡る。
 面倒だとシカトしようとしていたシロはカナちゃんに諭され、渋々職員室へと向かった。しばらくして、彼が戻ってきた所まではよかったのだ。

 するとその三分後、もう一人のシロがやってきた。
 どちらかが変化したクレハなんだろうけど、正直全く見分けがつかない。
 よく考えて見れば、私よりクレハの方がシロと過ごした時間は圧倒的に長いだろう。小さい頃から知っているなら、シロの性格なんかも知り尽くしているはず。

 やばい、これはかなり厄介だ。

 二人とも今はコハクの姿に化けているわけで、傍から見れば屋上にはコハクが二人居る事になってしまう。
 早々にどうにかせねば、大変な事態に……

「クレハ、お前どういうつもりだ! さっさと桜に掛けた呪いを解け!」
「何を言ってやがる、お前が掛けたんだろうが! お前こそ、正体をさっさと現せよ!」

 同じ顔して同じようにいがみ合う二人。

「お前がそのつもりなら、俺が今すぐ正体を暴いてやる!」
「ふざけた事言ってんじゃねぇよ、この偽物が!」

 そう言って彼等は、手に蒼い炎を灯し始めた。

「待って、ストップ! お願い、ここでそれは止めて!」

 学校の屋上で、妖術を使って喧嘩でも始められたらそれこそ別の意味で終了だ。

「チッ、しゃあねぇな」
「チッ、しゃあねぇな」

 今の所、シロに化けているクレハはあくまで成りきるつもりらしい。
 ここで変な技を使われるよりは全然助かるけど、どうしたものか。
 その時、二人の様子をじっと観察していたカナちゃんが口を開いた。

「桜、保健室行って結界の中に入れるかどうか試したらええんとちゃうか? 偽物は中に入れへんはずや」
「そ、そうだね! それはいい考えだ!」

「桜、俺が信用出来ないのか?」
「桜、俺が信用出来ないのか?」

 見事にシンクロさせて、同じように悲しそうな顔してこちらを見てくる二人。
 本物のシロにしてみれば、信じてもらえないこの状況はかなり傷付くはずだ。
 でもこのまま悠長に構えている暇もない。

「ごめんね、シロ。このお詫びは後で何でもするから、今は一緒に保健室に来てもらえないかな?」

 お願いのポーズをして二人に訴えかけると、何とか了承してもらえた。

「ちょい待て、桜。二人同時に連れてくのは流石に色々問題あんで。ただでさえコハッ君目立つのに、バレたら大変な騒ぎになんで」
「確かに……そうだ、白狐の姿に化けてもらえないかな? そうしたら、小さいし大丈夫だよ」

 素直に小さな白狐に化けた二人を前に、緊急事態だというのに、私の理性が揺らいでいた。
 ただでさえ可愛いモフモフが目の前に双子のようにして二匹もいる!
 そして同じように抱っこをせがんでくるなんて!

「で、桜。お前は何してんねや? どっちかは偽物なんやで? そんな嬉しそうに抱っこしてる場合とちゃうやろ?」
「だって、こんな可愛いモフモフが!」
「さ、く、ら、ちゃん?」
「はい、すいませんでした」

 泣く泣く二匹の可愛いモフモフをおろす。

「ほら、俺がお前等連れてくから」

 そう言ってカナちゃんが彼等の前に手を差し出すが、一向に動こうとしない。抱えようとすると逃げ回り、シンクロさせて走り回る。

「男に抱かれる趣味はねぇよ」
「男に抱かれる趣味はねぇよ」

「そんな事言うてる場合とちゃうやろ! あかん、シロが二人とかマジ勘弁してや、手におえんわ!」

 屋上でしばらく追いかけっこをする一人と二匹。
 このままじゃ埒が明かない。
 結局私が彼等を抱えて保健室の前までやって来た。

 先生以外に誰か居るといけないからと、先にカナちゃんがドアを開けて確認すると、生徒は居ないが先生も居ないらしい。
 まさか、新発売のカップラーメン買いに行ったんじゃ……って、あまりモタモタしてると危ないよね。

 保健室へ足を踏み入れようとしたら、「くっ……」と左側に抱えていたシロが苦しそうに小さなうめき声を上げた。

 すかさずその様子を見ていたカナちゃんが、クレハと思われる方にお札を貼り付けると、そのまま気を失ったように動かなくなる。
 その時、クレハの嘲るように冷たい声が聞こえてきた。

「あーあ、可哀想にね。本物も見分けられないなんて、君達は本当に馬鹿だね」
「桜、急いで中へ!」
「そうはさせないよ」

 カナちゃんの声に急いで足を動かそうとするも遅く、一瞬にして周りの景色が色彩を失いモノクロの空間へと変化した。

「結界の前に張ったトラップに、まんまと引っ掛かってくれちゃうんだもん。驚いた時のあの馬鹿みたいな顔、思い出すだけでほんと笑えるね」

 袖口で口元を隠し、クスクスと肩を揺らしてクレハは笑っている。

「こんな回りくどい事してお前、何を企んどんのや?」
「僕、昔から人間の思考に興味があったんだよね。退屈だから実験させてよ。極限の状態で君達がどんな判断を下すか、楽しみしてるから。それじゃあ、配置につこうか」

 クレハが私に向けて手をかざすと、左手の呪印から禍々しい黒いオーラが出てきて私達を包み込む。

「桜!」

 最後に見えたのは、必死にこちらに手を伸ばすカナちゃんの姿だった。
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