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第十一章 与えられる試練
騙されないで
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緊張から解放されて、ほっと一息つく。
次に見つけたカナちゃんは間違いなく本物だろうけど、問題はどうやって信じてもらうかだ。とりあえず、それは会ってから考えよう。
残された時間は、後一時間三十分。今は一刻も早く合流するのが先決だ。
中庭に出て、校舎に人影がないか目を凝らして見るがどこにも見当たらない。
「カナちゃーん! 居たら返事して!」
ありったけの声量で叫んでみても返事はない。
ここで待つか……しかし、カナちゃんが今偽物と対峙しているとしたら……
迷っている時間が勿体ない。第一校舎から順に探索を開始しよう。呼び掛けながら進めば、入れ違いは防げるかもしれないし。
それから私は、第一校舎の教室を順に覗いて回ったが、空振りに終わる。
続いて第二校舎も回ったが、カナちゃんどころか偽物の自分さえ見つける事が出来なかった。
まさか、本当にもう屋上から……いや、そのはずはない。
どこか根本的な見落としがあるんじゃ……その時、離れにある部室棟が視界に入る。
盲点だった。クレハは学園内と言っていたじゃないか。
隣接した食堂や体育館は見て回ったが、離れまでは気が回らなかった。
残り時間は後四十分、私は急いで部室棟へと足を運んだ。
「カナちゃーん! 居たら返事してー!」
叫びながら階段をかけ上がると、奥の部屋から何やら物音が聞こえる。
一目散に駆け寄り、ドアを開けるとそこにはカナちゃんと偽物の私が居た。何とも声をかけ辛い状態の二人は、私の方を驚いたように見ている。
「し、失礼しましたっ!」
思わずドアを閉めてしまったけど……何で抱き合ってるの?!
早く屋上へ向かわないと時間がないっていうのに……もう!
走ってきたせいか、思いがけない光景を見たせいか分からないけど、心臓がバクバクしている。って、こんな所に座り込んでいる場合じゃない。
「ごめん、開けるよ?」
声をかけノックをして再びドアを開けようとすると、私より先に中でドアを開けた人が居たようでバランスを崩して倒れた。
思いっきり何かに鼻をぶつけたが、床ではなくほどよく柔らかいものだった事が幸いし、そこまで痛くはない。
慌てて身体を起こすと視界に入るのは、第二ボタンまで開けられたシャツから覗く肌けた胸元。恐る恐る視線を上へ向けると、体型には似合わない眠り姫のように目を閉じた端正な女顔。
「ごめん、カナちゃん大丈夫?!」
サァッと血の気が引くのを感じて、目を閉じている彼の頬をペチペチと叩く。
巻き込んどいて申し訳ないけど、今は本当に気絶してる場合じゃないんだよ!
すると思いが通じたのか、カナちゃんはゆっくりと目を開けた。
「よかった、ごめん私のせいで」
「いや、いきなりドア開けた俺も悪かったな……ていうか桜、とりあえず退いてくれへんか? 色んなもんが近いねんけど……」
覗き込むようにしていたため、かなり至近距離にある頬を赤く染めて目を泳がせるカナちゃんの顔。
そして、仰向けに倒れている彼の上に、馬乗りになっている今の自分の体勢。
「ご、ごめんっ! 重かったよね!」
まるで私からカナちゃんを襲っている様に勘違いされてもおかしくないこの状況に、私は慌てて飛び退いた。
「カナちゃん、大丈夫?」
すると、偽物の私が起き上がったカナちゃんの頭を心配そうに撫でている。
「お、おう、これくらい何ともないねんけど……」
「どっちが本物の桜? まいったな……クオリティ高すぎて、見た目だけじゃ全然見分けつかへんねやけど」
カナちゃんは私と偽物を交互に見て苦笑いを漏らした。
残りは後三十分、あまり悠長に構えている時間はない。
「カナちゃん、本物は私だよ。もう時間がないの、お願い信じて」
「惑わされないで、本物は私だよ。カナちゃんなら分かってくれるよね?」
必死に主張するが、すかさず偽物に邪魔をされますますカナちゃんを悩ませてしまった。
「あかん、このままじゃ埒が明かん。いくつか質問してもええか?」
「待って、それだと区別が……偽物も私の記憶を完璧にコピーしてあるみたいだから……何か他の方法で」
「カナちゃん、偽物の言葉に惑わされないで。そんなこと、出来るわけないよ。大方、ボロがでないように取り繕ってるだけだよ」
なんですとー!
やばい、カナちゃんが疑いの眼差しでこちらを見てる。
「本当だって、私さっきクレハに会ってそう言われたの!」
「試しに質問してみれば分かるよ、カナちゃん」
私達を交互に見た後、カナちゃんは偽物の意見をとった。
「分かった、いくつか質問出すから二人同時に答えて。それで判断するから、ええか?」
これ以上下手に疑いをもたせるわけにもいかず、結局了承するしかなかった。
「俺が転校したのはいつ?」
「小学三年の三学期の終わり」
「小学三年の三月十九日に送別会して、二十日に引っ越していったよね」
「こっちで最初に再会したのはいつ?」
「夏休みの終わり!」
「八月二十五日だよ」
「今までお前と一緒に風呂に入った回数は?」
「そ、そんなの覚えてないよ!」
「幼稚園から小学二年生まで合計24回だよ」
何で私が覚えてないことまでそんなにはっきり言えるの? ていうか、そんなに一緒にお風呂入ってたんだ。
「じゃあ、最後。俺とコハッ君、どっちがかっこええ?」
「勿論コハク」
「勿論カナちゃんだよ」
やばい、カナちゃん嬉しそうに偽物の方ばっかり見てる。でも、気持ちは偽れないし。
「よう分かったわ。時間もあまりないし、行くで桜」
そう言って、目の前に差し出された手。思わず顔を上げると、優しく微笑むカナちゃんの姿がそこにあった。
「え、カナちゃん……どうして分かったの?!」
驚きを隠せない私に、彼は丁寧に説明してくれた。
「数学苦手なお前がいちいち日にちとか回数とか覚えてるわけあらへんやん。そして極めつけは最後の質問。お前はそんな簡単に意見曲げる奴とちゃうからな」
「ありがとう、カナちゃん」
きちんと見分けてもらえたんだ。
記憶力悪いとバカにされてるのはこの際多目に見よう。
「待って、そんなの納得出来ないよ! 私が本物なのに、カナちゃん信じてくれないの?」
その時、偽物がすがるようにカナちゃんに抱き付いた。
「ましてや桜は、泣きながらお前みたいに抱きついてくるキャラやない。お前がここで怒ってハイキックでもしてきたら、まだ信憑性あったんやけどな」
そう言って、カナちゃんは苦笑いしながら彼女をそっと引き剥がす。
私って怒ったらハイキック食らわせるキャラなんだ、知らなかったよ。
「さっきまであんなに協力して謎解きして、貴方にかけられた手錠の鍵を探していたのに……私が信じられないの?」
「それは……ほんま助かったわ。お前来てくれへんかったら、ここから出られへんかった。おおきになぁ」
その時、床に転がっている手錠が視界に入る。
校舎中探しても誰も居ないと思ってたら、まさかこんな所に閉じ込められてたなんて……
しかも、一緒に困難を乗り越える事で偽者の株を上げ、カナちゃんの信頼を勝ち得て本物だと思わせる戦法。
最初に彼等が抱き合っていたのは、さながらその困難を乗り越えた喜びを分かち合っていたという所だろう。
もう少し私が来るのが遅かったら、かなりヤバかったかもしれない。
「ここに居たらカナちゃんの望み、何でも叶えるよ。その子と一緒に居ても、苦しいだけだよ。私なら貴方のこと愛して、望むならどんな行為だって受け入れるよ。だから……」
「……ほんまに、何でもしてくれるん?」
涙ながらに必死に訴えかける偽物の言葉に興味を持ったのか、カナちゃんが優しく聞き返す。
「勿論、何でもするから……ッ!」
顔をくしゃりと歪めて何度も大きく偽物は頷いている。
「ほな、今すぐここから消えてくれ。いくら偽物でも、これ以上……お前のそんな姿、見たないねん」
そう言ってカナちゃんは眉を悲しそうに曇らすと、彼女からそっと視線を逸らした。
途端にピタリと静かになった偽物は俯くと、静かに口を開く。
「……お望みどおり消えてあげる。時間稼ぎはもう十分だろうからね」
顔を上げて不敵な笑みを浮かべた偽物は、黒い煙に包まれて一枚の葉っぱへと姿を変えた。
ヒラヒラと舞って床に落ちたそれには、変な紋様が描かれている。
シロもよく葉っぱを物に変化させるけど、それはあくまで物。
あそこまでそっくりな人間に変化させれるクレハはやはり、相当手強い相手だと思い知らされた。
次に見つけたカナちゃんは間違いなく本物だろうけど、問題はどうやって信じてもらうかだ。とりあえず、それは会ってから考えよう。
残された時間は、後一時間三十分。今は一刻も早く合流するのが先決だ。
中庭に出て、校舎に人影がないか目を凝らして見るがどこにも見当たらない。
「カナちゃーん! 居たら返事して!」
ありったけの声量で叫んでみても返事はない。
ここで待つか……しかし、カナちゃんが今偽物と対峙しているとしたら……
迷っている時間が勿体ない。第一校舎から順に探索を開始しよう。呼び掛けながら進めば、入れ違いは防げるかもしれないし。
それから私は、第一校舎の教室を順に覗いて回ったが、空振りに終わる。
続いて第二校舎も回ったが、カナちゃんどころか偽物の自分さえ見つける事が出来なかった。
まさか、本当にもう屋上から……いや、そのはずはない。
どこか根本的な見落としがあるんじゃ……その時、離れにある部室棟が視界に入る。
盲点だった。クレハは学園内と言っていたじゃないか。
隣接した食堂や体育館は見て回ったが、離れまでは気が回らなかった。
残り時間は後四十分、私は急いで部室棟へと足を運んだ。
「カナちゃーん! 居たら返事してー!」
叫びながら階段をかけ上がると、奥の部屋から何やら物音が聞こえる。
一目散に駆け寄り、ドアを開けるとそこにはカナちゃんと偽物の私が居た。何とも声をかけ辛い状態の二人は、私の方を驚いたように見ている。
「し、失礼しましたっ!」
思わずドアを閉めてしまったけど……何で抱き合ってるの?!
早く屋上へ向かわないと時間がないっていうのに……もう!
走ってきたせいか、思いがけない光景を見たせいか分からないけど、心臓がバクバクしている。って、こんな所に座り込んでいる場合じゃない。
「ごめん、開けるよ?」
声をかけノックをして再びドアを開けようとすると、私より先に中でドアを開けた人が居たようでバランスを崩して倒れた。
思いっきり何かに鼻をぶつけたが、床ではなくほどよく柔らかいものだった事が幸いし、そこまで痛くはない。
慌てて身体を起こすと視界に入るのは、第二ボタンまで開けられたシャツから覗く肌けた胸元。恐る恐る視線を上へ向けると、体型には似合わない眠り姫のように目を閉じた端正な女顔。
「ごめん、カナちゃん大丈夫?!」
サァッと血の気が引くのを感じて、目を閉じている彼の頬をペチペチと叩く。
巻き込んどいて申し訳ないけど、今は本当に気絶してる場合じゃないんだよ!
すると思いが通じたのか、カナちゃんはゆっくりと目を開けた。
「よかった、ごめん私のせいで」
「いや、いきなりドア開けた俺も悪かったな……ていうか桜、とりあえず退いてくれへんか? 色んなもんが近いねんけど……」
覗き込むようにしていたため、かなり至近距離にある頬を赤く染めて目を泳がせるカナちゃんの顔。
そして、仰向けに倒れている彼の上に、馬乗りになっている今の自分の体勢。
「ご、ごめんっ! 重かったよね!」
まるで私からカナちゃんを襲っている様に勘違いされてもおかしくないこの状況に、私は慌てて飛び退いた。
「カナちゃん、大丈夫?」
すると、偽物の私が起き上がったカナちゃんの頭を心配そうに撫でている。
「お、おう、これくらい何ともないねんけど……」
「どっちが本物の桜? まいったな……クオリティ高すぎて、見た目だけじゃ全然見分けつかへんねやけど」
カナちゃんは私と偽物を交互に見て苦笑いを漏らした。
残りは後三十分、あまり悠長に構えている時間はない。
「カナちゃん、本物は私だよ。もう時間がないの、お願い信じて」
「惑わされないで、本物は私だよ。カナちゃんなら分かってくれるよね?」
必死に主張するが、すかさず偽物に邪魔をされますますカナちゃんを悩ませてしまった。
「あかん、このままじゃ埒が明かん。いくつか質問してもええか?」
「待って、それだと区別が……偽物も私の記憶を完璧にコピーしてあるみたいだから……何か他の方法で」
「カナちゃん、偽物の言葉に惑わされないで。そんなこと、出来るわけないよ。大方、ボロがでないように取り繕ってるだけだよ」
なんですとー!
やばい、カナちゃんが疑いの眼差しでこちらを見てる。
「本当だって、私さっきクレハに会ってそう言われたの!」
「試しに質問してみれば分かるよ、カナちゃん」
私達を交互に見た後、カナちゃんは偽物の意見をとった。
「分かった、いくつか質問出すから二人同時に答えて。それで判断するから、ええか?」
これ以上下手に疑いをもたせるわけにもいかず、結局了承するしかなかった。
「俺が転校したのはいつ?」
「小学三年の三学期の終わり」
「小学三年の三月十九日に送別会して、二十日に引っ越していったよね」
「こっちで最初に再会したのはいつ?」
「夏休みの終わり!」
「八月二十五日だよ」
「今までお前と一緒に風呂に入った回数は?」
「そ、そんなの覚えてないよ!」
「幼稚園から小学二年生まで合計24回だよ」
何で私が覚えてないことまでそんなにはっきり言えるの? ていうか、そんなに一緒にお風呂入ってたんだ。
「じゃあ、最後。俺とコハッ君、どっちがかっこええ?」
「勿論コハク」
「勿論カナちゃんだよ」
やばい、カナちゃん嬉しそうに偽物の方ばっかり見てる。でも、気持ちは偽れないし。
「よう分かったわ。時間もあまりないし、行くで桜」
そう言って、目の前に差し出された手。思わず顔を上げると、優しく微笑むカナちゃんの姿がそこにあった。
「え、カナちゃん……どうして分かったの?!」
驚きを隠せない私に、彼は丁寧に説明してくれた。
「数学苦手なお前がいちいち日にちとか回数とか覚えてるわけあらへんやん。そして極めつけは最後の質問。お前はそんな簡単に意見曲げる奴とちゃうからな」
「ありがとう、カナちゃん」
きちんと見分けてもらえたんだ。
記憶力悪いとバカにされてるのはこの際多目に見よう。
「待って、そんなの納得出来ないよ! 私が本物なのに、カナちゃん信じてくれないの?」
その時、偽物がすがるようにカナちゃんに抱き付いた。
「ましてや桜は、泣きながらお前みたいに抱きついてくるキャラやない。お前がここで怒ってハイキックでもしてきたら、まだ信憑性あったんやけどな」
そう言って、カナちゃんは苦笑いしながら彼女をそっと引き剥がす。
私って怒ったらハイキック食らわせるキャラなんだ、知らなかったよ。
「さっきまであんなに協力して謎解きして、貴方にかけられた手錠の鍵を探していたのに……私が信じられないの?」
「それは……ほんま助かったわ。お前来てくれへんかったら、ここから出られへんかった。おおきになぁ」
その時、床に転がっている手錠が視界に入る。
校舎中探しても誰も居ないと思ってたら、まさかこんな所に閉じ込められてたなんて……
しかも、一緒に困難を乗り越える事で偽者の株を上げ、カナちゃんの信頼を勝ち得て本物だと思わせる戦法。
最初に彼等が抱き合っていたのは、さながらその困難を乗り越えた喜びを分かち合っていたという所だろう。
もう少し私が来るのが遅かったら、かなりヤバかったかもしれない。
「ここに居たらカナちゃんの望み、何でも叶えるよ。その子と一緒に居ても、苦しいだけだよ。私なら貴方のこと愛して、望むならどんな行為だって受け入れるよ。だから……」
「……ほんまに、何でもしてくれるん?」
涙ながらに必死に訴えかける偽物の言葉に興味を持ったのか、カナちゃんが優しく聞き返す。
「勿論、何でもするから……ッ!」
顔をくしゃりと歪めて何度も大きく偽物は頷いている。
「ほな、今すぐここから消えてくれ。いくら偽物でも、これ以上……お前のそんな姿、見たないねん」
そう言ってカナちゃんは眉を悲しそうに曇らすと、彼女からそっと視線を逸らした。
途端にピタリと静かになった偽物は俯くと、静かに口を開く。
「……お望みどおり消えてあげる。時間稼ぎはもう十分だろうからね」
顔を上げて不敵な笑みを浮かべた偽物は、黒い煙に包まれて一枚の葉っぱへと姿を変えた。
ヒラヒラと舞って床に落ちたそれには、変な紋様が描かれている。
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あそこまでそっくりな人間に変化させれるクレハはやはり、相当手強い相手だと思い知らされた。
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