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第十一章 与えられる試練
ショッピングモールの中心で愛を叫ぶ
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「待って、クレハ! ありがとう……教えてくれて、本当にありがとう……っ」
「お礼を言われる筋合いはないよ。僕は契約を最後まで執行したに過ぎない」
「……契約?」
「君達を後ろからずっと心配そうに見てた彼女とのね。生前の記憶を利用させてもらう代わりに、試練にクリア出来た場合のみ、僕は彼女が君達に託した思いを伝える。その契約を執行しただけ」
クレハは面倒臭そうに顔だけこちらに向けると、ため息混じりに説明してくれた。
「美希がいるの?!」
「もう成仏したよ。やっと肩の荷がおりたんだろうね……嬉しそうに、笑ってたよ」
今まで心配で私達の事をずっと見守っててくれたんだ。
ありがとう、美希。いつまでも心配かけてごめんね。きちんと前を向いて歩んでいくよ、貴女の分まで。美希がもういいよって言うくらい、たくさん武勇伝作るから……面倒臭がらずにちゃんと聞いてね?
「ありがとう、クレハ。本当に……ありがとう」
「虫酸が走るから、そう何度もお礼言うの止めてもらえる? たまたま今回君達は合格したけど、次はそうはいかないよ。せいぜい怯えながら生活するといい」
捨て台詞を残して去ろうとするクレハを、私はまたもや引き止めた。もう一つだけ、彼に教えなければならない大切な事を伝えるために。
「待って……貴方は、何処に帰るの?」
「何処でもいいでしょ別に。君に関係ないよ」
「優菜さんが、貴方の帰りを待ってるよ。すごく心配して探してる。だから……」
私の言葉を最後まで聞くことなく、クレハは黒いオーラに包まれ姿を消した。
「あの性悪狐……根は案外悪い奴じゃないのかもしれないわね。契約なんて言ってたけど、律儀にそれを守ってる所とか、いまいち悪になりきれてない」
先程までクレハが居た場所を眺めながら美香がポツリと呟いた。
「やっぱり、美香もそう思う?」
「相手を痛め付けたいなら、やり方がぬるいのよ。希望の芽を残してる時点で、論外よ」
「なんか美香が言うと説得力あるね」
「それはどういう意味かしら?」
「ごめんごめん、深い意味はないよ」
「まぁいいわ。美希を利用された事には腹が立つけど、感謝しないといけないわね。あの子の気持ち、教えてくれた事には」
「そうだね……」
クレハが居なければ、知ることは出来なかった。美希の抱えていたものも、その想いも。そして、美香が隠していた心のわだかまりも。
「ねぇ、美香」
「何かしら?」
「私の幸せの中には、美香の幸せも含まれてるの。だから一人で抱え込まないで、何かあったら相談してね」
「桜……分かったわ。ありがとう」
私の言葉に、美香は嬉しそうに口元に笑みを浮かべて頷いてくれた。
「それじゃあ、行こうか」
「そうね。もうコンテストまであまり時間がないことだし、第二ステージ突破のため、頑張るわよ!」
その後、幻術空間から抜け出した私達は、元居たショッピングモールへと戻ってきた。
相変わらず女子のサークルが目の前にあるのだが、あれからどれくらい時間が経ったのか分からない。
その時、げんなりとした様子のシロとカナちゃんがそこから出てきた。
「もう二度と、アンケートなんか答えてやらねぇ……」
「同感や。あかん、あれはあかんわ……」
話を聞くと、どうやらあれからみっちり百問のアンケートに答えさせられたらしい。途中で止めようとしても、解放してもらえず軽く一時間以上あの場に居たようだ。
「桜、目が赤い……それにこの匂い……まさか、またクレハに会ったのか?」
その時、私の顔を覗き込むようにしてシロが話しかけてきた。
「あ……うん。美香と一緒に第二の試練を……」
私の言葉を聞くやいなや、振り返ってある場所を確認したシロ。
「あの野郎! また罠にはめやがったな!」
視線の先を追うと先程までアンケートをお願いしていた猛者が居ない。それどころか、設置されていた看板も机も何もかもが消えている。
なるほど、あれもクレハの罠だったというわけか。
「怪我はないか? 変なことされてないか? 俺がついていながらすまない……」
悲しそうに顔を歪めたシロは、人目も憚らず私の身体をぎゅっと抱き締めた。
ふわりと鼻孔をくすぐる甘いシャンプーの匂いにひどく安心感を覚えるが、周りから聞こえるヒソヒソとした話し声に私はある事を思い出す。
ここは、人がごったがえすショッピングモールであることを。
「シロ、大丈夫、大丈夫だから……今は離してもらえないかな?」
周りの視線がグサグサと突き刺さるのを感じ慌てて離れようとするが……
「嫌だ、絶対離さねぇ! 少しでも目離すとお前、すぐ拐われる……こうでもしてねぇと、不安でどうにかなりそうなんだよ……っ!」
さらに抱き締める手の力をシロが強めてしまい、脱出不可能になってしまった。
微かに震えるシロの身体から、本当に心配してくれたことが分かる。口数が減っていたのも、行き交う人を睨んでいたのも、いつクレハが仕掛けてくるか心配で、常に気を張っていたからだとその時気付かされた。
「ごめんね心配かけて。どこにも行かないよ、もし拐われても帰ってくるから。ちゃんと貴方の元に。だから……」
お願いだから今はその手を離して下さい、切実に……っ!
シロが大きな声で叫んだせいで、視線が集まり晒し者状態になっている。
恥ずかしすぎて意識飛びそうだよ……
その時、私の心の声が聞こえたかのようにカナちゃんが助け船を出してくれた。
「仲ええのは分かるけど、そろそろ行くで。お前ら悪目立ちし過ぎやて」
「見せつけてんだ、邪魔すんな」
「はいはい、せやかてあんまり過度やと逆に嫌われんで。見てみぃ、桜の顔。茹でダコ通り越して危険なとこまできとんで……って、おい! 桜?」
ありがとう、カナちゃん……でも、できればもう少し早く声をかけて欲しかった……
その後、軽く意識を飛ばして目覚めた私は、予定が大幅に狂ったとご立腹の美香から、日が暮れるまでみっちりと、スパルタ式ファッション講座を受けたのだった。
「お礼を言われる筋合いはないよ。僕は契約を最後まで執行したに過ぎない」
「……契約?」
「君達を後ろからずっと心配そうに見てた彼女とのね。生前の記憶を利用させてもらう代わりに、試練にクリア出来た場合のみ、僕は彼女が君達に託した思いを伝える。その契約を執行しただけ」
クレハは面倒臭そうに顔だけこちらに向けると、ため息混じりに説明してくれた。
「美希がいるの?!」
「もう成仏したよ。やっと肩の荷がおりたんだろうね……嬉しそうに、笑ってたよ」
今まで心配で私達の事をずっと見守っててくれたんだ。
ありがとう、美希。いつまでも心配かけてごめんね。きちんと前を向いて歩んでいくよ、貴女の分まで。美希がもういいよって言うくらい、たくさん武勇伝作るから……面倒臭がらずにちゃんと聞いてね?
「ありがとう、クレハ。本当に……ありがとう」
「虫酸が走るから、そう何度もお礼言うの止めてもらえる? たまたま今回君達は合格したけど、次はそうはいかないよ。せいぜい怯えながら生活するといい」
捨て台詞を残して去ろうとするクレハを、私はまたもや引き止めた。もう一つだけ、彼に教えなければならない大切な事を伝えるために。
「待って……貴方は、何処に帰るの?」
「何処でもいいでしょ別に。君に関係ないよ」
「優菜さんが、貴方の帰りを待ってるよ。すごく心配して探してる。だから……」
私の言葉を最後まで聞くことなく、クレハは黒いオーラに包まれ姿を消した。
「あの性悪狐……根は案外悪い奴じゃないのかもしれないわね。契約なんて言ってたけど、律儀にそれを守ってる所とか、いまいち悪になりきれてない」
先程までクレハが居た場所を眺めながら美香がポツリと呟いた。
「やっぱり、美香もそう思う?」
「相手を痛め付けたいなら、やり方がぬるいのよ。希望の芽を残してる時点で、論外よ」
「なんか美香が言うと説得力あるね」
「それはどういう意味かしら?」
「ごめんごめん、深い意味はないよ」
「まぁいいわ。美希を利用された事には腹が立つけど、感謝しないといけないわね。あの子の気持ち、教えてくれた事には」
「そうだね……」
クレハが居なければ、知ることは出来なかった。美希の抱えていたものも、その想いも。そして、美香が隠していた心のわだかまりも。
「ねぇ、美香」
「何かしら?」
「私の幸せの中には、美香の幸せも含まれてるの。だから一人で抱え込まないで、何かあったら相談してね」
「桜……分かったわ。ありがとう」
私の言葉に、美香は嬉しそうに口元に笑みを浮かべて頷いてくれた。
「それじゃあ、行こうか」
「そうね。もうコンテストまであまり時間がないことだし、第二ステージ突破のため、頑張るわよ!」
その後、幻術空間から抜け出した私達は、元居たショッピングモールへと戻ってきた。
相変わらず女子のサークルが目の前にあるのだが、あれからどれくらい時間が経ったのか分からない。
その時、げんなりとした様子のシロとカナちゃんがそこから出てきた。
「もう二度と、アンケートなんか答えてやらねぇ……」
「同感や。あかん、あれはあかんわ……」
話を聞くと、どうやらあれからみっちり百問のアンケートに答えさせられたらしい。途中で止めようとしても、解放してもらえず軽く一時間以上あの場に居たようだ。
「桜、目が赤い……それにこの匂い……まさか、またクレハに会ったのか?」
その時、私の顔を覗き込むようにしてシロが話しかけてきた。
「あ……うん。美香と一緒に第二の試練を……」
私の言葉を聞くやいなや、振り返ってある場所を確認したシロ。
「あの野郎! また罠にはめやがったな!」
視線の先を追うと先程までアンケートをお願いしていた猛者が居ない。それどころか、設置されていた看板も机も何もかもが消えている。
なるほど、あれもクレハの罠だったというわけか。
「怪我はないか? 変なことされてないか? 俺がついていながらすまない……」
悲しそうに顔を歪めたシロは、人目も憚らず私の身体をぎゅっと抱き締めた。
ふわりと鼻孔をくすぐる甘いシャンプーの匂いにひどく安心感を覚えるが、周りから聞こえるヒソヒソとした話し声に私はある事を思い出す。
ここは、人がごったがえすショッピングモールであることを。
「シロ、大丈夫、大丈夫だから……今は離してもらえないかな?」
周りの視線がグサグサと突き刺さるのを感じ慌てて離れようとするが……
「嫌だ、絶対離さねぇ! 少しでも目離すとお前、すぐ拐われる……こうでもしてねぇと、不安でどうにかなりそうなんだよ……っ!」
さらに抱き締める手の力をシロが強めてしまい、脱出不可能になってしまった。
微かに震えるシロの身体から、本当に心配してくれたことが分かる。口数が減っていたのも、行き交う人を睨んでいたのも、いつクレハが仕掛けてくるか心配で、常に気を張っていたからだとその時気付かされた。
「ごめんね心配かけて。どこにも行かないよ、もし拐われても帰ってくるから。ちゃんと貴方の元に。だから……」
お願いだから今はその手を離して下さい、切実に……っ!
シロが大きな声で叫んだせいで、視線が集まり晒し者状態になっている。
恥ずかしすぎて意識飛びそうだよ……
その時、私の心の声が聞こえたかのようにカナちゃんが助け船を出してくれた。
「仲ええのは分かるけど、そろそろ行くで。お前ら悪目立ちし過ぎやて」
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「はいはい、せやかてあんまり過度やと逆に嫌われんで。見てみぃ、桜の顔。茹でダコ通り越して危険なとこまできとんで……って、おい! 桜?」
ありがとう、カナちゃん……でも、できればもう少し早く声をかけて欲しかった……
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