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第十三章 激化する呪い
思想の違い
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「申し訳ありませんが、その望みはきけません。桜さんとシロさんの望みは、どちらもクレハさんの悲しみを助長させるものです。転生して速やかに新たな人生を歩ませてあげた方が、何倍も幸せだと思うので……」
「何故そんな事が言えるんだ! あいつがどんな思いでソウルメイトを自らの手にかけたか……っ!」
声を荒げて怒りを露わにするシロに、ウィルさんはあくまで冷静に理由を述べる。
「その悲しみや苦しみをずっと背負って生き長らえるのは、とても酷な事ですよ。あなた方は自分のエゴで彼の古傷をこじ開けて、理不尽な要求を突きつけるのですか?」
「そっちだって同じじゃないか! あいつの気持ちを聞きもせずに、死んで転生した方が幸せだと?! 笑わせるな!」
椅子から立ち上がって、今にも掴みかかりそうになるシロの動きが急にピタリと止まる。
顔を苦しそうに歪め必死に抵抗しているが、どうやら先生が陰陽術を使ったようで動けないようだ。
「落ち着け、シロ。ウィルは意地悪で言っているわけじゃない。エクソシスト協会のモットーは『犯罪者にも慈悲の光を』が第一原則で、速やかに討伐して犯罪者を新たな人生へ送り出すのが幸せだと考えられている。つまり、お前等が要求する無期懲役のような措置は、彼等にとっては地獄の所業なんだよ。根底にある思想の違いだ、こればっかりはお互い主張しあっても簡単に歩み寄れるものじゃない。平行線をたどるだけだ」
そう言って先生は陰陽術を解いたようで、自由になったシロは舌打ちして荒々しく席に戻る。
辺りはシンと静まり返り、何とも気まずい空気がこの場を支配していた。
ウィルさんの言葉に納得させられる所があって、私は口を挟む事が出来ないでいた。
クレハが犯した罪も、味わった悲しみも苦しみも、生きている限り一生それを背負って生きていかなければならない。
私達が彼に生きていて欲しいと望むことは、クレハ自身にとって重荷になってしまうのだろうか。
メーテルみたいな転生を促す精霊がいるくらいだ、生まれ変わるのはすぐ出来るだろう。
だけどやっぱり、ウィルさんの考えには素直に賛同できない。
もし説得しても彼が死を選ぶならその時は、辛いけど私達はその現実を受け止めるしかないだろう。
でもまずは、クレハ自身の本音を知りたい。彼が何を考え何を思っているのか、それを知らずに勝手にその方が幸せだろうからと決めつけて押し付けるやり方が納得できないのだ。
でも、それをどうやったらウィルさんに分かってもらう事が出来るのか──その時、カナちゃんが重苦しい沈黙を破った。
「せやったら、クレハが自分から生きたいって望めば考え直してくれますか?」
カナちゃんの真っ直ぐな眼差しからスッと視線を逸らしたウィルさんは、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「……残念ですが、私には彼を生かして断罪させる手段がありません」
「こっちには式神化いうて、陰陽師の指揮下において働かせる事で罪を償う方法があります。クレハの力なら、奪った命をはるかに超える人々の命を、これから守れるはずです。ウィルさんあなたは優しすぎるんですよ、甘いんですよ。慈悲の光? そんなん必要ない。簡単に許しちゃあきませんよ、妹さんのこと。同情してへんで恨み言ぶつけるべきです。あなたしか、もう言える人は居ないんですよ! 俺はクレハにただ生きていて欲しいんやない。犯した罪の重さをしっかり受け止めて、泥臭くても地べた這いつくばって現実と向き合って欲しいんです。我慢強くて芯のある奴や。アイツならきっと出来る。なぁ、せやろ? シロ」
カナちゃんの呼び掛けに、シロは勿論だと言わんばかりに阿吽の呼吸で相槌を打つ。
「あぁ、クレハはそんなに弱い奴じゃねぇ。急所つかれても笑みを絶やさない奴だ。古傷えぐるぐらいで決して折れたりしない。むしろ何倍もえげつない方法で仕返ししてくる。そんな奴に慈悲の光なんざ不要だ。それに俺はただ、売られた喧嘩を買うまでだ。きっちり勝敗つけるまで、横から余計な邪魔はされたくない。話し合っても意見が合わないようならその時は、俺がきっちり落とし前をつける。だから頼む、少し時間をくれないか?」
ウィルさんはじっと真剣な眼差しで彼等の目を見つめた後、ふと表情を緩めて困ったように笑った。
「分かりました。その要求をのみましょう。ですが、一番優先すべきはあなた方の安全です。もしクレハさんがこの前のように誰かを人質にとったり、危害を加えたりする身振りを見せれば、今度は躊躇いなく撃ちます」
「あぁ、それで構わない。すまなかったな」
「いえ、こちらこそきつい言い方をしてしまい申し訳ありませんでした」
再び協力体制へと戻ったシロとウィルさんは、仲直りの印にがっしりと握手を交わしていた。
ひとまずこれで、クレハがいきなりウィルさんに拳銃を突き付けられる事は無くなって思わず安堵の息がもれる。
それにしても……やっぱりカナちゃんは、人の心を掴むのが上手いな。ウィルさんを説得しつつも、シロを煽って見方につけて、クレハは弱くない事を印象付けて感情論に訴える。
私なんてテンパって何も言えなくなったのに、よくもまぁあれだけスラスラと言葉が出てくるもんだ。彼の浪花節が今も変わらず健在していて、懐かしくて少し嬉しくなった。
その後、エクソシスト教会本部から急用の電話でウィルさんが離脱。ここでお開きかと思いきや、まだそうではなかった。
「西園寺、桃井、お前らの首尾はどうだ? 何か掴めたか?」
私の知らない所で、カナちゃんと美香には、橘先生から任務が与えられていたらしい。
「何故そんな事が言えるんだ! あいつがどんな思いでソウルメイトを自らの手にかけたか……っ!」
声を荒げて怒りを露わにするシロに、ウィルさんはあくまで冷静に理由を述べる。
「その悲しみや苦しみをずっと背負って生き長らえるのは、とても酷な事ですよ。あなた方は自分のエゴで彼の古傷をこじ開けて、理不尽な要求を突きつけるのですか?」
「そっちだって同じじゃないか! あいつの気持ちを聞きもせずに、死んで転生した方が幸せだと?! 笑わせるな!」
椅子から立ち上がって、今にも掴みかかりそうになるシロの動きが急にピタリと止まる。
顔を苦しそうに歪め必死に抵抗しているが、どうやら先生が陰陽術を使ったようで動けないようだ。
「落ち着け、シロ。ウィルは意地悪で言っているわけじゃない。エクソシスト協会のモットーは『犯罪者にも慈悲の光を』が第一原則で、速やかに討伐して犯罪者を新たな人生へ送り出すのが幸せだと考えられている。つまり、お前等が要求する無期懲役のような措置は、彼等にとっては地獄の所業なんだよ。根底にある思想の違いだ、こればっかりはお互い主張しあっても簡単に歩み寄れるものじゃない。平行線をたどるだけだ」
そう言って先生は陰陽術を解いたようで、自由になったシロは舌打ちして荒々しく席に戻る。
辺りはシンと静まり返り、何とも気まずい空気がこの場を支配していた。
ウィルさんの言葉に納得させられる所があって、私は口を挟む事が出来ないでいた。
クレハが犯した罪も、味わった悲しみも苦しみも、生きている限り一生それを背負って生きていかなければならない。
私達が彼に生きていて欲しいと望むことは、クレハ自身にとって重荷になってしまうのだろうか。
メーテルみたいな転生を促す精霊がいるくらいだ、生まれ変わるのはすぐ出来るだろう。
だけどやっぱり、ウィルさんの考えには素直に賛同できない。
もし説得しても彼が死を選ぶならその時は、辛いけど私達はその現実を受け止めるしかないだろう。
でもまずは、クレハ自身の本音を知りたい。彼が何を考え何を思っているのか、それを知らずに勝手にその方が幸せだろうからと決めつけて押し付けるやり方が納得できないのだ。
でも、それをどうやったらウィルさんに分かってもらう事が出来るのか──その時、カナちゃんが重苦しい沈黙を破った。
「せやったら、クレハが自分から生きたいって望めば考え直してくれますか?」
カナちゃんの真っ直ぐな眼差しからスッと視線を逸らしたウィルさんは、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「……残念ですが、私には彼を生かして断罪させる手段がありません」
「こっちには式神化いうて、陰陽師の指揮下において働かせる事で罪を償う方法があります。クレハの力なら、奪った命をはるかに超える人々の命を、これから守れるはずです。ウィルさんあなたは優しすぎるんですよ、甘いんですよ。慈悲の光? そんなん必要ない。簡単に許しちゃあきませんよ、妹さんのこと。同情してへんで恨み言ぶつけるべきです。あなたしか、もう言える人は居ないんですよ! 俺はクレハにただ生きていて欲しいんやない。犯した罪の重さをしっかり受け止めて、泥臭くても地べた這いつくばって現実と向き合って欲しいんです。我慢強くて芯のある奴や。アイツならきっと出来る。なぁ、せやろ? シロ」
カナちゃんの呼び掛けに、シロは勿論だと言わんばかりに阿吽の呼吸で相槌を打つ。
「あぁ、クレハはそんなに弱い奴じゃねぇ。急所つかれても笑みを絶やさない奴だ。古傷えぐるぐらいで決して折れたりしない。むしろ何倍もえげつない方法で仕返ししてくる。そんな奴に慈悲の光なんざ不要だ。それに俺はただ、売られた喧嘩を買うまでだ。きっちり勝敗つけるまで、横から余計な邪魔はされたくない。話し合っても意見が合わないようならその時は、俺がきっちり落とし前をつける。だから頼む、少し時間をくれないか?」
ウィルさんはじっと真剣な眼差しで彼等の目を見つめた後、ふと表情を緩めて困ったように笑った。
「分かりました。その要求をのみましょう。ですが、一番優先すべきはあなた方の安全です。もしクレハさんがこの前のように誰かを人質にとったり、危害を加えたりする身振りを見せれば、今度は躊躇いなく撃ちます」
「あぁ、それで構わない。すまなかったな」
「いえ、こちらこそきつい言い方をしてしまい申し訳ありませんでした」
再び協力体制へと戻ったシロとウィルさんは、仲直りの印にがっしりと握手を交わしていた。
ひとまずこれで、クレハがいきなりウィルさんに拳銃を突き付けられる事は無くなって思わず安堵の息がもれる。
それにしても……やっぱりカナちゃんは、人の心を掴むのが上手いな。ウィルさんを説得しつつも、シロを煽って見方につけて、クレハは弱くない事を印象付けて感情論に訴える。
私なんてテンパって何も言えなくなったのに、よくもまぁあれだけスラスラと言葉が出てくるもんだ。彼の浪花節が今も変わらず健在していて、懐かしくて少し嬉しくなった。
その後、エクソシスト教会本部から急用の電話でウィルさんが離脱。ここでお開きかと思いきや、まだそうではなかった。
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