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第十三章 激化する呪い
怪我の功名
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「一度でええから俺も、お前にその眼差し向けられたいって浅ましい願望がどうしても捨て切れんかった。さっきお前がそんな目で俺の事見てきて、見間違いかと思った。でも抱き締められてる感触は現実のもので、必死に我慢してたもん全てどっかいってもうた。怖い思いさせてごめんな」
「……私こそ、友達だって縛り付けてごめん。私の我儘でそんな苦しい思いさせてたのに気付かなくてごめん。その上あんな酷い事言って……ごめん」
謝っても言ってしまった事は取り返しがつかないのに、それでも謝るしか出来ない自分がひどく愚かに思えた。
このまま私と居れば、きっと誰も幸せにはなれない。
コハクを目覚めさせる事も出来ずにシロは妖界に強制送還されて、その事ずっと引きずってカナちゃんともギクシャクして、クッキーと過ごす寂しい余生。
そのクッキーにも先立たれ、独り残された私は──社会の荒波に流され淡々と毎日を過ごし年をとる。そんな老後まで想像してひどくむなしくなった。
「お前の気持ち聞けて、俺はめっちゃ嬉しかった。せやから最低なのはお前やないよ、桜。いつまでも女々しくお前の事見とった俺の方や。お前に触れる資格ないのに、未遂とはいえあんな事して自分が許せへん。もう穴があったらそこに埋まってしまいたい」
そう言って再び膝に顔を埋めたカナちゃん。だめだ、私まで落ち込んでたら負のスパイラルに陥ってこのままもれなく凍死コースへ直行決定。
今優先すべきなのは、とりあえずカナちゃんを立ち直らせてこの場から移動させる事だ。
「いや、埋まらなくていいからね! お願い、ここ寒いからあっち行こうよ」
「桜一人行ってたらええやん、ダメ人間な俺の事なんてほっといて」
「そんな事言わないで一緒に行こうよ」
「嫌や、ここでしばらく頭冷やすんや。悟り開くまでお前の近くには寄れへん」
「修行僧か! ってつっこんでる場合じゃなかった。こんなとこ居ても悟りとか無理だから、その前に凍死しちゃうから!」
「煩悩捨てるためには、お前の傍に居ったらあかんねん。邪な考え抑えるには、頭冷やして物理的に距離取るしかないんや。ここで死んだら所詮それまでの男やったてこと。俺の事なんか忘れて、コハッ君やシロと幸せになりや」
なぐさめるのは逆効果だったようだと、この時点でやっと私は気付いた。
中途半端に優しく声をかけた事により、へこみ具合が上下して長引いている。
こうなったら──カナちゃんに何を言われても、立ち直るまで毒を吐き続けてやる。決して折れてなぐさめてはいけない。そう自分に言い聞かせて、私は口を開いた。
「さっき、『お前が望むなら、俺はずっと桜の傍に居るから』って言ったよね?」
「……言うた」
「この空間に居る限り私は望む、さぁはやくこちらへ来たまえ!」
「……期間限定?」
「うん、期間限定。だってシロの事心配だし」
カナちゃんに、ダメージ1ヒット。
「何でやろ、冷たくされるとちょい落ち着く」
「……変な道に目覚めないでよ」
そう思いきや、ノーダメージだったようだ。こやつ、中々のマゾ気質。
「だって桜、基本俺に冷たいやん」
「そんな事ない、親切丁寧真心こめて接してるよ?」
「なんか料金発生しそうな言い方やめて」
「一日、デザート一個で何でもござれ」
「安上がりやな。それなら毎日でも食べさせたるわ」
「じゃあ追加でアイスのったメロンソーダといちごパフェとプリンアラモード」
「ええで、それでお前が満足するなら」
「ありがとう、じゃあコハクやシロと美味しく頂くね」
「……あかん、それはあんまりや」
カナちゃんは肩をプルプルと震えさせている。どうやらクリティカルダメージを与える事に成功したようだ。
だが、ここでのまれて否定してはいけない。好機を見逃しては振り出しに戻りかねないからだ。私はすかさず更なる追撃を与えた。
「だってさっき、コハクやシロと幸せになれって言ったよね? だったら私達のこと、応援してね?」
私の言葉にカナちゃんの震えがピタリと止まる。
成功したか? じっと様子を窺っていると、カナちゃんはその場に勢いよく立ち上がった。
「嫌や、俺はこんな所で死なん。せやからさっきの言葉は無効! 折角同じ土俵まで上がれたのに諦めてたまるか!」
作戦が成功し、私はほっと胸を撫で下ろす。
「桜」
名前を呼ばれカナちゃんを見上げると、さっきまでとは打って変わって彼は凛々しい顔つきになっていた。
「文化祭の舞台の上、そこで俺はコハッ君とシロに勝って、お前に堂々と触れていい権利を手に入れる。せやから、早くここから出んで」
文化祭の舞台の上って、プリンスコンテストの優勝商品の事だよね。
優勝者は好きな相手からご褒美にキスとペア旅行券がもらえる。先程のカナちゃんとの出来事を思い出し、途端にリズムが早まる心臓の鼓動を無理やり押さえ付けた。
舞台の上であの続きを……って何を考えているんだ私はっ!
今はそんな事を考えている場合じゃないのに、カナちゃんを早く隠れ家の中に連れていかないと!
そう思ってカナちゃんに視線を移すと、彼は壁に手をついて必死に何かを探している。
「そこに何かあるの?」
「部屋の作り的にこっちは土ん中や思てあんま調べんかったやろ? せやけど頭ぶつけて分かった。ここだけ反響する音がなんか違うんや。それにこの壁、他と違う気すんねや」
カナちゃんにならい私も目をこらして壁を調べると、不自然な長方形のつぎめを見つける。
ためしにその部分を押してみると、その長方形部分が回転し取手が出てきた。
「カナちゃん、見てこれ!」
「でかした、桜!」
その取手を持ちカナちゃんが手前に引っ張ると、何もないと思っていた壁が扉のように開いた。
扉の先には細くて暗い通路が続いている。携帯のライトで照らしながら奥へ進むと出口らしき扉を発見した。
恐る恐るドアノブをひねると明るい光がもれてきて、陽気なファンファーレの音が聞こえてきた。目前では鮮やかな紙吹雪がひらひらと落ちてくる。思わず上を見ると割れたくす玉があった。
「よくここまでたどり着いたね。とりあえず誉めてあげるよ、おめでとう」
空中を舞っていた紙吹雪が床に落ち、視線を声のした部屋の奥へやると、口の端を持ち上げ不敵に笑うクレハが立っていた。
「……私こそ、友達だって縛り付けてごめん。私の我儘でそんな苦しい思いさせてたのに気付かなくてごめん。その上あんな酷い事言って……ごめん」
謝っても言ってしまった事は取り返しがつかないのに、それでも謝るしか出来ない自分がひどく愚かに思えた。
このまま私と居れば、きっと誰も幸せにはなれない。
コハクを目覚めさせる事も出来ずにシロは妖界に強制送還されて、その事ずっと引きずってカナちゃんともギクシャクして、クッキーと過ごす寂しい余生。
そのクッキーにも先立たれ、独り残された私は──社会の荒波に流され淡々と毎日を過ごし年をとる。そんな老後まで想像してひどくむなしくなった。
「お前の気持ち聞けて、俺はめっちゃ嬉しかった。せやから最低なのはお前やないよ、桜。いつまでも女々しくお前の事見とった俺の方や。お前に触れる資格ないのに、未遂とはいえあんな事して自分が許せへん。もう穴があったらそこに埋まってしまいたい」
そう言って再び膝に顔を埋めたカナちゃん。だめだ、私まで落ち込んでたら負のスパイラルに陥ってこのままもれなく凍死コースへ直行決定。
今優先すべきなのは、とりあえずカナちゃんを立ち直らせてこの場から移動させる事だ。
「いや、埋まらなくていいからね! お願い、ここ寒いからあっち行こうよ」
「桜一人行ってたらええやん、ダメ人間な俺の事なんてほっといて」
「そんな事言わないで一緒に行こうよ」
「嫌や、ここでしばらく頭冷やすんや。悟り開くまでお前の近くには寄れへん」
「修行僧か! ってつっこんでる場合じゃなかった。こんなとこ居ても悟りとか無理だから、その前に凍死しちゃうから!」
「煩悩捨てるためには、お前の傍に居ったらあかんねん。邪な考え抑えるには、頭冷やして物理的に距離取るしかないんや。ここで死んだら所詮それまでの男やったてこと。俺の事なんか忘れて、コハッ君やシロと幸せになりや」
なぐさめるのは逆効果だったようだと、この時点でやっと私は気付いた。
中途半端に優しく声をかけた事により、へこみ具合が上下して長引いている。
こうなったら──カナちゃんに何を言われても、立ち直るまで毒を吐き続けてやる。決して折れてなぐさめてはいけない。そう自分に言い聞かせて、私は口を開いた。
「さっき、『お前が望むなら、俺はずっと桜の傍に居るから』って言ったよね?」
「……言うた」
「この空間に居る限り私は望む、さぁはやくこちらへ来たまえ!」
「……期間限定?」
「うん、期間限定。だってシロの事心配だし」
カナちゃんに、ダメージ1ヒット。
「何でやろ、冷たくされるとちょい落ち着く」
「……変な道に目覚めないでよ」
そう思いきや、ノーダメージだったようだ。こやつ、中々のマゾ気質。
「だって桜、基本俺に冷たいやん」
「そんな事ない、親切丁寧真心こめて接してるよ?」
「なんか料金発生しそうな言い方やめて」
「一日、デザート一個で何でもござれ」
「安上がりやな。それなら毎日でも食べさせたるわ」
「じゃあ追加でアイスのったメロンソーダといちごパフェとプリンアラモード」
「ええで、それでお前が満足するなら」
「ありがとう、じゃあコハクやシロと美味しく頂くね」
「……あかん、それはあんまりや」
カナちゃんは肩をプルプルと震えさせている。どうやらクリティカルダメージを与える事に成功したようだ。
だが、ここでのまれて否定してはいけない。好機を見逃しては振り出しに戻りかねないからだ。私はすかさず更なる追撃を与えた。
「だってさっき、コハクやシロと幸せになれって言ったよね? だったら私達のこと、応援してね?」
私の言葉にカナちゃんの震えがピタリと止まる。
成功したか? じっと様子を窺っていると、カナちゃんはその場に勢いよく立ち上がった。
「嫌や、俺はこんな所で死なん。せやからさっきの言葉は無効! 折角同じ土俵まで上がれたのに諦めてたまるか!」
作戦が成功し、私はほっと胸を撫で下ろす。
「桜」
名前を呼ばれカナちゃんを見上げると、さっきまでとは打って変わって彼は凛々しい顔つきになっていた。
「文化祭の舞台の上、そこで俺はコハッ君とシロに勝って、お前に堂々と触れていい権利を手に入れる。せやから、早くここから出んで」
文化祭の舞台の上って、プリンスコンテストの優勝商品の事だよね。
優勝者は好きな相手からご褒美にキスとペア旅行券がもらえる。先程のカナちゃんとの出来事を思い出し、途端にリズムが早まる心臓の鼓動を無理やり押さえ付けた。
舞台の上であの続きを……って何を考えているんだ私はっ!
今はそんな事を考えている場合じゃないのに、カナちゃんを早く隠れ家の中に連れていかないと!
そう思ってカナちゃんに視線を移すと、彼は壁に手をついて必死に何かを探している。
「そこに何かあるの?」
「部屋の作り的にこっちは土ん中や思てあんま調べんかったやろ? せやけど頭ぶつけて分かった。ここだけ反響する音がなんか違うんや。それにこの壁、他と違う気すんねや」
カナちゃんにならい私も目をこらして壁を調べると、不自然な長方形のつぎめを見つける。
ためしにその部分を押してみると、その長方形部分が回転し取手が出てきた。
「カナちゃん、見てこれ!」
「でかした、桜!」
その取手を持ちカナちゃんが手前に引っ張ると、何もないと思っていた壁が扉のように開いた。
扉の先には細くて暗い通路が続いている。携帯のライトで照らしながら奥へ進むと出口らしき扉を発見した。
恐る恐るドアノブをひねると明るい光がもれてきて、陽気なファンファーレの音が聞こえてきた。目前では鮮やかな紙吹雪がひらひらと落ちてくる。思わず上を見ると割れたくす玉があった。
「よくここまでたどり着いたね。とりあえず誉めてあげるよ、おめでとう」
空中を舞っていた紙吹雪が床に落ち、視線を声のした部屋の奥へやると、口の端を持ち上げ不敵に笑うクレハが立っていた。
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