71 / 73
最終章 世界滅亡の危機を救え!
65、世界の命運を決めるゲーム
しおりを挟む
「随分無粋な事をしてくれるね、君。僕の妹が怪我したらどうしてくれるの?」
あれ、ノアお兄ちゃんなんか怒ってる? しかも今、僕の妹って認めてくれた!
「それは申し訳ありませんでした。私の大切な婚約者が拐われたもので、気持ちが焦っておりました。アリシアを、返して頂けますか?」
「僕は今、アリシアに頼まれて遊んであげてるんだ。君に返す必要性が感じられないんだけど」
フォルネウス様とノアお兄ちゃんの間に火花が飛び散ってるように見える。
混ぜるな危険。一瞬即発。ここで誰かが火魔法でも使おうものなら、大爆発しそうな勢いだった。
「アリシア、怖かっただろう? さぁ、こちらへおいで」
「アリシア、次のゲーム始めるよ。さぁ、席について」
私はこちらに差し伸べてくれているフォルネウス様の手をガシッと掴んで、ノアお兄ちゃんの前に座らせた。
「次は、三人でやりましょう!」
「…………え?」
「…………は?」
「カードゲームって、人が多い方が楽しいんですよ! いいよね、ノアお兄ちゃん」
「ふん、君がそう言うなら」
「フォルネウス様も、よかったらお願いします」
「勿論だよ、アリシア」
「ありがとうございます……って、フォルネウス様! お顔に血が……」
近くで見ると、フォルネウス様の顔に傷があるのに気付いた。顔だけじゃない、全身傷だらけじゃないの!
「リバース」
回帰魔法を唱えても、やっぱり反応しない。
「ノアお兄ちゃん。フォルネウス様の傷の治療したいから、魔法使えるようにしてよ」
「傷なんて、舐めときゃ治るでしょ」
確かに唾液にも治療効果はある。ツーンと澄ました顔してるノアお兄ちゃんを見る限り、解いてくれる気はないようだ。仕方ない。
「ごめんなさい、フォルネウス様。痛いかもしれないけど、少しだけ我慢して下さいね」
そう前置きして、フォルネウス様の頬に唇を寄せて、出来た傷を舐めとる。
「あ、アリシア……?!」
唇の端も切れてるわ。それに耳も。それだけ激しい戦闘をされてこられたのね。
「なっ! 君がやる事ないでしょ!」
何故か慌てた様子で、ノアお兄ちゃんはソファーから立ち上がった。
「さっき舐めとけば治るって言ったの、ノアお兄ちゃんでしょ。それにどうやったら、自分の顔を舐めて治す事が出来るのよ」
「わかった、魔法使えるようにしてあげるから!」
もう、最初から意地悪しないで素直にしてくれればいいのに。
パチンと指を鳴らしてノアお兄ちゃんが魔法を使えるようにしてくれた。
「リバース」
よかった、これでフォルネウス様の傷も綺麗に元通りね。
「ありがとう、アリシア。そのまま君の可愛い舌で、全身舐めて治してくれても嬉しかったけど」
その言葉の意味を想像したら、途端に恥ずかしくなった。
「もう、フォルネウス様まで意地悪言わないで下さい……」
「はは、意地悪じゃなくてただの本心だよ」
「よ、余計に達が悪いです!」
「さぁ、イチャイチャしてないではやく勝負を始めようか! やるのはさっきと、同じオールドメイドでいいよ」
何故かノアお兄ちゃんに闘志がみなぎっている。
「紅の皇太子、折角だから賭けをしよう。そうだね、敗者は勝者に絶対服従ってのはどう? どうせここにきたのも、僕を止めに来たからなんでしょ? 君が勝ったら、僕は君に従ってあげるよ。ただし負けたら、君は僕に絶対服従。アリシアには二度と近付けさせないよ」
指をポキポキと鳴らしながら、ノアお兄ちゃんが自信満々に言いきった。
「分かりました。その賭け、乗りましょう。私が負けたら何でも貴方の言うことをききましょう。ただし私が勝ったらノアさん、貴方をハイグランド帝国に迎え入れ、私とアリシアの結婚式に参加して頂きます」
「いいだろう。残念ながら僕が勝つから、君達の結婚式は未来永劫開かれないけどね」
「じゃあ私が勝ったら?」
「え、アリシアもやるの?」
「さっき三人でしようって言ったよ」
「後でいくらでも遊んであげるから、今は……」
「仲間外れにするの? ノアお兄ちゃんひどい……」
「いや、そんなわけじゃ……」
さっき素直にお願いをきいてくれなかったお返しに我が儘を言ってみたら、ノアお兄ちゃんは慌てている。
「アリシア、申し訳ないけど今回は審判をお願いしてもいいかな? ノアさんと、対等な勝負がしたいんだ」
助け船を出してくれるフォルネウス様は、やっぱり優しいわね。
「分かりました。フォルネウス様、頑張って下さい!」
「うん、ありがとう」
「…………なんか、納得いかない。紅の皇太子、勝負だ!」
「ええ、受けてたちましょう」
男同士の真剣勝負――世界の命運を賭けたカードゲームが、こうして始まった。
「少しルールを変更しない?」
「ルールを?」
「最初に抜くオールドメイドのカードをランダムにしない?」
「確かに、何が最後の一枚なのか分からないと面白いかも」
「ええ、構いませんよ」
「アリシア、この中から一枚だけ抜いて見えないように中央に置いておいて」
「わかった」
言われた通りに、オールドメイドとなるカードを抜いてテーブルに置いた。公平にするため、残ったカードを皆で回してシャッフルする。それを私が二等分して、好きなカードの束をそれぞれ選んでもらった。ペアのカードを捨てて整理したらゲームスタートだ。
「順番は君からいいよ」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
フォルネウス様はノアお兄ちゃんの手札から一枚引いて、三のハートとスペードのペアを捨てた。
「どうぞ」
ノアお兄ちゃんが引きやすいように、フォルネウス様は手札を前に差し出す。二人が順調にカードを、引き合って手札を減らしていく。
カードを引くノアお兄ちゃんを見てたら、ある事が気になった。前髪邪魔そうだなと。動く度に落ちてくる前髪を何度も手で寄せてて、面倒そうだ。
そうだ、魔法が使える今ならキューブから良いものを取り出せる!
キューブに魔力を通して、目的のものを取り出して、ノアお兄ちゃんに声をかける。
「ノアお兄ちゃん、前髪落ちてきて邪魔そうだね。いいものがあるんだ」
ささっと前髪をピンで留めてあげた。
「ちょっと、急に何するの!」
露になったオッドアイを見て、フォルネウス様の目が輝き出した。
「ノアさん、とても神秘的で綺麗な瞳をお持ちだったのですね! 英雄アスタールみたいで格好いいです」
「…………は? 英雄アスタール?」
「ハイグランド帝国で子供に大人気の絵本のヒーローです。私も子供の頃よく読んでまして、ノアさんの瞳がその英雄アスタールみたいで格好いいと思ったのですよ」
「僕の瞳が、格好いい……?」
「ええ。子供達に見つかったらきっと、一瞬のうちに囲まれると思いますよ」
「僕が、子供達に囲まれる……?」
信じられないといった様子でノアお兄ちゃんは驚いている。
「さぁ、ノアさんの番です」
「あ、うん」
少し慌てた様子でノアお兄ちゃんはフォルネウス様のカードを引いて、ペアを捨てた。
「だから言ったでしょ、ノアお兄ちゃん。ハイグランド帝国では、誰も悪く言う人は居ないって。一緒に帰ろうよ」
「でも僕は、パメラ様の希望を叶えるために……」
「お姉ちゃんが、一言でも王様になりたいって言った?」
「…………言ってない」
「じゃあどうして、お姉ちゃんに王様になって欲しいの?」
「僕を救ってくれたパメラ様は英雄のようだった。孤高に咲く一輪の美しい花。僕はそれを、ただ守りたかったんだ」
やっとノアお兄ちゃんの本音を聞けた。やっぱり根本はにあるのは、お姉ちゃんを守りたいって気持ちだった。その方向性を、少し間違えちゃっただけなんだね。
「今のお姉ちゃん、とっても綺麗だと思わない?」
「そうだね。久しぶりに会ったパメラ様はとても美しくなられていた」
「それが何故だか分かる?」
「分からない」
「幸せだからだよ。愛する人と一緒に、幸せに暮らしているから。そんな美しいお姉ちゃんを守りたいなら、ノアお兄ちゃんも幸せにならないとダメだよ」
「僕が幸せに?」
「大切な家族が落ち込んでいたり、悲しい思いをしていると、とても悲しいもの。だからお姉ちゃんに美しい花で居て欲しいなら、ノアお兄ちゃんも幸せにならないと。だってお姉ちゃんにとって、ノアお兄ちゃんは唯一自分の血を与えて吸血鬼にした大切な弟なんだから」
そんな話をしていたら、フォルネウス様の残りカードは二枚、ノアお兄ちゃんの残りカードが一枚になっていた。
「さぁ、ノアさんの番です」
フォルネウス様は、分かりやすく一枚を上にしてノアお兄ちゃんに差し出した。
「上のカードはハートのキング、下のカードがスペードのエースです。オールドメイドはおそらく下のスペードのエースでしょう」
え、フォルネウス様?!
自分でカードをばらしちゃったよ?!
「僕を試してるのかい? そんな手にはのらないよ…………なにっ!?」
フォルネウス様が仰ったのと逆のカードを引いたノアお兄ちゃんは、悔しそうに声をあげた。どうやら自分から、ハズレのオールドメイドを引いてしまったらしい。
「折角教えて差し上げたのに、どうして……」
ノアお兄ちゃんはカードをシャッフルして、フォルネウス様の前に差し出した。
「君から向かって右がスペードのエース、左がハートのキングだよ。さぁ、君の番だ」
不敵に笑うノアお兄ちゃんに、フォルネウス様は爽やかな笑顔を浮かべて仰った。
「ご丁寧に教えて頂き、ありがとうございます」
そして何の迷いもなく右のカードを引かれた。
「な、信じたの?!」
「はい。だって自分を信じていない者の言葉なんて、相手には届かないでしょう?」
二枚のカードを見せながらフォルネウス様は口を開かれた。
「私の勝ちです。ノアさん、約束通りハイグランド帝国へお越しください。貴方の幸せを見つけるお手伝いを、私達にさせて頂けませんか?」
フォルネウス様は立ち上がって、ノアお兄ちゃんに手を差し出された。
「僕にそんな権利なんて……」
「あるよ! だから遠慮しないで、この手をとればいいんだよ」
フォルネウス様の手に、ノアお兄ちゃんの手を重ねた。
「だって私達は家族になるんだから!」
その時、天井から派手な爆発音が聞こえた。
「アリシア!」
咄嗟にフォルネウス様が防御壁を作ってくれて、何とか瓦礫の下敷きにならずにすんだ。
「ノア! やっと見つけたわ、もうこんな馬鹿げた事は止めなさい!」
瓦礫の上には、異様な空気を身に纏ったお姉ちゃんが立っていた。
「今まで独りで寂しかったのよね。辛かったのよね。貴方の悲しみは全部私が受け止めてあげる。だから一緒に、死になさい!」
殺気を放つ暴走状態のお姉ちゃんは、手に持った剣を真っ直ぐにノアお兄ちゃんに向けて突き出した。
あれ、ノアお兄ちゃんなんか怒ってる? しかも今、僕の妹って認めてくれた!
「それは申し訳ありませんでした。私の大切な婚約者が拐われたもので、気持ちが焦っておりました。アリシアを、返して頂けますか?」
「僕は今、アリシアに頼まれて遊んであげてるんだ。君に返す必要性が感じられないんだけど」
フォルネウス様とノアお兄ちゃんの間に火花が飛び散ってるように見える。
混ぜるな危険。一瞬即発。ここで誰かが火魔法でも使おうものなら、大爆発しそうな勢いだった。
「アリシア、怖かっただろう? さぁ、こちらへおいで」
「アリシア、次のゲーム始めるよ。さぁ、席について」
私はこちらに差し伸べてくれているフォルネウス様の手をガシッと掴んで、ノアお兄ちゃんの前に座らせた。
「次は、三人でやりましょう!」
「…………え?」
「…………は?」
「カードゲームって、人が多い方が楽しいんですよ! いいよね、ノアお兄ちゃん」
「ふん、君がそう言うなら」
「フォルネウス様も、よかったらお願いします」
「勿論だよ、アリシア」
「ありがとうございます……って、フォルネウス様! お顔に血が……」
近くで見ると、フォルネウス様の顔に傷があるのに気付いた。顔だけじゃない、全身傷だらけじゃないの!
「リバース」
回帰魔法を唱えても、やっぱり反応しない。
「ノアお兄ちゃん。フォルネウス様の傷の治療したいから、魔法使えるようにしてよ」
「傷なんて、舐めときゃ治るでしょ」
確かに唾液にも治療効果はある。ツーンと澄ました顔してるノアお兄ちゃんを見る限り、解いてくれる気はないようだ。仕方ない。
「ごめんなさい、フォルネウス様。痛いかもしれないけど、少しだけ我慢して下さいね」
そう前置きして、フォルネウス様の頬に唇を寄せて、出来た傷を舐めとる。
「あ、アリシア……?!」
唇の端も切れてるわ。それに耳も。それだけ激しい戦闘をされてこられたのね。
「なっ! 君がやる事ないでしょ!」
何故か慌てた様子で、ノアお兄ちゃんはソファーから立ち上がった。
「さっき舐めとけば治るって言ったの、ノアお兄ちゃんでしょ。それにどうやったら、自分の顔を舐めて治す事が出来るのよ」
「わかった、魔法使えるようにしてあげるから!」
もう、最初から意地悪しないで素直にしてくれればいいのに。
パチンと指を鳴らしてノアお兄ちゃんが魔法を使えるようにしてくれた。
「リバース」
よかった、これでフォルネウス様の傷も綺麗に元通りね。
「ありがとう、アリシア。そのまま君の可愛い舌で、全身舐めて治してくれても嬉しかったけど」
その言葉の意味を想像したら、途端に恥ずかしくなった。
「もう、フォルネウス様まで意地悪言わないで下さい……」
「はは、意地悪じゃなくてただの本心だよ」
「よ、余計に達が悪いです!」
「さぁ、イチャイチャしてないではやく勝負を始めようか! やるのはさっきと、同じオールドメイドでいいよ」
何故かノアお兄ちゃんに闘志がみなぎっている。
「紅の皇太子、折角だから賭けをしよう。そうだね、敗者は勝者に絶対服従ってのはどう? どうせここにきたのも、僕を止めに来たからなんでしょ? 君が勝ったら、僕は君に従ってあげるよ。ただし負けたら、君は僕に絶対服従。アリシアには二度と近付けさせないよ」
指をポキポキと鳴らしながら、ノアお兄ちゃんが自信満々に言いきった。
「分かりました。その賭け、乗りましょう。私が負けたら何でも貴方の言うことをききましょう。ただし私が勝ったらノアさん、貴方をハイグランド帝国に迎え入れ、私とアリシアの結婚式に参加して頂きます」
「いいだろう。残念ながら僕が勝つから、君達の結婚式は未来永劫開かれないけどね」
「じゃあ私が勝ったら?」
「え、アリシアもやるの?」
「さっき三人でしようって言ったよ」
「後でいくらでも遊んであげるから、今は……」
「仲間外れにするの? ノアお兄ちゃんひどい……」
「いや、そんなわけじゃ……」
さっき素直にお願いをきいてくれなかったお返しに我が儘を言ってみたら、ノアお兄ちゃんは慌てている。
「アリシア、申し訳ないけど今回は審判をお願いしてもいいかな? ノアさんと、対等な勝負がしたいんだ」
助け船を出してくれるフォルネウス様は、やっぱり優しいわね。
「分かりました。フォルネウス様、頑張って下さい!」
「うん、ありがとう」
「…………なんか、納得いかない。紅の皇太子、勝負だ!」
「ええ、受けてたちましょう」
男同士の真剣勝負――世界の命運を賭けたカードゲームが、こうして始まった。
「少しルールを変更しない?」
「ルールを?」
「最初に抜くオールドメイドのカードをランダムにしない?」
「確かに、何が最後の一枚なのか分からないと面白いかも」
「ええ、構いませんよ」
「アリシア、この中から一枚だけ抜いて見えないように中央に置いておいて」
「わかった」
言われた通りに、オールドメイドとなるカードを抜いてテーブルに置いた。公平にするため、残ったカードを皆で回してシャッフルする。それを私が二等分して、好きなカードの束をそれぞれ選んでもらった。ペアのカードを捨てて整理したらゲームスタートだ。
「順番は君からいいよ」
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
フォルネウス様はノアお兄ちゃんの手札から一枚引いて、三のハートとスペードのペアを捨てた。
「どうぞ」
ノアお兄ちゃんが引きやすいように、フォルネウス様は手札を前に差し出す。二人が順調にカードを、引き合って手札を減らしていく。
カードを引くノアお兄ちゃんを見てたら、ある事が気になった。前髪邪魔そうだなと。動く度に落ちてくる前髪を何度も手で寄せてて、面倒そうだ。
そうだ、魔法が使える今ならキューブから良いものを取り出せる!
キューブに魔力を通して、目的のものを取り出して、ノアお兄ちゃんに声をかける。
「ノアお兄ちゃん、前髪落ちてきて邪魔そうだね。いいものがあるんだ」
ささっと前髪をピンで留めてあげた。
「ちょっと、急に何するの!」
露になったオッドアイを見て、フォルネウス様の目が輝き出した。
「ノアさん、とても神秘的で綺麗な瞳をお持ちだったのですね! 英雄アスタールみたいで格好いいです」
「…………は? 英雄アスタール?」
「ハイグランド帝国で子供に大人気の絵本のヒーローです。私も子供の頃よく読んでまして、ノアさんの瞳がその英雄アスタールみたいで格好いいと思ったのですよ」
「僕の瞳が、格好いい……?」
「ええ。子供達に見つかったらきっと、一瞬のうちに囲まれると思いますよ」
「僕が、子供達に囲まれる……?」
信じられないといった様子でノアお兄ちゃんは驚いている。
「さぁ、ノアさんの番です」
「あ、うん」
少し慌てた様子でノアお兄ちゃんはフォルネウス様のカードを引いて、ペアを捨てた。
「だから言ったでしょ、ノアお兄ちゃん。ハイグランド帝国では、誰も悪く言う人は居ないって。一緒に帰ろうよ」
「でも僕は、パメラ様の希望を叶えるために……」
「お姉ちゃんが、一言でも王様になりたいって言った?」
「…………言ってない」
「じゃあどうして、お姉ちゃんに王様になって欲しいの?」
「僕を救ってくれたパメラ様は英雄のようだった。孤高に咲く一輪の美しい花。僕はそれを、ただ守りたかったんだ」
やっとノアお兄ちゃんの本音を聞けた。やっぱり根本はにあるのは、お姉ちゃんを守りたいって気持ちだった。その方向性を、少し間違えちゃっただけなんだね。
「今のお姉ちゃん、とっても綺麗だと思わない?」
「そうだね。久しぶりに会ったパメラ様はとても美しくなられていた」
「それが何故だか分かる?」
「分からない」
「幸せだからだよ。愛する人と一緒に、幸せに暮らしているから。そんな美しいお姉ちゃんを守りたいなら、ノアお兄ちゃんも幸せにならないとダメだよ」
「僕が幸せに?」
「大切な家族が落ち込んでいたり、悲しい思いをしていると、とても悲しいもの。だからお姉ちゃんに美しい花で居て欲しいなら、ノアお兄ちゃんも幸せにならないと。だってお姉ちゃんにとって、ノアお兄ちゃんは唯一自分の血を与えて吸血鬼にした大切な弟なんだから」
そんな話をしていたら、フォルネウス様の残りカードは二枚、ノアお兄ちゃんの残りカードが一枚になっていた。
「さぁ、ノアさんの番です」
フォルネウス様は、分かりやすく一枚を上にしてノアお兄ちゃんに差し出した。
「上のカードはハートのキング、下のカードがスペードのエースです。オールドメイドはおそらく下のスペードのエースでしょう」
え、フォルネウス様?!
自分でカードをばらしちゃったよ?!
「僕を試してるのかい? そんな手にはのらないよ…………なにっ!?」
フォルネウス様が仰ったのと逆のカードを引いたノアお兄ちゃんは、悔しそうに声をあげた。どうやら自分から、ハズレのオールドメイドを引いてしまったらしい。
「折角教えて差し上げたのに、どうして……」
ノアお兄ちゃんはカードをシャッフルして、フォルネウス様の前に差し出した。
「君から向かって右がスペードのエース、左がハートのキングだよ。さぁ、君の番だ」
不敵に笑うノアお兄ちゃんに、フォルネウス様は爽やかな笑顔を浮かべて仰った。
「ご丁寧に教えて頂き、ありがとうございます」
そして何の迷いもなく右のカードを引かれた。
「な、信じたの?!」
「はい。だって自分を信じていない者の言葉なんて、相手には届かないでしょう?」
二枚のカードを見せながらフォルネウス様は口を開かれた。
「私の勝ちです。ノアさん、約束通りハイグランド帝国へお越しください。貴方の幸せを見つけるお手伝いを、私達にさせて頂けませんか?」
フォルネウス様は立ち上がって、ノアお兄ちゃんに手を差し出された。
「僕にそんな権利なんて……」
「あるよ! だから遠慮しないで、この手をとればいいんだよ」
フォルネウス様の手に、ノアお兄ちゃんの手を重ねた。
「だって私達は家族になるんだから!」
その時、天井から派手な爆発音が聞こえた。
「アリシア!」
咄嗟にフォルネウス様が防御壁を作ってくれて、何とか瓦礫の下敷きにならずにすんだ。
「ノア! やっと見つけたわ、もうこんな馬鹿げた事は止めなさい!」
瓦礫の上には、異様な空気を身に纏ったお姉ちゃんが立っていた。
「今まで独りで寂しかったのよね。辛かったのよね。貴方の悲しみは全部私が受け止めてあげる。だから一緒に、死になさい!」
殺気を放つ暴走状態のお姉ちゃんは、手に持った剣を真っ直ぐにノアお兄ちゃんに向けて突き出した。
7
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる