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最終章 世界滅亡の危機を救え!
66、愛は世界を救う
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「ダメ、お姉ちゃん!」
咄嗟にノアお兄ちゃんの前に出て庇った。そんな私の目の前で、フォルネウス様がお姉ちゃんを何とか抑えてくれていた。
「パメラさん、どうか正気を取り戻して下さい!」
「どきなさい、フォルネウス。邪魔をするなら、怪我するわよ」
「お姉ちゃん、止めて! ノアお兄ちゃんはもう大丈夫だから!」
「アリシア、早くノアをこっちへ渡しなさい。その子は、私が止めるのよ! 邪魔をするなら、貴方も怪我するわよ」
「アリシア、一旦ノアさんを連れて逃げろ! 傍に居ると危険だ!」
「フォルネウス様、私が回帰魔法で」
「危険だ。今のパメラさんは暴走状態にある。目的を果たすためなら、容赦なく攻撃してくる。今はなるべく遠くへ、逃げるんだ!」
お姉ちゃんの剣を受け止めながら、フォルネウス様が焦りを滲ませた様子で仰った。
「パメラ様の目的は僕だ。僕を殺せばきっと、収まるよ」
「そんなのダメ!」
お姉ちゃんの方へ行こうとするノアお兄ちゃんの腕を、私は思いっきり引っ張って止めた。
「そんな事をしても誰も幸せになれない! ノアお兄ちゃん、私のお兄ちゃんになってくれるって言ったよね。大切なお姉ちゃんとお兄ちゃんに、そんな事絶対にさせない!」
誰かを犠牲にしてはいけない。考えろ、何とかお姉ちゃんを止める方法を。お姉ちゃんがこれまでずっと優しい思いを持って自我を保ってこれたのは……愛があったからだ。誰よりも強い愛があったから。そして今も、自分がノアお兄ちゃんを止めないといけないという強い使命感に囚われているのは、大切な人達を守るため。大切な人……そうだ!
「ノアお兄ちゃん、フレディお兄ちゃんはどこ?」
「地下牢に閉じ込めてるよ」
「フォルネウス様、フレディお兄ちゃんを連れてくるまで、何とかお姉ちゃんを止める事が出来ませんか?」
「分かった、善処しよう」
「すぐに連れて戻ってきます。どうかそれまで、お姉ちゃんをお願いします」
「ああ、任せてくれ」
ノアお兄ちゃんの手を引いて、廊下へ走る。こちらを追ってこようとしたお姉ちゃんを「パメラさん、貴方の相手は私です」と、フォルネウス様が行かせないように妨害してくれた。
「ノアお兄ちゃん、私をフレディお兄ちゃんの所へ連れてって!」
「でも……」
「ほら早く!」
「分かったよ。僕にしっかり掴まってて」
私を抱えて空を飛んだノアお兄ちゃんは、窓から飛び降りて一気に下へ降りる。そして地下牢まで高速で飛んで移動してくれた。
地下牢に横たわるフレディお兄ちゃんの姿を見つけた。鍵を壊してもらって中に入り、回帰魔法をかける。
「……僕は、一体」
「フレディお兄ちゃん、大変なの!」
「アリシア、そんなに慌ててどうしたんだい」
「お姉ちゃんが暴走してて止まらないの、一緒に来て! お姉ちゃんを止められるのは、きっとお兄ちゃんしか居ないの」
「レイラが?! 分かった、急ごう」
「ノアお兄ちゃん、今度は二人抱えて飛べる?」
「二人?!」
「だ、大丈夫かい?」
どう見ても、体格的にフレディお兄ちゃんの方がノアお兄ちゃんより重いのは明白だった。がっしりとした屈強な体の持ち主を、風が吹いたら飛ばされそうな細くて小柄な男性が抱えて飛ぶのは無理があるかもしれない。というか、普通なら無理だ。しかも私と言うこぶつき。
「彼はこれに乗ってもらおう」
ノアお兄ちゃんは呪文を唱えて大きな黒鳥を召還した。
「落とさないように、気をつけて飛べ」
そう命令すると、大きな黒鳥は頷いた。人を乗せて運べるって、ノアお兄ちゃんの魔法は使い方によっては沢山の人の役に立つかもしれない。
「アリシアは僕に掴まって。いくよ」
「うん」
急いでお姉ちゃんとフォルネウス様の元へ戻った。
「どうして止めるのよ! あの子は、とても恐ろしい事を考えてるのよ! このまま野放しにしておけば、世界が滅びるわ!」
「パメラさん、どうか諦めないで下さい。私達は話し合うためにここへ来たのです。どうか気持ちを一旦沈めて頂けないでしょうか」
「フォルネウス、貴方は甘いのよ。その甘さで簡単に、大切な者を失うのよ!」
お姉ちゃんの手には、凝縮された風の球体が見えた。しかもそれがどんどん大きくなっている。あんなのを投げたらまずいわ。
「止めるんだ、レイラ!」
「フレディ……貴方……生きて、たの?」
動揺しているのか、お姉ちゃんの魔力が少し弱まった。
「勝手に僕を殺さないでくれよ。どうしてフォルネウス君に、そんなものを向けているんだい」
「これは……」
お兄ちゃんは、優しく声をかけながらお姉ちゃんの元へ一歩ずつ近付いていく。
「レイラ、君はもう戦わなくていいんだよ。その手を汚さなくていいんだ。君は僕が守る。そう言っただろう?」
「なによ、拐われる貴方が悪いんじゃない! 私がどれだけ……心配したと、思ってるのよ!」
ポロポロと涙を流すお姉ちゃんを、フレディお兄ちゃんが優しく抱き締めた。
「心配かけてごめんね。迎えに来てくれて、ありがとう。もう大丈夫だから」
やっぱり、お姉ちゃんを止めれるのはフレディお兄ちゃんだけだったね。何とか間に合って本当によかった。
「パメラ様も、あのように泣かれるのだね……」
ノアお兄ちゃんは、驚いた様子でそう呟いた。
「お姉ちゃんだって、普通の女の子だからね」
「僕はあのようにか弱い方を、無理矢理王にしようとしていたのか……」
「ノアお兄ちゃん。間違った時はね、ごめんなさいって素直に謝ればいいんだよ。誰だって間違うことはあるんだから」
「許して、頂けるのだろうか……」
「大丈夫。今のノアお兄ちゃんならきっと、大丈夫!」
そんな事をノアお兄ちゃんと話していたら、お姉ちゃんがこっちに気付いたようで駆け寄ってきた。
「あの、パメラ様……」
「ノア!」
謝ろうとしたノアお兄ちゃんを、お姉ちゃんは思いっきり抱き締めた。
「やっぱり私は貴方の王様にはなれない。世界なんて要らない。強い力も権力も要らない。大切な家族の幸せを守れる力だけあればいいの! その中には貴方も含まれているわ。だって貴方は私の血を分けた、大切な弟なんだから!」
ノアお兄ちゃんは、お姉ちゃんの目を真っ直ぐ見て言った。
「パメラ様、申し訳ありませんでした。貴方の気持ちを考えもせずに、僕の気持ちだけを押し付けて、傷付けてしまいました。僕は貴方に幸せで居て欲しい。だからこれからは、貴方の望む幸せを、笑顔を守れるように、頑張っていきたいと思います」
ノアお兄ちゃんのその言葉で、お姉ちゃんの引っ込んでた涙がまた出てきてしまった。でもそれは悲しみから来るものじゃなくて、喜びから流れたものだから、よしとしよう。
「フレデリックさん。酷いことをして、本当にすみませんでした」
「ノア君。君は人々を操りはしたけど、決して殺しはしなかった。それはどこかに迷いがあったからだろう?」
「はい。昔、パメラ様は仰いました。生きるために必要な命以外は奪うなと。本当の意味でそれを破る覚悟がまだ、僕には出来ていなかったんだと思います」
「大丈夫。これからまだやり直せるよ。誰にだって間違うことはあるし、自分の過ちに気付けたノア君は、すごいと僕は思うよ」
フレディお兄ちゃんは、そう言ってノアお兄ちゃんの頭を優しく撫でてあけだ。
「良かったわね、ノア。本当のお兄ちゃんだと思って、フレディにいっぱい我が儘言っていいわよ」
「いえ、その、僕は……」
「困った事があったら、何でも相談にのるよ。言いにくい事なら、レイラにも内緒にしてあげるから大丈夫。僕の口は固いからね」
操られたフレディお兄ちゃんに連れ去られた時はどうなる事かと思ったけど、こうして皆が無事に居られて本当に良かった。
「これで母上の見た予知夢もきっと回避できるだろう。アリシア、これも君のおかげだ。本当にありがとう」
「フォルネウス様がこれまで一生懸命頑張って来られたおかげですよ。あの時パーティー会場で人々の心を動かせたのは、間違いなくフォルネウス様の頑張りのおかげなのです」
人々を助けるために、苦悩しながらも蒼の吸血鬼討伐任務に励んで来られたフォルネウス様の努力があったおかげだ。それがなければ、正気に戻った人々を統率して安全に逃がす事は出来なかっただろう。
「いいや、アリシアのおかげだ。君の奇跡の力が無ければ人々を助ける事は難しかったのだからな」
「私がこの力に目覚めることが出来たのは、フォルネウス様が私を助けてくださったおかげです。だからやっぱり、フォルネウス様のおかげなんですよ!」
「それならあの時俺を助けてくれたアリシアが、誰よりも可愛くて魅力的だったおかげだ。だからやはり……」
「貴方達二人のおかげよ」
いつの間にかこちらに歩いてきていたお姉ちゃんに言われた。
「この世界をこんなにも優しい愛で満たしてくれたのは、貴方達二人が頑張ってくれたおかげよ。本当にありがとう」
「アリシア、フォルネウス。君達は僕に、知らなかった色んな感情を教えてくれた。驚き、戸惑い、悲しみ、思いやり、楽しさ、そして希望。狭まった視野では知り得ることが出来なかった、愛に溢れた優しい世界。何も知らなければきっと僕は、取り返しのつかない事をしていただろう。止めてくれてありがとう」
「当たり前じゃない、だってノアお兄ちゃんは大切な家族なんだから!」
「ノアさん、これから沢山の幸せを見つけていきましょう!」
「そう出来たらいいけど、これだけ迷惑をかけちゃったからね……」
ノアお兄ちゃんは壊れた建物に視線を移した。確かに、結構派手に壊れている。
「安心しなさい、ノア。こういう時こそ、アザゼルの遺産を使えばいいのよ! お城の修繕費用は私が出してあげるわ。それに蒼と紅の吸血鬼のトップに、奇跡の聖女様までここに揃っているのよ。皆で謝れば何とかなるわよ」
「壊れた建物、私の回帰魔法で直そうか?」
「え、こんなに広範囲を直せるの?!」
「やってみるね」
壊れた建物に手を当てて、私は「リバース」と回帰魔法を唱えた。
「すごい、元通りになった」
「アリシア、すごいわ!」
「本当に見事だね」
よかった、何とか直せたみたいだ。でも流石にこれは疲れたな。よろめいた体をフォルネウス様に支えられた。
「無理しすぎだ。アリシア、俺の血を飲んでこのまま休むんだ」
フォルネウス様にお姫様抱っこされてしまった。
「ありがとうございます」
疲れていた体は限界だったようで、フォルネウス様の血を頂きながら、いつの間にか眠ってしまった。
その後皆で保護されたアーサー王の所へ謝罪に行ったら、お姉ちゃんの言葉通り何とかなったらしい。
「人々を憎む環境を作ってしまった。本を正せば奴隷制度を強いていた過去のリグレット王国の在り方に問題があったせいでもあります。大きくみればノア、彼もその被害者です。フォルネウス殿下、彼の処遇はそちらにお任せしてもよろしいでしょうか?」
アーサー王の寛大な配慮と判断により、こちらで二度とこのような事が起こらないようノアお兄ちゃんの更生をサポートする事で話はまとまったそうだ。リグレット王国の王都エルシーク陥落事件は、こうして幕を閉じた。
咄嗟にノアお兄ちゃんの前に出て庇った。そんな私の目の前で、フォルネウス様がお姉ちゃんを何とか抑えてくれていた。
「パメラさん、どうか正気を取り戻して下さい!」
「どきなさい、フォルネウス。邪魔をするなら、怪我するわよ」
「お姉ちゃん、止めて! ノアお兄ちゃんはもう大丈夫だから!」
「アリシア、早くノアをこっちへ渡しなさい。その子は、私が止めるのよ! 邪魔をするなら、貴方も怪我するわよ」
「アリシア、一旦ノアさんを連れて逃げろ! 傍に居ると危険だ!」
「フォルネウス様、私が回帰魔法で」
「危険だ。今のパメラさんは暴走状態にある。目的を果たすためなら、容赦なく攻撃してくる。今はなるべく遠くへ、逃げるんだ!」
お姉ちゃんの剣を受け止めながら、フォルネウス様が焦りを滲ませた様子で仰った。
「パメラ様の目的は僕だ。僕を殺せばきっと、収まるよ」
「そんなのダメ!」
お姉ちゃんの方へ行こうとするノアお兄ちゃんの腕を、私は思いっきり引っ張って止めた。
「そんな事をしても誰も幸せになれない! ノアお兄ちゃん、私のお兄ちゃんになってくれるって言ったよね。大切なお姉ちゃんとお兄ちゃんに、そんな事絶対にさせない!」
誰かを犠牲にしてはいけない。考えろ、何とかお姉ちゃんを止める方法を。お姉ちゃんがこれまでずっと優しい思いを持って自我を保ってこれたのは……愛があったからだ。誰よりも強い愛があったから。そして今も、自分がノアお兄ちゃんを止めないといけないという強い使命感に囚われているのは、大切な人達を守るため。大切な人……そうだ!
「ノアお兄ちゃん、フレディお兄ちゃんはどこ?」
「地下牢に閉じ込めてるよ」
「フォルネウス様、フレディお兄ちゃんを連れてくるまで、何とかお姉ちゃんを止める事が出来ませんか?」
「分かった、善処しよう」
「すぐに連れて戻ってきます。どうかそれまで、お姉ちゃんをお願いします」
「ああ、任せてくれ」
ノアお兄ちゃんの手を引いて、廊下へ走る。こちらを追ってこようとしたお姉ちゃんを「パメラさん、貴方の相手は私です」と、フォルネウス様が行かせないように妨害してくれた。
「ノアお兄ちゃん、私をフレディお兄ちゃんの所へ連れてって!」
「でも……」
「ほら早く!」
「分かったよ。僕にしっかり掴まってて」
私を抱えて空を飛んだノアお兄ちゃんは、窓から飛び降りて一気に下へ降りる。そして地下牢まで高速で飛んで移動してくれた。
地下牢に横たわるフレディお兄ちゃんの姿を見つけた。鍵を壊してもらって中に入り、回帰魔法をかける。
「……僕は、一体」
「フレディお兄ちゃん、大変なの!」
「アリシア、そんなに慌ててどうしたんだい」
「お姉ちゃんが暴走してて止まらないの、一緒に来て! お姉ちゃんを止められるのは、きっとお兄ちゃんしか居ないの」
「レイラが?! 分かった、急ごう」
「ノアお兄ちゃん、今度は二人抱えて飛べる?」
「二人?!」
「だ、大丈夫かい?」
どう見ても、体格的にフレディお兄ちゃんの方がノアお兄ちゃんより重いのは明白だった。がっしりとした屈強な体の持ち主を、風が吹いたら飛ばされそうな細くて小柄な男性が抱えて飛ぶのは無理があるかもしれない。というか、普通なら無理だ。しかも私と言うこぶつき。
「彼はこれに乗ってもらおう」
ノアお兄ちゃんは呪文を唱えて大きな黒鳥を召還した。
「落とさないように、気をつけて飛べ」
そう命令すると、大きな黒鳥は頷いた。人を乗せて運べるって、ノアお兄ちゃんの魔法は使い方によっては沢山の人の役に立つかもしれない。
「アリシアは僕に掴まって。いくよ」
「うん」
急いでお姉ちゃんとフォルネウス様の元へ戻った。
「どうして止めるのよ! あの子は、とても恐ろしい事を考えてるのよ! このまま野放しにしておけば、世界が滅びるわ!」
「パメラさん、どうか諦めないで下さい。私達は話し合うためにここへ来たのです。どうか気持ちを一旦沈めて頂けないでしょうか」
「フォルネウス、貴方は甘いのよ。その甘さで簡単に、大切な者を失うのよ!」
お姉ちゃんの手には、凝縮された風の球体が見えた。しかもそれがどんどん大きくなっている。あんなのを投げたらまずいわ。
「止めるんだ、レイラ!」
「フレディ……貴方……生きて、たの?」
動揺しているのか、お姉ちゃんの魔力が少し弱まった。
「勝手に僕を殺さないでくれよ。どうしてフォルネウス君に、そんなものを向けているんだい」
「これは……」
お兄ちゃんは、優しく声をかけながらお姉ちゃんの元へ一歩ずつ近付いていく。
「レイラ、君はもう戦わなくていいんだよ。その手を汚さなくていいんだ。君は僕が守る。そう言っただろう?」
「なによ、拐われる貴方が悪いんじゃない! 私がどれだけ……心配したと、思ってるのよ!」
ポロポロと涙を流すお姉ちゃんを、フレディお兄ちゃんが優しく抱き締めた。
「心配かけてごめんね。迎えに来てくれて、ありがとう。もう大丈夫だから」
やっぱり、お姉ちゃんを止めれるのはフレディお兄ちゃんだけだったね。何とか間に合って本当によかった。
「パメラ様も、あのように泣かれるのだね……」
ノアお兄ちゃんは、驚いた様子でそう呟いた。
「お姉ちゃんだって、普通の女の子だからね」
「僕はあのようにか弱い方を、無理矢理王にしようとしていたのか……」
「ノアお兄ちゃん。間違った時はね、ごめんなさいって素直に謝ればいいんだよ。誰だって間違うことはあるんだから」
「許して、頂けるのだろうか……」
「大丈夫。今のノアお兄ちゃんならきっと、大丈夫!」
そんな事をノアお兄ちゃんと話していたら、お姉ちゃんがこっちに気付いたようで駆け寄ってきた。
「あの、パメラ様……」
「ノア!」
謝ろうとしたノアお兄ちゃんを、お姉ちゃんは思いっきり抱き締めた。
「やっぱり私は貴方の王様にはなれない。世界なんて要らない。強い力も権力も要らない。大切な家族の幸せを守れる力だけあればいいの! その中には貴方も含まれているわ。だって貴方は私の血を分けた、大切な弟なんだから!」
ノアお兄ちゃんは、お姉ちゃんの目を真っ直ぐ見て言った。
「パメラ様、申し訳ありませんでした。貴方の気持ちを考えもせずに、僕の気持ちだけを押し付けて、傷付けてしまいました。僕は貴方に幸せで居て欲しい。だからこれからは、貴方の望む幸せを、笑顔を守れるように、頑張っていきたいと思います」
ノアお兄ちゃんのその言葉で、お姉ちゃんの引っ込んでた涙がまた出てきてしまった。でもそれは悲しみから来るものじゃなくて、喜びから流れたものだから、よしとしよう。
「フレデリックさん。酷いことをして、本当にすみませんでした」
「ノア君。君は人々を操りはしたけど、決して殺しはしなかった。それはどこかに迷いがあったからだろう?」
「はい。昔、パメラ様は仰いました。生きるために必要な命以外は奪うなと。本当の意味でそれを破る覚悟がまだ、僕には出来ていなかったんだと思います」
「大丈夫。これからまだやり直せるよ。誰にだって間違うことはあるし、自分の過ちに気付けたノア君は、すごいと僕は思うよ」
フレディお兄ちゃんは、そう言ってノアお兄ちゃんの頭を優しく撫でてあけだ。
「良かったわね、ノア。本当のお兄ちゃんだと思って、フレディにいっぱい我が儘言っていいわよ」
「いえ、その、僕は……」
「困った事があったら、何でも相談にのるよ。言いにくい事なら、レイラにも内緒にしてあげるから大丈夫。僕の口は固いからね」
操られたフレディお兄ちゃんに連れ去られた時はどうなる事かと思ったけど、こうして皆が無事に居られて本当に良かった。
「これで母上の見た予知夢もきっと回避できるだろう。アリシア、これも君のおかげだ。本当にありがとう」
「フォルネウス様がこれまで一生懸命頑張って来られたおかげですよ。あの時パーティー会場で人々の心を動かせたのは、間違いなくフォルネウス様の頑張りのおかげなのです」
人々を助けるために、苦悩しながらも蒼の吸血鬼討伐任務に励んで来られたフォルネウス様の努力があったおかげだ。それがなければ、正気に戻った人々を統率して安全に逃がす事は出来なかっただろう。
「いいや、アリシアのおかげだ。君の奇跡の力が無ければ人々を助ける事は難しかったのだからな」
「私がこの力に目覚めることが出来たのは、フォルネウス様が私を助けてくださったおかげです。だからやっぱり、フォルネウス様のおかげなんですよ!」
「それならあの時俺を助けてくれたアリシアが、誰よりも可愛くて魅力的だったおかげだ。だからやはり……」
「貴方達二人のおかげよ」
いつの間にかこちらに歩いてきていたお姉ちゃんに言われた。
「この世界をこんなにも優しい愛で満たしてくれたのは、貴方達二人が頑張ってくれたおかげよ。本当にありがとう」
「アリシア、フォルネウス。君達は僕に、知らなかった色んな感情を教えてくれた。驚き、戸惑い、悲しみ、思いやり、楽しさ、そして希望。狭まった視野では知り得ることが出来なかった、愛に溢れた優しい世界。何も知らなければきっと僕は、取り返しのつかない事をしていただろう。止めてくれてありがとう」
「当たり前じゃない、だってノアお兄ちゃんは大切な家族なんだから!」
「ノアさん、これから沢山の幸せを見つけていきましょう!」
「そう出来たらいいけど、これだけ迷惑をかけちゃったからね……」
ノアお兄ちゃんは壊れた建物に視線を移した。確かに、結構派手に壊れている。
「安心しなさい、ノア。こういう時こそ、アザゼルの遺産を使えばいいのよ! お城の修繕費用は私が出してあげるわ。それに蒼と紅の吸血鬼のトップに、奇跡の聖女様までここに揃っているのよ。皆で謝れば何とかなるわよ」
「壊れた建物、私の回帰魔法で直そうか?」
「え、こんなに広範囲を直せるの?!」
「やってみるね」
壊れた建物に手を当てて、私は「リバース」と回帰魔法を唱えた。
「すごい、元通りになった」
「アリシア、すごいわ!」
「本当に見事だね」
よかった、何とか直せたみたいだ。でも流石にこれは疲れたな。よろめいた体をフォルネウス様に支えられた。
「無理しすぎだ。アリシア、俺の血を飲んでこのまま休むんだ」
フォルネウス様にお姫様抱っこされてしまった。
「ありがとうございます」
疲れていた体は限界だったようで、フォルネウス様の血を頂きながら、いつの間にか眠ってしまった。
その後皆で保護されたアーサー王の所へ謝罪に行ったら、お姉ちゃんの言葉通り何とかなったらしい。
「人々を憎む環境を作ってしまった。本を正せば奴隷制度を強いていた過去のリグレット王国の在り方に問題があったせいでもあります。大きくみればノア、彼もその被害者です。フォルネウス殿下、彼の処遇はそちらにお任せしてもよろしいでしょうか?」
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