悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

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70、異世界でも普遍的な美味しさは通じるかな?

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 翌日、私はお父様の執務室へ来ていた。

「よく来てくれたね、リオーネ。彼はレクザ、懇意にしているロベルタ商会の商人だよ」

 紹介された暗緑色の髪の毛をハーフアップにした背の高い男性レクザさんは、流れるような所作で丁寧な挨拶をしてくれた。

「お初にお目にかかります、お嬢様。レクザと申します。以後お見知りおき頂ければ幸いです」

「はじめまして、レクザさん。リオーネ・ルシフェン・レイフォードです」
「レクザは私の乳兄でね、魔道具から一般雑貨まで幅広く取り扱うロベルタ商会を経営しているんだ。君のアトリエに必要なものを取り寄せたりもしてくれたんだよ」

 なんと! あの財力チートなアトリエの道具を揃えてくれた人なのね!

「そうなのですね! レクザさん、その節は誠にありがとうございました」

 姿勢を正し、右足を引いて裾をさっと持ち上げて礼を尽くす。

「どうか顔をおあげください、お嬢様! 平民の俺にそのような事、必要ありませんから!」

 敬意をこめてお礼を伝えると、驚かれてしまった。

「素敵なアトリエを作るのに貢献してくださったんですもの、感謝の気持ちを伝えるのは当然の事です!」
「フフフ。レクザ、うちの娘は良い子だろう」
「ロナルド様に似ず、良い子すぎてびっくりですよ!」
「ほほぅ、私は良い子ではなかったと?」
「誰がどう見ても悪童だったでしょう……」

 あれ、お父様って昔はやんちゃしていたのかしら? 想像つかないわ。でも二人のやり取りを見るに、とても親密な関係だったのはよく分かる。

「実はロベルタ商会で、リオーネのウォーターガンの依頼受付と販売をしてもらおうと思っているんだ。魔道具を扱っていて、普段から貴族相手の商売には慣れているし、防犯の面もしっかりしている。彼の店で依頼を請け負い、その都度必要な分をリオーネに作って欲しいと思っているのだけど、いかがだろう?」
「はい。それは構いませんが、良い素材は直接取りに行かないと手に入らないので、現状は普通品質のものしか作れませんが大丈夫ですか?」

 良いものは素材を厳選して作らないと出来ないけれど、セシル先生が居ないと外に採取はいけないし。

「必要な素材に関しては、レクザの方で揃えてもらう予定だから心配しなくて大丈夫だよ」
「レクザさんのお店、錬金術の素材も取り扱っているのですか!?」
「リューネブルク王国との取引もよくしていますので、仕入れに関しては任せてください! もしお嬢様が必要な素材があれば、一緒に仕入れることも可能なので気軽に仰ってくださいね」

 神だ!
 素材神がここにいらっしゃるぞ!

「はい、ありがとうございます!」
「それでリオーネ、価格については何か分かったかい?」
「お父様、昨日先生に錬金術ギルドに連れていってもらって鑑定してきました。こちらがウォーターガンの鑑定証です」

 鑑定証を確認して、お父様が残念そうに口を開いた。

「私の読みは少し甘かったようだね。粗悪品でもこの価格がつくとは……リオーネのアイテムを過小評価していたなんて!」

 それで残念がるの!?

「お父様、これと同じ普通品質のウォーターガンでよければ倉庫に20個程は在庫があります」

 転送バッグから試しに一個取り出して見せた。

「お嬢様、拝見させて頂いてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」

 レクザさんはジャケットの胸ポケットから小型ルーペを取り出して、ウォーターガンを観察し始めた。

「これなら1500万リルで売れますね」

 1500万リル×20=3億リル
 なんかもう、お金の価値がよく分からなくなってきた。

「給水時間の短縮機能もつけていないのに、そんなにするんですか!?」
「ええ、これだけの量の水をこんなに小さい容器に貯めて持ち運べる。しかも水の出力量まで細かに調整出来る。魔力燃料も使わずにそれだけの事が出来れば、この値段は妥当です」

 レクザさんの話では普通品質でも、給水時間短縮効果をつければ+500万リルはいけると。色も変えれますと言ったら、それで+100万リルらしい。

 利益の分配については、お父様とレクザさんが話し合い、原材料費と販売手数料(売価の二割)がロベルタ商会の取り分。

 売価の八割から用意してもらった原材料費を引いた金額がこちらの取り分になるように決まった。

 これでお父様が大量の手紙に悩まされる心配もなくなるだろうし、よかった。

 依頼人と直接やり取りするって、大変だし頼めるものは頼んでしまった方がいいだろう。ウォーターガンのせいで、お父様の外交のお仕事に支障が出ても困るし。

「それではお嬢様、ロナルド様、今日はこれで失礼します。これからどうぞよろしくお願いします!」

 レクザさんは意気揚々と軽い足取りで帰っていかれた。

「リオーネ。先日のお礼をしたいと陛下からお言葉を賜ってね。三日後、私と共に登城してくれるかい?」
「はい、分かりました。それでは私も失礼します」

 やった、リヴァイに会えるかもしれない。あの楽曲の謎を解き明かす絶好の機会だ!



 アトリエに戻ると、先生にもらったマジックブックが光っていた。どうやらメッセージが来ているらしい。

『エルンスト君に銀蝶花の事を話したら、是非詳しい話を聞きたいそうです。近いうちにアトリエに顔を出すそうなので、お相手してもらえると助かります』

 近いうちって、いつだろう。そう思っていたら、コンコンとノックの音が。まさか……

「やぁ、リオーネ嬢。先日は世話になったね、ありがとう。実は銀蝶花について、詳しい話を聞かせて欲しくて来たのだけど……」
「リオーネ、兄上が突然押し掛けてすまない」

 近いうちが、こんなに近いとは夢にも思いませんでしたよ、先生!

 思い立ったが吉日。
 エルって、そんなキャラだった。
 行動力、なめてたわ。

 とりあえず二人を中へご案内して座ってもらった。
 くっ、エルンスト様も一緒では聞けないじゃないか。折角リヴァイに会えたのに……

「また作れるアイテムが増えたんだな」

 二人を案内した試食テーブルには、私が今作れる飲み物と、お菓子を書いたメニュー表を置いている。

 最近はお兄様が寄ってくれた時に、そこから選んでもらってるんだよね。作れるアイテムが増えたから!

「はい! その中のメニューでしたらすぐに作れます。普通のお茶が良ければ侍女をお呼びしますが、いかがなさいましょう?」
「俺はリオーネが作ったものがいい。はちみつジンジャーを飲んでみたい。兄上は何になさいますか?」
「聞いたこともない飲み物ばかりだな。ちなみにリオーネ嬢のオススメは?」
「そうですね……温かいものと冷たいものではどちらがよろしいですか?」
「冷たい方がいいな」
「まろやかなものと爽やかなもの、どちらがよろしいですか?」
「爽やかな方がいいな」
「それでしたら、オリジナル錬金ジュースのクラフトコーラをお持ちしますね」
「それ、リオーネのオリジナルなのか?」
「はい、そうですが……」
「やっぱり俺もそれがいい!」
「かしこまりました、少々お待ちください」

 パンチのきいたコーラが飲みたくて、錬金術で再現したんだよね。

 倉庫から急いで材料を取ってきて、錬金釜に放り込む。クラフトコーラの材料は『良質な水』、『レモン』、『特性スパイス』の三種類。ちなみに特性スパイスは、コーラの味に近いものを再現するために私がこだわって作ったオリジナルレシピでもある。

 錬金術って料理系も色々アレンジ出来て楽しいんだよね。ついでに、コーラのお供のお菓子も一緒に作る。

「すごいな……」

 初めて錬金術をご覧になったのか、エルンスト様は私がクラフトコーラを作る姿を見て感嘆の声を漏らした。

「リオーネはすごいんです!」

 リヴァイはそう言って、自分の事のように嬉しそうに顔を綻ばせる。その破壊力抜群の笑顔、心臓に悪い。

 戸棚から取り出したグラスに倉庫で作っておいた氷を入れて、出来上がったクラフトコーラを注ぐ。気を付けないと泡がこぼれちゃうから慎重に!

 コースターをセットして、二人にクラフトコーラをお出しした。そしてコーラに欠かせないお菓子も一緒にね!

「どうぞ、召し上がってください。このカタールポテトと共に食べると美味しさ倍増です」

 カタールポテト、それは前世のじゃがいものお菓子を模して作ったジャンクフードだ。

 ほんのり塩味のする、あのカリッっと食感を味わいながら流し込むコーラは最高だよね。

 ちなみに先生にはこのセットを出した事はない。先生は気品があって優雅なイメージだから、紅茶片手に上品なお菓子が似合う。

 でもバリバリ体育会系のエルンスト様なら、この組み合わせに共感してくれるんじゃないかと勝手に親近感を持っているから、出しても問題ないだろう。

 カタールポテトを食べてクラフトコーラを飲んだエルンスト様は、「これは美味いな!」と絶賛してくれた。

 やっぱりね!
 異世界でも、この普遍的な美味しさは一緒なのだ!
 さらにチョコレートもあれば、なお最高なんだけどね。

「リヴァイも食べてみてください」
「ああ、いただこう」

 リヴァイがカタールポテトを食べるのを緊張しながら見守った。もし彼に私と同じ世界の記憶があれば、このお菓子を知っているかもしれないから。

「甘くない菓子は珍しいな。サクサクして軽やかな食感で食べやすく、シンプルな味付けながらも美味しい」

 この反応を見る限り、どうやら食べるのは初めてのようだ。やはりリヴァイには前世の記憶はないのだろうか……

「リヴァイド、これも飲んで見ろ。美味いぞ!」
「はい、兄上」

 クラフトコーラを飲んで、リヴァイはとても驚いた表情で言った。

「ほとばしる清涼感に、仄かな甘味……確かにこの組み合わせは最高だ! 癖になる美味しさだ!」

 大変喜んでくれてよかった。よかったんだけど、リヴァイは前世の曲をどこで知ったんだろう。謎は深まるばかりだった。

 出来ればリヴァイと二人の時に確認したいし、今はエルンスト様に銀蝶花の事を教える方が先だよね。

 私が席に着いたところで、エルンスト様が本題に入られた。
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