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4、悪肉退散! 悪肉退散!

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 シャドウクロツ領は、他の領地に比べて魔物の出現数が桁外れに多い。それでも流石に屋敷内には出ないだろうと思っていたら――

「キャー!!」

 女性の悲鳴が聞こえて庭に出ると、普通に居た。醜いオークが。

「グキキ?」

 私は魔物の中で、一番オークが嫌いだ。何故かって? それは、義家族を思い出すからだ!

 ああ、血が滾る。

「勝手に屋敷に入ってくんな!」

 個人的な恨みと聖気を込めて、憎きオークに腹パンしたら、オークがふっ飛んだ。

「ふぅ……また汚ない肉を殴ってしまったわね」

 ムクッと起き上がったオークに「勝手に屋敷に入ってきてはダメよ」ときつく言い聞かせて帰らせた。綺麗になった肉に用はない。

「奥様、ありがとうございます!」
「リリー、怪我はない?」
「はい、ございませんよ」
「それならよかった。リリーはいつもふかふかのベッドを用意してくれるから、大好きよ」
「そのように仰って頂けて嬉しい限りです」

 ここのメイドさん達は皆優しいから好きだ。スノーレンス伯爵家のように、私を蔑む者は居ない。契約妻だと皆きちんと理解してくれてる上で、私が不自由しないように尽くしてくれる。だからこんな汚ならしいオークのせいで、怪我なんてしてほしくない。


「だ、だれかー!」

 今度は何かしら?

 急いで声のした調理場へ駆けつけると、そこには冷蔵庫を漁るゴブリンの姿があった。
 屋敷内にまで、魔物が入ってくるの?!

 ゴブリンが手にしていたもの、それは私の大好きなリンゴだった。だめ、それは私のデザートよ!

「私のリンゴを返しなさい!」

 聖気を込めた拳で拳骨すると、ゴブリンはごめんなさいと言わんばかりにリンゴを差し出してきた。

「返してくれるなら、許してあげるわ」
「キキキ!」
「でも、勝手に屋敷の中に入ってきたらダメでしょう? 皆驚くじゃない」
「キキー……」
「そう、反省してるのならいいわ。次からはしない?」
「キキッ!」
「用事がある時は、きちんと玄関から! 事前に約束をしてから来るのよ、分かった?」
「キキッ!」
「じゃあ、そろそろお家に帰りなさい」
「キキッ!」

 ゴブリンは窓から帰っていった。

「あの、奥様……」
「どうしたの? ヨーゼフ」
「魔物の言葉が分かるのですか?」
「何となく言いたいことは伝わってくるわね」
「最近よく食材が無くなっている事があって困っていたので、助かりました。ありがとうございます!」
「きっとゴブリンがバレないように持ち去っていたのね。それよりも、怪我はない?」
「はい、大丈夫です」
「よかった。貴方の作るご飯、美味しいから大好きよ」
「あ、ありがとうございます! 奥様に喜んで頂けて嬉しい限りです!」
「私、リンゴ好きなの。これで美味しいデザートが食べたいなぁ……」
「お任せください! 腕によりをかけて、美味しいリンゴのデザートをお作りします!」
「ありがとう、期待してるわ!」

 やった、美味しいデザート楽しみね。
 その日の晩、ヨーゼフは美味しいリンゴのタルトを焼いてくれた。ほっぺたが落っこちそうになるくらい、とても美味しかった。

 その翌日からも、屋敷の敷地内に魔物が勝手に入り込んで来ることがあった。屋上にキメラが巣を作ろうとしたり、庭園をウルフが荒らしていたり、その都度私は汚ないお肉を殴って浄化する日々を送っていた。

 流石に毎日屋敷の敷地内に魔物が入り込んでくるのはよろしくない。私が駆けつけるのが間に合わなければ、使用人の誰かが怪我をする可能性がある。私の魔法で治療はしてあげられるけど、痛い思いはなるべくしてほしくない。

 契約にあるジルフィード様とのお食事の時に、屋敷の防犯管理がどうなっているのか確認する事にした。

 そうして迎えたお食事の日。いつもより早く屋敷に戻られたジルフィード様と夕食を共にした。

「あの、ジルフィード様。お伺いしたい事がございます」
「どうした?」
「最近毎日敷地内に魔物が侵入しています。邸宅の防犯管理がどのようになっているのか、お伺いしたいのですが」
「なんだって?! それは誠か?!」

 あれ、知らなかったのかな?
 そういえばこの一週間、屋敷でジルフィード様のお姿を全く拝見してなかったわね。

「邸宅の敷地内には魔物が入れぬよう、結界を施している。よほどの魔物でない限り入ってくるのは不可能なはずだが……」
「オークにゴブリン、キメラにウルフ、その他にも低級の魔物を多数お見かけしましたけど……」
「その魔物は、どうしたのだ?」
「殴りました」
「君が退治したのか!?」
「退治というか、殴って更正させただけです」
「……怪我はないか?」
「はい。幸い使用人達は皆無事です」
「いや、君に怪我はなかったかと聞いているのだ」
「ああ、私は怪我しても治せるから大丈夫ですよ。ご心配してくださり、ありがとうございます」
「ベルナデッタ、契約内容を少し変更してもいいだろうか?」
「またですか!?」

 どんどん規則が厳しくなっていくのは嫌だな。ジト目でジルフィード様をみてると、ある提案をされた。

「分かった、こうしよう。契約内容を変更する際は申し出た方が、相手の言うことを何でも一つ聞く。これならどうだ?」
「つまり契約内容を変更したら、私の望みをジルフィード様が一つ叶えてくださるって事ですか?」
「そういうことだ」
「分かりました。それで契約はどのように変更を?」
「君には今後、護衛をつけたい。万一の事があっては困るからな。屋敷の結界は今一度張り直すから、安心してくれ」
「分かりました。お願いします」

 その日、契約書に新たな契約が追加された。

10、安全のために、移動する際は必ず護衛騎士を伴う事

「それで、君の願いは?」
「私、バトルグローブが欲しいんです! だから、良い武器屋を紹介してもらえませんか?」
「護衛の意味……」
「何か仰られました?」

 ボソッと呟かれたせいで、よく聞こえなかった。

「いや、何でもない。今度一緒に買いにいくか?」
「よろしいのですか?」
「ああ。来週の安息日でも良いか?」
「はい、いつでも大丈夫です!」

 やった、これでもっと強大な汚ないお肉も殴れるわ!
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