森と白いカナリア

たなか

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白いカナリアと妹

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 あるところに二人の姉妹がいました。
 姉妹の家は貧乏なので、二人は近くの森で花や木の実を取り、近くの村で売って生活していました。

 妹は森で花畑や木の実のたくさん成る木を見つけると、姉にも教えて一緒に取りました。
 自分の取り分が減っても、姉にも教えて一緒に取りました。

 姉は森で花畑や木の実のたくさん成る木を見つけても、妹には教えず一人で黙って取って、さっさと村に行き売っていました。
 自分が取ったあと、妹が花や木の実を取れるくらい余っていても、教えませんでした。

 ある日、姉妹はいつものように森に来て、妹が木の実のたくさん成る木を見つけました。

 「お姉さん、木の実の成る木を見つけたわ。一緒に取りましょう」

 妹は姉にも教えて、一緒に木の実を取りました。
 姉は自分の分を取り終えると、なんと妹の集めた実をかごごと取り上げ、あっという間に去ってしまいました。
 妹は、これまで姉にこんなことをされたことはなかったので、とても驚き、そして悲しみました。

 しかし悲しんでばかりもいられません。
 村に行って何かを売り、お金を持って帰らないと、お父さんとお母さんに怒られてしまいます。
 木の実はもう、手の届かないところにしか成っていません。
 かごも取り上げられてどうしようと妹は困りました。
 そこで、被っていた頭巾を外してかご代わりにすることにしました。

 するとぴゅう、と風が吹き、頭巾が飛ばされてしまったのです。
 妹は慌てて頭巾を追いかけ、森のさらに奥へと入っていきました。

 風に飛ばされた頭巾はやっと止まり、妹はそれを拾いました。
 ふと見上げると目の前に、白く輝くような美しい花を咲かせる木が生えています。
 花は妹の手の届かないところに咲いています。これを摘んでいくのは無理でしょう。
 
 花を取るのは諦めて、妹は暫く美しい花を見あげていました。
 綺麗な花を見ていると、さっき感じた悲しみが消えていくようです。
 木を見上げていると、木のてっぺんの白い花が舞い降りて来ました。
 それはよく見ると、真っ白なカナリアでした。
 カナリアは歌を囀ずりながら、妹の肩に止まりました。

 「こんにちは、カナリアさん。あなたのおうちはとっても綺麗で素敵ね」

 妹がカナリアの住む美しい花を咲かせた木を誉めると、カナリアも嬉しそうに歌いました。

 カナリアは妹の肩から飛び立ち、花を一輪摘むと咥えて妹の元に戻ってきました。

 「まぁ!この花をくれるの?」

 カナリアは頷くように肩でぴょんと跳ねます。
 妹はとても喜び、お礼を言いました。

 「ありがとう、親切で綺麗な白いカナリアさん」

 カナリアは妹の肩から飛び立ち、周りをくるりと一周すると木のてっぺんへ帰っていきました。

 妹は輝くように美しい花を手に、花畑か木の実の成る木を探して歩きだしました。
 カナリアから貰った花は売りません。一輪しかありませんし、なによりカナリアが贈ってくれた大事な花ですから。

 妹は花畑や木の実の成る木を探しながらも、どうしても美しい花に見とれてしまいます。
 花に見とれて歩いていると、いつの間にか野苺の花畑にたどり着いていました。

 妹は野苺を頭巾にたくさん取って、村に売りにいきました。
 白い花が目印になるのか、村の人たちがすぐに集まってきて野苺はすぐに売れました。

 妹は家に帰り、野苺を売ったお金をお父さんに渡しました。
 それを見た姉は、木の実もかごも取り上げたのに、何を売ってきたんだろうと気になりました。

 「あんた、一体何を売ってきたの」

 姉が妹に聞くと、妹は答えてくれました。

 「野苺の成った花畑を見つけたから、頭巾に摘んで村に売りに行ったのよ」

 それを聞いた姉は面白くありませんでした。
 妹の分を取り上げて自分が売ったかご2つ分の木の実と、かごより少ない頭巾に摘んで妹が売った野苺が、同じくらいのお金になっていたからです。

 次の日も姉妹は森に行きました。
 機嫌の悪い姉は、妹を置いて一人で花畑や木の実の成る木を探しに行ってしまいました。
 妹も一人で花畑や木の実の成る木を探しに行きましたが、それよりも先にあの白いカナリアに会いに行くことにしました。
 かごに隠していた花をそっと取り出しました。昨日、姉に木の実を取られたので、大事な花は隠しておいたのです。

 花を片手に歩いていくと、あの木にすぐ辿り着きました。
 木は変わらずに美しい白い花を咲かせています。

 「カナリアさーん」

 妹が呼ぶと、木のてっぺんからカナリアが降りてきて、また肩に止まりました。

 「カナリアさん、昨日はお花をありがとう。お礼にビスケットを持ってきたのよ」

 妹はカナリアのためにおうちでビスケットを焼いてきたのでした。
 カナリアは嬉しそうに歌い、ビスケットを食べました。

 ビスケットを食べ終わったカナリアは、跳ねるように目の前を歩き出しました。ついてきて!と言われている気がして、妹はカナリアの後ろを歩いて行きます。
 すると、綺麗な菜の花が咲く花畑に辿り着きました。

 「綺麗な菜の花畑ね!ここに案内してくれたの?ありがとう、カナリアさん」

 妹がお礼を言うと、カナリアは機嫌よく歌を歌い、周りを飛び回ります。
 妹が菜の花を摘んでいると、姉も菜の花畑にやってきました。

 「あ、お姉さん!菜の花畑よ!」
 「そんなの言われなくても見ればわかるわよ」

 姉はそう言うと、黙って菜の花を摘みました。姉の機嫌がまだ悪いのを感じて、妹も黙ります。
 楽しそうに周りを飛び回っていたカナリアも、木の影に止まってじっとこちらを見ていました。

 姉はめいっぱいかごに菜の花を摘むと、妹のかごを見ました。そこには昨日カナリアに貰った美しい花がありました。
 姉はそれをすぐに取り上げました。
 花を取り上げられてから、妹は花を隠すのを忘れていたのに気づきました。

 「お姉さん!お花を返してちょうだい!」
 「ふん!あんたばっかりいいものを取ってアタシを出し抜いてるつもり?見つけたならちゃんと教えなさいよね!罰としてこの花は没収よ、あんたはまた自分で取りなさい!」
 「だめよ、返して!」

 妹が花を取り返そうと手を伸ばすと、姉は生えている菜の花を乱暴にちぎって妹の顔に向かって投げつけました。
 その隙に姉は走って逃げて行きました。妹は花を取り上げられ、顔に菜の花を投げつけられてとうとう泣き出してしまいました。

 カナリアが降りてきて、妹の肩に止まり慰めるように優しい歌を歌います。
 妹は泣き止みましたが、まだ悲しそうにしていました。
 カナリアは妹をまた花の木まで連れていくと、また花を摘んで妹にあげようとしました。

 「いいのよ、カナリアさん。取られちゃった私が悪いのだわ。また取られるかもしれないし、もうお花は摘まなくていいわ」

 妹はそういうと木を見上げていました。やっぱりこの美しい木を見上げていると、悲しくてささくれ立った心が穏やかになっていくのを感じます。

 カナリアは花を摘むのをやめるとどこかへ飛んでいきました。

 その頃、姉は村に着いて菜の花と妹から取り上げた白い花を売ろうとしていました。
 姉の上を白いカナリアが飛んでいきます。
 カナリアは何かを落としました。
 それは姉がちぎって妹に投げつけた菜の花でした。菜の花が姉の持っていたかごの上に落ちると、かごの中の菜の花から虫が沸いて出てきました。
 姉は悲鳴をあげてかごを投げ捨てました。
 こんな虫の沸いた菜の花は売り物になりません。
 姉はならばと手に持っていた妹から取り上げた花を見ました。
 それも不思議なことに、みるみるうちに枯れていき、売り物にならなくなりました。

 売るものがなくなってしまった姉は、苛立ちながらまた何か取りに森に行こうとしました。
 その時、遅れて妹が村に着きました。
 妹の菜の花は虫も沸かず、問題なく売られていました。
 輝く花も見つからなかったのか持っていません。もしまた持っていたら没収しようと思っていた姉はがっかりしました。

 村人に囲まれる妹から菜の花を奪うわけにもいかないので、姉は大人しく森に行きました。
 しかし、あの菜の花畑はもう見つかりませんでした。
 仕方なく姉はそこらへんの野草を摘んで売りましたが、大したお金にはなりませんでした。

 次の日も、姉妹は森に行きました。

 昨日もそのまた前の日も姉が妹に意地悪をしたので、妹ももう姉には話しかけませんでした。
 二人は黙って森に入り、そして別れて花畑や木の実を探し始めました。

 姉は、別れるふりをしていました。こっそり妹の後をつけていました。
 また何か、自分よりも先に良いものを妹が見つけるのではないかと思ったからです。

 妹の後を着いていくと、なんと昨日売り損なった美しい花の咲いた木が生えていました。

 姉は出ていって妹を責めました。

 「何故木のことを教えなかったの!意地汚い!あんたは小さい頃はあたしに着いてくるばっかりで何もできなかったくせに、少し大きくなってからはあたしに意見したり、森でもあたしより良いものを見つけたりして生意気なのよ!人のこと馬鹿にして、あんたは性格の悪いグズよ!」

 妹は姉が突然背後から飛び出し、自分に怒りだしたことで震えて何も喋れませんでした。
 終いに姉は妹を突き飛ばしました。
 そして美しい花を咲かせる木に駆け寄ると、登り始めました。花を手折り、村で売ろうとしているのです。

 すると木のてっぺんからカナリアが飛んできて、姉の顔を突き回しました。
 姉は木から転がり落ち、腹を立てて今度はカナリアを捕まえようとします。
 カナリアは飛び回って逃げ、姉は夢中で追いかけました。

 気づくとカナリアを見失い、森の外に出ていました。
 姉はまたあの木のところへ行こうとしましたが、辿り着くことはできませんでした。

 妹は木の根元に座り込み、落ち込んでいました。
 姉が最近冷たいと思っていましたが、ここまでのことを言われ、されるとは思っていなかったのです。
 家に帰れば姉がいてきっとまたひどいことを言われ、されます。
 妹は家に帰りたくありませんでした。

 姉に追いかけ回されていたカナリアは無事に帰ってくると妹の肩に止まりました。そして優しく歌い出します。
 それを聞いていると元気が出てきました。

 そして妹は、とりあえず今日は家に帰らず、この木の根元で夜を明かすことにしたのです。



 もうすっかり夜になりましたが、妹は帰ってきません。
 親たちは姉に、妹はどうしたのかと聞きました。姉は不機嫌そうに知らないわよそんなこと、と答えました。

 次の日も妹は帰ってきません。
 その次の日も、その次の日もです。

 季節が変わり、森の蒼さがいっそう増して、赤く色が変わり、そして枯れて散っていっても、妹は帰ってきません。

 姉は、お前がちゃんと見ていないからだと親から怒られました。
 妹が勝手にいなくなったのに!と姉は腹を立てました。

 親に言われて森を探し回りますが、どんなに探しても妹は見つかりません。
 あの美しい白く輝くような花を咲かせる木も、白いカナリアも見つかりません。

 姉は花畑や木の実を探すついでに、仕方なく妹のことも探しています。

 ずっと、ずっと、ずっと。 



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