森と白いカナリア

たなか

文字の大きさ
上 下
2 / 2

蛇足

しおりを挟む
 妹は木の根元で暮らしていました。
 食べ物は森で木の実が取れるし、木の根元は不思議なことにとても過ごしやすいのです。

 何日ほどいたのか妹は数えていなかったのでわからなくなってしまいましたが、少し気になったので家の様子を見にいくことにしました。

 「カナリアさん、ちょっと家を見てこようと思うの」

 妹がそう告げるとカナリアは妹の肩に止まりました。一緒に来てくれるようです。

 暫く帰っていませんが道順は忘れていなかったので、妹は森を出て家までの道筋を歩いていきました。
 久しぶりに歩く道はなんだか様子が変わって見えます。

 家のあった場所に辿り着きました。ですがそこには見慣れない家しか立っていません。
 どうやら、暫く帰らなかった内に家族は引っ越してしまったようです。

 妹は落ち込みましたが、何か知っているかもしれないとその見慣れない家のドアを叩きました。
 中からは優しそうな、だけれど知らないおじさんとおばさんが出てきました。

 「あの、ここに昔建ってた家に住んでいた人たちを知りませんか?」
 「私たちがここに住む頃には家は空き家でボロボロだったから知らないなあ」

 残念ながらおじさんとおばさんは家族のことを知りませんでした。
 妹はお礼を言って立ち去ろうとしましたが、せっかくきたんだからお茶でもと誘われ、おじさんとおばさんと一緒にお茶をしました。

 「そういえば、あなたって見たことない子ね。どこに住んでいるの?」
 「森の中に住んでいます」
 「女の子が森に一人で住んでるのかい?よければ部屋もあるから、ここで暮らさないかい?」

 優しいおじさんとおばさんは家族よりも自然と笑いあえて、気も合いました。
 妹はこの家の娘として暮らすことになったのです。

 肩に止まっていたカナリアは満足そうに元気に歌うと森へ飛んでいきました。

 家族がいなくなったのは寂しかったのですが、優しいおじさんとおばさんと一緒に、娘は幸せに暮らしました。



 娘は森の木の根元で暮らすのはやめましたが、毎日森に行きます。
 おじさんとおばさんのために、花や木の実を取って来ています。
 花は家の中を彩り、木の実でおばさんと娘で美味しいジャムを作ります。おじさんはそれが大好物だと言ってくれます。

 そしてたまに様子を見にきた白いカナリアとおしゃべりをし、あの木を見に行くのです。

 木は不思議なことにいつ見に行っても輝くような白くて美しい花を咲かせています。

 ずっと、ずっと、ずっと。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...