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出会いと別れ
悪いのは誰? 2
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それからのことは早すぎて覚えていない。
いつの間にか豪華そうなへやに通され、いつの間にか座らされ、いつの間にか豪華な食餌が目の前に運ばれてきた。
「たんとお食べ」
件の公爵夫人はニコニコしながら自分を見ている。
あまりに見られるので食べにくいなとは思いつつせっかくのご馳走にありつくことにした。
なるほどお貴族様は毎日こんなもん食ってんのか。
喉が乾いていたのでまずスープから頂くことにした。透き通った黄金色のスープは熱すぎず、しかし身体が芯から暖まるような温度であった。具は何も入っていないが、色んな食材の味がする。手間暇を掛けて作られていることがよく分かった。
次に手を付けたのはメインである肉料理だ。何の肉かは分からないが恐らく牛肉だろう。楕円に切られた肉が焼いたまま皿に乗っていて、なにやらハーブのようなものが乗っている。スープは何も使わずに食べられるが、これはどう食べたらいいのだろう。横にあるフォークで食べることは分かるが、フォークで食べるにしては楕円形の肉は大きすぎる。
肉を前にあたふたしていると、自分を見ていた公爵夫人が声をかけてきた。
「牛肉は嫌いか?嫌いならば別のものを用意する」
「あ……いえ、嫌いじゃない、と、思いま、す」
食べたこともない牛肉を嫌いかどうかは分からない。しかし高価なものだろう、胃に収めたい気持ちと食べ方が分からず恥ずかしい気持ちで声が詰まって上手く出てこなかった。
結局牛肉を胃に収めたい気持ちが勝ち、楕円形の牛肉にフォークを刺し、引きちぎりながら食べることにした。
マナーもへったくれもなく食べているところをあまり見ないで欲しいのだが、公爵夫人はニコニコしながら自分を見ている。貴族は動物を飼うというし、自分のことをペットだと思って見ているのだろうか。
そうして大体の料理を平らげ、味の濃い何かの飲み物を飲み干したところで使用人達が皿を下げた。
さて、と前置きして公爵夫人は口を開いた。
「君はこれからどうするつもりなのかな」
どうするつもりとは、どういうことだろうか。
このまま無事に帰してくれるのだろうか、それとも食事代として奴隷として慰み者にさせられるのだろうか。どちらにしてもタダでというわけではないだろう。どうお礼をしてくれるのかと聞いているんだろうか。
「自分には何もありません。お礼に差し出せるのはこの身だけです。煮るなり焼くなりしてください」
最期にこんなに豪華な食事が食べれたのだ。何の悔いもない。奴隷だけは勘弁して欲しいが、それ以外なら何でもよかった。
「そういうことを言っているのではないよ。これからどう生きていくのかと聞いているのだ」
「え、……か、このまま帰してくださるのですか」
もちろんだとも、と公爵夫人はその笑みを深めた。
「君が私を満足させることが出来れば帰してあげよう」
「満足………ですか」
なるほどどうやら後者だったようだ。まあ公爵夫人の情人なら、何不自由なく生きていけるだろう。「そういう」ことも知らない訳ではない。仕方がない。こうなった以上流れに身を任せるか。
しばらく考えていると、公爵夫人は思い立ったように口を開いた。
「そういえば君の名前を聞いていなかったな。名はなんという?」
単純に驚いた。高貴な身分の御方が貧民の名前を知りたいと思うなんて。やはりこの人は想像していた貴族とは大きくかけ離れていると、改めて思った
公爵夫人に名乗る機会なんて普通の人間なら無いだろう。しかし偽ることにも意味がない。正直に答えよう。
「自分には名はありません」
いつの間にか豪華そうなへやに通され、いつの間にか座らされ、いつの間にか豪華な食餌が目の前に運ばれてきた。
「たんとお食べ」
件の公爵夫人はニコニコしながら自分を見ている。
あまりに見られるので食べにくいなとは思いつつせっかくのご馳走にありつくことにした。
なるほどお貴族様は毎日こんなもん食ってんのか。
喉が乾いていたのでまずスープから頂くことにした。透き通った黄金色のスープは熱すぎず、しかし身体が芯から暖まるような温度であった。具は何も入っていないが、色んな食材の味がする。手間暇を掛けて作られていることがよく分かった。
次に手を付けたのはメインである肉料理だ。何の肉かは分からないが恐らく牛肉だろう。楕円に切られた肉が焼いたまま皿に乗っていて、なにやらハーブのようなものが乗っている。スープは何も使わずに食べられるが、これはどう食べたらいいのだろう。横にあるフォークで食べることは分かるが、フォークで食べるにしては楕円形の肉は大きすぎる。
肉を前にあたふたしていると、自分を見ていた公爵夫人が声をかけてきた。
「牛肉は嫌いか?嫌いならば別のものを用意する」
「あ……いえ、嫌いじゃない、と、思いま、す」
食べたこともない牛肉を嫌いかどうかは分からない。しかし高価なものだろう、胃に収めたい気持ちと食べ方が分からず恥ずかしい気持ちで声が詰まって上手く出てこなかった。
結局牛肉を胃に収めたい気持ちが勝ち、楕円形の牛肉にフォークを刺し、引きちぎりながら食べることにした。
マナーもへったくれもなく食べているところをあまり見ないで欲しいのだが、公爵夫人はニコニコしながら自分を見ている。貴族は動物を飼うというし、自分のことをペットだと思って見ているのだろうか。
そうして大体の料理を平らげ、味の濃い何かの飲み物を飲み干したところで使用人達が皿を下げた。
さて、と前置きして公爵夫人は口を開いた。
「君はこれからどうするつもりなのかな」
どうするつもりとは、どういうことだろうか。
このまま無事に帰してくれるのだろうか、それとも食事代として奴隷として慰み者にさせられるのだろうか。どちらにしてもタダでというわけではないだろう。どうお礼をしてくれるのかと聞いているんだろうか。
「自分には何もありません。お礼に差し出せるのはこの身だけです。煮るなり焼くなりしてください」
最期にこんなに豪華な食事が食べれたのだ。何の悔いもない。奴隷だけは勘弁して欲しいが、それ以外なら何でもよかった。
「そういうことを言っているのではないよ。これからどう生きていくのかと聞いているのだ」
「え、……か、このまま帰してくださるのですか」
もちろんだとも、と公爵夫人はその笑みを深めた。
「君が私を満足させることが出来れば帰してあげよう」
「満足………ですか」
なるほどどうやら後者だったようだ。まあ公爵夫人の情人なら、何不自由なく生きていけるだろう。「そういう」ことも知らない訳ではない。仕方がない。こうなった以上流れに身を任せるか。
しばらく考えていると、公爵夫人は思い立ったように口を開いた。
「そういえば君の名前を聞いていなかったな。名はなんという?」
単純に驚いた。高貴な身分の御方が貧民の名前を知りたいと思うなんて。やはりこの人は想像していた貴族とは大きくかけ離れていると、改めて思った
公爵夫人に名乗る機会なんて普通の人間なら無いだろう。しかし偽ることにも意味がない。正直に答えよう。
「自分には名はありません」
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