上 下
49 / 135
第一章 高校二年生編

第49話 かのんちゃんは興味がある

しおりを挟む
「お、颯太。いらっしゃい」

「お邪魔します」

 インターホンを鳴らすと、目つきの悪い少し派手目の女性に招き入れられる。

「そっちが、本宮花音ちゃんかな?」

「は、はい。そうです」

「話は聞いてるよ。どうぞ入って」

「お、お邪魔します」

 花音は緊張気味にお辞儀をすると、俺の後に続いて家に入る。

「私、夜まで出てるから、ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます」

 ちょうど家から出るところだったのか、着飾っていたその女性は俺たちと入れ替わるように出かけていった。

「……緊張した?」

「……かなり」

 花音は固くなっていた。
 初めて会う、友達の親というのは緊張するものだ。加えて見た目も派手で目つきも悪い一見ヤンキーのような風貌に、俺も最初は緊張したものだ。

「虎徹のお母さん、結構気さくで話しやすいから大丈夫だと思うよ」

 見た目と性格は異なるもの。
 人を寄せ付けない見た目こそしているが、中身は話しやすい良い人だ。

「とりあえず、虎徹は部屋にいるって連絡来てたから、行こっか」

 よく来て慣れている俺は、初めての花音を案内し、虎徹の部屋へと向かった。



 クリスマス当日、俺は花音と待ち合わせをして虎徹の家に向かった。
 ……とは言っても、家の近くのコンビニでだが。

 今日の予定は、午前中は虎徹の家でゲームでもしながらご飯を食べ、昼過ぎに買い物をしつつイルミネーションを見てからケーキを買って家に戻り、夜はまたゲームをしたり映画を見ながら家でゆっくりとするという流れだ。

 溜まり場にしているため俺と若葉は虎徹の家を当然知っているが、花音は初めてだ。
 俺が向かうついでに待ち合わせをして俺と花音は一緒に家に行き、虎徹の母親に出迎えられた。

「はよー」

 虎徹はマンガを読みながらベッドに寝転がっていた。

「おーっす」

「お邪魔しまーす……」

 呑気な俺と虎徹とは対照的に、花音は緊張している。

「どうした? 母さん怖かったか?」

 真っ先に出た言葉がそれだ。
 息子の虎徹からしても……息子だからこそ、母親が初対面の人に怖がられるのはわかっているのだろう。

「いや、そうじゃないんだけどさ……」

 花音は歯切れが悪く言葉を詰まらせているが、思い切ったように言った。

「男の子の部屋って入るの初めてなんだよね」

 意外だ。
 変な意味ではなく、花音の交友関係を多少でも知っているからこその感想だ。

「中学生の頃の人らの家とかは行かなかったの?」

「みんなで集まる時は家に行ったことあるけど、ほとんどが女の子の家で何回かは男の子の家のリビングだけだったから……。なんか、男の子部屋には秘密が多いからって言ってたんだけど、不思議だよね。女の子にも秘密があるのに」

 それはもしかして……いや、もしかしなくてもだ。
 ネット社会となって所持している人は少なくなったとはいえ、少なからず持っている人はいるの物だ。

「あー、エロ本ならないから安心しろ」

「えっ、えろっ!?」

 ストレートに言った虎徹の言葉に、花音は赤面している。

「颯太ならまだしも若葉とかも来るし、その辺は弁えてる」

「あわわわわわわ」

 包み隠さない虎徹。
 花音は下ネタ耐性がないようで、軽くパニックになっていた。

「あー、すまん。つい、いつものノリで」

 俺も男のため、下ネタトークを全くしないわけではない。
 若葉も軽い冗談混じりの話であれば乗るため、女子の基準が若葉の虎徹は特に抵抗がないのだ。

「てか、女子同士でもそういう話しないもんなの?」

「うっ……、しないわけではないと思うけど、友達が少ない私だよ? そういう話するほどの仲の人はいないよ」

「……それは申し訳ない」

 暗い表情……多分半分冗談だが、目線を逸らす花音に、虎徹も目線を逸らした。

 中学時代も仲良くなろうと頑張っていたような花音のことだ、どこか遠慮もあっただろう。
 若葉も仲良くなろうとお互いに手探りしている最中のため、そういったことを話す機会もないのだろう。

「いや、まあ、なんだ。そういうのは女友達とか母親に知られたら死ぬんだよ、男ってのは」

 俺は激しく同意した。
 虎徹であればほぼノーダメージだが、若葉や凪沙は苦笑いをして慰めの言葉をかけられるのが想像できる。
 ……逆にそれが辛い。

 母親は部屋に入ることはほとんどないが、知られればショックで夕食も喉が通らない気がする。
 双葉の場合、蔑んだ目で罵られそうだが、それはそれで何かに目覚めそうな気がする。
 美咲先輩は部屋に入れたことはないが、若葉や凪沙と同様で優しい言葉をかけられそうだ。

「まあ、とりあえず立ってるのもなんだから座りな」

「あ、うん。ありがとう」

 普段はない、用意された座布団に腰をかける。

「……藤川くんって三次元に興味なさそうだけど、実はそんなことはない感じ?」

 ワンクッション入れて話が変わるかと思いきや、花音は食いついている。
 虎徹も目を点にしていたが、聞かれれば比較的オープンのため素直に答えた。

「ないわけじゃないぞ。二次元よりではあるけど。それに実際には手が届かないものってのは、考えようによっては二次元に近くないか?」

 虎徹はさらに熱弁する。

「それに二次元にしか欲情しないやつってのも珍しい。いないわけじゃないだろうが、なんだかんだ言って興味があるやつがほとんどだ」

 花音は初めての下ネタトークで変なテンションになっているのか、食い入るように虎徹の話を聞いている。

「ふむふむ、なるほど……。ちなみに颯太くんも興味あるの?」

 突然の流れ弾。
 いつものようにからか……っているわけではない。花音の表情は真剣そのものだった。
 そして虎徹の部屋という日常の中に、花音がいるという非日常が混ざったことにより、俺のテンションも振り切れていた。

「興味ある。そもそも俺はライトオタだからどっちかというと三次元寄りだ」

 真面目な回答に花音は頷いている。
 そんな時だ。
 玄関が開く音が聞こえ、階段を登る足音が聞こえる。
 俺たちが扉に視線を向けると、勢いよく開いた。

「お待たせー! 何の話していたの?」

 大荷物を抱えて少し遅れてやってきた若葉は、開口一番話には加わろうとする。
 それが何の話なのかも知らずに。

「あー、エロトークしてた」

「えっ、何それ詳しく」

 荷物を下ろした若葉は、専用のクッションの上に正座すると話に加わる。
 それから十時過ぎと少し早い時間だが、若葉の買ってきた昼食……テイクアウトのファストフードを食べ、パーティーゲームの定番であるレースゲームやキャラを選択して戦う対戦アクションゲームをしながらも、下ネタトークは続く。
 花音のコンプレックスを話した時よりも、この時の方が仲が深まったような気がした。
しおりを挟む

処理中です...