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第二章 高校三年生編
第99話 青木颯太はからかえない
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「颯太ぁ! やったれ! 虎徹もふぁいとー!」
「颯太くん、藤川くん、頑張って!」
そんな若葉と花音の声援を受けながら、俺たちは一つのボールを追いかける。
今回は若葉も同じクラスだ。素直に応援してもらえるため、俺たちも良い気分でいられる。
俺は山村にパスを出し、山村はゴール下にいた須藤にパスを出す。
その須藤は高身長。パスを受け取るとだけにも邪魔をされずにゴール下からシュートを決めた。
「ナイス!」
「青木も良いパスだよー」
のんびりとした話し方の須藤だが、バスケの実力は十分だ。
中学で辞め、高校では帰宅部なのがもったいないくらいに。
今日はクラスマッチ。
前回は冬だったが、クラスマッチは半年に一回行われるため、夏のクラスマッチは夏休み直前だ。
テストを終え、あとは夏休みを待つだけというところでのクラスマッチ。
テストや受験のために勉強漬けの毎日だったこともあり、こうして体を動かすのは気持ちが良い。
……体力は足りないが。
そして今回のクラスマッチ。冬の時とほとんどメンバーが同じで、俺、虎徹、中田、山村は変わらない。
一人だけ、二年生の時にクラスマッチを共にした三谷が三年生では三組になり、二年生の時は三組だった須藤が加入した。
須藤はバスケ経験者のため、チーム自体は強くなったと考えられる。
しかし、三年生男子バスケの決勝で、俺たち四組は苦戦を強いられていた。
「これはキツイな……」
「まあな、基礎体力が違いすぎる……」
俺と虎徹はそうボヤいている。
相手は六組、つまりスポーツコースだ。
それだけならまだしも、二年生の冬のクラスマッチで普通コースの俺たちに負けたことが悔しかったのか、本気のメンバーを集めてきた。
もちろんルール自体は変わっておらず、現役で部活をしている生徒は出場できない。
ただ、過去に経験したことがある生徒や、バスケの授業で上手かった生徒を集めてきたようだ。
経験者と言っても、スポーツコースの生徒は別の競技をしている生徒。中学時代にバスケをやっていた人はいない。
ほとんどはかじっただけの生徒のはずだが、問題は基礎体力と抜群の運動センスだ。
俺たちにも経験者の須藤が加わっていても、その差は埋められるものではない。
「10点差かぁ……」
前半を終えて点差が開いている。
須藤が呟くと、俺は改めて点差を痛感した。
飄々としている須藤も、滝のように汗を流している。
全員が全員、余裕がない状態だ。
「みんな、頑張れ!」
「頑張って!」
若葉と花音がそう声援をくれる。
嬉しい。
嬉しいのだが……、どうも六組の方から鋭い視線を感じてしまう。
完全に嫉妬の眼差しだ。
素を出し始めた花音だったが、人気は相変わらず変わらない。
目の前でやり取りを見た四組の男子からは告白されることはほとんどなくなったらしいが、その他のクラスは少し少なくなったくらいで相変わらずのようだ。
噂だけが宙を舞い、『小林が悪かったからキツく言っただけ』という空気も一部ある。
多少なりとも『完璧なかのんちゃん』というイメージは崩れていたが、容姿自体は変わるものではなく、そもそも素の花音も性格が悪いわけではないため、人気自体は揺るがない。
そんな花音に応援されているということもあるが、若葉も控えめに言って可愛い女子だ。
花音の陰に隠れてはいるが、容姿は良いことと明るい性格で、それなりに男子の人気を獲得している。
最近も告白されたという話を聞いた。
また、花音よりも、男子のほとんどが好きなものを持ち合わせているため、そういった理由もあるだろう。
痛い視線と引き換えに、俺たち四組の士気も上がる。
……ただ、痛い視線を特に浴びているのは俺な気がするが、気のせいだと思っておきたい。
双葉や綾瀬、凪沙、夏海ちゃんが応援をしてくれているが、それは全く関係のないことだ。
後半が始まり、俺たちは全力……はまだ出さない。
追いつこうと必死になりすぎると、確実に体力が持たないからだ。
かと言って全力でかかってくる相手に加減をして勝てるはずもない。
そのため、攻守の軸となる一人ないし二人が全力を出し、マークに付いている人は適度に動く。
その形を終盤まで、五人でローテーションをする。
全員が本気を出しているように見せるため、一部が本気を出すのだ。
あわよくば勝手に勘違いしてくれるため、派手に動いてくれるだろう。
この作戦の提案をしたのは俺だ。
俺が少しでも周りの負担を補えるように動く。
一見、上手くいくのかわからない作戦ではあるが、これが面白いように上手くいく。
やはり相手は多少経験している人がいるとはいえ、その経験も豊富ではない。
それに、素人も混じっているのだ。
「……ナイシュー!」
「青木も、ナイスパスー」
お互いに点を入れ合うが、こちらの決定率の方が高い。
徐々に点差は詰まっていく。
三点差と逆転が見えてきたタイミングで、残りは二分。
――そろそろだ。
「全員でいくぞ」
俺が声をかけると、四人が頷く。
最後の勝負。
ただ、六組も押されるだけではなかった。
「なっ……!」
俺と須藤に二人ずつ着く。
そして、虎徹、中田、山村の三人相手に一人で挑んでいる。
恐らく、一番上手いのだろう。
マークがキツく、俺と須藤は抜けられない。
虎徹たち三人は、たった一人に抜かれ、点を決められる。
すぐに俺たち四組も返したものの、同じ戦法で来る六組に、点差は動かない。
もう一分を切った。
「……先輩! ファイト!」
「おにい! ラスト粘れー!」
近くで双葉が応援してくれている。
その隣には凪沙と夏海ちゃんもいた。
応援をもらった俺は、やるしかなかった。
マークを外す。
単純かもしれないが、たった一回なら可能性はある。
俺はマークに来る二人に抑えられ、身動きが取れない。
しかし俺は、その一方にだけ押し返した。……全体重をかける勢いで。
負けじと押し返して来る一人。俺はそこで後ろに引いた。
そんなことをすれば、途端にバランスを崩すのは目に見えていた。
だからこそ俺は、一人になったマークを躱すと、ボールを持つ相手に突っ込んだ。
いとも簡単にボールは奪えた。
来るはずがないと思っていた俺がいるのだ。
油断していたのだろう。
「カウンター!」
須藤がそう叫ぶと、俺はドリブルをしながらゴールに詰め寄る。
フリーのゴール下。ここからなら外さない。
「……一点差だ!」
俺がそう叫んで守備に戻ろうとした瞬間、ボールが目の前を通過した。
俺たちが守るゴール下にいた相手がボールを受け取り、落ち着いてシュートを決めた。
――やり返された。
残り三十秒で三点差。
不可能ではないが、粘り強く迫って来る相手に点差は縮まらない。
そのまま点差が動くことはなく、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「……惜しかったね」
俺が汗を流すため頭から水を被っていると、花音が声をかけてきた。
周りに人はいない。
一人だけ抜けてきたのだろう。
「……まあ、負けちゃったけど」
「どっちかが勝ったらどっちかが勝つもんだよ。スポーツはやってないけど、勝負ってそういうもんでしょ?」
それは花音の言う通りだ。
両方が勝つなんてことはない。
勝負事には勝者と敗者が存在するのだ。
「バスケやってる颯太くんってカッコいいよね」
「なっ……、突然何を……」
「こう言っておけば、気が紛れるでしょ?」
「それ、言っちゃ意味ないじゃん……」
わかっていて言っているのだろうが。
悪戯っぽく笑う花音。
しかし、その顔は天使のように見えてしまった。
俺が落ち込みすぎないように、わざとそう振る舞っているのがわかるからだ。
「気が紛れたのは紛れたよ。……ありがとう」
「どういたしましてー」
また違った笑顔……今度はニカーっという擬音が聞こえそうなくらい花音は笑っている。
「……花音って、そういうの平気でするからモテすぎるんだよ思う」
照れ隠しもあってそう言うと、花音は首を横に振った。
「こういうの、颯太くんにしかしないよ?」
「……そういうのいいから」
「バレたか」
完全にからかうつもりの言い方だが、毎回やられる俺ではない。
花音は気を抜いた時にからかってくるのを俺は知っている。
たまにはしてやられるが、かなり回避できるようになっていた。
「とりあえずさ、みんな待ってるし、行かない?」
「……そうだな」
負けた時の落ち込みはもうすでになくなっている。
忘れたわけではない。
花音のおかげで、気持ちが軽くなったのだ。
「颯太くん、藤川くん、頑張って!」
そんな若葉と花音の声援を受けながら、俺たちは一つのボールを追いかける。
今回は若葉も同じクラスだ。素直に応援してもらえるため、俺たちも良い気分でいられる。
俺は山村にパスを出し、山村はゴール下にいた須藤にパスを出す。
その須藤は高身長。パスを受け取るとだけにも邪魔をされずにゴール下からシュートを決めた。
「ナイス!」
「青木も良いパスだよー」
のんびりとした話し方の須藤だが、バスケの実力は十分だ。
中学で辞め、高校では帰宅部なのがもったいないくらいに。
今日はクラスマッチ。
前回は冬だったが、クラスマッチは半年に一回行われるため、夏のクラスマッチは夏休み直前だ。
テストを終え、あとは夏休みを待つだけというところでのクラスマッチ。
テストや受験のために勉強漬けの毎日だったこともあり、こうして体を動かすのは気持ちが良い。
……体力は足りないが。
そして今回のクラスマッチ。冬の時とほとんどメンバーが同じで、俺、虎徹、中田、山村は変わらない。
一人だけ、二年生の時にクラスマッチを共にした三谷が三年生では三組になり、二年生の時は三組だった須藤が加入した。
須藤はバスケ経験者のため、チーム自体は強くなったと考えられる。
しかし、三年生男子バスケの決勝で、俺たち四組は苦戦を強いられていた。
「これはキツイな……」
「まあな、基礎体力が違いすぎる……」
俺と虎徹はそうボヤいている。
相手は六組、つまりスポーツコースだ。
それだけならまだしも、二年生の冬のクラスマッチで普通コースの俺たちに負けたことが悔しかったのか、本気のメンバーを集めてきた。
もちろんルール自体は変わっておらず、現役で部活をしている生徒は出場できない。
ただ、過去に経験したことがある生徒や、バスケの授業で上手かった生徒を集めてきたようだ。
経験者と言っても、スポーツコースの生徒は別の競技をしている生徒。中学時代にバスケをやっていた人はいない。
ほとんどはかじっただけの生徒のはずだが、問題は基礎体力と抜群の運動センスだ。
俺たちにも経験者の須藤が加わっていても、その差は埋められるものではない。
「10点差かぁ……」
前半を終えて点差が開いている。
須藤が呟くと、俺は改めて点差を痛感した。
飄々としている須藤も、滝のように汗を流している。
全員が全員、余裕がない状態だ。
「みんな、頑張れ!」
「頑張って!」
若葉と花音がそう声援をくれる。
嬉しい。
嬉しいのだが……、どうも六組の方から鋭い視線を感じてしまう。
完全に嫉妬の眼差しだ。
素を出し始めた花音だったが、人気は相変わらず変わらない。
目の前でやり取りを見た四組の男子からは告白されることはほとんどなくなったらしいが、その他のクラスは少し少なくなったくらいで相変わらずのようだ。
噂だけが宙を舞い、『小林が悪かったからキツく言っただけ』という空気も一部ある。
多少なりとも『完璧なかのんちゃん』というイメージは崩れていたが、容姿自体は変わるものではなく、そもそも素の花音も性格が悪いわけではないため、人気自体は揺るがない。
そんな花音に応援されているということもあるが、若葉も控えめに言って可愛い女子だ。
花音の陰に隠れてはいるが、容姿は良いことと明るい性格で、それなりに男子の人気を獲得している。
最近も告白されたという話を聞いた。
また、花音よりも、男子のほとんどが好きなものを持ち合わせているため、そういった理由もあるだろう。
痛い視線と引き換えに、俺たち四組の士気も上がる。
……ただ、痛い視線を特に浴びているのは俺な気がするが、気のせいだと思っておきたい。
双葉や綾瀬、凪沙、夏海ちゃんが応援をしてくれているが、それは全く関係のないことだ。
後半が始まり、俺たちは全力……はまだ出さない。
追いつこうと必死になりすぎると、確実に体力が持たないからだ。
かと言って全力でかかってくる相手に加減をして勝てるはずもない。
そのため、攻守の軸となる一人ないし二人が全力を出し、マークに付いている人は適度に動く。
その形を終盤まで、五人でローテーションをする。
全員が本気を出しているように見せるため、一部が本気を出すのだ。
あわよくば勝手に勘違いしてくれるため、派手に動いてくれるだろう。
この作戦の提案をしたのは俺だ。
俺が少しでも周りの負担を補えるように動く。
一見、上手くいくのかわからない作戦ではあるが、これが面白いように上手くいく。
やはり相手は多少経験している人がいるとはいえ、その経験も豊富ではない。
それに、素人も混じっているのだ。
「……ナイシュー!」
「青木も、ナイスパスー」
お互いに点を入れ合うが、こちらの決定率の方が高い。
徐々に点差は詰まっていく。
三点差と逆転が見えてきたタイミングで、残りは二分。
――そろそろだ。
「全員でいくぞ」
俺が声をかけると、四人が頷く。
最後の勝負。
ただ、六組も押されるだけではなかった。
「なっ……!」
俺と須藤に二人ずつ着く。
そして、虎徹、中田、山村の三人相手に一人で挑んでいる。
恐らく、一番上手いのだろう。
マークがキツく、俺と須藤は抜けられない。
虎徹たち三人は、たった一人に抜かれ、点を決められる。
すぐに俺たち四組も返したものの、同じ戦法で来る六組に、点差は動かない。
もう一分を切った。
「……先輩! ファイト!」
「おにい! ラスト粘れー!」
近くで双葉が応援してくれている。
その隣には凪沙と夏海ちゃんもいた。
応援をもらった俺は、やるしかなかった。
マークを外す。
単純かもしれないが、たった一回なら可能性はある。
俺はマークに来る二人に抑えられ、身動きが取れない。
しかし俺は、その一方にだけ押し返した。……全体重をかける勢いで。
負けじと押し返して来る一人。俺はそこで後ろに引いた。
そんなことをすれば、途端にバランスを崩すのは目に見えていた。
だからこそ俺は、一人になったマークを躱すと、ボールを持つ相手に突っ込んだ。
いとも簡単にボールは奪えた。
来るはずがないと思っていた俺がいるのだ。
油断していたのだろう。
「カウンター!」
須藤がそう叫ぶと、俺はドリブルをしながらゴールに詰め寄る。
フリーのゴール下。ここからなら外さない。
「……一点差だ!」
俺がそう叫んで守備に戻ろうとした瞬間、ボールが目の前を通過した。
俺たちが守るゴール下にいた相手がボールを受け取り、落ち着いてシュートを決めた。
――やり返された。
残り三十秒で三点差。
不可能ではないが、粘り強く迫って来る相手に点差は縮まらない。
そのまま点差が動くことはなく、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
「……惜しかったね」
俺が汗を流すため頭から水を被っていると、花音が声をかけてきた。
周りに人はいない。
一人だけ抜けてきたのだろう。
「……まあ、負けちゃったけど」
「どっちかが勝ったらどっちかが勝つもんだよ。スポーツはやってないけど、勝負ってそういうもんでしょ?」
それは花音の言う通りだ。
両方が勝つなんてことはない。
勝負事には勝者と敗者が存在するのだ。
「バスケやってる颯太くんってカッコいいよね」
「なっ……、突然何を……」
「こう言っておけば、気が紛れるでしょ?」
「それ、言っちゃ意味ないじゃん……」
わかっていて言っているのだろうが。
悪戯っぽく笑う花音。
しかし、その顔は天使のように見えてしまった。
俺が落ち込みすぎないように、わざとそう振る舞っているのがわかるからだ。
「気が紛れたのは紛れたよ。……ありがとう」
「どういたしましてー」
また違った笑顔……今度はニカーっという擬音が聞こえそうなくらい花音は笑っている。
「……花音って、そういうの平気でするからモテすぎるんだよ思う」
照れ隠しもあってそう言うと、花音は首を横に振った。
「こういうの、颯太くんにしかしないよ?」
「……そういうのいいから」
「バレたか」
完全にからかうつもりの言い方だが、毎回やられる俺ではない。
花音は気を抜いた時にからかってくるのを俺は知っている。
たまにはしてやられるが、かなり回避できるようになっていた。
「とりあえずさ、みんな待ってるし、行かない?」
「……そうだな」
負けた時の落ち込みはもうすでになくなっている。
忘れたわけではない。
花音のおかげで、気持ちが軽くなったのだ。
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