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第二章 高校三年生編

第123話 城ヶ崎美咲は変わりたい

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「やっ、颯太くん久しぶりだね」

「お久しぶりです。……美咲先輩」

 美咲先輩が高校を卒業して以来、会うのは初めてだった。
 夏海ちゃんが美咲先輩と約束しているところに俺も連れていかれたことはあったが、二人で待ち合わせをしたのはこれが初めてだ。

 駅前の喫茶店の中で待ち合わせをしていた俺たち。
 先に入って待っていると、数分遅れて美咲先輩が店内に入ってきた。

「なんか、変わりましたね」

「そう、かな?」

「髪とか、違いますね」

 真面目な美咲先輩は変わらないが、髪型は変わっている。
 長さはほとんど変わらないのだが、髪を緩くウェーブさせていた。
 高校時代も元からの癖で少しウェーブしていたものの、おしゃれな巻き方と言ったところだ。

「大学生になったから少しはね」

「そうですよね」

「まあ、颯太くんと会うからっていうのもあるけど」

 美咲先輩はそう言って、子供のように悪戯っぽく笑う。
 真面目な年上美人の見せる子供っぽさというギャップに、不覚にも俺の心臓は高鳴った。

「や、やめてくださいよ」

「なに、ほんの冗談だよ」

 そう笑っている美咲先輩。
 そんな表情を見た俺は、虎徹の言葉が頭にチラついて仕方ない。
 会って早々聞くことではないかもしれないが、俺の口は勝手に動いていた。

「……美咲先輩は、まだ俺のことが好きなんですか?」

 言ってから『しまった』という感情が溢れてくる。
 美咲先輩はきょとんとした表情を浮かべた後、小さく笑っていった。

「好きだよ。それは変わらない」

 その言葉が俺の胸に刺さり、痛みに変わる。
 しかし、その痛みは長くは続かなかった。

「髪とかも、良く見られたいっていうのは確かにあるよ。でも、颯太くんに断られているんだ、私の中で区切りはついているから、もう一度告白……っていうのは考えてない。前にも言ったけど、友達としてっていう気持ちじゃダメかな」

「……いえ、俺の考えすぎでした」

「何かあったのかな?」

 美咲先輩はそう言って首を傾げている。
 ――こんな仕草、ずるい。

「もしかして、夏海のこと?」

 そう聞かれた俺は無言を貫いた。
 しかし、その沈黙は肯定だ。

「なんか、申し訳ないね」

「美咲先輩が謝ることじゃないですよ。まあ、おいおい考えます」

「そっか。……でもさ、颯太くん」

「何ですか?」

 俺が聞き返すと、今まで初めて見るような表情……妖艶な表情で美咲先輩は俺を見つめてきた。

「夏海にするなら、私にしてほしいな」

 誘惑……にも近いが、美咲先輩自身は意図して言ってはいないだろう。
 どちらかと言えば、切実なお願いに近い言い方だった。



 再会早々、微妙な雰囲気になったが、その空気もすぐに消えてなくなった。
 お互いに微妙なままでいたくないという共通の気持ちがあったからだ。

「颯太くん、男の子目線でこういう服はどうかな?」

「……難しいですね。似合う服ならいいと思いますけど」

「私には似合うと思う?」

「似合わないことはないですけど、美咲先輩は可愛い系よりも綺麗系の方が似合うと思いますよ」

 俺がそう言うと、美咲先輩は難しい顔をして服を見つめている。

 昼食を食べ終えた俺たちは、ウインドウショッピングをしていた。……のだが、美咲先輩が服を買いたいと言い、俺は男子目線で一緒に見ることとなった。

 キリっとしている美咲先輩は、可愛いというよりも綺麗だ。大学生になってから、心なしかさらに綺麗さが増している。
 そのため、小動物のような可愛さよりも、大人の綺麗さや大人っぽい可愛さを出した服の方が似合いそうだ。

「こういうのどうですか?」

 まだ暑さは続いているが、今日見ているのは秋に備えた服だ。
 俺はシンプルにワンピース……しかし美咲先輩に会いそうなものをチョイスする。
 白のワンピースにストライプが入っており、黒のベストを合わせたものがセットになっている。
 これなら大人っぽい綺麗さも可愛さも出せると考えた。

「あとはこういうのとか」

 赤いスカート。
 秋と言えば紅葉こうようのイメージがあるため、赤や緑の服が良いと聞く。

「赤のスカートなら、トップスは黒でも白でも良さそうじゃないですか?」

 気分によっても変えることができ、肌寒い日に羽織る上着によっても変えられる。
 緑も悪くないが、個人的に赤の方が万能感がある。

「なるほど、参考になるよ。高校生の頃はあまりおしゃれもわからなかったし、大学生になっても中身はそうそう変わるものじゃないからね」

 大学生と言っても、美咲先輩の言うようにそうそう変わるものではない。
 早い人ならもう順応しているかもしれないが、まだ半年も経っていないのだ。今の美咲先輩のように変わり始めてくるくらいの時期だろう。

 ただ、美咲先輩はそうは言うものの、去年のクリスマスイブにあった際の服はおしゃれだと思っていた。
 思い返してみれば、その時も服については不安がっていたため、謙遜などではなく本当におしゃれについて初心者ということだろう。
 ……俺が言えた立場ではないが。

 そんなことを考えていると、美咲先輩は怪訝そうな表情を浮かべ、俺に視線を向けてくる。

「颯太くん。……やけに服を選ぶの手慣れてない?」

「い、いや、そうですかね? 凪沙に連れられることもあるんで、そういうので鍛えられたかもしれません」

 ――半分嘘だ。
 事実、凪沙に連れられることがないわけではないが、頻度で言えばワンシーズンに一回あるかどうかだ。
 どちらかと言えば花音や双葉に触発されて勉強したのだが、そんなことは気恥ずかしくて言えない。
 以前にアウトレットモールで服を見た時も花音に驚かれたため、俺は想像以上にちゃんとしたことを言えているらしい。

 俺の誤魔化しも美咲先輩はすんなりと信じた。
 下手に誤魔化すよりも、多少隠したかったことを出すくらいが現実味が出るのだ。……俺はそれを花音から学んだ。

 久しぶりの再会。
 俺たちは服を選ぶだけでは終わらない。

 それからはもう一度……今度は別の喫茶店に移動すると、俺は美咲先輩に勉強を教わった。
 鬼教官の復活だ。
 つい半年ほど前のことを思い出して懐かしみながら、俺は閉店近くまで愛の鞭を受け続けていた。
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