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第1話 恋する幼なじみ

高校生活の始まり

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 中性的な顔立ちの神崎直哉は夢を見ていた。いつぐらいの頃だろうか、季節は春、広い草原に女の子と二人きり。二人は仲良さげに、草花で冠や指輪を作っていて楽しげであった。

 少女はシロツメクサで作った冠を被り、幼い直哉の指に同じシロツメクサで作った指輪をはめたのだ。

 まるで結婚式をしているような風景に、幼い直哉は顔を赤く染め照れていた。少女はそんな直哉を笑顔で見つめていたのだ。そして、少女は直哉に誓の言葉を伝えた。

「直哉君、大きくなったら結婚しようね。約束だよ? 絶対に忘れないでね」

 目覚まし時計のベルが鳴り、直哉の目を開けさせると視界に見慣れない天井が入った。どこか知らない場所にいる様に思え、直哉の目が一気に覚め布団から飛び起きたのだ。

 次第に頭がスッキリし、今置かれている状況がはっきりしていく。そう、今年から高校入学すると同時に一人暮らしを始めたのを思い出したのだ。

 直哉は目覚まし時計の音を止めると、ひと呼吸置いて入学式へ向かう準備を始める。時計の短針は『七』を指しており、時間的な余裕は十分にあるはずであった。

 洗面台で顔を洗い、完全に頭を目覚めさせる。そして、食パンを取り出しトースターへと放り込んだのだ。

 すると、朝早くからインターフォンが鳴り、朝食をお預けにし応対したのである。

(こんな平日の朝早くから誰なんだろ・・・・・・。新聞とかの勧誘かな)

「直哉いる~? ちゃんと起きてる~? そろそろ家を出ないと、入学式に遅れちゃうよぉ~」
「優子? だってまだ七時だよ? そんなに焦らなくても・・・・・・。そうか、高校が楽しみで仕方がないのか。優子はまだまだ子どもだなぁ」
「何寝ぼけてるの~? もう八時だよ? ほら、待ってて上げるからぁ、早く準備しておいでよ」

 つぶらな瞳に肩より少し長い髪は黒。和風美人を思わせる顔立ちで、中学の頃から男子に絶大な人気があった幼なじみの三嶋優子が、直哉の一人暮らしを心配して起こしに来たのだ。

 そんな優子は時間を勘違いしている様であった。目覚まし時計は確かに七時十分を指している。まさかと思い慌ててテレビを付けると、右端に表示されている時刻は八時を過ぎていたのだ。

 入学式から遅刻をする訳にはいかず、直哉は制服を急いで着ると、前日に用意していた必要な物を机からカバンへと放り込み、優子が待つ玄関へと走って行ったのだ。

「もぅ、遅いよぉ~。どうせ一人暮らしだから、夜更かしでもしてたんでしょ、ほら、早く学校に行こうよ」
「いや・・・・・・目覚まし時計が一時間ずれていて・・・・・・」
「そうなのぉ? それはそれは、入学式早々に災難ですなぁ。気を使って起こしに来た私に感謝するんだよ」

 靴を履き終えると、春先の暖かい玄関で待っていた優子にお礼を言い、二人は駆け足で学校へと急いだのだ。

 直哉のアパートから学校までは十五分くらいなので、急げばまだ間に合うはず。二人は入学式早々に息を切らしながら、満開の桜並ぶ校門をくぐり抜ける。

 校内には初々しさが抜けていない生徒で溢れかえっており、自分達のクラスを掲示で確認していた。
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