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第7話 約束の少女

運命の赤い糸 その二

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「私も・・・・・・直哉が好きよ。ずっと、ずっと前から一緒にいて、笑ったり泣いたりケンカしたり・・・・・・。だから、幼なじみとか関係ない・・・・・・私は三島優子として神崎直哉がこの世で一番・・・・・・大好きなのっ」

 初めて勇気を振り絞り自分の心をさらけ出した優子は、吹っ切れた感じがし心地よい感覚に襲われた。心の奥に引っかかっていたモヤがとれスッキリしたのだった。

「ふふふ、優子様もやっと貝のような心を開きましたね。素直にならないと損をしてしまう時もありますのよ」
「でも、みんなだって直哉の事が・・・・・・好き・・・・・・なんでしょ。なのに、なんで笑ってられるのよぉ」

「他のお二人はどうか分かりませんが・・・・・・他の女性が惹かれない殿方に魅力があるとは思いませんの。魅力ある殿方である以上、複数の女性から好意があるのは自然かと思いますわ」

「ふんっ、誰がなんて言おうと直哉は私を選ぶの。だからね、他の人がなんて思っていようが気にしないわ。それにね、そうなる様に仕向けるのが私なのよ」
「私は・・・・・・負けないように頑張るだけよ」

 三者とも考えは違うものの、直哉を思う気持ちは一緒であり、誰が好きであっても関係がなかった。直哉の気持ちが自分に向く様に、努力するだけであった。

「さて、そろそろ差出人とお会いするお時間ですわ。直哉様に知られないよう注意して後をつけますか」

四人の美少女達は頷くと、直哉が部屋を出て行ったのを確認しその後をつけたのだった。


 時は戻り、直哉と手紙の少女が再会し、少女の瞳は涙が零れそうな程に潤んでいた。少女は直哉の胸に飛び込むと、今まで抑えていた気持ちを直哉へとぶつけたのだ。

「ずっと、我慢してたの。ずっとよ・・・・・・。初めて見た時に直哉君だって分かったの。でも、直哉君は全然覚えていなくて。その日の夜は泣いてたのよ?幼なじみの優子に比べたら、過ごした時間は短かったけれど、この想いは絶対に負けないの。でも、今更言えないでしょ?忘れているかもしれない相手に・・・・・・約束覚えてるだなんて、だから自分の心の奥底に鍵を掛けてしまっていたのよ」

「亜子・・・・・・さん。ごめん、ずっと気がつかなかった・・・・・・。あの日迷子の僕を助けてくれて、寂しかった僕を楽しませてくれたのは他の誰でもない・・・・・・亜子さんだよ」

 高校入学まで直哉を忘れずに、毎日恋慕していた亜子は偶然再会した直哉に声をかけようと思ったのだ。幼なじみの優子と恋人の様に仲が良く、その間に入る事が出来ないでいた。

 だが直哉を忘れる事が出来なかった亜子は、せめて直哉のそばにいたいと思い、優子と親しくなったのだ。自分の本当の気持ちを心の奥底に隠して。

「ずっとだよ、ずっと直哉君の事を考えてたんだよ。忘れた事なんてなかったの。父親が急遽転勤になってお別れも言えなかったけど、それでも直哉君を想っていたんだよ」
「ごめん・・・・・・。あの時は・・・・・・亜子さんに会いに行ったら、引越したって近所の人に言われて・・・・・・。でも、引越しの意味すら分からなくて」

「私ね、直哉君に会えて本当に嬉しかったんだよ。色んな事・・・・・・いっぱい話したかったんだよ。でもね、優子と直哉君の事を考えてずっと我慢してたの」

「・・・・・・最初に言ってくれれば、きっとその時に思い出したかもしれないのに」
「だって、怖いじゃないの。もし、忘れられてたらって思うと怖くて・・・・・・そんな事言えるわけないじゃない」

 大粒の涙が地面を濡らし、亜子は直哉に八つ当たりをしていた。堰き止められていた想いは、すでに濁流となり亜子の心から溢れ出していた。
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