上 下
66 / 71
第7話 約束の少女

運命の赤い糸 その三

しおりを挟む
「直哉君・・・・・・約束の事・・・・・・覚えていてる?」
「うん・・・・・・」
「私は今でも本気だよ。誰にも渡さない、絶対に直哉君を幸せにしてみせる。私なら直哉君を泣かせる事なんてしないよ」
「・・・・・・亜子さん」
「沙織さんにも、葵さんにも紗英ちゃんにだって渡したくないの。もちろん優子にも・・・・・・。もう、この想いを止めるなんて出来ないんだから・・・・・・」

 亜子の言葉は力強く、そして直哉の心を揺さぶっていく。一度動き出したらもう止められない、亜子は心のブレーキが壊れていたのだ。

「直哉君、私の事・・・・・・もう忘れないでね。忘れられない為のおまじない・・・・・・これで許してあげるから、目を閉じてて欲しいんだ」

 催眠術にかかった様に、直哉はそっと目を閉じたのだ。しばらくして、口元に柔らかくそして温かい何かが当たる感触を感じ、うっすらと目を開けたのだった。

「──────!!」

 亜子の柔らかいピンク色の唇が直哉の唇と触れ合っており、恥ずかしそうに目を開けた亜子は、口元に指をかざし直哉に『内緒にしてね』とアイコンタクトを送ってきたのだった。

「亜子さん・・・・・・これって・・・・・・」
「えへへへ、私のファーストキスよ?この日の為にずっと・・・・・・取っておいたんだからね」

 大胆な行動を取る亜子に、しばらく硬直していたのだ。亜子の顔が自然と笑顔になり、もう一度直哉に抱きついたのだった。

 直哉の胸には亜子の豊満なバストが当たり、試着室での出来事を思い出し直哉の顔が赤く染まっていった。

「もう、絶対に離さないからねっ」

 亜子はそんな直哉にお構いなしに、今まで我慢してきた想いを目一杯ぶつけたのだ。亜子から漂う甘い香りが直哉の鼻を掠める。

 幼い頃とは全く違う亜子の体つきに、ますます顔が赤くなり思考が完全に停止してしまったのだった。

「二人して何をしてるのよ!何を!」

 直哉の硬直が解け後ろを振り返ると、優子が立っていたのだ。思いもよらなかった、親友である亜子があの手紙の差出人であったのだ。優子は気がつくと直哉と亜子に声を荒らげていたのだ。

 黙って見ていられなかった、せっかく自分の想いを、心の内をさらけ出したと言うのに、今目の前には親友の亜子と幼なじみの直哉が抱き合っていたのだから。

「ゆ、優子・・・・・・どうしてここに?それに・・・・・・沙織さんや葵さん紗英さんまで・・・・・・」
「流石にこの事態は想定出来ませんでしたわね」
「直哉、ちゃんと説明しなさいよね。貴方には私に説明する義務があるんだからっ」
「直哉君・・・・・・それに亜子さんも・・・・・・どうして・・・・・・」

沙織や葵、紗英が困惑するのも無理はないのだ。亜子が昔に直哉と会っていただなんて、予想のしようもなかったのだ。

「亜子!どういう事なの?これは・・・・・・何でなの・・・・・・。何で直哉と・・・・・・。ねぇ、黙ってないで何とか言ってよ!」
「・・・・・・ごめんね優子。でも、もう私は我慢する事が出来ないの。この想いは・・・・・・ずっと私の中にあったものだから」

 胸に手を当てながら優子を優しく見つめると、直哉の手を取り突然走り出したのだ。何年も燻っていた想いが亜子をおかしくさせていた。

 もう、直哉を奪われたくない。ずっと一緒に二人でいたいという心の叫びが、体を勝手に動かしていたのだ。
しおりを挟む

処理中です...