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「交換留学生クリス・トキント」
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「交換留学生クリス・トキント」
「49日」は済んでいないものの温太の「初盆」が過ぎ、2学期の登校日まで1週間となった。
「あー、でかい画面で「ロメンディー」が見たいなぁ。」
と毎日のように麻衣は愚痴るが15日に入った年金もほぼ使い果たし、家計の財布はほぼ空になっていた。預金もどんどんと減っていき、毎日、那依の胃は痛んだ。
ネットで調べた「月額約8万5千円」出るという麻衣の障害年金は「障害等級が確定していない」ことを理由に否認されることがわかった。世話焼に相談すると
「大変だろうけど卒業までは頑張ってね。障害年金は発症から半年くらいしないと認められないから、秋の終わりに病院で相談して12月に再申請してみたら?
介護認定はもう申請するから、9月にはうまくいけば「デイサービス」が使えるようになると思うから学校はいけるわよ。」
という回答で「障害年金」の即時給付は諦め、介護保険認定に期待をかけた。
今のところ、約7万円の遺族年金と那依の週6日、1日3時間の居酒屋での仕込み補助のアルバイトの8万円で生活費はトントンだが、デイサービスが始まると週5回利用で毎月3万6千円ほどかかるが、学校に行くための「必要経費」だった。アルバイトを増やすことも考えたが、これ以上シフトを増やすと「社会保険料の天引き」や「所得税」がかかることが店長から説明があり、検討中のままである。
麻衣は最近、「鬱時」には拒食症状が出て食事介助しないと食べなくなっているので、デイサービスで「1食」だけでもバランスの良い食事をとってもらえると助かると思った。そうでないと昼休みに一時帰宅し、食事をとらせることが続くことになる。
デイサービス利用が始まるまでの8月最後の1週間は、那依は自分の昼食時間を犠牲にして、麻衣の昼食を食べさせるために自転車で片道10分かけ自宅と学校の間を往復した。
幸い、世話焼のおかげもあり、麻衣は「要介護2」の認定を受けることができ、9月からデイサービス通いが始まり、那依の介護負担は少し楽になった。
担任教師はやつれた那依に「卒業は何とかしたるから、お前が倒れないように気をつけろよ。」と遅刻と授業中の居眠りに関しては、ある意味「免罪符」を与えてくれた。現実問題として、夜に麻衣が「問題行動」を起こした翌日は睡眠不足とストレスで質の良い睡眠はとれずにいたので、それは非常にありがたかった。
看護大学への進学については、今年の受験は諦めざるを得なかったが「通信制看護専門学校」等の資料を用意してくれていた背景に学校都合の「進学率」があるとは思いつつもありがたく資料は受け取った。
女バスの元仲間は2学期になり様変わりした者がいた。葵と美咲が「茶髪」になっていた。美咲は、単に「おしゃれ」でしている様子だったが、葵は明らかにメイクもきつくなり、「やさぐれ」感が出ていた。しかし那依が女バスの4人と話す機会どころか、目を合わせる機会すらなかったのでその背景までは那依には分からなかった。
9月に入ると「日独教育交流会」と言うところから温太宛ての郵送物が来ていたが、封を開けるとややこしそうな文書と「寄付金のお願い」と金額欄が空欄の振込用紙が入っていたのでしっかりと読まずに放置した。
10月の病院でのCTでの診断で、麻衣の脳梗塞の元になっている血栓が周辺の毛細血管にも拡がり左脳の一部が壊死しかかっているとの診断が出た。7月のCT画像と比較すると明らかに差が出てきていることが那依の目にもわかったが、投薬でその症状の進行を抑えるしかないという医師の言葉に「悲しみ」の感情は湧かなかった。
麻衣に対して唯一の家族として「尽くし」、「愛情」を注いでいるが「報われる」ことのない「家庭介護」の無限ルーチンにはまり続けていた那依は正直な気持ちとして「これ以上ひどくなるのは困る」という事と、「障害年金」が受給できるかどうかに意識が向かっていた。そんな感情しか湧かない自分を「冷たい娘でごめん。」とだけ思った。
11月の高校最後の文化祭は、「母の介護」で忙しいとは言えず、クラスメイトには「バイトが忙しいからごめんな」とだけ言って不参加で終わった。
11月後半に入り麻衣の部屋のエアコンの電気代で12月請求の電気代が再び高騰してきた。那依は自分の部屋はヒーターを使うのをやめ、ダウンジャケットにタイツと分厚い靴下を着込み真冬の外出時と同じ格好で看護学校の勉強を続ける日が続いた。独自にネットで勉強した看護実施のユーチューブは、痰が絡みがちになった麻衣の介護で役に立つようになっている。
そんな毎日を過ごす中、12月10日に「日独教育交流協会」の留学生が来る旨の連絡が家の電話にかかってきた。9月にそのような名前の協会から郵送物が来ていたような気がして、電話の相手にいくつかの質問をした。どうやら温太が生前に申し込んでいたらしい。
協会の担当者は那依が郵送物の受け取りと開封した事実を強みに、「ダメな場合の返事が来ていなかったこと」を理由に強気で出て来た。
「交換留学生は既に航空券の手配も住んでおり、今更キャンセルはできないので12月18日からの「8日間」だけお願いします。」
と押し切られてしまった。
12月18日、協会職員に連れられて金髪の美少女がやってきた。心配していた会話については、幸いドイツで人気の「アルプスの少女ハイジ」と「セーラームーン」で日本語を勉強したので日常会話は話せると説明があり「ホッ」とした。。
金髪の少女が最初に那依に投げかけた言葉は「初めまして」ではなく
「あなた、何、委縮してるの?扉は自分で開けないと「他人」は開けてくれないわよ。せっかくの「5つのトルコ石のヘアビーズ」が泣いてるわよ。」
だった。協会担当者は「これ読んでおいて下さいね。」と「留学生取り扱い規定書」と言うA4サイズのファイルを那依に手渡すと早々に帰って行った。
「改めて、クリス・トキントと言います。温太の娘さん、1週間よろしくね。」
と留学生は名乗り、挨拶をした。(「温太の娘さん」って言ったけど、書類上でお父さんの名前を知ってたってことかな?向こうはファーストネームで呼ぶのが普通って聞いたことがあるような…。)少し疑問があったものの、協会担当者が帰った以上、追い返すわけにもいかないので
「私は那依と言います。「NAI」と呼んでください。あなたは何と呼ばせてもらったらいいですか?」
と敬語で返すと、笑顔で返事をし、かわいらしい笑顔で笑った。
「クリスでオッケーよ。あと、同じ年だから「ため口」で大丈夫だからね。ケラケラケラ。」
リビングに連れて来て、麻衣の部屋のドアを閉めることを忘れていた。幸い麻衣は寝ていたので問題は起こらなかったが、クリスは何も言わず麻衣のベッドの横に行き、麻衣のおでこに手を添え囁いた。
「あなたの望みは何?22日の日曜礼拝で神様にお願いしてきてあげる…。せめて夢の中だけで叶えられるようにね…。」
その様子を那依は不思議な気持ちで見守っていた。
続いて1週間クリスに泊まってもらう那依の部屋に案内した。NBAで活躍中の日本人プレイヤーの七村類のポスターやインターハイ出場決定の時のバスケ部の5人の3年生レギュラーの写真、子供の那依が温太の肩に乗った引退パーティーの集合写真等を見たクリスは那依に「あなたバスケットの選手なの?」と尋ねられたので「「元」ね…。」とだけ答えた。
クリスは部屋の中央で目を閉じ、ゆっくりと「瞑想」しているようだった。こと我をかける隙が感じられないクリスから視線を外せずにいた那依に、目を開けたクリスがいたずらっ子のような顔をして言った。
「今からじゃあ、ハイジとクララみたいに仲良くなれるように那依と家族の事を教えてくれる?」
リビングに移動し、那依はクリスに「紅茶でいい?」と確認を入れるとクリスは「アルコール以外はなんでもオッケーよ。」と返し、テーブルに着いた。
那依は、元日本のプロバスケット選手でバスケを教えてくれた今年7月に亡くなった温太の事、今は要介護になってはいるが元は明るく優しかった麻衣のことを話し、最後に自分のことを簡単にかつ「自虐的」に説明した。
「10年バスケやってきたけど、今はもう引退して5カ月…。今はいわゆる「ヤングケアラー」ってやつね。初対面のクリスに言う話じゃないけど無報酬かつ報われない仕事だけどね…。」
その後は、那依は自分の事はさておいて、亡くなった温太のことを簡単に話した。クリスは黙って頷きながら聞いてくれている。続いて麻衣のことを話しだした。
「お母さんは、関ロメンディーっていうアーティストが好きで「ロメンディー」のライブに行きたいって思ってるんだけど、今の身体と頭の状態じゃもう絶対に無理よね…。せめてクリスマスにDVDを買ってあげようと思ってるんだけど、それも厳しくて…。
って、クリスごめんね。つまんない話ばっかりで!はい、これで幸賀家の紹介はお終い!次はクリスの家の話を聞かせて?」
と話をふったが、クリスは自分の事は語らず、那依に短く質問をした。
「あなたは?」
「私は、何もない…。ほんと、「夢」も「希望」も「存在」すら何もない存在なのよ…。バスケは辞めて、友達も失い、母からは疎まれる…。誰も私を必要としていない。」
と蚊の鳴くような声で呟くと、そこにケアマネージャーの世話焼がやってきた。
「あら、外人さん?那依ちゃんのお友達?」
「はい、クリス・トキントって言います。ドイツからの交換留学生で那依の家で1週間お世話になります。」
クリスが名乗ると世話焼は少し驚いた顔をして言った。
「えっ、「クリストキント」だって?クリスマス前にできすぎのお客様ね。「クリストキント」さん、幸賀さん家族にいいことがあるように祈ってあげてね。」
「はい。そう言うあなたにも「幸」がありますようにね。」
思わせぶりに世話焼に言うとクリスは那依の向かいの席を世話焼に譲った。世話焼は那依に麻衣の近況を伺った後、麻衣の様子を見た後、ケアプラン実施状況書類を作成し終わると「じゃあ、幸賀さん、また25日にもう一度来るわね。」と世話焼が帰ると那依はクリスにぼそっと呟いた。
「クリス、学校では私の家にホームステイしてることは黙っておいた方がいいよ。あなたまで「いじめ」や「しかと」にあったら日本で「悪い思い出」しか残らないでしょ…。」
「49日」は済んでいないものの温太の「初盆」が過ぎ、2学期の登校日まで1週間となった。
「あー、でかい画面で「ロメンディー」が見たいなぁ。」
と毎日のように麻衣は愚痴るが15日に入った年金もほぼ使い果たし、家計の財布はほぼ空になっていた。預金もどんどんと減っていき、毎日、那依の胃は痛んだ。
ネットで調べた「月額約8万5千円」出るという麻衣の障害年金は「障害等級が確定していない」ことを理由に否認されることがわかった。世話焼に相談すると
「大変だろうけど卒業までは頑張ってね。障害年金は発症から半年くらいしないと認められないから、秋の終わりに病院で相談して12月に再申請してみたら?
介護認定はもう申請するから、9月にはうまくいけば「デイサービス」が使えるようになると思うから学校はいけるわよ。」
という回答で「障害年金」の即時給付は諦め、介護保険認定に期待をかけた。
今のところ、約7万円の遺族年金と那依の週6日、1日3時間の居酒屋での仕込み補助のアルバイトの8万円で生活費はトントンだが、デイサービスが始まると週5回利用で毎月3万6千円ほどかかるが、学校に行くための「必要経費」だった。アルバイトを増やすことも考えたが、これ以上シフトを増やすと「社会保険料の天引き」や「所得税」がかかることが店長から説明があり、検討中のままである。
麻衣は最近、「鬱時」には拒食症状が出て食事介助しないと食べなくなっているので、デイサービスで「1食」だけでもバランスの良い食事をとってもらえると助かると思った。そうでないと昼休みに一時帰宅し、食事をとらせることが続くことになる。
デイサービス利用が始まるまでの8月最後の1週間は、那依は自分の昼食時間を犠牲にして、麻衣の昼食を食べさせるために自転車で片道10分かけ自宅と学校の間を往復した。
幸い、世話焼のおかげもあり、麻衣は「要介護2」の認定を受けることができ、9月からデイサービス通いが始まり、那依の介護負担は少し楽になった。
担任教師はやつれた那依に「卒業は何とかしたるから、お前が倒れないように気をつけろよ。」と遅刻と授業中の居眠りに関しては、ある意味「免罪符」を与えてくれた。現実問題として、夜に麻衣が「問題行動」を起こした翌日は睡眠不足とストレスで質の良い睡眠はとれずにいたので、それは非常にありがたかった。
看護大学への進学については、今年の受験は諦めざるを得なかったが「通信制看護専門学校」等の資料を用意してくれていた背景に学校都合の「進学率」があるとは思いつつもありがたく資料は受け取った。
女バスの元仲間は2学期になり様変わりした者がいた。葵と美咲が「茶髪」になっていた。美咲は、単に「おしゃれ」でしている様子だったが、葵は明らかにメイクもきつくなり、「やさぐれ」感が出ていた。しかし那依が女バスの4人と話す機会どころか、目を合わせる機会すらなかったのでその背景までは那依には分からなかった。
9月に入ると「日独教育交流会」と言うところから温太宛ての郵送物が来ていたが、封を開けるとややこしそうな文書と「寄付金のお願い」と金額欄が空欄の振込用紙が入っていたのでしっかりと読まずに放置した。
10月の病院でのCTでの診断で、麻衣の脳梗塞の元になっている血栓が周辺の毛細血管にも拡がり左脳の一部が壊死しかかっているとの診断が出た。7月のCT画像と比較すると明らかに差が出てきていることが那依の目にもわかったが、投薬でその症状の進行を抑えるしかないという医師の言葉に「悲しみ」の感情は湧かなかった。
麻衣に対して唯一の家族として「尽くし」、「愛情」を注いでいるが「報われる」ことのない「家庭介護」の無限ルーチンにはまり続けていた那依は正直な気持ちとして「これ以上ひどくなるのは困る」という事と、「障害年金」が受給できるかどうかに意識が向かっていた。そんな感情しか湧かない自分を「冷たい娘でごめん。」とだけ思った。
11月の高校最後の文化祭は、「母の介護」で忙しいとは言えず、クラスメイトには「バイトが忙しいからごめんな」とだけ言って不参加で終わった。
11月後半に入り麻衣の部屋のエアコンの電気代で12月請求の電気代が再び高騰してきた。那依は自分の部屋はヒーターを使うのをやめ、ダウンジャケットにタイツと分厚い靴下を着込み真冬の外出時と同じ格好で看護学校の勉強を続ける日が続いた。独自にネットで勉強した看護実施のユーチューブは、痰が絡みがちになった麻衣の介護で役に立つようになっている。
そんな毎日を過ごす中、12月10日に「日独教育交流協会」の留学生が来る旨の連絡が家の電話にかかってきた。9月にそのような名前の協会から郵送物が来ていたような気がして、電話の相手にいくつかの質問をした。どうやら温太が生前に申し込んでいたらしい。
協会の担当者は那依が郵送物の受け取りと開封した事実を強みに、「ダメな場合の返事が来ていなかったこと」を理由に強気で出て来た。
「交換留学生は既に航空券の手配も住んでおり、今更キャンセルはできないので12月18日からの「8日間」だけお願いします。」
と押し切られてしまった。
12月18日、協会職員に連れられて金髪の美少女がやってきた。心配していた会話については、幸いドイツで人気の「アルプスの少女ハイジ」と「セーラームーン」で日本語を勉強したので日常会話は話せると説明があり「ホッ」とした。。
金髪の少女が最初に那依に投げかけた言葉は「初めまして」ではなく
「あなた、何、委縮してるの?扉は自分で開けないと「他人」は開けてくれないわよ。せっかくの「5つのトルコ石のヘアビーズ」が泣いてるわよ。」
だった。協会担当者は「これ読んでおいて下さいね。」と「留学生取り扱い規定書」と言うA4サイズのファイルを那依に手渡すと早々に帰って行った。
「改めて、クリス・トキントと言います。温太の娘さん、1週間よろしくね。」
と留学生は名乗り、挨拶をした。(「温太の娘さん」って言ったけど、書類上でお父さんの名前を知ってたってことかな?向こうはファーストネームで呼ぶのが普通って聞いたことがあるような…。)少し疑問があったものの、協会担当者が帰った以上、追い返すわけにもいかないので
「私は那依と言います。「NAI」と呼んでください。あなたは何と呼ばせてもらったらいいですか?」
と敬語で返すと、笑顔で返事をし、かわいらしい笑顔で笑った。
「クリスでオッケーよ。あと、同じ年だから「ため口」で大丈夫だからね。ケラケラケラ。」
リビングに連れて来て、麻衣の部屋のドアを閉めることを忘れていた。幸い麻衣は寝ていたので問題は起こらなかったが、クリスは何も言わず麻衣のベッドの横に行き、麻衣のおでこに手を添え囁いた。
「あなたの望みは何?22日の日曜礼拝で神様にお願いしてきてあげる…。せめて夢の中だけで叶えられるようにね…。」
その様子を那依は不思議な気持ちで見守っていた。
続いて1週間クリスに泊まってもらう那依の部屋に案内した。NBAで活躍中の日本人プレイヤーの七村類のポスターやインターハイ出場決定の時のバスケ部の5人の3年生レギュラーの写真、子供の那依が温太の肩に乗った引退パーティーの集合写真等を見たクリスは那依に「あなたバスケットの選手なの?」と尋ねられたので「「元」ね…。」とだけ答えた。
クリスは部屋の中央で目を閉じ、ゆっくりと「瞑想」しているようだった。こと我をかける隙が感じられないクリスから視線を外せずにいた那依に、目を開けたクリスがいたずらっ子のような顔をして言った。
「今からじゃあ、ハイジとクララみたいに仲良くなれるように那依と家族の事を教えてくれる?」
リビングに移動し、那依はクリスに「紅茶でいい?」と確認を入れるとクリスは「アルコール以外はなんでもオッケーよ。」と返し、テーブルに着いた。
那依は、元日本のプロバスケット選手でバスケを教えてくれた今年7月に亡くなった温太の事、今は要介護になってはいるが元は明るく優しかった麻衣のことを話し、最後に自分のことを簡単にかつ「自虐的」に説明した。
「10年バスケやってきたけど、今はもう引退して5カ月…。今はいわゆる「ヤングケアラー」ってやつね。初対面のクリスに言う話じゃないけど無報酬かつ報われない仕事だけどね…。」
その後は、那依は自分の事はさておいて、亡くなった温太のことを簡単に話した。クリスは黙って頷きながら聞いてくれている。続いて麻衣のことを話しだした。
「お母さんは、関ロメンディーっていうアーティストが好きで「ロメンディー」のライブに行きたいって思ってるんだけど、今の身体と頭の状態じゃもう絶対に無理よね…。せめてクリスマスにDVDを買ってあげようと思ってるんだけど、それも厳しくて…。
って、クリスごめんね。つまんない話ばっかりで!はい、これで幸賀家の紹介はお終い!次はクリスの家の話を聞かせて?」
と話をふったが、クリスは自分の事は語らず、那依に短く質問をした。
「あなたは?」
「私は、何もない…。ほんと、「夢」も「希望」も「存在」すら何もない存在なのよ…。バスケは辞めて、友達も失い、母からは疎まれる…。誰も私を必要としていない。」
と蚊の鳴くような声で呟くと、そこにケアマネージャーの世話焼がやってきた。
「あら、外人さん?那依ちゃんのお友達?」
「はい、クリス・トキントって言います。ドイツからの交換留学生で那依の家で1週間お世話になります。」
クリスが名乗ると世話焼は少し驚いた顔をして言った。
「えっ、「クリストキント」だって?クリスマス前にできすぎのお客様ね。「クリストキント」さん、幸賀さん家族にいいことがあるように祈ってあげてね。」
「はい。そう言うあなたにも「幸」がありますようにね。」
思わせぶりに世話焼に言うとクリスは那依の向かいの席を世話焼に譲った。世話焼は那依に麻衣の近況を伺った後、麻衣の様子を見た後、ケアプラン実施状況書類を作成し終わると「じゃあ、幸賀さん、また25日にもう一度来るわね。」と世話焼が帰ると那依はクリスにぼそっと呟いた。
「クリス、学校では私の家にホームステイしてることは黙っておいた方がいいよ。あなたまで「いじめ」や「しかと」にあったら日本で「悪い思い出」しか残らないでしょ…。」
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