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「予知夢で見た日」
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「予知夢で見た日」
「予知夢」で見た29日の金曜日がやって来た。月末の営業結果の報告書と月初の月曜日の会議資料を持ち帰って土日を潰したくなかった為、いつも通りの深夜残業で株式会社システムのなにわの営業部の部屋でパソコンを前に靖は作業していた。同じ年齢の大学新卒の入社3年目に入った同僚の「出口祥」も一緒に悪戦苦闘している。
高卒、大卒の学歴関係無しに、祥は入社時から現在も営業指導を任されている靖の事を口ばかりで何もしない上司たちと違い、親身になって相談に乗り、難しい案件や苦戦している顧客先では先輩営業として知恵をつけてくれたり、資料作成の応援や時として同行してくれる点で祥は特別な好意を持っている。
上司がいる間は肩書のないものは「小原さん」、「出口君」と社歴優先のシステムのなにわ独特の呼び方で呼び合っているが、締め日と言う事で飲みに行ってしまった上司がいない部屋では気さくに「靖ちゃん」、「祥ちゃん」と互いに上下関係なく親しみを込めて呼び合う仲である。
仕上がりの遅い祥の作業を手伝い、会議で使う今月の報告書と来月の売り上げ見込みの資料が出来上がり役員と営業部メンバー数プリントアウトをかけ始めた。プリンターが動いている間の短い空き時間に靖は祥に尋ねた。
「祥ちゃん、突拍子もない事を尋ねるけど「デジャヴ」や「予知夢」ってマジにあるんかな?」
祥はいつもまじめな靖の意外な言葉に丁寧に対応してくれた。
「俺、大学は文学部やったからサブ専攻で「心理学」も受講してたんやわ。その時に学んだ内容からいくと「デジャヴ」と「予知夢」をごっちゃにする人が多いねんけど学問的には別物やねんな。「デジャヴ」は…、」
と専門用語を挟み説明を始めた。「こんなこと前にもあったかな。」と感じる「デジャヴ」は深層意識にある類似記憶から現実体験をリンクさせ過去に同様の体験をした気になる現象で、その体験の元は「映画・ドラマ」等の映像記憶や「小説・漫画」等の文字・画像情報、そして「伝聞」での言語記憶によるものが多く、そのほとんどは実体験と関係がない事が多いと解説してくれた。
それに対し「予知夢」は人間の隠された能力であえて祥は「超能力」と言う言葉を選んだ。
「靖ちゃん、超能力って言うと「スプーン曲げ」や「遠隔透視」をイメージするかもしれへんけど、「予知夢」っていうのは「プレコグニション」っていう「未来予知」の能力の一種と言われてるねん。
2011年の東日本大震災を日付もぴったりと当てた「予知夢」を見たっていう事が表紙に描かれてたっていう1985年出版の漫画が、震災後「これは預言書や!」って人気が再燃して再出版されたんやけどその中に2025年7月5日に大災害が日本を襲うって話題になってるやろ。その女性作家さんは「予言」のつもりはなく、単に自分が見た夢を「夢日記」に綴ってその内容を漫画にしただけやねんけど東日本大震災だけでなく、私事や有名ロック歌手や有名タレントの死なんかも結構な確率で当たってるっていう噂やな。」
ネットで火がつき、地上波人気バラエティー番組で取り上げられたことで全国に広まった漫画作品について語った後、直木賞作家による「予知夢」を取り上げた作品や祥が大学で専攻してきた明治文学の文豪「夏目漱石」の「こんな夢をみた」という書き出しで始まる「夢十夜」やルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」も拡大的解釈からいくと「予知夢」を扱ったものと言えると解説は続いた。
更に、芥川龍之介、正岡子規、萩原朔太郎、森鴎外にも「夢」と言うタイトルの作品があり、制作秘話の中には「夢の中で出てきたストーリーがヒットする将来を見たので執筆した。」と言うようなエピソードも少なからずある事が語られた。もともと感受性の強い作家やいわゆるクリエイターにその傾向は強いと祥は説明し「ところでなんかあったん?」と靖に尋ねた。
「うん、ちょっとな。「予知夢」っていうのは、フィクションの世界だけでなく現実世界でもあり得る話なんや…。祥ちゃんが信じる信じへんは別として、今晩、ボコボコにしばかれる夢を見たんやわ…。日付が変わって0時半に帰り道でしばかれるかもしれへんと思ったら気が滅入ってしもて…。」
靖が俯き加減に呟くと、祥は気楽な明るい笑顔でアドバイスをくれた。
「じゃあ、0時半の時点を別の場所で過ごしたらええねん。締め日やし、一緒にキャバクラでも行こうや。って靖ちゃん、家に仕送りしてるから無駄遣いできへんねやったな。
まあ、靖ちゃんにはその未来が見えてるって事やったら、その場に絡まんようにやり過ごすことやな。「君子危うきに近寄らず」やで。ケラケラケラ。」
(でも、そんなことをしたら「あの人」が酷い目に遭うかもしれへんし…。まあ、当たるも当たらぬも五分五分やからな…。)と思っている間に、プリントアウトは終わりホッチキスで留められた資料が出来上がっていた。
最終電車で降りた門真市駅は靖の見た予知夢の通りの風景だった。午前1時閉店のスーパーに寄ると肉の日の特別価格の980円の「特上焼肉弁当」が半額で売られていた。半額の「特上焼肉弁当」と「発泡酒」のロング缶を買いエコバッグに入れると悩みながら店を出て、夢の中で事件に遭ったRikkaに足を向けた。
夢と同じくRikkaの反対側の歩道を歩き商店街を抜けていくと店の前で晶が置き看板を片付けていつものように月を見上げていた。(どうか、何も起こりませんように。)と祈りながら彼女の横顔を盗み見していると夢で見たままの姿のふたりの酔客が現れた。
「よお、お姉ちゃん!えらい別嬪さんやないか?一杯だけ飲ませてくれや!」
セリフ一文字も違えぬ男のセリフが靖の耳に届いた。道路を挟んだ靖の目の前で酔客が晶に絡みブラウスのボタンがはじけ飛んだ。
「うひゃー、美人で巨乳ってか?閉店って事やったら、1杯飲んだ後、1発やらせてくれたら5万払うで。ふたりで10万の売り上げやったら美味しいやろ!ぎゃははは!」
下品に笑い女店主の胸を触り始めたのが目に入った瞬間、自然と靖の足が動いた。
「か、彼女から、は、離れろ。い、嫌がってるやないか。」
と男と晶の間に割って入った靖に夢と同じように最初の拳が入ると男たちは有無を言わせぬ暴力を振るった。
「なんやお前、へなへなのくせしてかっこつけるから痛い目を見るんや!」
タコ殴りに遭い続ける靖を見るに見かねた通行人が110番に電話し、パトカーがやって来て理不尽な暴力は止まった。
「予知夢」で見た29日の金曜日がやって来た。月末の営業結果の報告書と月初の月曜日の会議資料を持ち帰って土日を潰したくなかった為、いつも通りの深夜残業で株式会社システムのなにわの営業部の部屋でパソコンを前に靖は作業していた。同じ年齢の大学新卒の入社3年目に入った同僚の「出口祥」も一緒に悪戦苦闘している。
高卒、大卒の学歴関係無しに、祥は入社時から現在も営業指導を任されている靖の事を口ばかりで何もしない上司たちと違い、親身になって相談に乗り、難しい案件や苦戦している顧客先では先輩営業として知恵をつけてくれたり、資料作成の応援や時として同行してくれる点で祥は特別な好意を持っている。
上司がいる間は肩書のないものは「小原さん」、「出口君」と社歴優先のシステムのなにわ独特の呼び方で呼び合っているが、締め日と言う事で飲みに行ってしまった上司がいない部屋では気さくに「靖ちゃん」、「祥ちゃん」と互いに上下関係なく親しみを込めて呼び合う仲である。
仕上がりの遅い祥の作業を手伝い、会議で使う今月の報告書と来月の売り上げ見込みの資料が出来上がり役員と営業部メンバー数プリントアウトをかけ始めた。プリンターが動いている間の短い空き時間に靖は祥に尋ねた。
「祥ちゃん、突拍子もない事を尋ねるけど「デジャヴ」や「予知夢」ってマジにあるんかな?」
祥はいつもまじめな靖の意外な言葉に丁寧に対応してくれた。
「俺、大学は文学部やったからサブ専攻で「心理学」も受講してたんやわ。その時に学んだ内容からいくと「デジャヴ」と「予知夢」をごっちゃにする人が多いねんけど学問的には別物やねんな。「デジャヴ」は…、」
と専門用語を挟み説明を始めた。「こんなこと前にもあったかな。」と感じる「デジャヴ」は深層意識にある類似記憶から現実体験をリンクさせ過去に同様の体験をした気になる現象で、その体験の元は「映画・ドラマ」等の映像記憶や「小説・漫画」等の文字・画像情報、そして「伝聞」での言語記憶によるものが多く、そのほとんどは実体験と関係がない事が多いと解説してくれた。
それに対し「予知夢」は人間の隠された能力であえて祥は「超能力」と言う言葉を選んだ。
「靖ちゃん、超能力って言うと「スプーン曲げ」や「遠隔透視」をイメージするかもしれへんけど、「予知夢」っていうのは「プレコグニション」っていう「未来予知」の能力の一種と言われてるねん。
2011年の東日本大震災を日付もぴったりと当てた「予知夢」を見たっていう事が表紙に描かれてたっていう1985年出版の漫画が、震災後「これは預言書や!」って人気が再燃して再出版されたんやけどその中に2025年7月5日に大災害が日本を襲うって話題になってるやろ。その女性作家さんは「予言」のつもりはなく、単に自分が見た夢を「夢日記」に綴ってその内容を漫画にしただけやねんけど東日本大震災だけでなく、私事や有名ロック歌手や有名タレントの死なんかも結構な確率で当たってるっていう噂やな。」
ネットで火がつき、地上波人気バラエティー番組で取り上げられたことで全国に広まった漫画作品について語った後、直木賞作家による「予知夢」を取り上げた作品や祥が大学で専攻してきた明治文学の文豪「夏目漱石」の「こんな夢をみた」という書き出しで始まる「夢十夜」やルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」も拡大的解釈からいくと「予知夢」を扱ったものと言えると解説は続いた。
更に、芥川龍之介、正岡子規、萩原朔太郎、森鴎外にも「夢」と言うタイトルの作品があり、制作秘話の中には「夢の中で出てきたストーリーがヒットする将来を見たので執筆した。」と言うようなエピソードも少なからずある事が語られた。もともと感受性の強い作家やいわゆるクリエイターにその傾向は強いと祥は説明し「ところでなんかあったん?」と靖に尋ねた。
「うん、ちょっとな。「予知夢」っていうのは、フィクションの世界だけでなく現実世界でもあり得る話なんや…。祥ちゃんが信じる信じへんは別として、今晩、ボコボコにしばかれる夢を見たんやわ…。日付が変わって0時半に帰り道でしばかれるかもしれへんと思ったら気が滅入ってしもて…。」
靖が俯き加減に呟くと、祥は気楽な明るい笑顔でアドバイスをくれた。
「じゃあ、0時半の時点を別の場所で過ごしたらええねん。締め日やし、一緒にキャバクラでも行こうや。って靖ちゃん、家に仕送りしてるから無駄遣いできへんねやったな。
まあ、靖ちゃんにはその未来が見えてるって事やったら、その場に絡まんようにやり過ごすことやな。「君子危うきに近寄らず」やで。ケラケラケラ。」
(でも、そんなことをしたら「あの人」が酷い目に遭うかもしれへんし…。まあ、当たるも当たらぬも五分五分やからな…。)と思っている間に、プリントアウトは終わりホッチキスで留められた資料が出来上がっていた。
最終電車で降りた門真市駅は靖の見た予知夢の通りの風景だった。午前1時閉店のスーパーに寄ると肉の日の特別価格の980円の「特上焼肉弁当」が半額で売られていた。半額の「特上焼肉弁当」と「発泡酒」のロング缶を買いエコバッグに入れると悩みながら店を出て、夢の中で事件に遭ったRikkaに足を向けた。
夢と同じくRikkaの反対側の歩道を歩き商店街を抜けていくと店の前で晶が置き看板を片付けていつものように月を見上げていた。(どうか、何も起こりませんように。)と祈りながら彼女の横顔を盗み見していると夢で見たままの姿のふたりの酔客が現れた。
「よお、お姉ちゃん!えらい別嬪さんやないか?一杯だけ飲ませてくれや!」
セリフ一文字も違えぬ男のセリフが靖の耳に届いた。道路を挟んだ靖の目の前で酔客が晶に絡みブラウスのボタンがはじけ飛んだ。
「うひゃー、美人で巨乳ってか?閉店って事やったら、1杯飲んだ後、1発やらせてくれたら5万払うで。ふたりで10万の売り上げやったら美味しいやろ!ぎゃははは!」
下品に笑い女店主の胸を触り始めたのが目に入った瞬間、自然と靖の足が動いた。
「か、彼女から、は、離れろ。い、嫌がってるやないか。」
と男と晶の間に割って入った靖に夢と同じように最初の拳が入ると男たちは有無を言わせぬ暴力を振るった。
「なんやお前、へなへなのくせしてかっこつけるから痛い目を見るんや!」
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