【完結】『社畜の鑑』

M‐赤井翼

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「Rikka就職」

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「Rikka就職」

 8月初旬、璃子から9月1日からの40日間の休職の申し出が正式にあった。以前から晶は聞いていたのだが大学卒業を前に9月からの約6週間を短期海外留学経験をしておきたいという事だった。靖は初めて聞くことになったのだが、Rikkaに勤め始めたころから授業料以外に留学費用を貯めるために週6日の夜の部と土曜日の昼の部のアルバイトを1日も休まずこなしてきたとの事だった。
 3年4か月の間、月曜日から土曜日まで夕方7時から0時半までをほぼ休むことなくレギュラーで店に入ってくれていて、阿吽の呼吸で業務を進めてきたのが当たり前だったので晶は少し困ったが、璃子の夢を自分の都合で潰すわけにはいかず許可を出さざるを得なかった。
 靖は事故後1週間でギブスにかかとが付き、松葉杖を使えば単独で外出も可能になった。晶が紹介してくれたよろずコンサルタント会社に祥とおもむき労災保険の個人申請手続き書類とコンサルタントからアドバイスを受け未払い残業代支払い申請の申し立て書の作成を依頼した。祥がスマホのカメラで毎月撮影していたタイムカードの記録が証拠として優位に働くとの事で、祥と共に労働基準監督署に提出し受理された。
 翌週には労基署から懲戒解雇は撤回される旨の連絡があったが、靖も祥もシステムのなにわに戻るつもりはなかったのでコンサルタントに仲介してもらって正式な退職手続きを取った。労働基準監督署の指導もあり未払い残業費の支払いと有給休暇消化後の会社都合の退職扱いと労災事故扱いになった為、靖は有休消化が終わっても当面は労災事故として基本給の8割は保証され、祥は失業保険を待機期間なしに受給できる目途がつき一息つけた。

 靖は晶にRikkaのバックヤードでの洗い場の仕事を手伝いたいと申し出た。晶はギブスが取れるまではゆっくりするよう勧めてくれたが「住むところ、食事をお世話になってる分、できることはやらせて欲しいんです。」と強く主張し、ランチと夜営業とも洗い場に立つようになった。
 グラス磨きは慣れない仕事ではあったが、丁寧に璃子が指導してくれたので3日目には磨き直しを指摘されることも無く、ワイングラスを割ることも無くなった。何よりも晶と長い時間一緒に過ごせることが靖にとっては嬉しかった。
 他のパートタイマーの手前、同棲していることの「内緒」は当たり前の事で、店内では「店長」、「小原君」と呼び合うルールが徹底された。夜の部は今更なので客前では禁止だがバックヤードでは璃子しかいないので「晶さん」、「靖君」といつも通りに話せるのが心地よかった。

 8月の2週目には短い距離であれば杖なしでもギブスの足で歩けるようになり、短距離移動なら両手が自由に使えるようになったので食器を棚に片付けたり、調理済みの料理を盛り付けてカウンターにまで運ぶこともできるようになった。骨折の治癒経過は良好で24歳の若さもあり4週間でギブスを外すことができた。8月最終週の璃子の壮行会では多くの客が訪れたが、靖ひとりでバックヤードをこなせるようになっていた。
 壮行会後、晶のマンションに戻ると、晶から靖にお疲れ様のビールが手渡された。月を見ながらふたりでの乾杯の後、靖はこのひと月の間、考えてきたことを晶に伝えた。
「晶さん、俺と祥ちゃんをRikkaで雇ってもらえませんか?この一か月でRikkaの要改善点も見えてきました。集客、仕入れ、販売管理等、システム化することで効率化を図ることが可能です。璃子ちゃんもいずれ卒業でいなくなってしまうわけですからここはひとつ大きく改革してみませんか?」

 靖はノートパソコンを使い、晶にわかりやすく「システムのなにわ」時代と同じように新プランをプレゼンテーションした。そのプランの中には、祥の参加も含まれていた。
「靖君の言いたいことはわかるけど、この店の売り上げとキャパでは靖君と祥君のふたり分のお給料なんて無理よ。今でも赤字の月があるのに…。」
と否定的だった晶も靖が示すプランを聞いている間に態度が和らいだ。10月いっぱいまでは靖も祥も失業保険の給付があるので無給でいいので2か月試してみたいという靖の熱意が伝わり、全15席の回転数と稼働率と客単価を上げる事、現在は休んでいる日曜日を靖と祥が加入することで全日稼働させることが可能になると同時に、週6勤務だった晶は週休2日を確保できるようになる事を説明し、売り上げを上げるためのIT集客プランが提示された。
 今まで全く取り組んでこなかったオンラインクーポンやデジタルスタンプでリピート率を上げ、雨の日割引およびサービスで稼働率向上を目指し、誕生月サービス等の新規格を提案した。就職してから6年の間に飲食店顧客で身に付けた知識と実践経験を考慮してシミュレーションをすると晶を代表として靖、祥の正社員3人態勢でも粗利益を100万円以上増やすことも十二分に可能であることを示した。
「ちなみに俺の給与は前職レベルのものは望みません。母は亡くなりましたし、家賃も食費も今は晶さんにお世話になってますので、俺は月に5万円もあれば十分です。一度、このプランを試させて下さい。」
と珍しく強く押してくる靖に今までにない男らしいものを感じた晶は最後に黙って頷いた。

 「それにしても、靖君のお給料が月に5万円って訳にはいかないわよ。今まで年収450万程あったんでしょ?それこそうちがブラック職場になっちゃうじゃない。」
と心配そうに晶が問うと
「大丈夫ですよ。晶さんと一緒に居られるなら5万円の小遣いがあれば十分です。こう見えて「社畜の鑑」って呼ばれた俺です。小原靖24歳、今度はRikkaの、いや晶さんの家畜として精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。他で働く時間はもったいないです。公私ともに一日24時間、晶さんと一緒に居させてください。もちろん祥ちゃんには11月からは月に30万円程払えればいいと了解はもらっています。俺も祥ちゃんが一緒にいてくれたら安心して仕事に集中できます。どうか俺と祥ちゃんの試験採用をお願いします。」
と晶の前で土下座した。
「もう靖君、土下座と「私の家畜」っていうのは堪忍してよ。でも、そう言ってくれるのは女冥利に尽きるわね。祥君も併せて11月から正規社員採用は決定よ。でも5万円のお給料じゃ私が守銭奴店長って呼ばれちゃうから困っちゃうな。
 足りない分は靖君には私の身体の現物支給で払わせてもらうって事でいいかな。くすくす。」
と晶は微笑むと「じゃあ、今から前払いさせてもらうわね。」と怪しい笑みを浮かべると靖に軽い口づけをし、ぎゅっと抱きしめた。









(※かつらの祥ちゃんです(笑)!)
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