【完結】『社畜の鑑』

M‐赤井翼

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「同棲開始」

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「同棲開始」

 月曜日、午前9時。外科医が病室に来て看護師に付き添われ車いすでレントゲン室に靖は運ばれた。15分後、骨折による断絶面は伊庭の処置により綺麗に揃っていることが分かり、腫れの引いた足に合わせギブスを巻き直した。「安静に生活ができるのであれば明日退院でもいいですよ。」との判断が出た。
 晶に電話を入れると「じゃあ、明日から同棲開始だね。くすくす。今日中に部屋片づけとくわ。わくわくしちゃうね。」と嬉しそうな声に靖は救われた。

 火曜日、朝一での退院の際には晶も病院に迎えに来てくれた。タクシーで靖のアパートに寄り、身の回り品だけ持ち晶のマンションへ向かった。拓也の使っていた部屋を割り振られる予定で、必要無くなった靖の家財は業者に処分依頼し、物件を引き上げることにしている。6年、ほぼ寝る為だけにしか使われなかった部屋には何の愛着も無く処分業者の為に鍵をポストに入れてきた。
 初めて入った晶のマンションになぜか靖はデジャブを感じた。(過去にこの部屋を見たような気がするんやけど、そんなはずあれへんよな…。)と思いリビングを見回すと靖の頭に鮮明なビジョンが浮かんだ。テレビやソファーの配置から「秋の出来事」と確信している「予知夢」で見た情景だと確信した。(あれは晶さんのマンションの部屋やったんや。すると、秋にはこの場で…。)と思うがそれ以上考えが進まない。
いつまで・・・・続くか分かんないけど、靖君と同棲することになるとはね。事情が事情の非常事態だからこうなっちゃったけど、あの約束は継続だから守ってね。とりあえずランチが終わったら3時までには一度帰ってくるからゆっくりしててね。」
と言うと晶は靖を残しマンションを出て行った。
 部屋には拓也を感じさせるものは写真一枚もなかった。おそらく靖に気を使って晶の部屋にしまい込んでいるのだろうと想像した。夢で見たソファーに腰を下ろし、瞼を閉じ瞑想した。ふと夢で見たイメージが脳内再生された。(あの時見たガラスケと花束が描かれた横長の用紙の横にはポールペンと印鑑が置いてあったよな。フエルト地の小さなケースの横に置かれた上等な紙袋には「ROCCA」って書かれてる…。向かいで泣いてる晶さんが何度も「ごめんなさい」って謝ってた…。)イメージを追いかけるうちに夢を見た当日には気が付かなかった細かい情景が浮かんでは消えて行った。部屋にかかっていたカレンダーが脳裏に浮かんだ。(あっ、11月や!と言う事はペナントレースでなく日本シリーズ中の日曜日か水曜日やな。)とスマホで今年の日本シリーズの予定を調べると該当する11月2日の日曜日の第7戦と予想された。
 靖は自分の部屋から持ってきた2箱の段ボールの中から「夢ノート」を取り出し、「ボールペンと印鑑」、「ROCCAと印刷された上等で小さな紙袋」、「晶さん ごめんなさい連呼」、「11月のカレンダー」と書き足し、最後に「11月2日(日)の可能性大」と書いた時、玄関のドアが開き晶が帰って来た。

 靖は慌てて夢ノートを隠し「おかえりなさい。」と声をかけた。「ごめんね、放ったらかしにしちゃって。今日のランチの材料を持って帰って来たから食べてね。すぐ作っちゃうからちょっと待ってて。」といい、家庭用のエプロンを付けるとすぐにキッチンに立った。料理をする晶を靖は(ほんまに晶さんと一緒に暮らせることになったんや…。晶さんがご飯作る姿を見ながら待つって、なんか新婚夫婦みたいでええなぁ。)と自然と笑みが浮かんでくる。
 10分後、しっかりと火が入れられた豚の生姜焼きの皿が出てきた。「サラダとスープは店から持って帰って来たのでごめんね。」とテーブルに配膳した晶はにやけ切った靖に「何緩い顔してるの?」と聞くと「いやぁ、俺の為にご飯を作ってくれる晶さんのエプロン姿があまりに可愛いんで勝手に頭の中で晶さんと夫婦になってました。すみません…。」と謝ると晶は耳元で晶が囁いた。
「ふーん、そんなこと考えてたんだ。じゃあ、あれだね。定番の裸エプロンでも見せてあげようか?くすくす。靖君ご飯食べてもお店の準備までに2時間以上あるんだけどどう?先々週の日曜日から10日間…。靖君、溜まってるならしようか?足に負担掛けちゃいけないんで靖君はベッドで寝そべるだけゆっくりでする「ポリネシアンセックス」に挑戦しようか。激しい動きなしで30分から1時間ゆっくり密着してするんだよ。いちゃラブの頂点ってやつね…。」
いたずらっぽくブラウスを脱ぎだした晶を見ながら靖は「お願いします。」とだけ答えた。












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