【完結】『社畜の鑑』

M‐赤井翼

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「祥による夢分析」

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「祥による夢分析」

 靖は祥にノートを手渡し、内容を確認してもらうとひきつった作り笑顔で祥は言った。
「えらいリアルな夢やけど、同じシチュエーションをアメリカドラマかホラー映画で見たことあるで。靖ちゃんも昔見た映画が深層意識に残ってて夢に現れただけとちゃうか?そもそも前の会社辞めた今、車に乗る事なんかあれへんやろ。今月いっぱいハローワーク通いの無職の俺達は車も持ってへんしな。まあ、いざとなったら3月27日に車に乗らへんかったらええっていうだけの事やろ。ケラケラケラ。」
と慰めに加えて解決策まで提案してくれたので一気に気持ちが軽くなった。
「せやな、車に乗らへんっていう解決策があるとは気が付けへんかったわ。やっぱり祥ちゃんに相談してよかった。ちなみにもう一件気になってる11月2日と思われる夢があるんやけど意見もらえへんかな。」
と言って、阪神タイガース優勝の時の夢の話を始めノートのそのページを開いて見せた。
 話を聞き終わると祥はあえて笑顔で話を切り出した。
「まずは、我が阪神タイガースが優勝するって聞いて安心したわ。その胴上げが日本シリーズの第7戦の日っていうのがええわな。勝つと分かって観る日本シリーズは接戦でも胃が痛くならんで済むから靖ちゃんには大感謝や。2年ぶりの日本一を安心して見られるねんな。
 さて、問題は泣いて靖ちゃんの言う事に首を振り続ける晶さんの事やな。靖ちゃんの夢は断片的で事の途中で途切れてしまう傾向があるから、状況を想定して想像すると靖ちゃんと晶さんがナイター中継中に晶さんのマンションに居てるって事は日曜日か今のシフトやと水曜日の夜っていう事で間違いないやろ。まあ、11月のカレンダーは夢じゃなく晶さんの部屋で見たデジャブの勝手なイメージかもしれへんから、一応10月29日の第4戦で4連勝でタイガース胴上げのパターンの水曜日も候補に置いて考えようか。」
祥は鋭く状況を分析して予測される要因を絞り込んでいった。

 祥の予測は何度も繰り返された「いしょく」と言う言葉に進んだ。「衣食」と言う内容で晶が泣くようなことは想像がつかないと言い、靖もその考えに同意した。続いての考察は「異食」だった。
「次に「異食」は靖ちゃんが店を「珍獣屋」さんみたいに方向転換したいとでも言いださん限り、晶さんが泣いて反対はせえへんよな。ケラケラケラ。」
祥はあえて空気を軽く流したので靖もつられて笑った。しかし、「いしょく」についての考察はそこで完全に詰まってしまった。祥の想像では「委嘱」であれば、今の業務の一部を外部に委託、委譲する中で靖の提案で譲られない部分があるパターンが考えられるという。多店舗展開や大手チェーンからの買収の話で「Rikka」の名前が消えてしまうような事例が挙げられた。
 続いて「eショック」はデジタル機器に疎い晶がついうっかり操作を誤り大きな問題が発生した場合などをシミュレーションした。大きな損失が出て、その責任を俺らに害を与えんように晶さんがひとりで被ろうとするようなパターンが語られた。
「次は可能性は低いけど「異色」はいろんな意味に捉えられるけど、靖ちゃんが「男色」に転向するとか、晶さんが戻って来た璃子ちゃんと「百合色」に転向で靖ちゃんに出て行って欲しいっていうような状況はあり得へんし無しかな。ましてや「移植」は現況では考えられへんわな。まあ、まだひと月あるから状況を見て行こか。ガラスケと花束の絵の入った用紙と小箱はさっぱりわからんから璃子ちゃんにでも聞いてみるかな。」
と夢分析を締めくくった。

 冷たいウーロン茶で一服し、頭を休ませた祥はふと8月末に9月からのシフトについて打ち合わせた時の事を思い出した。璃子が海外留学でRikkaのアルバイトを抜けた後、靖と祥がメインスタッフとして入り、互いに週に2日休みを取るように変更しようと打ち合わせをした時のことだった。祥は晶と靖に土日の連休を提案し、自らは火水の連休を申し出たが晶がふと立ち上がりバックヤードに入った後に再び打ち合わせをしていたホールに出てくると「私は水曜日と日曜日休みにしてほしいんだけど。」と切り出した後、璃子との話の中で祥はシフトの打ち合わせに参加せずバックヤードで片づけをしていた璃子は晶が予約客を書き込むカレンダーをチェックしに来たことを聞いていた。
 現在のカレンダーをふたりでチェックしに行くと水曜日は予約客名の上に隔週でボールペンで三角マークが記されていた。祥が水曜日の仮店長となった際、出入りの酒屋から「水曜日に入れさせてもらえるようになって助かりましたよ。以前は月木金でバランスが悪かったんでねぇ。」と言われたことも思い出した。
 祥の頭の中に「水曜日」がキーワードとして浮かび上がったが、ぼんやりとしたもので形にはなってこない。そこに水曜日のランチの仕込み係のベテランパートタイマーの女性が出勤してきた。祥は、7月以前の水曜日の状況を尋ねると、月火、木金土は10時前には晶は出店し仕込みを自ら行っていたが、水曜日はたまに仕込みをパートの女性に任せ10時半から開店直前に出店してくることがあった事が聞かされた。
「靖ちゃん、今、晶さんの水曜日ってどないなってんの?ゆっくり休んでるんか?」
祥の質問の本意が掴めずありのままに靖は答えた。
「俺は水曜も関係なく駅にチラシを配りに行ってるで。そういえば8時半から9時にマンションに戻ると晶さんが居れへん日があるな。俺には買い物とか美容室にカットしに行ってるって言うてはるけどそれが何か?」

 祥は何かに気づいたようにカレンダーを外しテーブルの上に置いた。ボールペンで書かれた水曜日の三角印は11月まで隔週でボールペンでマーキングされている。9月の水曜日で予約客が入っていないところに目を付けた。記入欄の一番上の列に指を添わせると、事務用品入れの中から鉛筆を取り出し、芯先を斜めにして上段列をこすった。うっすらと「門真総合病院」の文字が浮かび上がった。祥はパートの女性を呼び、いくつか質問をした。すると7月までは毎月一度は「門真総合病院」の記載があったが、8月から三角マークに代わり、それまで月いちの記載が隔週のマーキングになった事が語られた。
 祥はある・・ことをパートタイマーに確認したが「それはプライベートな事だから店長に直接聞いてくださいな。」とはぐらかされた。
 祥は璃子から聞いていたある話を思い出し、海外にいる璃子にラインでメッセージを送った。時差があり現地時間では夜8時であったが、すぐに既読マークがつくと1分後に返事が来た。その返事を読むとそのまま靖に見せた。そこには「事ある毎に店長からは子宮がん、乳がん検診、肝炎検査を強く勧められたことがあったよ。それが何か?」との回答が表示されていた。「なんで店長はそんなに検診、検査にこだわってたのかな?理由知ってる?」と祥が再びメッセージを送ると思いもかけない返事が来た。「前のご主人が肝炎起因の肝臓がんで亡くなったって言ってたから神経質になってるんじゃないかな?」のメッセージで祥の頭の中で点と点が線になりつつあった。1枚、ふた月ごとのカレンダーを改めてチェックしてみると、先週と来週の水曜日に三角印が記入されていることが確認できた。以降、11月末まで規則正しく隔週でマーキングされていた。




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