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『お母ちゃんの告白』
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『お母ちゃんの告白』
病院に着くと、仲良しの警備のおっちゃんが、
「さとみさん!急いで!かずみさん、ICUに入ってるよ!」
とエレベーターを先に呼んでくれた。
「ありがとう!おっちゃん。」
と走りながら、お礼を言いエレベーターに飛び乗った。ICUのある三階のボタンを震える指で押し、(お、お母ちゃん…)と心の中で呼び、両手を顔の前で組んで祈った。いつもは、すぐ着く三階のフロア―がすごく時間がかかり、三十階のように感じられた。(早く着いてよ、このポンコツエレベーター。)
「チーン」。ベルが鳴り、エレベーターのドアが開いた。
看護師長の坂井三津子がICUから飛び出てきた。
「さとみさん、あなたに嘘や慰めを言っても仕方ないから、正直に言っとくわね。落ち着いて聞いてね。かずみさん、一度は開腹したんだけど肝臓破裂が手の施しようが無くて、かなりの出血なの。クランプで出血を止めて、腹圧で抑えてる状況なんだけど、もうかなり厳しい状況なの。覚悟しておいてね。」
と、坂井は、小刻みに震えるさとみの両手を強く握り、じっとさとみの目を見た。さとみは、だまって頷いて、ICUに飛び込んだ。
ICUの中では、ベットの上のかずみの身体から多数の輸血や点滴のラインが引かれている。モニターに映る心拍を示す波形がフラットになっている。いたるところで赤ランプのアラームと緊急状態を告げるブザーが鳴っている。腹部から取ったドレーンの先の袋には、赤黒い大量の血が溜まっている。かずみの上には、外科のドクターが馬乗りになって、汗だくになり、心臓マッサージを繰り返している最中だった。
「お母ちゃん!」
ベットから力なく垂れ下がった右手を強く握った。
「さとみ君、声をかけ続けて!かずみさん、さとみ君が来てくれたよ。頑張るんだ!」
汗まみれの姿で、必死で心臓マッサージをしながら、ドクターがかずみとさとみに向けて叫んだ。
「お母ちゃん!お母ちゃん!さとみやで!急いできたんやで!目を開けて!お母ちゃん!起きてや!」
泣きじゃくりながら、声をかけ続けた。かずみに繋がれた、各種医療機器は次々と危険な数値を示し、アラーム音と赤いランプの点灯が増えていった。
外科のドクターが大声で言った。
「おい、電気用意できたか?」
「はい!」
看護師がジェルを塗った電気ショックのパッドをドクターに渡し、かずみの胸を開ける。
「離れて!」
バシッ!かずみの背中が一瞬跳ね上がる。
「どうだ!」
「だめです、振れません!」
「もう一度、電圧上げて!」
「はい!」
看護師がパッドにジェルを塗りなおし、ドクターに渡した。
さとみは、両手を胸の前で組み祈った。(お母ちゃん、戻ってきて…。)
「離れて!」
バシッ!再びかずみの背中が跳ね上がった。
「振れました!」
看護師が、ドクターに伝える。心電図のモニターに波状チャートが現れた。
「さとみ君、かずみさんに話しかけて。」
「お母ちゃん!お母ちゃん!目を開けて!起きて!私やで、さとみやで。お願いやから私ひとりを残して行かんといて!」
ぴくっ、と握った手に反応があった。かずみの瞼がぴくぴくと動き、ゆっくりと開いた。
「あぁ、さとみ、来てくれたんや…。悪いなぁ、当直明けやのに…。」
「何言うてんねん、今この状況で、当直明けなんか関係ないやろ!お母ちゃん、しっかりして。」
「あんな…、お母ちゃん、あんたに隠し事があってん…。あんたの声が聞こえたから、これだけは言っとかんとアカン思つてな…。」
「なんや、お母ちゃん?昨日私のケーキ勝手に食べたことか?そんなんやったら、許したるから、しっかりして!」
「そんなんちゃう。大事な話やから、しっかり聞いてや。」
さとみは、黙って頷いた。
かずみは、さとみの目を見て、ゆっくりと語り始めた。
「実はな、あんたが生まれる前に死んだって言ってた、お父ちゃんやけどな、生きてるかもしれへんねん…。」
(えっ!!!何をこの状況で言い出すの!?)
「二十三年前に、お母ちゃん、前の病院に務めとった時に、そこの先生と不倫しててんやんか。そんでな、かっこ悪いことに、その奥さんに負けて、失恋してしもてんな。そんでもうどうでもよくなってしもて、自殺しようと思って北海道行ったんや…。死に場所求めて、知床まで行ってんな。
そこで、知り合ったネイチャーガイドの「ナオシ」さんって人好きになってんよ。直線の「直」って書いて「ナオシ」って読むねんな…。」
絶え絶えの息で、かずみはさとみにその時を思い出すように語り続けた。
「直さんの名字は覚えてないねんけど、斜里町にある「斜里観光」っていう会社のガイドさんで、「開拓鍋」って地元の料理をやたら推す人やったわ。
直さんに、ガイドしてもらって、オシンコシンの滝や知床五胡やいろんなとこ連れて行って、いっぱい美味しいもの食べさせてもろてんな。あぁ、楽しかったなぁ。直さん、事あるごとに、「涼子さん、ここはどうでしたか?」、「涼子さん、これは美味しいでしょ。」ってな。お母ちゃん、元々死ぬつもりで行ってたから、旅行の申し込みや、現地では「末広涼子」って名乗っててん。笑える名前やろ。
そんでな、知床五胡行ったときに、ヒグマに遭遇してしもてん。森のくまさんみたいにかわいいもんやなくて、ほんまもんのヒグマやで…でっかいやつ…。お母ちゃんかばって、直さん、熊に太ももをバリってやられてな、浅大腿動脈切れて、もう血がドバドバで、わややったわ。
そんでな、その時お母ちゃん「火事場の何とか力」っていうのかなぁ、ここは私が直さんの事守らなあかんって思ってな、足元に落ちてた枯れ枝、手に取ってな…。
今、考えたらめちゃくちゃやねんけど、「えいやー」って突き出したら、熊の左目に刺さってん…。それで熊逃げて行ってんで。すごいやろ…。
そっから、あわてて直さんの太もも、必死で止血して、お母ちゃん、直さん背負って、一キロほど山ん中歩いてな、直さんの車で斜里の病院まで連れて行ってんよ。お母ちゃんが二十二歳の時の話や…。
まあ、お母ちゃん、当時ERの看護師やってたから、変に根性というか肝っ玉座ってたんやなぁ。血まみれで飛びこんで病院のドクタービビらせたんやけど、直さんの治療が終わった後で褒められたわ。若いドクターやってんけど、「止血が悪かったら、大量失血で直さん死んでましたよ。いやー、なかなかの腕前ですね。」ってな。
そんで、その日は、一晩、直さんを寝ずの看病してん。次の日の朝、直さんの目が開いた時は、ほんまに嬉しかったなぁ…。直さんが、熊からかばってくれてへんかったら、死んでたのはお母ちゃんやったしな。命の恩人が死んでたら、お母ちゃんもあと追って死のうと思ってたんやで…。まあ、「極端な危険な環境での恋」っていうやつかもしれへんかったな。「吊り橋効果」っていうのかなぁ。そんで、好きになってしもてんな、直さんの事…。
黙っときゃええのに、お母ちゃん、直さんに、大阪の病院での不倫失恋の話も、自殺しに来たことも全部話してん。そんなあほな女の話を、直さんは全部受け入れてくれてん…。重傷者相手に、「何、話すねん」ってなもんやわなぁ。
そんで、直さんの退院の日に、ふたりでホテルのレストランで退院祝いして、その日の晩にできたんが、さとみ…、あんたや。熊倒して結ばれるって、世界でも滅多にない素敵なエピソードやろ…。あっ、そこ、笑うとこやで…。
そんで、そこから一週間、直さんも松葉づえでは、仕事にはでられへんから、お母ちゃんが運転手やって、いろいろ行ったわ…。たった一枚やねんけど、オシンコシンの滝で直さんと一緒に撮った写真が、お母ちゃんの鏡台の左の一番下の引き出しに入ってんねん。
お母ちゃん死んだら、棺桶に一緒に入れて欲しいねん。あと、引き出しに、その写真と一緒に一本、家の鍵が入ってんねん。その鍵はな、直さん退院して一週間、アパートで直さんの世話しながら一緒に暮らしててんけどな、直さんから
「これからも一緒にいて欲しい。今すぐに指輪買う金無いから、この鍵を受け取って欲しい。」
って、鍵についてるリングをお母ちゃんの薬指にはめてくれてん…。なかなかのセンスやろ…。大阪の男でもここまで笑かすネタは無いわなぁ…。」
「へーえ、そんな話があったんや。でも、お母ちゃん、そんないい人いたんやったら、何で結婚せえへんかったん?」
「えっとな、退院から八日目やったかな、そのプロポーズの翌日やったわ…。直さんの労災手続きの書類取りにお母ちゃんが斜里観光の事務所に行ったんや。そこで、専務の杉田さんって言ったかなぁ…。
「ちょっと話があるから時間もらえませんか。」
って言われて、応接室に連れて行かれてんな。そこに斜里観光の社長の長女の岩本望結さんっていう人がいたんや。まだ、高校三年生で可愛らしい子やったわ。
専務の杉田さんからな、
「直君は望結さんと婚約済みの身なんです。もちろん、直君の命を救ってくれた末広さんには感謝しています。直君が、今あなたと一緒にアパートで暮らしていることも存じています。
直君もあんなことがあった直後なんで、末広さんに感謝の気持ちもあるだろうし、命の恩人って気持ちもあると思います。しかし、望結さんとの婚約の事は、周知の事実です。
こんな小さな町では、変な噂が立っては生きていけません。会社の評判にも傷が付きます。社長と望結さんだけでなく、直君の為にも、申し訳ありませんが、今すぐ、この街を出て行ってくれませんか。」
って土下座されたんよ。(そんなこと言われてもなー。)って思ったんやけど、お母ちゃん自身がドロドロ不倫で、もめまくって、死ぬ覚悟決めたぐらいやったから…。もうドロドロしたことには絶えられへんと思って、ひとりで悩みまくったんや。結果、直さんに書置きだけ残して、その日のうちに斜里の街を出てん…。」
「へーえ、お母ちゃん遊ばれとったんかいな。残念やったな。」
「うん、結局、それで「男運無いわ」って思って、もう男作れへんかったんや。
でも、やっぱり…死ぬなら、天国に行く前に、遠くからでもええ…。直さんの姿を見たい。そうせえへんと成仏できへん…。」
かずみの目から涙が溢れた。
「直さん・・、最後に・もう・・一回で・・も・顔を・・見た・・か・・た・・な・・。」
心電図のモニターがフラットになり、赤ランプが点滅しブザーがICUの部屋に鳴り響いた。
さとみの頭には、そのランプの光もブザーの音も入っては来なかった。(お母ちゃん、死んでしもたん…。私、残して…、う、うそやろ。)
病院に着くと、仲良しの警備のおっちゃんが、
「さとみさん!急いで!かずみさん、ICUに入ってるよ!」
とエレベーターを先に呼んでくれた。
「ありがとう!おっちゃん。」
と走りながら、お礼を言いエレベーターに飛び乗った。ICUのある三階のボタンを震える指で押し、(お、お母ちゃん…)と心の中で呼び、両手を顔の前で組んで祈った。いつもは、すぐ着く三階のフロア―がすごく時間がかかり、三十階のように感じられた。(早く着いてよ、このポンコツエレベーター。)
「チーン」。ベルが鳴り、エレベーターのドアが開いた。
看護師長の坂井三津子がICUから飛び出てきた。
「さとみさん、あなたに嘘や慰めを言っても仕方ないから、正直に言っとくわね。落ち着いて聞いてね。かずみさん、一度は開腹したんだけど肝臓破裂が手の施しようが無くて、かなりの出血なの。クランプで出血を止めて、腹圧で抑えてる状況なんだけど、もうかなり厳しい状況なの。覚悟しておいてね。」
と、坂井は、小刻みに震えるさとみの両手を強く握り、じっとさとみの目を見た。さとみは、だまって頷いて、ICUに飛び込んだ。
ICUの中では、ベットの上のかずみの身体から多数の輸血や点滴のラインが引かれている。モニターに映る心拍を示す波形がフラットになっている。いたるところで赤ランプのアラームと緊急状態を告げるブザーが鳴っている。腹部から取ったドレーンの先の袋には、赤黒い大量の血が溜まっている。かずみの上には、外科のドクターが馬乗りになって、汗だくになり、心臓マッサージを繰り返している最中だった。
「お母ちゃん!」
ベットから力なく垂れ下がった右手を強く握った。
「さとみ君、声をかけ続けて!かずみさん、さとみ君が来てくれたよ。頑張るんだ!」
汗まみれの姿で、必死で心臓マッサージをしながら、ドクターがかずみとさとみに向けて叫んだ。
「お母ちゃん!お母ちゃん!さとみやで!急いできたんやで!目を開けて!お母ちゃん!起きてや!」
泣きじゃくりながら、声をかけ続けた。かずみに繋がれた、各種医療機器は次々と危険な数値を示し、アラーム音と赤いランプの点灯が増えていった。
外科のドクターが大声で言った。
「おい、電気用意できたか?」
「はい!」
看護師がジェルを塗った電気ショックのパッドをドクターに渡し、かずみの胸を開ける。
「離れて!」
バシッ!かずみの背中が一瞬跳ね上がる。
「どうだ!」
「だめです、振れません!」
「もう一度、電圧上げて!」
「はい!」
看護師がパッドにジェルを塗りなおし、ドクターに渡した。
さとみは、両手を胸の前で組み祈った。(お母ちゃん、戻ってきて…。)
「離れて!」
バシッ!再びかずみの背中が跳ね上がった。
「振れました!」
看護師が、ドクターに伝える。心電図のモニターに波状チャートが現れた。
「さとみ君、かずみさんに話しかけて。」
「お母ちゃん!お母ちゃん!目を開けて!起きて!私やで、さとみやで。お願いやから私ひとりを残して行かんといて!」
ぴくっ、と握った手に反応があった。かずみの瞼がぴくぴくと動き、ゆっくりと開いた。
「あぁ、さとみ、来てくれたんや…。悪いなぁ、当直明けやのに…。」
「何言うてんねん、今この状況で、当直明けなんか関係ないやろ!お母ちゃん、しっかりして。」
「あんな…、お母ちゃん、あんたに隠し事があってん…。あんたの声が聞こえたから、これだけは言っとかんとアカン思つてな…。」
「なんや、お母ちゃん?昨日私のケーキ勝手に食べたことか?そんなんやったら、許したるから、しっかりして!」
「そんなんちゃう。大事な話やから、しっかり聞いてや。」
さとみは、黙って頷いた。
かずみは、さとみの目を見て、ゆっくりと語り始めた。
「実はな、あんたが生まれる前に死んだって言ってた、お父ちゃんやけどな、生きてるかもしれへんねん…。」
(えっ!!!何をこの状況で言い出すの!?)
「二十三年前に、お母ちゃん、前の病院に務めとった時に、そこの先生と不倫しててんやんか。そんでな、かっこ悪いことに、その奥さんに負けて、失恋してしもてんな。そんでもうどうでもよくなってしもて、自殺しようと思って北海道行ったんや…。死に場所求めて、知床まで行ってんな。
そこで、知り合ったネイチャーガイドの「ナオシ」さんって人好きになってんよ。直線の「直」って書いて「ナオシ」って読むねんな…。」
絶え絶えの息で、かずみはさとみにその時を思い出すように語り続けた。
「直さんの名字は覚えてないねんけど、斜里町にある「斜里観光」っていう会社のガイドさんで、「開拓鍋」って地元の料理をやたら推す人やったわ。
直さんに、ガイドしてもらって、オシンコシンの滝や知床五胡やいろんなとこ連れて行って、いっぱい美味しいもの食べさせてもろてんな。あぁ、楽しかったなぁ。直さん、事あるごとに、「涼子さん、ここはどうでしたか?」、「涼子さん、これは美味しいでしょ。」ってな。お母ちゃん、元々死ぬつもりで行ってたから、旅行の申し込みや、現地では「末広涼子」って名乗っててん。笑える名前やろ。
そんでな、知床五胡行ったときに、ヒグマに遭遇してしもてん。森のくまさんみたいにかわいいもんやなくて、ほんまもんのヒグマやで…でっかいやつ…。お母ちゃんかばって、直さん、熊に太ももをバリってやられてな、浅大腿動脈切れて、もう血がドバドバで、わややったわ。
そんでな、その時お母ちゃん「火事場の何とか力」っていうのかなぁ、ここは私が直さんの事守らなあかんって思ってな、足元に落ちてた枯れ枝、手に取ってな…。
今、考えたらめちゃくちゃやねんけど、「えいやー」って突き出したら、熊の左目に刺さってん…。それで熊逃げて行ってんで。すごいやろ…。
そっから、あわてて直さんの太もも、必死で止血して、お母ちゃん、直さん背負って、一キロほど山ん中歩いてな、直さんの車で斜里の病院まで連れて行ってんよ。お母ちゃんが二十二歳の時の話や…。
まあ、お母ちゃん、当時ERの看護師やってたから、変に根性というか肝っ玉座ってたんやなぁ。血まみれで飛びこんで病院のドクタービビらせたんやけど、直さんの治療が終わった後で褒められたわ。若いドクターやってんけど、「止血が悪かったら、大量失血で直さん死んでましたよ。いやー、なかなかの腕前ですね。」ってな。
そんで、その日は、一晩、直さんを寝ずの看病してん。次の日の朝、直さんの目が開いた時は、ほんまに嬉しかったなぁ…。直さんが、熊からかばってくれてへんかったら、死んでたのはお母ちゃんやったしな。命の恩人が死んでたら、お母ちゃんもあと追って死のうと思ってたんやで…。まあ、「極端な危険な環境での恋」っていうやつかもしれへんかったな。「吊り橋効果」っていうのかなぁ。そんで、好きになってしもてんな、直さんの事…。
黙っときゃええのに、お母ちゃん、直さんに、大阪の病院での不倫失恋の話も、自殺しに来たことも全部話してん。そんなあほな女の話を、直さんは全部受け入れてくれてん…。重傷者相手に、「何、話すねん」ってなもんやわなぁ。
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そんで、そこから一週間、直さんも松葉づえでは、仕事にはでられへんから、お母ちゃんが運転手やって、いろいろ行ったわ…。たった一枚やねんけど、オシンコシンの滝で直さんと一緒に撮った写真が、お母ちゃんの鏡台の左の一番下の引き出しに入ってんねん。
お母ちゃん死んだら、棺桶に一緒に入れて欲しいねん。あと、引き出しに、その写真と一緒に一本、家の鍵が入ってんねん。その鍵はな、直さん退院して一週間、アパートで直さんの世話しながら一緒に暮らしててんけどな、直さんから
「これからも一緒にいて欲しい。今すぐに指輪買う金無いから、この鍵を受け取って欲しい。」
って、鍵についてるリングをお母ちゃんの薬指にはめてくれてん…。なかなかのセンスやろ…。大阪の男でもここまで笑かすネタは無いわなぁ…。」
「へーえ、そんな話があったんや。でも、お母ちゃん、そんないい人いたんやったら、何で結婚せえへんかったん?」
「えっとな、退院から八日目やったかな、そのプロポーズの翌日やったわ…。直さんの労災手続きの書類取りにお母ちゃんが斜里観光の事務所に行ったんや。そこで、専務の杉田さんって言ったかなぁ…。
「ちょっと話があるから時間もらえませんか。」
って言われて、応接室に連れて行かれてんな。そこに斜里観光の社長の長女の岩本望結さんっていう人がいたんや。まだ、高校三年生で可愛らしい子やったわ。
専務の杉田さんからな、
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直君もあんなことがあった直後なんで、末広さんに感謝の気持ちもあるだろうし、命の恩人って気持ちもあると思います。しかし、望結さんとの婚約の事は、周知の事実です。
こんな小さな町では、変な噂が立っては生きていけません。会社の評判にも傷が付きます。社長と望結さんだけでなく、直君の為にも、申し訳ありませんが、今すぐ、この街を出て行ってくれませんか。」
って土下座されたんよ。(そんなこと言われてもなー。)って思ったんやけど、お母ちゃん自身がドロドロ不倫で、もめまくって、死ぬ覚悟決めたぐらいやったから…。もうドロドロしたことには絶えられへんと思って、ひとりで悩みまくったんや。結果、直さんに書置きだけ残して、その日のうちに斜里の街を出てん…。」
「へーえ、お母ちゃん遊ばれとったんかいな。残念やったな。」
「うん、結局、それで「男運無いわ」って思って、もう男作れへんかったんや。
でも、やっぱり…死ぬなら、天国に行く前に、遠くからでもええ…。直さんの姿を見たい。そうせえへんと成仏できへん…。」
かずみの目から涙が溢れた。
「直さん・・、最後に・もう・・一回で・・も・顔を・・見た・・か・・た・・な・・。」
心電図のモニターがフラットになり、赤ランプが点滅しブザーがICUの部屋に鳴り響いた。
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