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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』
1-11「重大な告知」
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「重大な告知」
医師は、銀縁の高級そうな眼鏡から老眼鏡にかけなおし、プリントを一枚当たり三十秒ほどかけて、目を通したのち、CTの画像をスクロールさせ、頭頂部と眼窩の上部の間を二往復させた。
「安さん、ご主人、今から重大なことをお伝えせねばなりません。落ち着いて、聞いてください。また、途中でご不明な点や十分理解できないことがあれば、その都度質問いただいて結構です。よろしいですか?」
重苦しい空気の中、稀世と三朗は黙って頷いた。
「先ほど、グレーの部分が脳で、白く脳を走っている線を血管だと説明しましたね。」
頷くふたり。医師は指し棒を伸ばし、脳の画像の中にぽつぽつとある、白い丸い部分を指し示した。
「これ、安さんの脳内に何ケ所か大きいものがあるんですが、脳内の動脈瘤です。「脳溢血」とか「くも膜下出血」という言葉を聞いたことがあると思うのですが、それらの原因になります。これら動脈瘤が脳の奥の方で破れてしまうと手術も難しく、死亡率は非常に高いです。また、仮に死亡に至らなくても、出血した血液が脳を圧迫して、身体に大きな障害が残すことが多いです。安さんの脳内には、破れると危険な大きさの動脈瘤が多数見られます。ここまで、よろしいですか?」
何もことばが出ず、ふたりは黙って頷いた。医師はCT画面をさらにスクロールさせ、並行してカルテのモニターでもう一つの画像を立ち上げた。
「こちらの画面は、MRIの画像になります。磁気を用いて撮影した、脳の画像と思ってください。CT画像のここと、MRI画像のここが同じ部位になります。大きく白く映っている影がありますね。ゴルフボールくらいの大きさがあります。
これは、「髄膜種」と言われる「脳腫瘍」になります。厄介なことに、頭蓋底、言い換えると脳の深い部分で神経と血管を巻き込んでしまっています。こうなると、非常に手術は困難を極めます。当院では手術は不可能です。血管と神経を巻き込んで癒着していることから、手術により、血管や神経を傷つけてしまうと、身体機能だけでなく生命に大きな危険を与えます。ここまでよろしいですか?」
「・・・・」
「続けさせていただきます。脳内だけでも非常に危険な状況なのですが、血液検査の結果とMRIの画像分析から、「ステージ4のすい臓がん」、それも、他臓器への癒着浸潤があることが分かりました。腫瘍マーカー検査の数値から、肺への転移が確認されています。「肺がん併発、扁平上皮癌ステージ4」と診断しました。
厳しい話になりますが、一般的な患者様ですと余命は半年程度と予想されます。もちろん、個人差がありますので、一年以上生存される方もいますが、進行が進めば三ヶ月でお亡くなりになる方もおられます。通常、ここまで症状が進みますと、強い痛みが出るものなのですが、安さんの場合、先ほど言いました頭蓋底の髄膜種が痛みを感じる神経を巻き込み、その痛みの伝達がキャンセルされているものと推測されます。
安さんの場合、脳の動脈瘤が破裂するのは、極端な話、それは、明日かもしれません。ずっと破裂しないでいるかもしれません。今後受ける脳への衝撃や血圧の変化などによります。いつどうなるのかの結果を予想することは不可能です。
すい臓がんに関しては、抗がん剤、放射線療法で効果があれば延命できますが、ここまで進行していますと完治は難しいと思われます。手術で30%の確率で余命を半年程度伸ばすことは可能かもしれませんが、70%は変わらないか、逆に悪くなることがあります。医学的には、「余命は半年」。次の桜が見れるかどうかというところです。それ以上は、難しいとお伝えしなければなりません。
非常に厳しいお話になりますが、現状、痛みがないのであれば、痛みが出るまでの間の日常生活を大事にされることも選択肢の一つです。痛みが出だしたら、ホスピスで緩和治療を受けることも選択肢の一つです。可能性に賭けて、手術を受け余命を伸ばすことも選択肢の一つです。ただし、その場合の余生は、病院で過ごされることを覚悟いただきたいと思います。
この場で「幸い」という言葉を使うのは場違いかもしれませんが、現状、今日の脳震盪は、動脈瘤を破ることはありませんでした。そして脳腫瘍によるものでもありませんでした。レスリング中の衝撃を原因とする一時的なものであったと推測できますので、ご主人といっしょに、今後の方針については、話し合い下さい。
いきなりこんなことを言われても信じられないでしょうから、CTとMRIの画像データのDVD―Rと紹介状は用意させていただきますので、帰りに総合受付で、お受け取りください。お知り合いの病院や脳神経外科や他の内科やがんの専門医にセカンドオピニオンを聞いていただくのも一つの方法です。本日は、一応、健保扱いでお受けしておきますので、今後、労災扱いにされる場合には、本日の費用は、還付されますので、お勤め先とご相談ください。
今後、安さんの家に近い病院に転院するにしても、当院に通院していただくにしても、お困りのことや心配事がありましたら、専門のカウンセリングにお繋ぎしますので、地域連携室のソーシャルワーカーにご相談ください。何か、ご質問は、ございますか?」
「い、いえ、何もありません。ありがとうございました。」
真っ青な顔色で稀世は何とか返事をした。
「ご主人は、大丈夫ですか?」
三朗も小刻みな震えが体を襲い、やっとのことで一言返した。
「は、はい。」
「では、今日は、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。約十分ほどお待ちいただいて、総合受付で本日の頭部打撲と脱臼に関する痛み止めの処方箋とCT、MRIのデータディスクと紹介状を受け取っていただき、本日分の清算を済ませてお帰りください。
夜間、緊急入り口までタクシーが必要でしたら、総合窓口にパンフレットもありますので。では、ご主人、しっかりと支えになってあげてください。お疲れさまでした。」
医師は、銀縁の高級そうな眼鏡から老眼鏡にかけなおし、プリントを一枚当たり三十秒ほどかけて、目を通したのち、CTの画像をスクロールさせ、頭頂部と眼窩の上部の間を二往復させた。
「安さん、ご主人、今から重大なことをお伝えせねばなりません。落ち着いて、聞いてください。また、途中でご不明な点や十分理解できないことがあれば、その都度質問いただいて結構です。よろしいですか?」
重苦しい空気の中、稀世と三朗は黙って頷いた。
「先ほど、グレーの部分が脳で、白く脳を走っている線を血管だと説明しましたね。」
頷くふたり。医師は指し棒を伸ばし、脳の画像の中にぽつぽつとある、白い丸い部分を指し示した。
「これ、安さんの脳内に何ケ所か大きいものがあるんですが、脳内の動脈瘤です。「脳溢血」とか「くも膜下出血」という言葉を聞いたことがあると思うのですが、それらの原因になります。これら動脈瘤が脳の奥の方で破れてしまうと手術も難しく、死亡率は非常に高いです。また、仮に死亡に至らなくても、出血した血液が脳を圧迫して、身体に大きな障害が残すことが多いです。安さんの脳内には、破れると危険な大きさの動脈瘤が多数見られます。ここまで、よろしいですか?」
何もことばが出ず、ふたりは黙って頷いた。医師はCT画面をさらにスクロールさせ、並行してカルテのモニターでもう一つの画像を立ち上げた。
「こちらの画面は、MRIの画像になります。磁気を用いて撮影した、脳の画像と思ってください。CT画像のここと、MRI画像のここが同じ部位になります。大きく白く映っている影がありますね。ゴルフボールくらいの大きさがあります。
これは、「髄膜種」と言われる「脳腫瘍」になります。厄介なことに、頭蓋底、言い換えると脳の深い部分で神経と血管を巻き込んでしまっています。こうなると、非常に手術は困難を極めます。当院では手術は不可能です。血管と神経を巻き込んで癒着していることから、手術により、血管や神経を傷つけてしまうと、身体機能だけでなく生命に大きな危険を与えます。ここまでよろしいですか?」
「・・・・」
「続けさせていただきます。脳内だけでも非常に危険な状況なのですが、血液検査の結果とMRIの画像分析から、「ステージ4のすい臓がん」、それも、他臓器への癒着浸潤があることが分かりました。腫瘍マーカー検査の数値から、肺への転移が確認されています。「肺がん併発、扁平上皮癌ステージ4」と診断しました。
厳しい話になりますが、一般的な患者様ですと余命は半年程度と予想されます。もちろん、個人差がありますので、一年以上生存される方もいますが、進行が進めば三ヶ月でお亡くなりになる方もおられます。通常、ここまで症状が進みますと、強い痛みが出るものなのですが、安さんの場合、先ほど言いました頭蓋底の髄膜種が痛みを感じる神経を巻き込み、その痛みの伝達がキャンセルされているものと推測されます。
安さんの場合、脳の動脈瘤が破裂するのは、極端な話、それは、明日かもしれません。ずっと破裂しないでいるかもしれません。今後受ける脳への衝撃や血圧の変化などによります。いつどうなるのかの結果を予想することは不可能です。
すい臓がんに関しては、抗がん剤、放射線療法で効果があれば延命できますが、ここまで進行していますと完治は難しいと思われます。手術で30%の確率で余命を半年程度伸ばすことは可能かもしれませんが、70%は変わらないか、逆に悪くなることがあります。医学的には、「余命は半年」。次の桜が見れるかどうかというところです。それ以上は、難しいとお伝えしなければなりません。
非常に厳しいお話になりますが、現状、痛みがないのであれば、痛みが出るまでの間の日常生活を大事にされることも選択肢の一つです。痛みが出だしたら、ホスピスで緩和治療を受けることも選択肢の一つです。可能性に賭けて、手術を受け余命を伸ばすことも選択肢の一つです。ただし、その場合の余生は、病院で過ごされることを覚悟いただきたいと思います。
この場で「幸い」という言葉を使うのは場違いかもしれませんが、現状、今日の脳震盪は、動脈瘤を破ることはありませんでした。そして脳腫瘍によるものでもありませんでした。レスリング中の衝撃を原因とする一時的なものであったと推測できますので、ご主人といっしょに、今後の方針については、話し合い下さい。
いきなりこんなことを言われても信じられないでしょうから、CTとMRIの画像データのDVD―Rと紹介状は用意させていただきますので、帰りに総合受付で、お受け取りください。お知り合いの病院や脳神経外科や他の内科やがんの専門医にセカンドオピニオンを聞いていただくのも一つの方法です。本日は、一応、健保扱いでお受けしておきますので、今後、労災扱いにされる場合には、本日の費用は、還付されますので、お勤め先とご相談ください。
今後、安さんの家に近い病院に転院するにしても、当院に通院していただくにしても、お困りのことや心配事がありましたら、専門のカウンセリングにお繋ぎしますので、地域連携室のソーシャルワーカーにご相談ください。何か、ご質問は、ございますか?」
「い、いえ、何もありません。ありがとうございました。」
真っ青な顔色で稀世は何とか返事をした。
「ご主人は、大丈夫ですか?」
三朗も小刻みな震えが体を襲い、やっとのことで一言返した。
「は、はい。」
「では、今日は、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。約十分ほどお待ちいただいて、総合受付で本日の頭部打撲と脱臼に関する痛み止めの処方箋とCT、MRIのデータディスクと紹介状を受け取っていただき、本日分の清算を済ませてお帰りください。
夜間、緊急入り口までタクシーが必要でしたら、総合窓口にパンフレットもありますので。では、ご主人、しっかりと支えになってあげてください。お疲れさまでした。」
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