あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

M‐赤井翼

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『あなたならどう生きますか?~両想いを確認した直後に「余命半年」の宣告を受けました~』

1-18「まりあ」

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「まりあ」
 しばらくの間、稀世は言葉を詰まらせた。三朗は、黙って稀世の次の言葉をじっと待っていた。
「一年ぐらいたって、お父さん、お母さん残してくれた貯金も底をつきかけたころ、めちゃくちゃ心がすさんでてん。
 お父さん、お母さんの残してくれたお金使こて、グレてまうって最悪やろ。そんなんやからバチ当たってん。
 難波の三角公園で、ヤンキー女のグループに絡まれて、リンチ状態になってんな。そりゃもうぼこぼこにされて死ぬかと思ったわ。そん時、助けてくれたんが、まりあさんやってん。
 六年前のまりあさん、今と違って、めちゃくちゃギラギラしててカッコよかってんで。うん、今思い起こしても、雰囲気違ってたな。まだ、アイスリボンかスターダム入り目指してはった時やったからな。
 ぼこぼこにされて、荷物も通帳も財布も携帯も盗られて、野良猫みたいに、すべてを無くした私に優しく「給料はだされへんけど、住み込みで来るか?」って声かけてくれてん。」
「うん、うん。」
「そん時は、本物のマリア様に見えたわ。今では、マリア様って言うより、「二番目の私のお母ちゃん」って感じやけどね。だから、今日の事も、「また、お母ちゃんに迷惑かけてしもた。」って思うと申し訳なくって。」
「そうやったんですか。今日、稀世さんの試合の後、まりあさん、事ある毎に、ごめんな、ごめんなって僕に言うのは、そういう絆があるからやったんですね。今日、団体の今後のお話の予定が無かったら、稀世さんの横にいるのは、僕やなくてまりあさんやったんでしょうね。まりあさんのやさしさの根拠がよくわかりました。」

 再び三朗は、涙を拭い、鼻をかんだ。
「サブちゃん?こんな私の話聞いてもらってるけど、退屈してへん?一方的に話しまくってるけど大丈夫?嫌やったり、飽きたりしたら言ってや。すぐやめるし。」
「ううん、稀世さんの事、よくわかってうれしいです。いつものみんなをにこやかにさせる明るさの背景に、いろんな苦労があったんやなって。グレずに、真っすぐ生きてる稀世さんのこと尊敬します。」
「尊敬なんかええよ。今の私があるんは、まりあさんとニコニコの仲間のおかげ。あと、もちろんサブちゃんもね。」
「やっぱ、僕は、おまけですか?」
「もーっ、じゃあもう一回、言いなおすわな。「今の私があるんは、まりあさんとサブちゃんとニコニコの仲間のおかげです。」でいい?それとも「サブちゃんとまりあさんと」に言いなおそか?」
 
 神妙な顔で稀世は三朗の顔を覗き込んだ。
「いやいや、十分です。まりあさんより前に出たら、そりゃだめでしょ。そんで、ニコニコ入ってからどうなったんか、続きも聞かせてほしいです。」
「えっとね、恥ずかしい話もいっぱいあんねんけどいいかな?まずね、私、プロレスって全然知らんと、まりあさんに着いて行ったもんやから、そこからが大変やったのよ。
 みんなの食事作ったり、洗濯したり、ジムの掃除したりっていうお手伝いだけしたらええって思ってたら、「「研修生扱い」はトレーニングもせなあかん。」って言われて、最初の一ヶ月は、スクワット300回がでけへんで、ずっと居残りやってん。
 デビュー後、ほかの団体の子からいろいろ聞いたんやけど、ニコニコは、ほかの団体で当たり前の「いじめ」や「しごき」が無いんやて。けど、入門当時は、十分、基礎トレを「いじめ」や「しごき」に感じてたわ。今考えたら、ただの基礎トレやねんけどね。
 まりあさん、ケガで全日を退団した経験があったもんで、「ケガしない体づくり」が今も基本やねん。まりあさん、ジャイアント馬場やアントニオ猪木の時代に日本人の男子レスラーいっぱい育てたカール・ゴッチって言うレスラーの教育方針を尊敬してはってな、基礎練習はめちゃめちゃ厳しいねん。
 けど、そんなこと知らんかったから、みんな、ささっとスクワットしてスクラッチしてブリッジしてサンドバックやスパーリングに入る中、「私だけ毎日スクワットだけ。」って思って、毎晩泣いてたんよ。今なら、その意味が分かるんやけど。まあ、結果、受け身失敗して、みんなに迷惑かけてしもたから、えらそうなことは言われへんけどな。」
 
 自虐的に稀世は笑って見せた。三朗はすかさず稀世をフォローした。
「今日のは、相手の意識飛んでんの察知して、稀世さんが一瞬力抜いたところに、相手が不完全な態勢で技かけてきたからで、稀世さんは悪くないやないですか?」
「いや、きっと、相手の子も私にケガさせてしもたと思って、今晩すごく落ち込んでると思う。自分も、相手も気持ちよく試合を続けるために、やっぱりそれなりのレベルに上がっていかんとね。それを、まりあさんはいつも言ってんねやと思う。」
「こんな時まで、相手を思いやるって、ほんと稀世さん、優しいですね。」
 三朗は、相手を思いやる稀世のやさしさに(あー、やっぱり稀世さんは最高やな!)とひとり嬉しくなっていた。
「そんなんとちゃうねん。プロレスラー、それもほんとのプロのプロレスラーはみんなそうやねん。ケガしてもあかんし、ケガさしてもあかんねん。」

 熱く語る、稀世の声に覇気が戻ってきていると三朗は感じた。(この調子で、元気出てくれたらええねんけど。)
「でね、二ヶ月後やったかな?基礎トレメニュー全部できるようになって、受け身の練習始めたんが…。もうちょっと、早くできるかなって思っててんけど、中学のバスケの後の四年のスポーツブランクは大きくて、「ただのデブ」に成り下がってたから厳しかったわ。
 でも、まりあさんの教え方って、すごく「愛」があるんよ。言葉は、なんも知らん外部の人が聞いたらただの「パワハラ」やねんけど、うちの団体、若手でデビュー前に辞める子少ないんよね。
 もちろん、デビューしたら、「実力不足」やったり、「ケガ」やったり、それこそ「恋愛」やったりでやめていく理由はいっぱいあんねんけど、よそと違って、みんな一度はマットに上がるっていうのは、まりあさんの教えがみんなに引き継がれてるからやと思うわ。」
「なっちゃんも稀世さんにすごく懐いてますもんね。」
「あの子は特別。ここだけの話やけど、なっちゃんね、入門前に男にこっぴどくフラれて、「次に付き合うなら、やさしくてかっこいい女の先輩」ってね。私も合宿の宿舎で夜這い掛けられたときは、そりゃびっくりしたわ。」
「えっ?夜這いって。」
「あっ、ごめん、今の無し。サブちゃん、変な想像も無しやで。幸い、私もデビュー4年たってたから、腕ひしぎで貞操は守ったから。信じてな。それと、改めて言うけど、変な想像したらあかんで。」
「は、はい。」

 三朗は、無意識で稀世から目をそらせた。
「あーっ、サブちゃん、やっぱり、変なこと想像したやろ。」
「は、はい。い、いや、何も考えてません。」
「いや、絶対なんか想像してたやろ。露骨に目そらしたやんか。私の身の潔白の為に告白するけど、寝巻の上からおっぱいは触られたけど、それ以上は絶対になかったから信じてな。」
「お、お、お、おっぱいって。も、も、揉まれたんですか?」
「サブちゃんのあほ、あほ!何考えてんの。エッチやねんから。さっきも言ったけど、寝巻の上からちょっと触られただけ!はい、この話はここまで!」
「えーっ。」
「サブちゃん、すぐエロモード入るとこ嫌い。うちの団体、チーム内恋愛禁止やから、それ以上やってたらクビやわ。なっちゃんには、その件の後、チーム内ルールも話しして、今は全然ノーマルやから。なっちゃんの事も、変な目で見たらんといたってよ。」
「は、はい。」
「もう、話逸れまくってしもたやないの。ちょっと、巻き戻してな。
 基礎トレできるようになって、スパーリングできるようになるのにそこから二ケ月。そこから、半年、みっちり教わって、ようやくデビューできたのがちょうど五年前の二十歳の誕生日。ちょうど、ここ門真市立総合体育館やったんよね。サブちゃんと出会ったのもそれが最初。
 ところで、サブちゃん、何がきっかけでうちの団体の試合見に来たん?」
稀世が改めて不思議な顔をして三朗に尋ねた。



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