『北の大地のファーストペンギン2025~限界集落復興と結婚したい訳あり男女達の物語~』

M‐赤井翼

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第1部 エピソード2023

「宿題」

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「宿題」

 稀世を除く10人の言葉を丁寧にノートに書き込んでいった副島は、最初に直の家の畜舎の改造案について語り始めた。
「菅野さんの裏庭の畜舎3棟を完全冷暖房完備の建屋にします。1棟は暑さで弱った牛を一時的にここに集めて、体力を復活させることでまだ続くであろう「残暑」から牛を守りつつ、搾乳量を維持できるようにする為です。もう1棟はここで牛を解体できるようにするためです。もう1棟は明朝ちょっとした調べものの後、改めて提案させていただきます。」
の意見に、「そんな光熱費はどこから出すんですか?」、「冷暖房完備の畜舎なんか北海道で聞いたことないですよ。」、「いったい、その工事っていくらかかるんですか?」と男性陣から質問が飛び交った。
 副島は、グラスのビールを一気に仰ると、人差し指一本をたてた。
「資材、工賃込みで100万円!それで全て解決です。安さんからの話だと現状、生肉に関しては隣町の精肉業者に委託されているという事でしたので、それを自社で行う事で、生肉歩留まりが劇的に向上します。その為に…、」
と副島のプラン説明が始まった。

 難しい専門用語が並べられたがゆえに、全員が理解するには時間がかかったがどうやら副島が大阪で携わっている破綻した食品工場物件の整理で残された機材を再利用することで出資額を抑えた設備投資ができるとの事だった。
 副島が処理中の案件の中に多額の借金を残し、破産した古い缶詰工場がありその残置物の処理にもコストがかかり、債権者たちからできるだけコストをかけずいくらかでも回収できる方法を求められているとの事だった。
 その缶詰工場にはボイラの高圧蒸気を利用した蒸気タービン発電機と20年以上前の「プレハブ冷蔵庫」と「プレハブ冷凍庫」と業務用の三相200ボルトのエアコンが再利用の道も無く産業廃棄物として残っているという事だった。ボイラーの高温・高圧の蒸気を再加熱し人工的に「過熱・・水蒸気」を作り出し、蒸気タービンを回し発電するシステムがモデルが古いがゆえに発電量に対して機材が大型で設置場所に余裕のあるユーザーでないと使えないとの理由で大阪では再利用されることも無く放置されているという。また、20年前の各々のプレハブ冷蔵庫、プレハブ冷凍庫は現在のインバータ式の冷却器でなく現状製品の5倍という多大な消費電力を要するために使用する価値はなく廃棄するしかないという事だった。

 「副島のおっちゃん、そんな電気を食いまくる冷蔵庫や冷凍庫、古いエアコンなんか使ったら電気代ばっかりかかって利益が出えへんのとちゃうの?「安物買いの銭失い」になるような気がするんやけど…。おっちゃんが言ってる「コスパ」の考えとは程遠い気がするんやけど。」
と副島の言葉が理解できないままのさくらが頭をひねりながら質問をした瞬間に、稀世は以前サウナで感じていた「もやもや」が一気に頭の中で晴れた。
「あっ、直さんのところの「源泉」の蒸気を使って発電すれば、電気代は1年365日、昼も夜も、夏も冬も「無料ただ」っていう事か!電気が「無料ただ」なら古い燃費の悪い冷蔵庫や冷凍庫にエアコンでもノープロブレムってか?」

 どや顔で発言した稀世に副島は微笑みかけた。機材は10トントラック1台で十分運べる容量であり、運賃と再組みつけ工賃のみ負担してくれれば1週間もあれば、畜舎の改造はできるという。更に元損害保険の事業案件の営業経験がある副島らしく、とんでもないことをさらっと言ってのけた。
「エアコンと冷蔵機、冷凍機は機械特約付きの火災保険を掛けとけば、壊れりゃその時は「再購入価格」補償でぼろ儲けや。カラカラカラ。メインのタービンは基本的にただの回転体やからベアリングの交換と注油だけしてたら壊れる事なんかあれへん。菅野さんの裏山の源泉の蒸気管に接続して、再加熱ヒーターを繋げれば「10KVAキロボルトアンペア」は楽勝で発電できる。
 3つの畜舎をエアコン設置で冷暖房完備にして、10坪のプレハブ冷蔵庫、冷凍庫を使えるようになれば、精肉はここに業者を呼んで委託できる。今の加工委託費と出張料だけで保管料も無くなるし、運送費も要らんようになるわな。さらに、今まで廃棄してたまさに「ほうるもん(※関西弁で「捨てるもの」の意)」としての「ホルモン」が商品になる訳や。
 「ハツモト」、「ミノ」、「ハチノス」、「センマイ」、に大阪では大人気の「シマチョウ」は売り先は紹介したるし、ちょっと話をしてくれりゃ、「タン」も「テール」も買い手は居る。さらに、牛の「玉々・・」はアメリカやカナダのソウルフード「ロッキー・マウンテン・オイスター」で「異食界」では市民権を得てきてるし、「竿」の方は神戸の中華街に持っていったら「牛鞭」っていう高級食材やしな。湯量が足りへん温泉でも使い方によっては「宝物」ってなもんやな。
 今、「赤黒トントン・・・・・・」の生肉部門もこれで黒字化が可能やろ。あと、物流に関しては、東大阪に冷凍、冷蔵物も取り扱える発送代行もやる物流倉庫ができてるから、製品はトレーラー便で苫小牧東港から敦賀港への運輸会社を使えば、商品発送は大阪で外注化できる。そうなれば、女性陣が考えてる「BtoC」の個人向け商品の発送も「クール便代」をあまり考えずに展開できるようになるやろ。もちろん、ブランド化がしっかりとできた上での話やけど、そこらへんはおいちゃんより安さんの方が専門やもんな。
 あと、「牛の夏バテ対策」や「飼料の高騰」については、「私案」はあるねんけどエビデンスなしに回答してみんなを混乱させてもあかんから、いったん「宿題」として持ち帰らせたってな。今の暑さもあとひと月やろうし、当面は菅野さんのとこのエアコン畜舎でローテーションを組んで養生させて乗り切ってや。来年の夏には快適な畜舎改造プランを提示したるから待っといてな。越冬の暖房費の部分は任しといてんか。
 提案のバーターでおいちゃんからのお願いは、安価な部位でええから「精肉」を大阪のこども食堂に寄付して欲しいねん。まあ、こども食堂への食材提供は「美談・・」のひとつとして「アグリ神標津」の営業の役にも立つやろ。カラカラカラ。」

 副島は一気に話し切ると、メンバー全員から次々と質問が飛び交い、気が付くと日付が変わる時間まで前向きな新商品、新サービス談義が続き、「アグリ神標津」メンバーの皆から惜しまれつつ午前0時過ぎに宴会という名を借りた「プロの経営コンサルタント」による勉強会は幕を引いた。
 メンバーが帰宅した後、副島は稀世と直にひとつの質問を投げかけた。内容は薄井幸の仕事にも関わることだった。
「今日、話を聞いて何人かここで面倒見てもらいたいのが居るんやけど、男女問わず預かってもらう事は出来るかな?菅野さんには5年越しの「脱限界集落」につながる話やから、ちょっと協力して欲しいんやけどな…。」
 遠慮気味に切り出した副島を挟んで一郎も含めた4人での2次会が始まった。稀世が来てひと月余りで、「アグリ神標津」は大きく潮目が変わりつつあるのを直と一郎は感じていたので前向きに会話は進んだ。
 そこに忘れ物を取りに戻ってきた三朗が加わり、来年に向けた「アグリ神標津」の経営方針について強力な助っ人からいくつかの「宿題」が投げられた。

 「はい、今すぐには無理かもしれませんけど、村の高校生が「神標津ここ」に残りたいって思えるようになってくれる事と、他の街から「神標津で仕事をしてみたい」って思ってもらうには必要なビジョンですね。
 雪のシーズンにできる新たな仕事は大切だと思います。空き家、空き施設はたくさんありますのでうまく調整できれば可能だと思います。
 副島先生、安先生の指導に併せて僕も最大限努力していきたいと思います。足寄農協やJA札幌にできて「神標津」でできないって事は無いですよね。」
 副島の「宿題」に対する三朗の力強い返答に、直と一郎は目を細め、2次会も中締めとなった。

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