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最弱降魔師は追放され、妖魔の王は婚約者を探している。
人間と妖魔の世界、ハナヤマト
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守るために誰かの側にいようとするのが、強い人。
守るために誰かの側から離れようとするのが、弱い人。
星王京は、人間の都である。
ハナヤマト、と呼ばれる大陸には、人間と妖魔という二つの種族が存在しており、両者は長い争いの歴史の中にいた。
妖魔は個体ごとに多種多様な姿―――『青黒い肌をした一つ目の大鬼』『毒霧を吐く一本角のトカゲ』『獣の耳と尾を持つ、人の姿に近しいもの』など、とにかく、挙げ始めればキリがない―――を持った、異形の化け物たちである。
妖魔は人を襲い、その肉を喰らう。
ゆえに人間たちは、妖魔と戦う。戦って、家族や国を守り続けなければならなかった。
かつて妖魔は、ハナヤマトのあらゆる地方に存在し、それぞれの縄張りで人を捕らえ暮らしていたという。
だが二百年ほど前、人間たちの文明は急速に進歩した。それまでは、小さな村々に別れ、その土地の豪族たちが地域を支配することだけが、人間たちの社会における秩序であった。しかし、その枠を超え、より大きな共同体を形成しようとする者たちが現れた。彼らは、後に『国家』と呼ばれる種類の共同体を初めて作り出した。その王になったのは……妖魔を退ける特別な力を初めて発見した者であった。
王となったその者は、自分以外の人間たちにも、己が発見した力、その使用方法を伝え始める。王の教えを受けたいと願う人々が各地から集まり始め、そして……これまでの人間社会に存在しなかった大きさの都が、完成した。それが、星王京である。
王の教えを受け、妖魔を退ける技術を手にした者たちは『降魔師』と呼ばれた。
降魔師たちは、妖魔を人間たちの生活圏から次々に追い払っていく。
結果、ハナヤマトの真ん中から西の地域全体から、人間たちは妖魔たちの大半を追い出してしまった。
追い出された妖魔たちは、ハナヤマトの真ん中から東に集中し、彼らもまたそこで、妖魔たちだけの都を形成する。するとやはり、大陸の東から今度は人間たちが追い出され、星王京を中心とする西側に、逃げ込んできた。
以来、大陸の西側に人、東側に妖魔で分かれ、衝突を繰り返している。
星王京の成立から二百年たった。
星王京には現在、一千万人もの住人が暮らしている。
京全体を上空から見下ろすと、巨大な四角形に見える。長大な四辺からなる城壁が、京を囲んでいるためである。
東側の城門から、いま一台の式神車が出立しようとしていた。
式神車、というのは、馬や牛などの代わりに降魔師の操る式神が引く車のことである。天下の星王京とはいえ、住んでいる者全てが降魔師であるというわけではない。どころか、全住民の中の降魔師の割合は、千人に一人もいないほどである。降魔術は確かに、妖魔に対する強力な武器となる。だが、いたずらに術者を増やし一般の民たちにも武力を持たせることになれば、やがては反乱を招きかねない、という現王の判断だ。
降魔師となるためには、卑しからぬ家の出で、降魔に必要な才の一つである高い法力を生まれながらに持ち、厳しい修行を耐え抜かなければならない。
式神に車を引かせるのは、降魔師にとって初歩の初歩ともいえる技である。
とはいえ、降魔師以外の者に扱えるような代物でももちろんない。
城門前では、降魔師の一団が門兵たち相手に、出立の手続きを済ませようとしているところだ。
つまり、式神車に乗っているのは、貴重な人材である降魔師を十人も引き連れていずこかへ長旅に出ようという御仁ということになる。只者でないのは明らかだ。
式神車、その車箱の中にいるのは、春御門想蓮という名の男である。
星王京には、降魔師の名門と言われる、四つの名家があった。
春御門は、その四家のうちの一つである。
春御門の家は、傘下に春御門一門と呼ばれる大勢の降魔師と降魔師見習いを抱えており、四家の中でも特に秀でた力を持つ一族であった。
想蓮は、春御門直系の男子である。
年は二十。黒く艶やかな髪、通った鼻筋……通りなどを歩けば、女子だけでなく、少なくない数の男たちまで思わずため息を漏らすような、美貌を持っている。黒を基調とした狩衣に包まれた肉体は、一見すると華奢だが、実際は降魔師の修行により鍛え上げられていた。
車箱の正面と真後ろにある出入口は簾で遮られており、外から少し見ただけでは中に誰がいるのかもわからないようになっている。
しかし想蓮は、誰からも見られていないにもかかわらず、正座と、まっすぐに伸びた背筋を崩さない。
その表情には、憂いがあった。
(……星王京とも、今日限りでお別れか)
守るために誰かの側から離れようとするのが、弱い人。
星王京は、人間の都である。
ハナヤマト、と呼ばれる大陸には、人間と妖魔という二つの種族が存在しており、両者は長い争いの歴史の中にいた。
妖魔は個体ごとに多種多様な姿―――『青黒い肌をした一つ目の大鬼』『毒霧を吐く一本角のトカゲ』『獣の耳と尾を持つ、人の姿に近しいもの』など、とにかく、挙げ始めればキリがない―――を持った、異形の化け物たちである。
妖魔は人を襲い、その肉を喰らう。
ゆえに人間たちは、妖魔と戦う。戦って、家族や国を守り続けなければならなかった。
かつて妖魔は、ハナヤマトのあらゆる地方に存在し、それぞれの縄張りで人を捕らえ暮らしていたという。
だが二百年ほど前、人間たちの文明は急速に進歩した。それまでは、小さな村々に別れ、その土地の豪族たちが地域を支配することだけが、人間たちの社会における秩序であった。しかし、その枠を超え、より大きな共同体を形成しようとする者たちが現れた。彼らは、後に『国家』と呼ばれる種類の共同体を初めて作り出した。その王になったのは……妖魔を退ける特別な力を初めて発見した者であった。
王となったその者は、自分以外の人間たちにも、己が発見した力、その使用方法を伝え始める。王の教えを受けたいと願う人々が各地から集まり始め、そして……これまでの人間社会に存在しなかった大きさの都が、完成した。それが、星王京である。
王の教えを受け、妖魔を退ける技術を手にした者たちは『降魔師』と呼ばれた。
降魔師たちは、妖魔を人間たちの生活圏から次々に追い払っていく。
結果、ハナヤマトの真ん中から西の地域全体から、人間たちは妖魔たちの大半を追い出してしまった。
追い出された妖魔たちは、ハナヤマトの真ん中から東に集中し、彼らもまたそこで、妖魔たちだけの都を形成する。するとやはり、大陸の東から今度は人間たちが追い出され、星王京を中心とする西側に、逃げ込んできた。
以来、大陸の西側に人、東側に妖魔で分かれ、衝突を繰り返している。
星王京の成立から二百年たった。
星王京には現在、一千万人もの住人が暮らしている。
京全体を上空から見下ろすと、巨大な四角形に見える。長大な四辺からなる城壁が、京を囲んでいるためである。
東側の城門から、いま一台の式神車が出立しようとしていた。
式神車、というのは、馬や牛などの代わりに降魔師の操る式神が引く車のことである。天下の星王京とはいえ、住んでいる者全てが降魔師であるというわけではない。どころか、全住民の中の降魔師の割合は、千人に一人もいないほどである。降魔術は確かに、妖魔に対する強力な武器となる。だが、いたずらに術者を増やし一般の民たちにも武力を持たせることになれば、やがては反乱を招きかねない、という現王の判断だ。
降魔師となるためには、卑しからぬ家の出で、降魔に必要な才の一つである高い法力を生まれながらに持ち、厳しい修行を耐え抜かなければならない。
式神に車を引かせるのは、降魔師にとって初歩の初歩ともいえる技である。
とはいえ、降魔師以外の者に扱えるような代物でももちろんない。
城門前では、降魔師の一団が門兵たち相手に、出立の手続きを済ませようとしているところだ。
つまり、式神車に乗っているのは、貴重な人材である降魔師を十人も引き連れていずこかへ長旅に出ようという御仁ということになる。只者でないのは明らかだ。
式神車、その車箱の中にいるのは、春御門想蓮という名の男である。
星王京には、降魔師の名門と言われる、四つの名家があった。
春御門は、その四家のうちの一つである。
春御門の家は、傘下に春御門一門と呼ばれる大勢の降魔師と降魔師見習いを抱えており、四家の中でも特に秀でた力を持つ一族であった。
想蓮は、春御門直系の男子である。
年は二十。黒く艶やかな髪、通った鼻筋……通りなどを歩けば、女子だけでなく、少なくない数の男たちまで思わずため息を漏らすような、美貌を持っている。黒を基調とした狩衣に包まれた肉体は、一見すると華奢だが、実際は降魔師の修行により鍛え上げられていた。
車箱の正面と真後ろにある出入口は簾で遮られており、外から少し見ただけでは中に誰がいるのかもわからないようになっている。
しかし想蓮は、誰からも見られていないにもかかわらず、正座と、まっすぐに伸びた背筋を崩さない。
その表情には、憂いがあった。
(……星王京とも、今日限りでお別れか)
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