5 / 14
4℃
しおりを挟む
耀華学園の敷地内にないとはいえ、目の前には耀華大学の医学部付属病院がある。だから幼等部から病院までは走って5分で着いた。
「あの‥‥!水津先生は!?」
教員証を見せつつ受付の看護師さんに聞けば「落ち着いてください。」と言われる。ゆっくりと息を吐いて近くにあった椅子に座るも、どうしよう、うちの生徒が怪我をさせてしまった、俺が寝坊したからだ、ということが頭を占めて言葉が出てこない。
しばらくすると何やら資料を持った看護師さんが俺の隣にやってきたので、わずかな気力を持って立ち上がる。
「水津先生はいらっしゃいますよ。ただ面会時間が今日はもう終わっていて。」
「え‥‥そんな。」
思いがけない展開に目の前が真っ暗になる。その時だった。
「水津先生に何か用ですか?」
振り返ると、両手にビニール袋を下げた若い男性だった。歳は俺と同い年くらいだろうか?
誰だ?と思い固まっていると、隣にいた看護師さんが頭を下げた。
「金田先生お疲れ様です。」
「お疲れ様。えっと、この方は水津先生に何か用?」
「自分は中等部で教員をやっております木元と申します。実は水津先生に怪我を負わせてしまった生徒がうちのクラスの生徒でして‥。」
「ああ、初めまして。大学病院で働いております金田と申します。今から木元の所に行くので一緒にいかがですか?」
思いがけない展開に頭を下げる。看護師さんは「先生、いいんですか?」なんて言っているが、特に金田先生は気にしていないようで俺ににこやかに笑いかけた。
「では木元先生。行きましょうか。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
精一杯頭を下げて前に歩く金田先生に続く。金田先生は両手にビニールを持ちながらも器用にエレベーターに乗り14階のボタンを押した。
「あの、お伺いしたいのですが水津先生のご容態は大丈夫なのでしょうか?」
「左の手首がひかれて折れてます。」
「え!?」
「本当は入院することではないんですけれど、水津先生は左利きだし耀華の教員寮に一人暮らししてるから何かと不便だと思って僕が勝手に入院させているんです。」
「勝手に?」
「そう。水津先生とは特別仲が良くってね。」
ポーン、とエレベーターが到着の音を知らせて金田先生が降りていく。1406と書かれたプレートのついたドアを引いた瞬間、俺は目を疑った。
「金田おそーい!もう俺、10分も待ったんだけど。」
「相変わらずワガママにゃんにゃんだな。」
「早くその袋を寄越せ!グレープティーが飲みたいんじゃ‥‥って、え?」
俺に気がついた水津先生が目を点にする。かくいう俺も現在目が点だ。だってベットの上にいる水津先生は絶対零度でも悩殺スマイルでもない姿で‥‥。水津先生は俺を指差すとわなわな震えながら金田先生に口を開く。
「え‥‥な、なんで‥?」
「ワガママにゃんにゃん、さっき受付前で拾った木元先生だ。」
「もう面会時間終わってるだろ!?なんで勝手に連れてくるんだよ!」
「その終わった面会時間に僕をコンビニにパシったワガママにゃんにゃんにお土産。」
「いらないから!」
ベットの上にいる水津先生は白い布団を頭からかぶって丸まってしまう。あれは本当に水津先生なのか?未だに固まってしまって脳が機能しない俺に金田先生はニコリと笑う。
「貝になるなって。」
「貝になってない、寝てるだけだ。‥‥って、馬鹿!剥がすな!」
「はいはい。そんなに手を動かすと、いくら治癒力が神がかってるワガママにゃんにゃんでも治るもんも治らなくなるよ。」
「とっとと治せヤブ医者!」
シャー!と今にも金田先生に噛みつきそうな水津先生の姿をぼんやりと見ていたが、ようやくハッとした。そうだ、違う。俺は見学に来たんじゃない。
「あの、水津先生!」
「‥‥なんですか。」
あ、いつもの水津先生だ。先ほどまでの姿と違い、一気にスンとした表情になる水津先生。その姿を見て、隣で金田先生は口元を押さえて震えている。
「自分が今朝行かなかったばかりに本当に申し訳ございません!また、うちの田中が申し訳ございませんでした!」
ペコリ、と大きく頭を下げると「‥‥別に謝らなくていいです。」と言う声が降ってくる。身体は90度に折ったまま頭だけあげると、俺と反対を向いて窓を見ている水津先生の姿があった。
「先生は悪くないです。」
「いや、そんなことないです!俺が朝行ってなかったから、」
「違います。勝手に先生がいてくれるものだと思って、ゆみちゃんを遊びに行かせてた幼等部が悪いです。本来なら先生の仕事は中等部の生徒の自転車指導であり、ゆみちゃんを見てもらうことは入っていません。」
「でも、」
「ゆみちゃんを放置してしまった幼等部の問題ですし、ゆみちゃんを守るのは俺の仕事です。なので先生が謝ることではありません。むしろいつもゆみちゃんを見てくださっていることに感謝しなければいけない立場なので。」
「いやそれでも、」
「木元先生。どんなに謝っても絶対ワガママにゃんにゃんは折れないよ。」
かさ、と音が鳴って振り返ると金田先生がビニール袋からブドウの絵柄が載っているグミを取り出す。開封した途端、そっぽを向いていた水津先生が光の速さで振り返った。
「コイツ、あんな性格だけど仕事に対しては馬鹿真面目だからさ。木元先生にゆみちゃんを任せちゃってて自分の仕事を疎かにしていたことを本当に反省していたからこそ、多分木元先生のせいにしたくないんじゃないかな。」
「おい、ヤブ医者。俺のブドウグミを勝手に開けるな。そして食べるな!」
「まあでも木元先生が責任感じる気持ちもわかるけどね。でも今回はコイツの反省したい気持ちを受け入れてやってくれない?これは僕からのお願い。」
「グミは1粒ずつ食べるものであって、そんな袋に口をつけて食べるものじゃないから!ヤブ医者!自分で腹の中手術してグミを取り出してこい!」
ベットから降りた水津先生は金田先生の前に来るとグミを奪おうとするが、金田先生が腕を上にあげているので全然届かない。その姿を見ていると、こっちを向いた水津先生と目があった。
「‥‥この通り俺は元気だからあんま心配しないでいです。」
「でも本当に今回のことは、」
「じゃあ悪いと思っているならこのヤブ医者からグミ取ってください。」
「あ、あの‥‥。そしたら明日からお見舞い来てもいいですか?」
「来るほどのことでもないしパシリならこのヤブ医者がいるから大丈夫です。」
「いやでも流石にそれはやらしてほしいです。」
謝らせてもらえないなら、せめて何か力になりたい。これはサービス残業でもなく、俺の気持ちの問題で俺がやりたいからやらせてほしいんだ。そう思って水津先生をじっと見つめる。
「お~。にゃんにゃんだけだったのにワンワンも増えた。ここは動物病院か?」
「お願いします、水津先生。」
「‥‥好きにすれば?」
こうして次の日から俺は水津先生の所に通うことが決まった。
「あの‥‥!水津先生は!?」
教員証を見せつつ受付の看護師さんに聞けば「落ち着いてください。」と言われる。ゆっくりと息を吐いて近くにあった椅子に座るも、どうしよう、うちの生徒が怪我をさせてしまった、俺が寝坊したからだ、ということが頭を占めて言葉が出てこない。
しばらくすると何やら資料を持った看護師さんが俺の隣にやってきたので、わずかな気力を持って立ち上がる。
「水津先生はいらっしゃいますよ。ただ面会時間が今日はもう終わっていて。」
「え‥‥そんな。」
思いがけない展開に目の前が真っ暗になる。その時だった。
「水津先生に何か用ですか?」
振り返ると、両手にビニール袋を下げた若い男性だった。歳は俺と同い年くらいだろうか?
誰だ?と思い固まっていると、隣にいた看護師さんが頭を下げた。
「金田先生お疲れ様です。」
「お疲れ様。えっと、この方は水津先生に何か用?」
「自分は中等部で教員をやっております木元と申します。実は水津先生に怪我を負わせてしまった生徒がうちのクラスの生徒でして‥。」
「ああ、初めまして。大学病院で働いております金田と申します。今から木元の所に行くので一緒にいかがですか?」
思いがけない展開に頭を下げる。看護師さんは「先生、いいんですか?」なんて言っているが、特に金田先生は気にしていないようで俺ににこやかに笑いかけた。
「では木元先生。行きましょうか。」
「あ、はい!ありがとうございます!」
精一杯頭を下げて前に歩く金田先生に続く。金田先生は両手にビニールを持ちながらも器用にエレベーターに乗り14階のボタンを押した。
「あの、お伺いしたいのですが水津先生のご容態は大丈夫なのでしょうか?」
「左の手首がひかれて折れてます。」
「え!?」
「本当は入院することではないんですけれど、水津先生は左利きだし耀華の教員寮に一人暮らししてるから何かと不便だと思って僕が勝手に入院させているんです。」
「勝手に?」
「そう。水津先生とは特別仲が良くってね。」
ポーン、とエレベーターが到着の音を知らせて金田先生が降りていく。1406と書かれたプレートのついたドアを引いた瞬間、俺は目を疑った。
「金田おそーい!もう俺、10分も待ったんだけど。」
「相変わらずワガママにゃんにゃんだな。」
「早くその袋を寄越せ!グレープティーが飲みたいんじゃ‥‥って、え?」
俺に気がついた水津先生が目を点にする。かくいう俺も現在目が点だ。だってベットの上にいる水津先生は絶対零度でも悩殺スマイルでもない姿で‥‥。水津先生は俺を指差すとわなわな震えながら金田先生に口を開く。
「え‥‥な、なんで‥?」
「ワガママにゃんにゃん、さっき受付前で拾った木元先生だ。」
「もう面会時間終わってるだろ!?なんで勝手に連れてくるんだよ!」
「その終わった面会時間に僕をコンビニにパシったワガママにゃんにゃんにお土産。」
「いらないから!」
ベットの上にいる水津先生は白い布団を頭からかぶって丸まってしまう。あれは本当に水津先生なのか?未だに固まってしまって脳が機能しない俺に金田先生はニコリと笑う。
「貝になるなって。」
「貝になってない、寝てるだけだ。‥‥って、馬鹿!剥がすな!」
「はいはい。そんなに手を動かすと、いくら治癒力が神がかってるワガママにゃんにゃんでも治るもんも治らなくなるよ。」
「とっとと治せヤブ医者!」
シャー!と今にも金田先生に噛みつきそうな水津先生の姿をぼんやりと見ていたが、ようやくハッとした。そうだ、違う。俺は見学に来たんじゃない。
「あの、水津先生!」
「‥‥なんですか。」
あ、いつもの水津先生だ。先ほどまでの姿と違い、一気にスンとした表情になる水津先生。その姿を見て、隣で金田先生は口元を押さえて震えている。
「自分が今朝行かなかったばかりに本当に申し訳ございません!また、うちの田中が申し訳ございませんでした!」
ペコリ、と大きく頭を下げると「‥‥別に謝らなくていいです。」と言う声が降ってくる。身体は90度に折ったまま頭だけあげると、俺と反対を向いて窓を見ている水津先生の姿があった。
「先生は悪くないです。」
「いや、そんなことないです!俺が朝行ってなかったから、」
「違います。勝手に先生がいてくれるものだと思って、ゆみちゃんを遊びに行かせてた幼等部が悪いです。本来なら先生の仕事は中等部の生徒の自転車指導であり、ゆみちゃんを見てもらうことは入っていません。」
「でも、」
「ゆみちゃんを放置してしまった幼等部の問題ですし、ゆみちゃんを守るのは俺の仕事です。なので先生が謝ることではありません。むしろいつもゆみちゃんを見てくださっていることに感謝しなければいけない立場なので。」
「いやそれでも、」
「木元先生。どんなに謝っても絶対ワガママにゃんにゃんは折れないよ。」
かさ、と音が鳴って振り返ると金田先生がビニール袋からブドウの絵柄が載っているグミを取り出す。開封した途端、そっぽを向いていた水津先生が光の速さで振り返った。
「コイツ、あんな性格だけど仕事に対しては馬鹿真面目だからさ。木元先生にゆみちゃんを任せちゃってて自分の仕事を疎かにしていたことを本当に反省していたからこそ、多分木元先生のせいにしたくないんじゃないかな。」
「おい、ヤブ医者。俺のブドウグミを勝手に開けるな。そして食べるな!」
「まあでも木元先生が責任感じる気持ちもわかるけどね。でも今回はコイツの反省したい気持ちを受け入れてやってくれない?これは僕からのお願い。」
「グミは1粒ずつ食べるものであって、そんな袋に口をつけて食べるものじゃないから!ヤブ医者!自分で腹の中手術してグミを取り出してこい!」
ベットから降りた水津先生は金田先生の前に来るとグミを奪おうとするが、金田先生が腕を上にあげているので全然届かない。その姿を見ていると、こっちを向いた水津先生と目があった。
「‥‥この通り俺は元気だからあんま心配しないでいです。」
「でも本当に今回のことは、」
「じゃあ悪いと思っているならこのヤブ医者からグミ取ってください。」
「あ、あの‥‥。そしたら明日からお見舞い来てもいいですか?」
「来るほどのことでもないしパシリならこのヤブ医者がいるから大丈夫です。」
「いやでも流石にそれはやらしてほしいです。」
謝らせてもらえないなら、せめて何か力になりたい。これはサービス残業でもなく、俺の気持ちの問題で俺がやりたいからやらせてほしいんだ。そう思って水津先生をじっと見つめる。
「お~。にゃんにゃんだけだったのにワンワンも増えた。ここは動物病院か?」
「お願いします、水津先生。」
「‥‥好きにすれば?」
こうして次の日から俺は水津先生の所に通うことが決まった。
0
あなたにおすすめの小説
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる