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混沌の始まり
第二十八話 行く先は……?
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事の顛末をユキに話し終えた一同は、もちろんユキ本人の同意も得る。
元々が仲間想いの性格なので、断ることはないだろうと、皆の総意だったが、一応は儀礼的に聞いた。
そして、おおまかな作戦を立てることになったのだが、これはホークの一言で決まった。
「俺たちは、正面に布陣して戦闘をするから、おまえらはその隙に忍び込んで、ディオニュソスを助けて来いよ。 こちらとしては、敵の戦力も削れるし、いろいろとありがたいからさ。 おまえらが忍び込んで助ける時間ぐらいは稼げるしな」
「じゃあ、12時間くらいあればいいかな?」
「いや、早くねっ!? 1週間くらいは欲しいぜ…………」
「敵の本隊が来ても知らないぜ?」
「それは困る」
「間を取って、5日はどう?」
「ワタル、どう間を取ったら5日になるのかを、僕は知りたいな」
「ほら、この誠二と俺の安全進路と、コータたちの賭博進路の溝の間だよ」
「そうそう。 コレ、割と重要だから」
消極的な、誠二とワタルの二人に、周りの人物はやれやれと嘆息する。
しかし、この民主主義の国では、時には非情な多数決というもので今後の指針が採択されることがある。
そして、それはこういう状況にはとても有利なのだ。
「じゃあ、多数決で決めようか」
「そういうのよくないと思う!!」
「じゃあ、ホークと僕の意見に反対のヒト、挙手」
「はいはい!!」
「俺もだから!」
「反対2、賛成多数でこの作戦で決定だね。 意義があるひとー?」
「ちょっと、待てぇぇぇいいいい!!!!」
「そうだぜ、コータ。 こんな横暴が許されてたまるかぁ!!」
「えー、でも、これが一番、無難なんだけどなぁ」
「そうそう、だからゴチャゴチャ後から言うんじゃない。 一番危ない橋を渡るのは、俺たち遊軍なんだからな」
駄々をこねるワタルと誠二に、コータがお手上げの状態になるが、そこにホークの言葉が援軍として投げかけられる。
その言葉に、さすがのワタルでも何も言えなくなり、苦虫を噛み潰したような顔になったが、渋々引き下がる。
「仕方ない。 今回はおまえらの策に乗ってやるよ」
「いつもだろ」
「うるせぇぇぇ!! 俺は協調性があるってことだからいいんだよ!」
「その割には、いつも足踏みするよねぇ」
「やめてぇぇぇぇ!!!! これ以上、いじめないでぇぇぇ!!!!」
なぜか上から目線のワタルだったが、ミツルとコータの評価に、自ら地雷を撒いたことを悟る。
誠二は早々に、抵抗を諦めていたのか、窓の外を悲しそうに見ながらぼんやりとしている。
「とにかく、これで指針は決まったわけだけど、いつ始めるの? 早くしないと、ディオニュソスが何されるかわからないし」
「こっちとしては、進軍するための準備があるからなぁ。 兵と武器をかき集めなきゃならんし」
「どれくらいの兵を集める気なの?」
「う~ん、俺の配下は全員連れていくとして……遊軍の中で協力してくれる部隊は全部連れていくつもりだから、1万くらいかな? あ、それにサテュロスたちの部隊も借りるぜ?」
「サテュロスたちは、ディオニュソス至上主義だから、連れていくのに問題はないけど、そんなに戦えるヒトたちがいるんだ?」
「あぁ、日々の訓練の成果だな。 …………どっから集めたかは、聞かないでくれると助かる」
「うん、わかった。 じゃあ、軍勢の面は問題なさそうだね」
「…………それが一番の問題なんだけどね」
ホークに向けて、会話を進めるつもりで聞いたコータだったが、サテュロス含め、1万2千もの軍勢ですら、ホークの顔を暗くさせる。
そんなホークを見て、消極的なワタルと誠二の二人は、さらに顔を青くさせる。
「まぁ、この前みたいに、俺がまた吹き飛ばせばいいんだけどな!」
「いや、もうやめてくれませんかねえ!? あなたのせいで、我々の重要な拠点が一つ失われたんですからねっ!?」
「あぁ、悪かったって。 アレはシスティーナ様にも報告したんだから、もう掘り返すなよ」
「掘り返したのはあなたでしょうが!!」
「細かいコト気にするなよ、斉藤。 あんまり怒ってばっかいると、シワが増えるぜ?」
「ほぼ全ての元凶があなたなんですけど!?」
斉藤の非難めいた声なんて、どこ吹く風で、飄々とするホーク。
真剣な斉藤が不憫に思えてくる一同だったが、それを一番感じているのは本人だろうから、周りは何も言わない。
「とにかく、おまえらの方が準備があるのはわかったから、早く出発しなくていいのかよ?」
「何を勘違いしてるのか知らないケド、女神の加護がある俺たちは、瞬間移動的なモノで行けるから、準備だけでいいんだよなぁ」
「なにそれ、ずるい!!」
「そういう契約なんだから、仕方ないでしょ」
「え、じゃあ、なに、俺らは歩き?」
衝撃の事実を聞いて、絶望しながら聞くワタルだが、そんなワタルに優越感に浸りドヤ顔をしていたホークが噴き出す。
「あっははは、何言ってるのさ。 海を越えるのに、歩いていけるわけないでしょ」
「…………海を越える? どこまで行くのさ」
「アレ、言ってなかったっけ。 北海道だよ、北海道。 でっかいどう!ってヤツだわな」
(そんなこと、一言も言ってません…………)
訝し気な声音で聞くワタルに、キョトンとしながら答えるホーク。
そして、心中で呟かずにはいられない一同であった。
「え、どうするのさ、コータ?」
「北海道かぁ、僕、飛行機乗ったことないんだよね」
「あ、私も乗ったことないわ」
「俺はこの間、海鮮丼食べに行ったりしたなぁ。 千歳でオオガラスの大群に殺されそうになったけど」
「ほのぼのしてるな、おまえらっ!? しかも、誠二はこっちサイドの人間じゃないのか!!」
「はっ、すっかりコータのペースに巻き込まれてしまった!!」
「コータのペースって、なんか言いづらいわねえ」
「ややこしくなるから、ミホは黙ってて!!」
「ふんっ!!」
「ふろりだっ!?」
救いを求めるようなワタルの言葉に、呑気に答える、コータとユキと誠二。
まんまと乗せられた体になった誠二は、頭を抱えて悩ましげにするが、そこにミホが何の関係のない話をする。
ワタルが叫ぶようにミホに言うが、その2秒後にワタルは潰えた。
「そうそう、飛行機だけは絶対に乗るなよ。 いくら、『意思をつぐ者』でも飛行機が墜落したら、滅多に助からないしな。 電車とかなら、まだなんとかなるけど」
「え、なにその、飛行機が怪物に墜落させられるみたいなの」
「え、知らなかったの?」
「「「えええ?」」」
いきなり会話に入って来たかと思えば、ぞっとしない話を始めるマサル。
その話に、うそ寒いものを感じつつも、聞くワタルに、純粋な眼差しでキョトンとするマサル。
信じられないとばかりに、仰け反るコータたちが印象的だった。
「いやいや、これは割とホントの話だよ。 今までの飛行機墜落事故はほとんどが怪物のせいだもん」
「うへぇ、マっジかよ。 とんでもないな」
「そして、その『意思をつぐ者』は悉く死んでるからな。 人数が多ければ多いほど狙われるけど、電車とかなら、まだなんとかなるだろう? まぁ、一番いいのは車だけどな。 一般人にも迷惑かからないし」
「じゃあ、車で移動か? でも俺ら18歳なんて誰もいないぜ?」
「俺が運転する」
「え、ミツル、運転できるの? 免許証は?」
「ほら」
「いや、コレ、原付の免許だろっ!?」
「特に何も言われないぞ」
「それはおまえがそれだけの美青年だからだ!! 世の中はなんて理不尽なんだ、チクショウ」
「うまい具合に隠しながらな」
マサルの忠告に従い、ミツルが車を運転することにほぼ決まった。
というか、訓練所の訓練メニューの中に、運転技術というのがあるので、任意だが、受けていれば運転ぐらいはできるようになる。
免許も取得可能だが、さすがに年齢制限までは誤魔化せない。
しかし、今回の移動方法は、車での移動で決まりそうだ。
「でも、こんな7人も乗る車をどこから取ってくるの?」
「遊軍の装甲車でも貸してやろうか?」
「そんなの乗ってたら、行く先々で職質されるわ」
「じゃあ、普通のバンでも貸してやるよ。 どうせ、ここまで誰かが乗ってきてるだろうし」
「おう、ありがとうな」
ホークの厚意により、移動の算段がついたコータたちは、なぜか仕切るようなワタルが感謝を伝える。
「じゃあ、いつ出発するんだ? もしかして、今日中に出るの?」
「俺たち、遊軍はそうするつもりだぜ。 あ、斉藤はこいつらに車を手配してやってくれ」
「はい、わかりました。 では、ミツルさん、私に付いてきてください」
「わかった」
そうして、次々と自分の配下に指示を飛ばすホークと、車を貸すべくミツルを先導する斉藤。
そんな3人を見ながら、ワタルが先ほどから疑問に思っていたことを口にする。
「そういえば、車で北海道に行くってさ、青函トンネルを通るってこと?」
「何言ってるさ、ワタル。 青函トンネルは電車用のトンネルだから、車は通れないよ?」
「え、そうなの!? 衝撃の新事実!!」
「だから、北海道へは、フェリーで行くんだよ。 車での移動を多くするから、青森からかなぁ」
「青森かぁ、ていうか、この時期の北海道って、寒くねぇ!?」
「まぁ、もう11月になるしね。 場所によっては、雪とか降ってると思うよ」
「うへへぇぇ、メッチャ寒いじゃん、それ…………。 俺、寒いの苦手なんだよね」
本気で嫌がるワタルに、ミホが真面目な顔でこう言う。
「じゃあ、『水の意思をつぐ者』から、『氷の意思をつぐ者』に転身したらいいじゃない」
「そんな簡単になれるわけないだろっ!? え、なにそれ、俺が凍ればいいってことですか、ミホさん」
「確かに、凍ったままのワタルってのも、中々、カッコよさそうだし、見てみたいわね…………」
「俺の恋人にまさかのヤンデレ要素発見!?」
ミホの言葉に、戦々恐々とするワタルだったが、カッコいいと言われて、少し顔を赤らめている。
(単純だ…………)
と、この場にいる誰もが思ったが、何も言わない。
いつものコトなので、いちいち構っていては、こちらが疲れてしまうだけだ。
「アイツら、二人は置いといて、俺らは早く荷物をまとめようぜ。 …………何泊するんだ?」
「…………最低でも、5泊はするかな?」
「おう…………そしたら、途中でコインランドリーでも入るか。 2泊分もあれば十分だよな?」
「大丈夫じゃないかな」
東京から北海道まで、いくら車でも5泊はかからないだろうと思うかもしれないが、事実そんなことはないのだ。
なぜかと言うと、『意思をつぐ者』は例外なく、怪物を引き寄せてしまうからだ。
逃げれば、なんとかなる場合もあるが、基本的に訓練所から離れれば離れるほど強い力を持った怪物が現れる。
そうなった場合は、否応なく戦闘に入ることがほとんどで、怪物からしてみれば、久しぶりのご馳走になるわけだから、もちろん逃がしてもくれないということになるのだ。
つまり、どう足掻こうとも、真っすぐに目的地に辿り着けることは、まずなないし、最悪の場合、目的地に辿り着く前にお陀仏になる可能性だってある。
「今回は、目的地に辿り着かなきゃ、ディオニュソスは助からない訳だし、基本、途中で怪物に襲われても深追いはしないようにしよう」
「そうね。 それが一番、無難だと思うわ」
「ケガもしないだろうしな」
「さんせーい」
コータが掲げた今回の冒険の旅の指針に、ユキ、誠二、カオリが賛同する。
ワタルとミホは、まだ二人だけの世界にいるので、こちらの話を全く聞いていないので、後で言うことにする。
ミツルはコータが決めたことには基本的に従うので、事後承諾でもいいだろう。
「今後の方針は決まったかい?」
「はい、決まりました。 ホークたち遊軍は何日後に攻撃をかけるの?」
「う~ん、おまえら次第だから、いつでもいいけど、最低でも3日後だな。 それより早くは絶対に無理」
「いや、いくらなんでも3日じゃあ、着かないと思うから、それは大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、おまえらが北海道に入ったら、布陣を始めるかな。 いきなり戦闘になるようなことはないし、お互い探り探りだから、2日は膠着状態が続くだろうから」
「じゃあ、連絡すればいいの? 連絡先教えてよ」
「うん? いや、わかるからいいんだけどな…………念のため交換しておくか」
「わかる…………?」
「いや、こっちの話」
コータが連絡先を渡すために自分のスマホを取り出したが、ホークは不思議そうに首を傾げ、衝撃の事実をさらっと言ったが、なんでもないという風に首を振る。
マサルと親友なだけはあり、同じようなモノを展開しているのだろう。
流石、伝説の一角を担うだけのことはあるだろう。
「じゃあ、俺たちは連絡をもらってから転移して布陣するつもりだから、よろしく!!」
「わかった。 いつでも、連絡つくようにしておいてね」
「それは多分、大丈夫だ」
「…………ちゃんと出てよね?」
「おう、任せろ」
無責任な発言をしたのにも関わらず、なぜかしっかりと保証してのけるホークの言葉に、ため息をつく一同だったが、それ以上は何も言わずに、部屋を辞退していく。
コータたちが退室した後に、ホークは今まで静かだった自分の親友とその伴侶を見やる。
「…………マサル、アキ、なんで今回の冒険の旅、おまえらは来ないんだ?」
「俺たちは、やることができた。 …………高天原に行って、天照大神に会ってくる」
「本気で言ってるのか? 前回の大戦の時は、自分だけ軍も出さずに高見で見物してたようなヤツだぞ。 どうせ、また門前払いされるに決まってる」
「いいや…………まだ、わからないさ」
鼻を鳴らすホークに、どこか遠くを見ながら答えるマサル。
それは、まるで未来でも見通せるかのような、それとも、さらに遠くを見ているような顔つきをしながら。
元々が仲間想いの性格なので、断ることはないだろうと、皆の総意だったが、一応は儀礼的に聞いた。
そして、おおまかな作戦を立てることになったのだが、これはホークの一言で決まった。
「俺たちは、正面に布陣して戦闘をするから、おまえらはその隙に忍び込んで、ディオニュソスを助けて来いよ。 こちらとしては、敵の戦力も削れるし、いろいろとありがたいからさ。 おまえらが忍び込んで助ける時間ぐらいは稼げるしな」
「じゃあ、12時間くらいあればいいかな?」
「いや、早くねっ!? 1週間くらいは欲しいぜ…………」
「敵の本隊が来ても知らないぜ?」
「それは困る」
「間を取って、5日はどう?」
「ワタル、どう間を取ったら5日になるのかを、僕は知りたいな」
「ほら、この誠二と俺の安全進路と、コータたちの賭博進路の溝の間だよ」
「そうそう。 コレ、割と重要だから」
消極的な、誠二とワタルの二人に、周りの人物はやれやれと嘆息する。
しかし、この民主主義の国では、時には非情な多数決というもので今後の指針が採択されることがある。
そして、それはこういう状況にはとても有利なのだ。
「じゃあ、多数決で決めようか」
「そういうのよくないと思う!!」
「じゃあ、ホークと僕の意見に反対のヒト、挙手」
「はいはい!!」
「俺もだから!」
「反対2、賛成多数でこの作戦で決定だね。 意義があるひとー?」
「ちょっと、待てぇぇぇいいいい!!!!」
「そうだぜ、コータ。 こんな横暴が許されてたまるかぁ!!」
「えー、でも、これが一番、無難なんだけどなぁ」
「そうそう、だからゴチャゴチャ後から言うんじゃない。 一番危ない橋を渡るのは、俺たち遊軍なんだからな」
駄々をこねるワタルと誠二に、コータがお手上げの状態になるが、そこにホークの言葉が援軍として投げかけられる。
その言葉に、さすがのワタルでも何も言えなくなり、苦虫を噛み潰したような顔になったが、渋々引き下がる。
「仕方ない。 今回はおまえらの策に乗ってやるよ」
「いつもだろ」
「うるせぇぇぇ!! 俺は協調性があるってことだからいいんだよ!」
「その割には、いつも足踏みするよねぇ」
「やめてぇぇぇぇ!!!! これ以上、いじめないでぇぇぇ!!!!」
なぜか上から目線のワタルだったが、ミツルとコータの評価に、自ら地雷を撒いたことを悟る。
誠二は早々に、抵抗を諦めていたのか、窓の外を悲しそうに見ながらぼんやりとしている。
「とにかく、これで指針は決まったわけだけど、いつ始めるの? 早くしないと、ディオニュソスが何されるかわからないし」
「こっちとしては、進軍するための準備があるからなぁ。 兵と武器をかき集めなきゃならんし」
「どれくらいの兵を集める気なの?」
「う~ん、俺の配下は全員連れていくとして……遊軍の中で協力してくれる部隊は全部連れていくつもりだから、1万くらいかな? あ、それにサテュロスたちの部隊も借りるぜ?」
「サテュロスたちは、ディオニュソス至上主義だから、連れていくのに問題はないけど、そんなに戦えるヒトたちがいるんだ?」
「あぁ、日々の訓練の成果だな。 …………どっから集めたかは、聞かないでくれると助かる」
「うん、わかった。 じゃあ、軍勢の面は問題なさそうだね」
「…………それが一番の問題なんだけどね」
ホークに向けて、会話を進めるつもりで聞いたコータだったが、サテュロス含め、1万2千もの軍勢ですら、ホークの顔を暗くさせる。
そんなホークを見て、消極的なワタルと誠二の二人は、さらに顔を青くさせる。
「まぁ、この前みたいに、俺がまた吹き飛ばせばいいんだけどな!」
「いや、もうやめてくれませんかねえ!? あなたのせいで、我々の重要な拠点が一つ失われたんですからねっ!?」
「あぁ、悪かったって。 アレはシスティーナ様にも報告したんだから、もう掘り返すなよ」
「掘り返したのはあなたでしょうが!!」
「細かいコト気にするなよ、斉藤。 あんまり怒ってばっかいると、シワが増えるぜ?」
「ほぼ全ての元凶があなたなんですけど!?」
斉藤の非難めいた声なんて、どこ吹く風で、飄々とするホーク。
真剣な斉藤が不憫に思えてくる一同だったが、それを一番感じているのは本人だろうから、周りは何も言わない。
「とにかく、おまえらの方が準備があるのはわかったから、早く出発しなくていいのかよ?」
「何を勘違いしてるのか知らないケド、女神の加護がある俺たちは、瞬間移動的なモノで行けるから、準備だけでいいんだよなぁ」
「なにそれ、ずるい!!」
「そういう契約なんだから、仕方ないでしょ」
「え、じゃあ、なに、俺らは歩き?」
衝撃の事実を聞いて、絶望しながら聞くワタルだが、そんなワタルに優越感に浸りドヤ顔をしていたホークが噴き出す。
「あっははは、何言ってるのさ。 海を越えるのに、歩いていけるわけないでしょ」
「…………海を越える? どこまで行くのさ」
「アレ、言ってなかったっけ。 北海道だよ、北海道。 でっかいどう!ってヤツだわな」
(そんなこと、一言も言ってません…………)
訝し気な声音で聞くワタルに、キョトンとしながら答えるホーク。
そして、心中で呟かずにはいられない一同であった。
「え、どうするのさ、コータ?」
「北海道かぁ、僕、飛行機乗ったことないんだよね」
「あ、私も乗ったことないわ」
「俺はこの間、海鮮丼食べに行ったりしたなぁ。 千歳でオオガラスの大群に殺されそうになったけど」
「ほのぼのしてるな、おまえらっ!? しかも、誠二はこっちサイドの人間じゃないのか!!」
「はっ、すっかりコータのペースに巻き込まれてしまった!!」
「コータのペースって、なんか言いづらいわねえ」
「ややこしくなるから、ミホは黙ってて!!」
「ふんっ!!」
「ふろりだっ!?」
救いを求めるようなワタルの言葉に、呑気に答える、コータとユキと誠二。
まんまと乗せられた体になった誠二は、頭を抱えて悩ましげにするが、そこにミホが何の関係のない話をする。
ワタルが叫ぶようにミホに言うが、その2秒後にワタルは潰えた。
「そうそう、飛行機だけは絶対に乗るなよ。 いくら、『意思をつぐ者』でも飛行機が墜落したら、滅多に助からないしな。 電車とかなら、まだなんとかなるけど」
「え、なにその、飛行機が怪物に墜落させられるみたいなの」
「え、知らなかったの?」
「「「えええ?」」」
いきなり会話に入って来たかと思えば、ぞっとしない話を始めるマサル。
その話に、うそ寒いものを感じつつも、聞くワタルに、純粋な眼差しでキョトンとするマサル。
信じられないとばかりに、仰け反るコータたちが印象的だった。
「いやいや、これは割とホントの話だよ。 今までの飛行機墜落事故はほとんどが怪物のせいだもん」
「うへぇ、マっジかよ。 とんでもないな」
「そして、その『意思をつぐ者』は悉く死んでるからな。 人数が多ければ多いほど狙われるけど、電車とかなら、まだなんとかなるだろう? まぁ、一番いいのは車だけどな。 一般人にも迷惑かからないし」
「じゃあ、車で移動か? でも俺ら18歳なんて誰もいないぜ?」
「俺が運転する」
「え、ミツル、運転できるの? 免許証は?」
「ほら」
「いや、コレ、原付の免許だろっ!?」
「特に何も言われないぞ」
「それはおまえがそれだけの美青年だからだ!! 世の中はなんて理不尽なんだ、チクショウ」
「うまい具合に隠しながらな」
マサルの忠告に従い、ミツルが車を運転することにほぼ決まった。
というか、訓練所の訓練メニューの中に、運転技術というのがあるので、任意だが、受けていれば運転ぐらいはできるようになる。
免許も取得可能だが、さすがに年齢制限までは誤魔化せない。
しかし、今回の移動方法は、車での移動で決まりそうだ。
「でも、こんな7人も乗る車をどこから取ってくるの?」
「遊軍の装甲車でも貸してやろうか?」
「そんなの乗ってたら、行く先々で職質されるわ」
「じゃあ、普通のバンでも貸してやるよ。 どうせ、ここまで誰かが乗ってきてるだろうし」
「おう、ありがとうな」
ホークの厚意により、移動の算段がついたコータたちは、なぜか仕切るようなワタルが感謝を伝える。
「じゃあ、いつ出発するんだ? もしかして、今日中に出るの?」
「俺たち、遊軍はそうするつもりだぜ。 あ、斉藤はこいつらに車を手配してやってくれ」
「はい、わかりました。 では、ミツルさん、私に付いてきてください」
「わかった」
そうして、次々と自分の配下に指示を飛ばすホークと、車を貸すべくミツルを先導する斉藤。
そんな3人を見ながら、ワタルが先ほどから疑問に思っていたことを口にする。
「そういえば、車で北海道に行くってさ、青函トンネルを通るってこと?」
「何言ってるさ、ワタル。 青函トンネルは電車用のトンネルだから、車は通れないよ?」
「え、そうなの!? 衝撃の新事実!!」
「だから、北海道へは、フェリーで行くんだよ。 車での移動を多くするから、青森からかなぁ」
「青森かぁ、ていうか、この時期の北海道って、寒くねぇ!?」
「まぁ、もう11月になるしね。 場所によっては、雪とか降ってると思うよ」
「うへへぇぇ、メッチャ寒いじゃん、それ…………。 俺、寒いの苦手なんだよね」
本気で嫌がるワタルに、ミホが真面目な顔でこう言う。
「じゃあ、『水の意思をつぐ者』から、『氷の意思をつぐ者』に転身したらいいじゃない」
「そんな簡単になれるわけないだろっ!? え、なにそれ、俺が凍ればいいってことですか、ミホさん」
「確かに、凍ったままのワタルってのも、中々、カッコよさそうだし、見てみたいわね…………」
「俺の恋人にまさかのヤンデレ要素発見!?」
ミホの言葉に、戦々恐々とするワタルだったが、カッコいいと言われて、少し顔を赤らめている。
(単純だ…………)
と、この場にいる誰もが思ったが、何も言わない。
いつものコトなので、いちいち構っていては、こちらが疲れてしまうだけだ。
「アイツら、二人は置いといて、俺らは早く荷物をまとめようぜ。 …………何泊するんだ?」
「…………最低でも、5泊はするかな?」
「おう…………そしたら、途中でコインランドリーでも入るか。 2泊分もあれば十分だよな?」
「大丈夫じゃないかな」
東京から北海道まで、いくら車でも5泊はかからないだろうと思うかもしれないが、事実そんなことはないのだ。
なぜかと言うと、『意思をつぐ者』は例外なく、怪物を引き寄せてしまうからだ。
逃げれば、なんとかなる場合もあるが、基本的に訓練所から離れれば離れるほど強い力を持った怪物が現れる。
そうなった場合は、否応なく戦闘に入ることがほとんどで、怪物からしてみれば、久しぶりのご馳走になるわけだから、もちろん逃がしてもくれないということになるのだ。
つまり、どう足掻こうとも、真っすぐに目的地に辿り着けることは、まずなないし、最悪の場合、目的地に辿り着く前にお陀仏になる可能性だってある。
「今回は、目的地に辿り着かなきゃ、ディオニュソスは助からない訳だし、基本、途中で怪物に襲われても深追いはしないようにしよう」
「そうね。 それが一番、無難だと思うわ」
「ケガもしないだろうしな」
「さんせーい」
コータが掲げた今回の冒険の旅の指針に、ユキ、誠二、カオリが賛同する。
ワタルとミホは、まだ二人だけの世界にいるので、こちらの話を全く聞いていないので、後で言うことにする。
ミツルはコータが決めたことには基本的に従うので、事後承諾でもいいだろう。
「今後の方針は決まったかい?」
「はい、決まりました。 ホークたち遊軍は何日後に攻撃をかけるの?」
「う~ん、おまえら次第だから、いつでもいいけど、最低でも3日後だな。 それより早くは絶対に無理」
「いや、いくらなんでも3日じゃあ、着かないと思うから、それは大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、おまえらが北海道に入ったら、布陣を始めるかな。 いきなり戦闘になるようなことはないし、お互い探り探りだから、2日は膠着状態が続くだろうから」
「じゃあ、連絡すればいいの? 連絡先教えてよ」
「うん? いや、わかるからいいんだけどな…………念のため交換しておくか」
「わかる…………?」
「いや、こっちの話」
コータが連絡先を渡すために自分のスマホを取り出したが、ホークは不思議そうに首を傾げ、衝撃の事実をさらっと言ったが、なんでもないという風に首を振る。
マサルと親友なだけはあり、同じようなモノを展開しているのだろう。
流石、伝説の一角を担うだけのことはあるだろう。
「じゃあ、俺たちは連絡をもらってから転移して布陣するつもりだから、よろしく!!」
「わかった。 いつでも、連絡つくようにしておいてね」
「それは多分、大丈夫だ」
「…………ちゃんと出てよね?」
「おう、任せろ」
無責任な発言をしたのにも関わらず、なぜかしっかりと保証してのけるホークの言葉に、ため息をつく一同だったが、それ以上は何も言わずに、部屋を辞退していく。
コータたちが退室した後に、ホークは今まで静かだった自分の親友とその伴侶を見やる。
「…………マサル、アキ、なんで今回の冒険の旅、おまえらは来ないんだ?」
「俺たちは、やることができた。 …………高天原に行って、天照大神に会ってくる」
「本気で言ってるのか? 前回の大戦の時は、自分だけ軍も出さずに高見で見物してたようなヤツだぞ。 どうせ、また門前払いされるに決まってる」
「いいや…………まだ、わからないさ」
鼻を鳴らすホークに、どこか遠くを見ながら答えるマサル。
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前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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小豆缶
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