幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第七十八話: 秘術の伝授

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王国の滞在時間僅か30分という記録を残し、俺達は、ミリーとエスナ先生のいる樹海の古ぼけた小屋を目指して突っ走っていた。
小屋に到着する前に俺にはククに確認する事があった。

「クク、今の俺達の会話は、ノイズ様には聞こえてるか?」
「ううん。聞こえてないよ。あの城門で留守番していた時はノイズ様が魔術を使っていたみたいだけど、効果範囲は狭いみたいだよ」
「そうか、なら取り敢えず大丈夫かな」
「何か問題があるの?」
「ミリーは、俺の魔術の先生と一緒に暮らしてるんだ」
「という事はミリーお姉ちゃんも魔術を?」
「うん、俺の方が後からだったから姉弟子になるのかな」
「じゃ、私達二人のお姉ちゃんだね」

ククは、笑っていた。

樹海の小屋までは、先生が人払の結界を張っている為、普通に向かったんじゃ、まず辿り着かない。

しかし、先生に貰ったペンダントを付けていると、ペンダントが先生の魔力に呼応し、その方向を指し示してくれる。まるで生きているかのように動くのだ。
先生との距離がある一定まで近付くと反応する優れものだ。

ペンダントを頼りに俺達は進んで行く。
王国を出発して1時間足らずで目的地である樹海の古ぼけた小屋まで辿り着いた。

俺の始まりの場所でもある。

小屋の中には反応が二つ。
恐らく、エスナ先生とミリーだろう。

「じゃ、行こうか」

緊張しているククの肩をポンポンと軽く叩いた。

小屋の扉の前まで辿り着くと、俺達に気が付いたのか中から人が出てきた。

コスプレにしか見えない、魔女っ子衣装を身にまとった人物。紛れもないエスナ先生だ。
もう一人は、犬耳が可愛らしく軽快にピクピクと動いている、ミリーだ。

ククは、声を発することなく、ミリーの姿を見るなり飛び付き、抱きしめていた。

「え、ええええええ!?」
「お姉ちゃん、会いたかった!」

ミリーもすぐにククだと分かり、二人して再会の嬉しさのあまり、泣いていた。

エスナ先生が俺の所に歩いてくる。

「久し振りじゃの。元気そうでなによりじゃ」
「お久しぶりです。エスナ先生もお元気そうで」
「それにしてもミリーにとって最高の贈り物じゃな」

俺は、エスナ先生にククと出会った経緯、絶界の魔女の話をした。
エスナ先生は、絶界の魔女であるノイズの事を知っているようだった。

「ノイズか。あやつには気を付けるんじゃぞ。魔女の中でも非常に好戦的じゃ」
「既に一度勝負を挑まれてますよ。運良く俺が勝ちましたけど確かに強かったですね」
「ノイズとは、共通の師の元、一緒に魔術の訓練をした仲じゃ。ワシの方が姉弟子だったがの」

俺は、二人が一緒にいる姿を想像していた。
恐らく外見は、今とさほど変わっていないだろう。
外見だけなら、お互い魔女っ子幼女二人が戯れているだけならば、微笑ましい光景なのだが、常人なら即死級の魔術が飛び交っている様を想像すると、心臓に悪い。
二人が本気で争ったらどうなるのだろか。考えただけでも恐ろしいので、妄想はこの辺りでやめておこう。

それにしても、二人が抱き合って泣きじゃくってから早30分が経過していた。
いくら何でも長すぎな気がするが、声を掛けづらい。

見かねたエスナ先生が、二人に歩み寄る。

「一体、何時まで泣いておるのじゃ」

二人がビクッとエスナ先生の方を振り向いた。
流石エスナ先生、容赦ない!

「長旅で疲れてるだろう。ミリーよ、中に案内してチャルでも入れてあげなさい」

「ぐすん・・。あ、うん、そだね」
「それとワシは、ユウに話があるので、少しそこらを散歩に行ってくるぞ」

エスナ先生に連れられ樹海の古ぼけた小屋を後にする。

先生は、凄いスピードでどんどん駆けていく。
だが、ついて行けないスピードではなかった。

「時にユウよ。お主、かなり成長したな」
「どうでしょう。でもエスナ先生にはまだまだ遠く及びませんよ」
「肉体的、魔力的な強さではない。この世界の様々な事を知り、覚悟が出来た眼をしている」

風を切り、高速で移動中の会話だったが、自然と先生の会話は、ハッキリと聞こえた。
先生に成長していると言われて嬉しくない弟子はいないだろう。

何時しか見慣れた荒地へと移動していた。

「ここは以前、ユウが初めて魔術の特訓をした場所じゃ」
「ついこの間のような気がしますけど、実際は1年近く経ってるんですね」
「ワシから言わせたら1年など最近の出来事じゃがな」

エスナ先生は、齢100を超える長寿なのだ。

エスナ先生の雰囲気が変わった。

「ユウよ、今の其方の実力が知りたい。あの大岩に自身の持てる最大級の魔術を撃ってみてくれぬか」

師匠に見てもらうって言うのは何だか緊張するな。

「分かりました。フルパワーでいきますね」

俺は、ストレージからエスナ先生から貰った杖を取り出し、魔力をチャージした。
そして、大岩に狙いを定めて撃つ。

「エレメンタルボム!」

眩い輝きを放ちながら、直径3m程のエネルギー球が大岩に着弾した。

俺自身、本気で撃った事はあまりないので、球体の大きさにも驚いたが、その速度が異常だった。
大岩との距離は凡そ20m程離れていたが、杖から放たれてから大岩の着弾まで1秒も無かった。
10mを超える大岩が跡形もなく木っ端微塵になっていた。

「初めて見る魔術じゃな。それにしてもなんて威力じゃ」
「3属性のボルトを最高レベルまで覚えたら取得しました」
「なるほどな。常人なら取得する事はありえぬ訳じゃ」

と言うのも、普通の魔術師が使える属性は基本的に1種類に限られる。
エスナ先生に限っては2属性だけどね。

「レベルは?」
「84になりました」

エスナ先生は、何やら考え事をしていた。

「エスナ先生?」
「ああ、すまぬ」

・・・・。

またしても黙ってしまった。

取り敢えず、考える邪魔をしては悪いのでそのまま俺は待つ事にした。

エスナ先生の目つきが変わった。

「ユウ。お主に授けたい魔術があるんじゃ」

唐突の申し出だった為、一瞬戸惑ったが、エスナ先生に詳細説明を求めた。

この世界には、普通の魔術とは違う自分だけの固有ユニーク魔術である秘伝魔術、略して秘術というのが存在する。
秘伝魔術は、たった一人にしか伝授する事が出来ないそうだ。
しかし、その取得方法は簡単で、秘伝魔術書を読むだけで覚えられるそうだ。
読むだけで覚えられるという事は、俺の場合の魔術書と同じ感じだろうか。
ちなみに、この世界には固有ユニークスキルというのも存在していて、こちらは自分だけの技能なので誰かに伝授する事は出来ない。

「何故そんな貴重な魔術を俺なんかに・・」
「ユウ。お主は経緯はどうあれ、戦闘においては、恐らくワシよりも上じゃろう。潜在魔力量も底が知れんしな」
「いえ、俺なんてまだまだですよ」
「まぁ、聞け。半端者ではない、本物の強き者じゃからこそ教えられる術もあるんじゃ」

エスナ先生は続ける。

「ワシがユウに伝授したい魔術は、死者を復活させるものじゃ」

な、なんだって!?

死者の復活は、この世界でも決して受け入れられる事のない、禁術として扱われていると以前聞いた事がある。
なぜそんな禁術をエスナ先生が・・。

「皆まで言わずとも良い。術が術なだけに、今までワシも誰にも伝授出来ずにいたんじゃ」

エスナ先生も、先生の師匠からこの術を伝授して貰ったそうだ。師匠はそのまた師匠に伝授されたように、脈々と受け継がれてきた秘術という名の禁術なのだ。

エスナ先生自体もまだ実際に使った事はないそうだ。

「確かに禁術の類に入るじゃろう。しかし、この術を廃れさせる事は出来んのじゃ」

確かに死者を生き返らせなければならない局面は少なからず存在するだろう。
この術を廃れさせてしまうのは、俺自身も勿体無いとは思う。
使い方次第では、この世界のベクトル自体を変える事にも繋がる程の秘術だと思う。

「ワシがこの術をお主に授けるのには理由がある。この世界とは違う争いのない平和な別世界から来たお主は、この世界にいる誰よりも心優しいと思っておる」

俺は黙ってエスナ先生の言葉を聞いていた。

「ワシが生きている内にこの術を託せると思える人物に今後出会える保証はないしの」
「俺は、異世界の住人です。いつ元の世界に戻ってしまうか分かりません。そうなってしまえば、結局この秘術は廃れてしまいます」
「この術をお主に託した瞬間、もうお主の物じゃ。生かすも殺すもお主が決めれば良い。ワシの授かった役目は、お主に託した瞬間果たされた事になるんじゃ」

俺は苦笑いをした。

「エスナ先生、それはズルいですよ・・」
「まぁそう言うな。役目を果たす者として、みすみす廃れさせる事も出来んが、悪用されるのを防ぐ事もまた必要なのじゃ」

エスナ先生は、ニコリと微笑む。

「受け入れるかどうかは、お主が決めれば良い。強要するつもりもない」

俺は考えていた。
果たしてそんな重荷を背負っていいのだろうか。
エスナ先生は、俺の事を聖人君子のように言ってくれていたが、実際そうではない事は自分自身が一番良く分かっている。
勿論謙虚な訳ではない。

この秘術は使い方次第では、この世界を転覆させる事も可能だろう。
だからこそ時と場合を選ぶ必要がある。
エスナ先生は、周りの大切な人が亡くなった時に自由に使えば良いと言っているが、おいそれと使っていい術ではないだろう。
それに常に慎重に行動しているつもりだ。みすみす仲間から死者を出す真似はしない。
だが、絶対はありえない。

俺の中で一つの結論が出た。
重く受け止めるのは止めよう。
だから保険のつもりで、有効活用しようと現時点では思っている。それで良いだろう。
エスナ先生も俺の判断で使っていいと言っているし、深く考えるのは止めよう。

「分かりました。その申し出、受けさせて頂きます」
「おお、受けてくれるか」

受けると言ったからには、もう後戻りは出来ない。

俺は、エスナ先生に死者復活の秘術について、詳細説明を受けた。

この魔術の名前は、#再生__リバイバル__。
使用するにはある程度の誓約があるそうだ。

1.対象者は、死亡してから1時間以内である事。
2.使用するには、術者の全魔力を消費する。
3.使用された者は、直前の記憶が無くなる。
4.同じ相手には2度使えない。
5.1日1回の使用制限がある。

やはり、万能ではないようだ。
全魔力を消費するという事は、戦闘中に使用するのは難しいだろう。
1日1回の制限があるならば、同時に二人を生き返らせたい場合は選ぶ必要がある。死後1時間以内なんてのもなかなか条件として厳しい。

どちらにしても、使い所が難しい。
勿論、使わないに越した事はない。

「ユウ、目を閉じるんじゃ」

秘伝書を作る過程を見られたくないのだろう。少し興味があったんだけど、仕方がないので言われた通りに目を閉じる。

エスナ先生が、何やら呪文らしきものを唱えているのが聞こえる。

「目を開けて良いぞ」

恐る恐る目を開ける。

「準備は整った。この秘伝書を読んだらお主は、#再生__リバイバル__を覚える事が出来る。今一度聞くぞ。止めるなら最後じゃ」
「エスナ先生。覚悟は出来ています。俺がこの代々受け継がれてきた、この秘術をこの世界で生かす事が出来るか分かりませんが、エスナ先生が俺を選んでくれたなら俺はそれに応えたい」

エスナ先生は、その小さな身体で俺を抱きしめた。

「過ごした時間は短いなれど、ワシの意思は十分にお主に伝わっていると信じておる」

”リバイバルを取得しました”
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