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第百十一話:魔族の刺客
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ジラ視点
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は、勇者の元へ行ったユウ様が帰るのを宿で待っていた。
勇者に会いに行くとの事だが、魔族の私的には宿敵な存在でもあるので、心境としては落ち着かない。
「早く戻ってきて下さい、ユウ様・・」
その時、私は同種の存在を近くに感じた。
同様にクロちゃんも何かを感じ取ったようで、キョロキョロと反応の主を探している。
言うまでもなく、魔族だろう。
この感じは向こうからわざと分かるようにしている。
私はドアの前まで足を運び、恐る恐るドアを開ける。
「なんで貴方がここに・・」
その正体は間違いなく魔族だった。
背中には漆黒の翼、頭の上には二本の立派な角が生えている。
「探したよ、ジラ」
私を探していたという、この相手は同じクオーツに所属していたバルトレイという者だった。
クオーツには序列という概念があり、数字=順位=実力=強さなのだ。
私の序列は、魔界にいた頃は7。
今、目の前にいるこの者は、6だった。
順位が一つ違っても力の差は歴然なのだ。
もし、私を連れ戻しに来たのならば、私は戦いを挑まなければならない。
恐らく、勝ち目はないだろう。
「私はもう魔界を出たの。今更連れ戻しに来たところで戻る気はないわ」
「勘違いしないで欲しいな。キミを探していたというより、キミと一緒にいるそちらのお嬢ちゃんを探していたという方が正しいかな」
後ろを振り向くと、クロちゃんがいた。
「どういう事なの?」
「魔王様ではなく、新たな主人を見つけたキミにはもはや関係のない事なのだが、魔王様の居場所が分かったのだ」
「な・・そ、それは本当なのバルトレイ!」
「嘘をつく理由がない。今魔族側では魔王様奪還の為の準備を進めているところだ」
「作戦決行日は?」
「キミはもはや我々の同志ではない。教えてやる義理はないが、永年共に切磋琢磨しあった間柄だから敢えて教える。20日後の夜だ」
まさか、魔王様の行方が分かるなんて・・。
私の気持ちは複雑だった。
今の私はユウ様を主として、おしたえしている。
しかし、私は魔族。
魔族の王たる魔王様の存在は絶対。
以前、魔族の象徴であるツノを失った時、私は命を断とうとさえ思っていた。
そんな時に出会ったのが、ユウ様だった。
ユウ様は人族の身でありながら、私が人族の敵である魔族であるにも関わらず、ツノを治して頂いた。
私は魔族である事に誇りを持っていた。
しかし、それは魔王様への忠誠とはまた違う。
実際魔王様には、幼い頃に一度だけお会いした事があるだけで、実際に話した事もない。
大多数の魔族は、魔王様へ忠誠を誓っているのは事実だし、復活を待ち望んでいる。私のようなタイプの方が珍しいのだろう。
私は、正直どちらでも良かった。
「何を考えているのかは知らないが、変な考えは起こさぬ事だ。魔王様復活に、そちらのお嬢さんが必要なのだ。だから渡してもらおう」
私はなぜクロちゃんが魔王様の復活に必要なのか分からなかった。
「なぜ、彼女が必要なの?」
「理由は話せんな。嫌だと言うなら力付くで連れて行くまでだが、私と勝負して勝算があるかどうか、まさか分からんわけではあるまいな?」
どうすれば・・ユウ様が戻るまで時間を稼ぐ?
ダメよ。魔族間の争いにユウ様を巻き込んでは・・私が・・私が何とかしなければ・・
こんな街中で争うわけには行かないわね。
他のみんなを巻き込むわけにもいかない。
「場所を変えましょう」
「ふん、人族の犠牲者を出さない為か?昔からそうだったな。キミは人族との争いは消極的だった」
「貴方とは真逆ね」
「いいだろう、付いて来い。勿論そちらのお嬢ちゃんもだ」
「クロちゃん、ごめんなさいね。貴女は必ず私が守るからね」
私とバルトレイ、クロちゃんの3人で港町の外、荒野へと移動した。
「邪魔が入らぬよう結界を張る。ジラこれが最終警告だ。素直に渡す気はないか?」
「私は今の主をお慕えしています。それにクロちゃんは大切な仲間です。連れ去るというならば、それが例え貴方でも・・・私は戦うわ」
バルトレイは、無言のまま四方に結界を展開していく。半径100mはあろうかという円が術師のバルトレイを中心に広がっていった。
「私は負けない」
先に動き出したのはクロだった。
結界の展開が終わったのを確認し、バルトレイ目掛けて自身のトップスピードで一瞬にして間合いを縮めた。
クロ自身、あまり現状の状況を飲み込めていなかったが、自分が目の前のコイツに連れて行かれる事と、その為にジラが戦おうとしているというこの二点を理解しての行動だった。
クロの不意をついた突進から突き出された攻撃を予想していたかのようにバルトレイは、身体を器用に捩りその攻撃を躱す。
バルトレイは、未だその両手には武器を有していない。
クロ自身も攻撃が躱されるとは思っていなかったのか、一瞬の隙が生じた。
無防備となったクロの首元に淡く光りだしたバルトレイの手刀が直撃した。
「クッ・・」
クロはその場に力無く倒れたところをバルトレイが受け止める。
「アナタは大切な存在ですからね、静かにしていてもらいますよ」
「クロちゃんを離しなさい!!」
「本当ならばこのまま連れ帰れば任務は終了なんだがな」
ジラは魔術に特化した魔族だ。近接戦闘には向かない。
一方、バルトレイは自身の拳を闘気で覆い拳闘士のようなスタイルをとっていた。
バルトレイは、クロをその場に寝かせて、ゆっくりとジラの元へと歩み寄る。
「さあ、勝敗の決まった一方的な殺戮の時間だ」
ジラは杖を構える。
クロから十分に離れた事を確認した上で、魔術を行使する。
3m級の火球が何発も何発もバルトレイに向けて撃ち放たれた。
バルトレイは、嘲笑うかのように、避けるでもなく、耐えるでもなく、自身の闘気を纏った拳で、火球を左右に殴り飛ばしていく。
本来は対象に触れる事で大爆発を起こすのだが、闘気は物質外の物に触れる事が出来る要素を持っている。
それは、形無き魔術も例外ではない。
しかし、闘気も万能ではない。
闘気自身には魔術が触れても問題はないが、触れていられるのは1/10秒もないだろう。
それを過ぎてしまうと、闘気を貫通し自身の肉体へと通り、魔術が発動してしまう。
バルトレイは、その刹那しかないタイミングを使い、魔術を受け流していた。
魔界広しと言えど、こんな芸当が出来るのはバルトレイだけであろう。
「私に魔術は効かぬぞ?」
そんなのは、最初から分かってるわ!
でも私にはこれしか出来ない。
撃ち続けていれば、いつかはミスをするかもしれない、私はその隙を突くしかなかった。
それに、近付けさせるわけにはいかなかった。
バルトレイの射程距離に入れば、万に一つの勝ち目が消えてしまうだけではなく、一瞬にして私の命も無くなるだろう。
凄まじい速度の火球の嵐と、時折に水弾で緩急を織り交ぜながら攻撃の手を緩めない。
流石のバルトレイも全てを弾き、ノーダメージとはいなかかった。
次第にダメージを蓄積させていく。
しかし、決定打とはほど遠い。
その時だった。
視界にとらえていたはずのバルトレイの姿が消えた。
慌てて周りを探すが、見当たらない。
この結界の中では転移は使えない。
自身の翼で空を飛ぶ事も出来ない。
ではいったい何処に・・。
下かっ!
ジラの足元から突然2本の腕が伸びてきてジラの両足首を掴んだ。
倒れそうになったところをグッとこらえる。
掴んだ両手から相手へと自身の闘気を流す。
闘気にはもう一つの性質があり、他人の闘気を大量に浴びてしまうと、軽く電気の痺れに似た感覚に苛まれる。
だが、バルトレイの闘気はそんなに生易しいものではない。
雷に撃たれた感覚に近いだろう。
今まさにジラは、雷の直撃を受けたような痺れを感じていた。
「グッ・・。倒れるわけには・・行かないわっ!」
ジラは必死に堪え、バルトレイの拳を強引に振りほどいた。
「はぁ・・はぁ・・」
たった1回攻撃をくらっただけでこのザマとはね・・。
幸いにもバルトレイは追撃してこなかった。
徐々に痺れていた感覚が鮮明になっていく。
バルトレイはゆっくりと地面から這い出てきた。
「少しは成長しているようだね。さっきの連撃は中々効いたよ」
口とは裏腹にバルトレイは余裕の表情を崩さなかった。
魔術の構築に入る。
私が使用できる最大の威力の魔術を使う。
即座に放てるものではなく、ある程度の準備が必要だった。
この魔術はバルトレイも知らない。
ここ最近覚えた術だった。
これが直撃すれば、私の勝ち。
失敗すれば、私の負け。
私の行動を見て、不適な笑いをしている。
そのまま此方へと走って近付いてくる。
流石に発動までご丁寧に待ってくれる訳はない。
その時だった。
バルトレイの足元が突如として爆発した。
「これは・・魔地雷か・・」
そこまでの威力はないが、足止めには十分だった。
私は飛ばされる前に魔地雷を仕掛けていた。
「下手に動かない事ね。その辺り一帯に無数に仕掛けてあるから」
もちろん嘘だった。
事前に仕掛けていたのは、今の一発だけ。
ハッタリが効く相手ではないが、少しでも技の発動に時間が稼げればと思っていた。
「ジラ。私には遠距離で攻撃する術はないと思っていないか?」
⁉︎
途端にバルトレイは、サッカーボール台の自身の闘気の弾を自らの前に作り出した。
それをジラ目掛けて飛ばした。
速い!
だけど、避けれない速度じゃない。
ユウ様達と一緒に冒険して私も強くなった自信はある。
迫り来る闘気の弾を左に躱した。
いや、躱したはずだった。
躱したはずの闘気球が私目掛けて追従してくる。
気付いた時には時すでに遅く、私は闘気球の直撃を受ける。
闘気球は私の右腹部に当たり、そして音もなく消滅した。
凄まじい激痛がジラを襲う。
直撃した箇所が無くなっていた。
まるでサッカーボール台のレーザーにでも焼かれたようにキレイに穴が空いていた。
私は再び倒れそうになるのを堪える。
確かに致命傷だが、まだ倒れるわけにはいかないと、必死に踏みとどまる。
まだよ・・
ちょうど、こちらも術の構築が終わったのだから。
意識が飛びそう・・。
ゆっくりと杖をバルトレイに向けて構える。
「それがキミの最後の攻撃か。いいだろう。放ってみるがいい!撃ち返してやろう」
撃たせてくれるなんて有難いわね。
どうやら放出系の魔術と勘違いしているようだけど、残念だけど、この魔術は貴方には返せないわ・・。
魔術を発動する瞬間、ジラはクロを見ていた。
ごめんねクロちゃん。巻き込んでしまって・・
ユウ様達と過ごしたこの数ヶ月という時間。それは、今までの私の暮らしでは到底味わう事の出来なかった充実感や達成感、何より心の底から信頼出来る仲間を持ったという事に対する喜び。
感謝しています・・。
・・・・・・・・。
こんな私を仲間として迎え入れてくれて・・。
私の頭の中は、様々な嗜好とユウ様達と一緒に旅をした時の思い出が走馬燈のように巡っていた。
終わりよ・・
私とバルトレイとの距離は20mほどだった。
魔術を発動し、私達の足元に巨大な魔法陣が構築された。
「なんだ、特大転移の術式に似ているな。このまま互いに場所を変えるつもりか?無駄だ。私の結界内ではあらゆる転移は無効だ。キミも知ってるだろう」
バルトレイが何かを呟いていたが、ジラにはほとんど聞こえていなかった。
既に肉体は限界をむかえ、立っているのさえ奇跡だった。
術が発動した事を確認すると、ジラはその場に倒れる。
「生命反応が消えたか。ふんっ、死んだか」
バルトレイは魔法陣の中をジラの元へと歩み寄る。
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私は、勇者の元へ行ったユウ様が帰るのを宿で待っていた。
勇者に会いに行くとの事だが、魔族の私的には宿敵な存在でもあるので、心境としては落ち着かない。
「早く戻ってきて下さい、ユウ様・・」
その時、私は同種の存在を近くに感じた。
同様にクロちゃんも何かを感じ取ったようで、キョロキョロと反応の主を探している。
言うまでもなく、魔族だろう。
この感じは向こうからわざと分かるようにしている。
私はドアの前まで足を運び、恐る恐るドアを開ける。
「なんで貴方がここに・・」
その正体は間違いなく魔族だった。
背中には漆黒の翼、頭の上には二本の立派な角が生えている。
「探したよ、ジラ」
私を探していたという、この相手は同じクオーツに所属していたバルトレイという者だった。
クオーツには序列という概念があり、数字=順位=実力=強さなのだ。
私の序列は、魔界にいた頃は7。
今、目の前にいるこの者は、6だった。
順位が一つ違っても力の差は歴然なのだ。
もし、私を連れ戻しに来たのならば、私は戦いを挑まなければならない。
恐らく、勝ち目はないだろう。
「私はもう魔界を出たの。今更連れ戻しに来たところで戻る気はないわ」
「勘違いしないで欲しいな。キミを探していたというより、キミと一緒にいるそちらのお嬢ちゃんを探していたという方が正しいかな」
後ろを振り向くと、クロちゃんがいた。
「どういう事なの?」
「魔王様ではなく、新たな主人を見つけたキミにはもはや関係のない事なのだが、魔王様の居場所が分かったのだ」
「な・・そ、それは本当なのバルトレイ!」
「嘘をつく理由がない。今魔族側では魔王様奪還の為の準備を進めているところだ」
「作戦決行日は?」
「キミはもはや我々の同志ではない。教えてやる義理はないが、永年共に切磋琢磨しあった間柄だから敢えて教える。20日後の夜だ」
まさか、魔王様の行方が分かるなんて・・。
私の気持ちは複雑だった。
今の私はユウ様を主として、おしたえしている。
しかし、私は魔族。
魔族の王たる魔王様の存在は絶対。
以前、魔族の象徴であるツノを失った時、私は命を断とうとさえ思っていた。
そんな時に出会ったのが、ユウ様だった。
ユウ様は人族の身でありながら、私が人族の敵である魔族であるにも関わらず、ツノを治して頂いた。
私は魔族である事に誇りを持っていた。
しかし、それは魔王様への忠誠とはまた違う。
実際魔王様には、幼い頃に一度だけお会いした事があるだけで、実際に話した事もない。
大多数の魔族は、魔王様へ忠誠を誓っているのは事実だし、復活を待ち望んでいる。私のようなタイプの方が珍しいのだろう。
私は、正直どちらでも良かった。
「何を考えているのかは知らないが、変な考えは起こさぬ事だ。魔王様復活に、そちらのお嬢さんが必要なのだ。だから渡してもらおう」
私はなぜクロちゃんが魔王様の復活に必要なのか分からなかった。
「なぜ、彼女が必要なの?」
「理由は話せんな。嫌だと言うなら力付くで連れて行くまでだが、私と勝負して勝算があるかどうか、まさか分からんわけではあるまいな?」
どうすれば・・ユウ様が戻るまで時間を稼ぐ?
ダメよ。魔族間の争いにユウ様を巻き込んでは・・私が・・私が何とかしなければ・・
こんな街中で争うわけには行かないわね。
他のみんなを巻き込むわけにもいかない。
「場所を変えましょう」
「ふん、人族の犠牲者を出さない為か?昔からそうだったな。キミは人族との争いは消極的だった」
「貴方とは真逆ね」
「いいだろう、付いて来い。勿論そちらのお嬢ちゃんもだ」
「クロちゃん、ごめんなさいね。貴女は必ず私が守るからね」
私とバルトレイ、クロちゃんの3人で港町の外、荒野へと移動した。
「邪魔が入らぬよう結界を張る。ジラこれが最終警告だ。素直に渡す気はないか?」
「私は今の主をお慕えしています。それにクロちゃんは大切な仲間です。連れ去るというならば、それが例え貴方でも・・・私は戦うわ」
バルトレイは、無言のまま四方に結界を展開していく。半径100mはあろうかという円が術師のバルトレイを中心に広がっていった。
「私は負けない」
先に動き出したのはクロだった。
結界の展開が終わったのを確認し、バルトレイ目掛けて自身のトップスピードで一瞬にして間合いを縮めた。
クロ自身、あまり現状の状況を飲み込めていなかったが、自分が目の前のコイツに連れて行かれる事と、その為にジラが戦おうとしているというこの二点を理解しての行動だった。
クロの不意をついた突進から突き出された攻撃を予想していたかのようにバルトレイは、身体を器用に捩りその攻撃を躱す。
バルトレイは、未だその両手には武器を有していない。
クロ自身も攻撃が躱されるとは思っていなかったのか、一瞬の隙が生じた。
無防備となったクロの首元に淡く光りだしたバルトレイの手刀が直撃した。
「クッ・・」
クロはその場に力無く倒れたところをバルトレイが受け止める。
「アナタは大切な存在ですからね、静かにしていてもらいますよ」
「クロちゃんを離しなさい!!」
「本当ならばこのまま連れ帰れば任務は終了なんだがな」
ジラは魔術に特化した魔族だ。近接戦闘には向かない。
一方、バルトレイは自身の拳を闘気で覆い拳闘士のようなスタイルをとっていた。
バルトレイは、クロをその場に寝かせて、ゆっくりとジラの元へと歩み寄る。
「さあ、勝敗の決まった一方的な殺戮の時間だ」
ジラは杖を構える。
クロから十分に離れた事を確認した上で、魔術を行使する。
3m級の火球が何発も何発もバルトレイに向けて撃ち放たれた。
バルトレイは、嘲笑うかのように、避けるでもなく、耐えるでもなく、自身の闘気を纏った拳で、火球を左右に殴り飛ばしていく。
本来は対象に触れる事で大爆発を起こすのだが、闘気は物質外の物に触れる事が出来る要素を持っている。
それは、形無き魔術も例外ではない。
しかし、闘気も万能ではない。
闘気自身には魔術が触れても問題はないが、触れていられるのは1/10秒もないだろう。
それを過ぎてしまうと、闘気を貫通し自身の肉体へと通り、魔術が発動してしまう。
バルトレイは、その刹那しかないタイミングを使い、魔術を受け流していた。
魔界広しと言えど、こんな芸当が出来るのはバルトレイだけであろう。
「私に魔術は効かぬぞ?」
そんなのは、最初から分かってるわ!
でも私にはこれしか出来ない。
撃ち続けていれば、いつかはミスをするかもしれない、私はその隙を突くしかなかった。
それに、近付けさせるわけにはいかなかった。
バルトレイの射程距離に入れば、万に一つの勝ち目が消えてしまうだけではなく、一瞬にして私の命も無くなるだろう。
凄まじい速度の火球の嵐と、時折に水弾で緩急を織り交ぜながら攻撃の手を緩めない。
流石のバルトレイも全てを弾き、ノーダメージとはいなかかった。
次第にダメージを蓄積させていく。
しかし、決定打とはほど遠い。
その時だった。
視界にとらえていたはずのバルトレイの姿が消えた。
慌てて周りを探すが、見当たらない。
この結界の中では転移は使えない。
自身の翼で空を飛ぶ事も出来ない。
ではいったい何処に・・。
下かっ!
ジラの足元から突然2本の腕が伸びてきてジラの両足首を掴んだ。
倒れそうになったところをグッとこらえる。
掴んだ両手から相手へと自身の闘気を流す。
闘気にはもう一つの性質があり、他人の闘気を大量に浴びてしまうと、軽く電気の痺れに似た感覚に苛まれる。
だが、バルトレイの闘気はそんなに生易しいものではない。
雷に撃たれた感覚に近いだろう。
今まさにジラは、雷の直撃を受けたような痺れを感じていた。
「グッ・・。倒れるわけには・・行かないわっ!」
ジラは必死に堪え、バルトレイの拳を強引に振りほどいた。
「はぁ・・はぁ・・」
たった1回攻撃をくらっただけでこのザマとはね・・。
幸いにもバルトレイは追撃してこなかった。
徐々に痺れていた感覚が鮮明になっていく。
バルトレイはゆっくりと地面から這い出てきた。
「少しは成長しているようだね。さっきの連撃は中々効いたよ」
口とは裏腹にバルトレイは余裕の表情を崩さなかった。
魔術の構築に入る。
私が使用できる最大の威力の魔術を使う。
即座に放てるものではなく、ある程度の準備が必要だった。
この魔術はバルトレイも知らない。
ここ最近覚えた術だった。
これが直撃すれば、私の勝ち。
失敗すれば、私の負け。
私の行動を見て、不適な笑いをしている。
そのまま此方へと走って近付いてくる。
流石に発動までご丁寧に待ってくれる訳はない。
その時だった。
バルトレイの足元が突如として爆発した。
「これは・・魔地雷か・・」
そこまでの威力はないが、足止めには十分だった。
私は飛ばされる前に魔地雷を仕掛けていた。
「下手に動かない事ね。その辺り一帯に無数に仕掛けてあるから」
もちろん嘘だった。
事前に仕掛けていたのは、今の一発だけ。
ハッタリが効く相手ではないが、少しでも技の発動に時間が稼げればと思っていた。
「ジラ。私には遠距離で攻撃する術はないと思っていないか?」
⁉︎
途端にバルトレイは、サッカーボール台の自身の闘気の弾を自らの前に作り出した。
それをジラ目掛けて飛ばした。
速い!
だけど、避けれない速度じゃない。
ユウ様達と一緒に冒険して私も強くなった自信はある。
迫り来る闘気の弾を左に躱した。
いや、躱したはずだった。
躱したはずの闘気球が私目掛けて追従してくる。
気付いた時には時すでに遅く、私は闘気球の直撃を受ける。
闘気球は私の右腹部に当たり、そして音もなく消滅した。
凄まじい激痛がジラを襲う。
直撃した箇所が無くなっていた。
まるでサッカーボール台のレーザーにでも焼かれたようにキレイに穴が空いていた。
私は再び倒れそうになるのを堪える。
確かに致命傷だが、まだ倒れるわけにはいかないと、必死に踏みとどまる。
まだよ・・
ちょうど、こちらも術の構築が終わったのだから。
意識が飛びそう・・。
ゆっくりと杖をバルトレイに向けて構える。
「それがキミの最後の攻撃か。いいだろう。放ってみるがいい!撃ち返してやろう」
撃たせてくれるなんて有難いわね。
どうやら放出系の魔術と勘違いしているようだけど、残念だけど、この魔術は貴方には返せないわ・・。
魔術を発動する瞬間、ジラはクロを見ていた。
ごめんねクロちゃん。巻き込んでしまって・・
ユウ様達と過ごしたこの数ヶ月という時間。それは、今までの私の暮らしでは到底味わう事の出来なかった充実感や達成感、何より心の底から信頼出来る仲間を持ったという事に対する喜び。
感謝しています・・。
・・・・・・・・。
こんな私を仲間として迎え入れてくれて・・。
私の頭の中は、様々な嗜好とユウ様達と一緒に旅をした時の思い出が走馬燈のように巡っていた。
終わりよ・・
私とバルトレイとの距離は20mほどだった。
魔術を発動し、私達の足元に巨大な魔法陣が構築された。
「なんだ、特大転移の術式に似ているな。このまま互いに場所を変えるつもりか?無駄だ。私の結界内ではあらゆる転移は無効だ。キミも知ってるだろう」
バルトレイが何かを呟いていたが、ジラにはほとんど聞こえていなかった。
既に肉体は限界をむかえ、立っているのさえ奇跡だった。
術が発動した事を確認すると、ジラはその場に倒れる。
「生命反応が消えたか。ふんっ、死んだか」
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−−−−−−
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余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
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namisan
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バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
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