幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
129 / 242

第百三十話: 魔王の復活

しおりを挟む
今俺たちは、魔王の封印されている場所に来ている。

目の前には3m程の黒い球体が宙に浮いていた。

その周りには結界の役割と思われる何かの文字で書かれた紐が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。


今この場には、人族側では
俺、聖女様、フィリス皇帝陛下を入れた軍騎会の人が3名と勇者のレインの計6人。

魔族側は、
ジラ、元老院のスザク様、ゲンブ様、セイリュウ様、フランさん、アルザス様の計6人。

これからまさに魔王の封印解除の儀式が始まろうとしていた。

重苦しい空気が現場を立ち込める。

当初は、何かあった時の備えで、選りすぐった100名程度の人員を配備する予定だったらしいが、魔族側から立ち会いは最小限にしたいとの申し出があった。
魔族も同数を用意した場合、制御出来るか分からないからという事。

血の気が多いって事だろうか?

ともあれ、封印場所から半径10k圏内には両種族6名ずつの計12名しかいない。

一部例外もあるけど。

「私は人族の代表のフィリスだ。最後の確認をさせて頂く」

フィリス皇帝陛下は少しだけ間を置き、魔族側の出席者の方へと顔を向ける。

「これより魔王を解放する。すぐにそのまま魔王を連れ魔界に帰ると約束して欲しい」

少し上から目線すぎる気もするな。
冗談じゃないから魔族達を決して怒らせてはいけない。絶対に・・

俺には魔族達のレベルが、強さがハッキリと見えている。
仮に戦闘となった場合は、到底勝ち目はないだろう。
それくらいにハッキリとした力の差を痛感している。

現人族最強と謳われている勇者レイン。
だがそのレベルもジラと同程度だった。
確かに今まで出会って来た勇者の中では断トツだけど。
しかし、俺や先生には遠く及ばない。
実際に戦ったわけではないあくまでレベルで見たらなんだけどね。
必ずしもレベル=強さではないけど。

「我々は全て魔王様の意思に順ずる」

元老院のスザク様が魔族側の代表で応えた。
全ては魔王頼みか・・大丈夫だよね・・魔王様・・


「「これより、魔王に掛けられている封印を解きます」」

そう言って現れたのは二人のまだ年端の行かぬ少女達だった。
驚いたのは、二人の容姿が全く同じである事。
双子?なのだろうか。
どうやら彼女達が魔王に対して封印を施しているようだ。

後で聞いた話だけど、彼女達は人ではなく、なんと人形だという。
一体どんな原理なのか鑑定(アナライズ)してみたいのだが、儀式が始まってからのスキル、魔術の行使は固く禁じられていた。

互いに緊張が走る。

二人の少女が何やら呪文を唱えている。

すると、次第に呪文に呼応したかのように蜘蛛の巣のように張り巡らされていた紐がどんどんと消失していく。
しかし、そのスピードは遅く、30分程度経過した今もまだ全行程の1/5程度だった。

絶対に解かれたらマズい封印だからこそ時間が必要なのは仕方ないんだけどさ、なんでそれをただ立って見守り続けなくちゃいけないんだ?
他の者は微動だにせず、ただ封印を解かれる様を見ている。
魔族達も同様だった。

それから待つ事2時間余り・・。

「「最後の呪文です」」

やっと終わるようだ。

長時間ただ何もせずに突っ立っていただけだったのでいつのまにやら緊張感は何処かへ行ってしまった。

⁉︎

場の空気が一瞬の内に変わる。

「「危険!力の暴走を確認!内部から強引に封印を解除しているものと推測!危険!退避します!」」

凄まじい程の威圧が、この場の全てを包み込む。
人族側は、皆何が起こったのか慌てているが、魔族側の反応は真逆だった。
寧ろこの状況を理解しているかのように落ち着いている。

この感じ、俺には覚えがある。
この凄まじい程の威圧・・以前感じたことがあった。

そう、魔王と意思の世界で会談した時に感じたものと酷似している。

ピキリという音が鳴った次の瞬間、黒い球体にヒビが入った。
そのヒビはどんどん大きくなり、やがて球体が豪快にタマゴの殻を割るように破片を撒き散らし、砕け散った。

見ると、魔族達が全員膝をつき服従のポーズを取っている。

球体の中から出てきたのは、当たり前だが、以前意思の世界であった、魔王の姿そのままだった。

魔王は、堕とし子を通して全てを把握しているはず。
だから、敢えて説明する必要もないと思っている。

ちなみにこの事実は結局誰にも話してはいない。
話すなとは言われていないが、話さない方がいいと思ったからだ。

「魔王様、お帰りなさいませ」

先に声を掛けたのはフランさんだった。

魔王は妖艶な笑みを見せる。
そして、ゆっくりと俺達の方へと歩み寄る。

「やはり、真の世界の方が良いものじゃな」

魔王は魔族のいる方に行くものかと思いきや、何故だか真っ直ぐに人族側へと歩み寄る。

これには、流石に人族達も警戒する。
この場に武器の持ち込みは禁止されているので、ただ拳を握るしかないのだが。

そして、魔王は俺の前で止まった。

「お前には感謝しているぞ」

俺は魔王を少し見上げる形になっていた。魔王の方が俺よりも身長が若干高い。

どう応えたらいいものかと思案していると、
次の瞬間、とんでもない行動を魔王がとった。
少し屈んだかと思いきや自身の唇を俺の唇に被せてきた。

なっ・・
え?
何で?

何故だか魔王にキスされてしまった。
無防備だった俺の唇を魔王に奪われてしまった。
いや、無防備じゃなかったとしても、魔王に抗う術はなかっただろう。
あまりにも突然の出来事に混乱し抵抗することが出来なかった。
いや、どうせ抵抗したって、ねじ伏せられていたに違いないんだけど。

「妾からの褒美じゃ。感謝するがよいぞ」

えっと、イキナリ何すんだよ!と言い返したいが、そんなことを言えば、魔王ではなく、魔族達に首を刎ねられてしまいそうなので、ここは我慢しておく。

結局何も言い返すことが出来なかった。
隣の聖女様が口をぽかーんとあけて時間が止まっている。

魔王は、魔族達の元へと戻る。
何か会話しているようだが、頭にその内容が入ってこない。

俺、動揺してるな・・
キスされたのは、これで2回目だった。
1回目はエルフの里でエレナに。
あの時も突然だったので、ハッキリと記憶に残っていた。
なっさけないな、俺。
キスくらいで・・
ていうか、男なら自分から行けよ。と心の中で戒めてみる。
せめて、堂々としていよう。
平常心平常心。

隣の聖女様に至っては、きっと俺以上にウブに違いない。
だって、まだ時間止まってるし、顔赤いし。

フィリス皇帝陛下が、場に漂っていた変な空気を戻そうと口を開く。

「さて、こちらは約束を果たした。魔王よ、今一度尋ねたい。我ら人族と停戦協定を結ぶ事で相違ないか?」

依然として魔王は、妖艶な笑みを浮かべていた。

「ハハハッー。我ら魔族が人族と停戦協定だと?あり得ぬわ!妾は、人族全てを滅ぼすまで戦い続ける!今、この場にいる者も皆殺しじゃ!!」


想定外の魔王の言葉に誰もが驚いた。
いや、騙されていた。

俺以外は・・。

魔王って、そういえばこんな性格だったよな、確か。

これには流石に勇者が俺達の前に出て、戦う態勢を取った。

「悪い悪い。冗談じゃ。許せ。約束じゃからな。停戦協定に合意しようぞ」

はぁ、、心臓に悪いにも程があるんだけど。


その後、停戦協定を結ぶ為の儀が執り行われた。
魔術による契約書の調印だ。
言葉だけでは何の強制力もない。嘘だと言ってしまえばそれまで。
しかし、この魔術での契約書は、双方が合意の元解除しない限り、破棄されることはない。破壊も不可能だ。
どちらかが約束を違えれば、調印した者が相応の報いを受けるらしい。
命までは奪われないらしいけど・・

「これで停戦協定の条約は終了じゃな」
「そうだな。互いが血を流す事がないよう、これからは関係を築いていきたい」

魔王とフィリス皇帝陛下は手を握り合った。

つつがなく進行し停戦協定が終わりを迎えようとしたその時だった。

おれの範囲探知(エリアサーチ)に無数の反応があった。

「本当に魔王がいやがるぜ!」
「あれが、僕達の最大の敵か・・」


予想はしていた。
何か決め事をする時、必ずしも反発する者は現れる。
それは世のさがだ。

俺達は両側の丘に挟まれた窪地にいる。
その左側に現れたのは、勇者率いる人族の群勢その数100余人。

「魔王様万歳!」
「人族は皆殺しだ。人族を討ち亡ぼすのに魔王様も咎めはしないだろうぜ!」

対する、右側の崖の上には、魔族の群勢その数100余人。
まるで打ち合わせでもしたようにほぼ同じタイミングで現れたの両者は、もちろん敵同士だ。

「お前達、何しにここへ来た?関係者以外の立入は禁止していたはずだが?」

答えなど聞かなくても既に分かっているだろう。

「フィリス皇帝陛下は、ご乱心なされている。魔族と停戦など、ありえる事ではない!」

人族部隊を率いていたのは、見覚えがある。
軍騎会の議会に乗り込んだ時にいた勇者だった。
名前は忘れたな。

「我々が魔王諸共魔族を根絶やしにする!」

対する魔族陣営は、

「なんだ貴様らは!人族とはたった今停戦協定を結んだ所だ。すぐに魔界へ帰れ!」

元老院の1人が声を荒げる。

「ゲンブ様!きっと、魔王様の策略に違えねえですぜ。人族と停戦なんてありえねえ」
「馬鹿者がぁぁ!!魔王様のお考えをなんと心得るか!!」

凄まじい怒号に全員の視線が集まる。

「ゲンブよ、良い。同族の失態は魔王である妾が直接手を下そうぞ」

一人の女性が魔王の前に膝をおり忠誠のポーズをとる。

「恐れながらあの者達の処罰を私めにお任せして頂けないでしょうか?」
「フランか」
「はい」
「良いぞ。ならばお前に任せるとしよう」
「感謝致します」

さすがフランさんだな。
たぶんだけど、魔王はあいつらを全員殺すつもりだっただろう。
しかし、フランさんなら全員を一瞬のうちに無力化する事が出来る。

あっちは、大丈夫だな。
さて、問題はこっちだ。

俺にも相手を眠らせる術は持っているんだけど、範囲が狭いうえに、効果が現れるまで少しだけ時間が掛かる。
それに、全員かなりの強者だよな・・勇者とか何人か混じってるし。

てっとり早いのは、俺が本気を出し、強引に再起不能にすることなんだけど、それだとあまりにも目立ってしまう。
これだけの面々の前で実力を知られるのは後々の事を考えるとマズい。

フランさんに頼むか?
いや、それだと何か人族側情けない。
俺が一人でブツブツと唸っていると一人の人物が人族の反乱勢力に向かってゆっくりと歩いていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

処理中です...