幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

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第百四十話:転生者

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「ユイ!翼に注意しろ!躱して付け根を狙え!」
「シュリ!踏みつぶされるなよ!掻い潜って真下から突き刺してやれ!」

俺達は竜相手に死闘を繰り広げていた。
既に小一時間が経過している。

最初に挑んだ傭兵達は、ほぼ壊滅状態。
周りにも傭兵の無残な姿が散乱していた。

自ら進んで挑んだ末路だ。
悪いけど助ける義理はない。

こちらも余裕があるわけではない。
油断していると同じ末路を辿る。

竜の正面に俺が立ち、注意をこちらに向けさせている。
竜は、強力なブレスを放ってくるが、俺の障壁は貫けないようだ。
連続で放たれるブレスの合間を狙い、障壁を解除して風撃ウィンドカッターでヒット&アウェイを繰り返す。

ユイの新しく覚えた腐食スキルが徐々に竜の翼をボロボロにしていく。
もうすでに飛び上がれないようだ。
シュリも硬い竜の皮膚すら貫通できるスキル一閃を用いて、真下の比較的防御の薄い部分を狙って突き刺し、ダメージを蓄積させていく。

このまま押し切れるかと思っていた矢先、今まで静観し、何もしていなかった竜の背に乗っていた鎧騎士が両手を虚空に向かって挙げた。

何をしているのか疑問には思ったが、構わず攻撃を繰り出していると、突如として天から雷鳴が鳴り響き、数多の雷が降り注いだ。

何十と言う雷の嵐が、竜の周り一帯を襲う。

俺も全範囲雷撃ライトニングレインを使うが、手数こそは俺の方が優っているが、一発一発の破壊力は、あちらさんの方が恐らく上だろう。
これ当たったら相当ヤバい。

上空が一瞬光るのでそれを見上げていれば避けるのは容易いが、それだと竜に対して決定的な隙を与えてしまう。
竜の注意が俺以外にいかないように、雷を避けながらも風撃ウィンドカッターを連射する。

「あっ・・」

雷による轟音が鳴り響く中、微かに発せられた声が耳に届く。
誰の声かは定かではないが、何故だかユイの視線は俺の後方を見ていた。

背後を振り向くと、そこには雷に撃たれたアリスの姿があった。
中空を飛んでいたアリスが、まさにちょうど地面へと落下する瞬間だった。

なっ・・・考えるよりも先に足が動いた。
すぐにアリスの元に駆け寄り、障壁を展開する。

アリスは力なく横たわっている。
雷に撃たれた部分が黒く焼け焦げていた。
元々人型機械のアリスには、雷は弱点でもある。
今までも敵の攻撃により、損傷を受けた事はあったが、今回のように動かなくなる事は初めてだった。
アリスには、自己修復機能があり、俺の魔力を吸収して即座に回復する。
しかし、今回はアリスに魔力を送っても目を覚ます気配がなかった。

「アリス、悪いけどここで少し待っててくれ」

障壁を張ったままだと俺自身も動けない為、安全な位置までアリスを移動する。
そしてすぐに戦闘に戻る。
竜自体は、既にボロボロの状態だったが、お飾りだと思っていたあの鎧騎士が本格的に戦闘に参戦してきたのだ。

「待ってくれ!アンタと話がしたい」

ダメもとでコンタクトを試みる。
俺の呼びかけに鎧騎士は、何故だか慌てふためいている。

改めて鑑定アナライズで確認するが、

''鑑定アナライズが阻害されました''

やはり、ダメか。
最近阻害だとか不発することが多い。
たまたま立て続けにそういう相手と対峙しているだけだとは思うが。

「俺の名前はユウ。アンタは?」

先程までは、剣を振り上げて威嚇をしていたが、今は下に降ろしている。
話し合いの余地があるという事だろうか。

しかし、いつまでたっても相手からの返事はない。
もしかして、喋れないとか?
もしくはそんな気がないのか。

その時だった。
突如何者かが、竜と鎧騎士相手に襲い掛かる。

傭兵達だった。

生き残りの傭兵達が、ほぼ身動きの取れない竜に向かい、剣と槍を突き出している。
普通ならばこんな攻撃、全くダメージなど通らないのだろうが、今の竜は違う。

弱り切った所への集中攻撃に竜はその大きな巨体を大地へと投げ出し、地響きを立てた。

後に残った自身の身体で鎧騎士を守るかのように鎧騎士に覆いかぶさっている。

傭兵達からしてみれば、多数の同胞を殺された相手でもあるので元より躊躇などないだろう。

「しかし、悪いけどその鎧騎士には話したいことがあるんで今は手出しさせないよ」

この場に居た者を催眠により全員眠らせる。

眠らせたつもりだった。

その中で動く影が一つある。

「お前、もしかしてルーと同じ転生者か?」
「誰だ!」

俺に話しかけたのは、人ではない。
確かに動く影がある。
しかし、それは影でしかない。
影が俺に話しかけたのだ。

(ユウさん、それは私やノアと同じ精霊です)
(セリアの知り合い?)
(いえ、私は会った事はありません。同じ気配を感じるってことです)
(影の精霊クロウよ。私も会ったことはないけど、聞いたことはあるかな)

なるほど。

「精霊クロウ。姿を見せてくれないか」
「!?・・・こいつは驚いた。私の正体を知ってる者は同族以外にはいない。お前もルー同様に精霊を宿しているのか!」

俺の中からセリアが出てきた。
精霊本来のサイズなので、小さい。
もはやお約束になっている指定席の右肩にちょこんと座る。

「初めまして影の精霊クロウさん。風の精霊セリアよ」

すると、セリアに応えるように影の中から精霊が現れた。
サイズはセリアと同じくらいで肩に乗るサイズだった。
影というだけあり、その全貌は全身黒一色だった。
後ろには羽根が生えていて、羽ばたき宙を舞っていた。

「初めまして、風の精霊セリア殿。まさか精霊王の娘さんとは、驚きましたね」

すると今度は人型サイズのノアが現れた。

「初めまして、地の精霊のノアよ」
「まさか精霊を二人も宿しているとはな。お前は何者だ?」
「普通の冒険者だよ」
「冒険者が精霊を宿主になんて出来る訳がない」
「私は窮地を救ってくれたユウに惚れ込んだだけ」
「私はユウさんの生き方に興味が湧いたので宿主をして頂いています」

何だかむず痒いが、今は自己紹介をしている場合ではなかった。

「ユイ、シュリ、二人で騎士さんを救出してあげてくれ」

竜に覆いかぶされて、姿が見えない状態だった。
さっきからウーウーと不気味な唸り声だけが聞こえていた。

俺は少しだけ離れる。と断りを入れて、アリスの元へと向かう。

アリスは、目を開けていた。
しかし、まだ動けないのか、寝転んだままだった。

「申し訳ございませんマスター」
「アリス、良かった!目が覚めたのか!身体は大丈夫なのか?」
「予期せぬ大ダメージを負ってしまい、強制的に治癒モードに移行していました。損傷自体はだいぶ回復しましたが、まだ体を動かすことは出来ないようです」

アリスが動かなくなった時は少し冷やっとしたが、大丈夫そうで良かった。

「マ、マスター降ろしてください!」

アリスがあたふたと慌てていた。
俺はアリスをお姫様抱っこの形で抱えあげていたからなんだけど。アリスが恥ずかしがっているのは何だか新鮮だった。

「アリスも恥ずかしさとかはあるの?」
「そんな感情は持ち合わしてはいません。ただ、マスターに抱え上げてもらうなど、マスターに仕える身としては、問題があります」
「何の問題もないからそのままでいいぞ。いつも頑張ってくれているアリスに俺自身も何かしてやりたいだけだ」
「マスターからはいつも新鮮で豊富な魔力を頂いています」
「いやまあ、そうなんだけど、魔力はあんまし与えているという実感がないんだよね。ま、あれだ。俺の気が晴れるから、このままでいさせてくれ」
「了解マスター」

アリスを抱えたまま、皆の所へ戻る。

ちょうど鎧騎士が救出されたところだった。

「はぁ・・はぁ・・た、助かりましたぁ・・」

ん?

聞き間違いだろうか?ごつい鎧騎士から間の抜けた人を小馬鹿にしたような可愛らしい声が聞こえてきた気がしたんだけど。
まさかね。

「ルー危ないところを助けて貰ったんだからちゃんとお礼するんだ」

影の精霊クロウに促された鎧騎士は、その重たそうなヘルムを取った。

現れたのは、黒髪碧眼の美少女だった。
どうみてもゴツいおじさんだと思っていたので、あまりの違いに少し笑いそうになってしまった。

彼女は深々とお辞儀をしている。
しかし、よろめきだってフラフラしている。
見ているこっちが怖い。

「えとぉ、危ないところを・・見逃して頂き?あれ・・救って頂き?えとぉ、どうもありがとうございました!」

お辞儀した頭にシュリが手を乗せている。
シュリ、それは失礼じゃないかな・・。

「なでなで」

確かに俺がいつも二人にしていることだけど、初対面の見ず知らずの人にそれはちょっと・・
あれ?よく見るとされた方は何だか喜んでいるように見える。

嫌そうにしていないなら黙認するか・・。

しかし、妙だ。
こんなヒョロヒョロな少女が、あの荒れ狂う竜の背に乗り、あの雷を使ったとは到底思えない。
それに影の精霊クロウが最初に言っていた''お前も転生者か?''という言葉が非常に気になる。

この世界に来て初めて転生者という言葉を聞いた。
この転生者の言葉の意味が俺の思っている通りの意味だとすれば、彼女は・・別の世界から来たことになるのだろうか。
厳密に言えば、俺の場合は転生とは少し違う。
だって、死んでこの世界に来た訳ではないのだから。

「場所を変えませんか?ここでは少し目立ってしまう。それにじきに傭兵たちも目を覚まします。後、勘違いしているみたいですけど、話を聞くまでは、このまま見逃すかの結論は出せませんので」
「そうだな。取り敢えず移動しよう」

その場を離れようとする俺達に、彼女は竜に向かい手を合わせ祈りを捧げていた。

「今までありがとう。楽しかったよ、それと・・・ごめんね・・」
微かな小声で喋っていたが、俺の聞き耳スキルは仕事をしていた。
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