幻想世界の統合者

砂鳥 ケイ

文字の大きさ
156 / 242

第百五十七:シュリの両親の物語【前編】

しおりを挟む
「幸せな家庭にしましょうね・・」
「ああ、キミが望むなら」

愛を誓い合っている2人の人物は、男性の方は竜人族の姿をしている。
名前は、ギリアム。
しかし、女性の方は竜人族ではなく、人族の姿をしていた。
名前は、マニラ。

本来、竜人族と人族が一緒になる事はない。
しかし、なってはいけないという決まりもない。

人族と獣人族は共通言語を話す為、一緒になるという事は、実はよくある話だった。
しかし、竜人族は獣人族と違い、共通言語を話す事が出来ない。従って、一緒になる敷居は、獣人族よりも遥かに高い。

ギリアムは、竜人族の身でありながら、人族であるマニラを愛していた。


2人の出会いは、半年程前に突然訪れた。

竜人族たちは、本来ひとところに留まることはしない。移動性の種族と言われている。
長期滞在しても精々1ヶ月程度だろう。

非常に好戦的で知られる彼等だが、実の所、性格は温厚な者が多い。
同族たちと相対すれば、どちらかが降伏するまで戦いが行われる。
それは、竜人族固有の掟のようなもので、単に戦闘好きという訳ではない。

そんな中、ギリアム達がガザスト平野を移動中の出来事だった。

「少し休憩にするぞ」

部族のリーダーをしているナイツが全員に目配せする。
既に半日以上歩き通しで、皆が疲弊していると悟ったからだった。

「どうしたギリアム?」

ギリアムは、何かの気配を察知したのか、辺りをキョロキョロとし、気配を伺っていた。

「気のせいだとは思うが、少し辺りを偵察してくるよ」
「ああ、いつも悪いな」

ギリアムは、部族の中でもリーダーに次ぐ実力者でもあり、人一倍責任感が強く、また、分け隔てなく優しく接しているギリアムを、誰もが認めていた。

皆から離れ、まるで何かに導かれるようにギリアムは、突き進む。
身の丈程はある雑草を掻き分けながら更に奥へと進んで行くと、誰かの悲鳴が聞こえてきた。
しかし、ギリアムには何と叫んでいるのか聴き取ることが出来ず、ただその声が聞こえた方へと足早に足を進める。

そして、すぐに悲鳴の正体と原因が明らかとなった。

人族の女性がオークに襲われていたのだ。

所々、怪我をしているのか、衣服に血が滲んでいる。
確か、この辺りには人族の住処は無かったはずだと考えながらも、目の前で今にも棍棒で殴られそうになっている人族を、例え同族ではなくとも、また見ず知らずの人物だとしても無視してこの場を去る事など、ギリアムには出来なかった。

すぐに人族とオークとの間に割って入る。
オークの背丈は、ギリアムよりも大きく、その顔は豚のようで、物凄い醜悪な表情でギリアムを睨んでいた。
しかし、眼光の鋭さならば、竜人族のギリアムも負けてはいない。睨み返して、応戦する。

オークが何やら叫んでいるが、当然ギリアムには、その言葉は理解出来ない。
また、背後の人族の女性も何やら喋っているが、当然こちらも理解する事は出来ない。

しかし、ギリアムは唯一人族の言葉で知っている単語があった。

「・・・マ、モル」

通じたかどうかはギリアムには分からない。知ってると言っても、人伝ひとづてで聞いただけなので、自信は無かった。

ギリアムは、人族の女性を背にしているので、その表示を垣間見る事は出来なかったが・・

彼女は確かに頷き、そして、返事を返したのだ。

「ありがとう・・」

勿論、言葉の分からない、この時のギリアムには知る由もなかった。

苦戦を強いられつつも、ギリアムは見事にオークを倒す事に成功した。
しかし、その際に怪我を負ってしまった。

目の前の人族の女性は、涙を流して頭を下げていた。
その光景を振り返ったギリアムは目の当たりにする。
言葉が通じずとも何を伝えたいのかは、分かる。
感謝しているのだと、何処かホッとしたような気持ちになったギリアム。

改めて、目の前の人物に目をやると、自分以上にかなりの出血が見られた。

すぐに手当てが必要だと思い、腰に巻いた小さなバッグからポーション管を1本取り出すと、人族の女性へ手渡す。
頷きながら手渡す事で、言葉が分からずとも自分の意思を伝えたつもりだった。

何も疑う事なく、彼女はそれを手にとり、お辞儀をしてから一気に飲み干す。

ギリアムも同じようにポーション管を取り出すと、同じように、ぐいっと一気に飲み干した。

ギリアムは考えていた。

彼女とこのまま別れても、またすぐにモンスターの餌食になってしまうのが関の山だろう。
故に、近くの人族の住処まで送るしかないと。
しかし、元々移動性の種族であるギリアムは、この辺りの地理に詳しくないのは当然だった。

送り届けるにしても、どう進めばいいのか皆目見当もつかない。

仲間に助力を貰うしかない。
そう判断したギリアムは、彼女の手を取り、元来た道へと戻る。
彼女の方も、何処に向かっているのか疑問ではあったが、身を呈して守ってくれた人なのだから、きっと悪いようにはしないだろうと確信していた。

「よお、ギリアム遅かったじゃないか・・って、お前、そいつは人族か?」

本陣から少し離れた所で見張りをしていたクナイと言葉を交わす。
クナイとは、幼馴染で生まれた頃からの親友でもあるギリアムは、何でも話すことの出来る真に親友と呼べる存在だった。

「うん、襲われていたとこを助けたんだ。道に迷ってるようだから、ちょっとひとっ走り送って来ようと思ってな」
「ほんっと物好きだよな。言葉も分かんねえってのによ」
「クナイは知らないか?この辺りに人族の街がないかどうか」
「知らんな。そういう事なら、サルメに聞いてみろよ」
「そうだな」

サルメとは、この部族の作戦参謀を任されている、ブレインだ。
サルメなしでは、部族間抗争で何度敗北していたのか分からない程に。

ギリアムは、博識のサルメならきっとこの辺りの地理の事も知っているだろうと思っていた。

しかし、大勢の竜人族の前に彼女を連れて行っても大丈夫だろうか?
仲間の中には、多くはないが、好戦的な奴もいる。
イキナリ問答無用で襲ったりは流石にしないとは、思うがギリアムは、不安だった。

「クナイ、悪いけど、この人族を見ておいてくれないか」
「なんで俺が?」
「ちょっと、サルメに情報を貰ってくるのと、送り届ける為の一時離脱の許可をリーダーに貰って来るまでだよ」
「シュメル3枚で手を打つぜ」

シュルメとは、干し肉の総称で保存性に優れている事から、移動性の種族である竜人族の間では比較的好まれて食されている食べ物だった。

「分かった。じゃそれで頼むよ。怯えているから、くれぐれも怖がらせないでくれよ。絶対だよ?」
「分かってるって、いいから早く行って来いよ」

ギリアムは、身振り手振りで、彼女に此処にいるように伝え、コクリと頷く彼女を見て、何とか伝わったものと理解し、その場を後にした。


「だめだ!」

サルメから既にこの辺りのある人族の街の情報を手に入れたギリアムは、部族のリーダーであるナイツに一時離脱の許可を頼んでいた。

「送り届けたら、すぐに戻りますから」
「俺達は、すぐにこの場を離れる必要がある」

リーダーの話はこうだった。

サルメからの情報によると、ここら一帯は、オークのテリトリーとなっているらしい。並みのオークよりも強く、非常に好戦的らしく大群に襲われたらひとたまりも無い。故に今すぐ離れる事に決まったそうだ。元々小休止の為だけに立ち止まっただけなのだ。

「確かに、さっき1体のオークと戦ったけど、普通のオークよりも体格が良くて、かなり苦戦したよ」
「なら、尚の事すぐに出発する必要があるな。どうしても行きたければ、俺たちの匂いを辿って追いついてこい。お香の蓋を開けといてやる」
「ありがとうございます。送り届けたらすぐに合流します」

半ば強引にリーダーの許可を得たギリアムは、早速彼女を迎えに行き、一緒に人族の街に向けて出発した。

サルメからの情報によると、ここから90km程南に進んだ辺りに人口5000人規模の街があると言う。
彼女の故郷がそこかどうかは不明だが、同じ人族同士ならそこまで送り届ければ大丈夫だろうと思っていた。

道中も会話が成立しない為、身振り手振り、時には地面に絵を描いたりしてお互いがコミュニケーションをとっていた。

短い間ではあったが、一緒に旅をしながら、お互いの名前だけは言えるようになっていた。

「・・・マニラ」
「・・・ギリアム」

ギリアムは、マニラを心配させまいように、移動中は常に手を繋ぐようにしていた。

マニラは、元々身体が弱く、走ったりが苦手なようで、移動はゆっくり目の徒歩だった。

道中、何度かモンスターに襲われはしたが、無事に目的地である人族の街に到着する事が出来た。

恐らく、ギリアムが人族の街に入ると、すぐに怪しい輩として捕まってしまうだろう。
なので、送り届けられるのはここまでだった。

ギリアムは、街の方を指差しマニラを背中をチョンと押し出す。
当然マニラもギリアムの言いたい事は分かる。
マニラは、ギリアムを優しくハグをすると、今までにない最大限の笑顔で感謝の言葉を告げた。

そして、ギリアムはマニラと別れて、元来た道へと帰って行った。
マニラは、ギリアムの姿が視認できなくなるまでその姿を目で追い、頭を下げていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...